「AI-Native Company」を掲げて1年。100%の社員がAIツールを使う状態を実現したメルカリが、次のフェーズで選んだのは「HRとAIを一体で設計する」体制です。2026年6月1日、これまでAI Task Forceをリードしてきた木村俊也(@kimuras)が執行役員 CHRO(Chief Human Resources Officer) 兼 CAIO(Chief AI Office) 兼 CTO(Chief Technology Officer) Japan Businessに就任します。長くエンジニアリング組織のトップを務めたkimurasが、なぜ人と組織の責務を担うのか。AI-Nativeな組織の到達点と、変革の進め方について話を聞きました。
*この記事は、取材内容をもとにAIツールを活用して構成、執筆を行っています
この記事に登場する人
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木村俊也 / Shunya Kimura
2007年より株式会社ミクシィにてレコメンデーションエンジンの開発やデータ活用に関する業務を担当。そのほか、機械学習を活かした広告開発やマーケティングデータ開発にも携わる。2017年よりメルカリにて研究開発組織R4Dの設立を担当し、AIを中心とした幅広い研究領域のリサーチを担当。その後、AIと検索エンジン領域のエンジニア組織を設立しDirectorに就任、メルカリへのAIの導入をリード。2022年7月より、社内のプラットフォーム開発を統括するメルカリ執行役員 VP of Platform Engineeringを担当。2024年7月より執行役員 CTO Japan Region 兼 General Manager Japan Region Platform。2025年3月より執行役員 CTO Japan Regionに就任。2025年7月より執行役員 CTO Japan Business。2026年6月より執行役員 CHRO 兼 CAIO 兼 CTO Japan Businessに就任。
AI Podsが示した、AI-Native化の次の到達点
—— CTOからCHROという、バックグラウンドの異なる役割への転身について、まずは経緯から聞かせてください。
@kimuras: 実は以前から、markさん(執行役 SVP of Japan Business)とも「AI推進とHRはどこかで一体的に進める必要がある」という話をしていました。人とAIエージェントの境目がなくなっていく以上、HR領域だけ、AI領域だけと切り分けて議論しても答えが出ない。働き方も評価も組織構造も、人とAIが一体で動く前提で考えなければいけない時代になっている、と感じていました。
—— その「一体で考えなければいけない」という確信が、強まったきっかけは何でしたか。
@kimuras: 直接のきっかけは、ここ数ヶ月で進めてきたAI Podsの実験です。AI Podsとは、AIを中心に据えた開発プロセスを少人数体制で回す取り組みのことで、実際に取り組みを開始してみると、多方面で繋ぎ込みの摩擦が起こることがわかりました。たとえば、エンジニアがプロジェクトマネジメントを担うのが難しい、デザインシステムを0から作るのが難しいといったものです。
つまり、自分たちはこの1年でAI-Nativeな開発がだいぶ進んだと考えていましたが、組織の構造そのものに踏み込んで、より深くAI前提に組み替える実験をしてみると、まだやるべきことが大量に残っていたわけです。これはエンジニアに限った話ではなく、組織全体に関わる発見でした。
—— その気づきが、HR領域への関与につながったわけですね。
@kimuras: そうです。AI Podsを通してわかったのは、新しいトライをすると少なからずメンバーに負担がかかり、疲弊するということ。なので、いきなり全社を変えるのではなく、実験的なアプローチを積み重ねるしかないし、その設計を進めるには、僕自身がHRに入り込む必要があると感じていました。
ちょうどそのタイミングでCHRO就任の話をいただいて、自分のバックグラウンドの領域ではないので勇気のいる判断でしたが、決意としてはすっと決まりました。
「100%がAIを使う」状態を、ゴールから出発点に変える
—— All Handsでは「AI-Nativeな組織の中心はHRになる」と発言されていました。この「中心」という言葉の意味を、もう少し噛み砕いていただけますか。
@kimuras: AI-Nativeという言葉自体は、かなり抽象的だと考えています。これまで皆さんの協力をいただいて、100%のメンバーがAIツールを使う状態にはなりました。ところが、これはゴールではなく出発点です。
本当にやるべきことは4つあります。働き方そのものを根本から見直すこと。最適な組織構造を構想すること。意思決定プロセスを改善し、もっとスピーディーに物事を決められる仕組みを作ること。そして、評価やタレントマネジメントもデータを活用して高速かつシンプルにしていくこと。いわばこれらは、「人と組織の運営基盤」をAI前提に組み替えていくということです。これらを設計し実行するには、HRが中心に立たないと進みません。

—— HRが「中心」になるということは、CHROがAI領域の理解を深く持つ必要がある、ということでしょうか。
@kimuras: その通りです。AIをどう使うのか、AIによって人の働き方はどう変わるのか、AIを最大限に活用する組織はどうあるべきか——こうしたビジョンを、CHROだけでなくHRのメンバー全員で示し、実行していく。これが今後の核になると捉えています。
二段階で進める、HRのAI-Native化
—— ロードマップとして示されている「二段階で進める AI-Native HR構想」について教えてください。
@kimuras: まずStage 1は、HR組織自身のAI-Native化です。日々多忙を極めるHR部門では、日々のオペレーションをこなしながらAIを深く学んで試していくのは、簡単なことではありません。だからこそ、定常業務にAIを組み込んで時間を生み出すことからスタートします。HR自身がAIのポテンシャルを深く理解していくプロセスに、僕もリードして一緒に入っていきます。
次にStage 2は、生み出した時間を使った再設計のフェーズ。HRの仕事そのものをAI前提で再設計し、そこから会社全体に考え方を広げていきます。評価制度、タレントマネジメント、組織構造、あるいは今ものづくりで試しているAI Podsの考え方。こうしたものを全社で活用できるビジョンとして提示していきたいと考えています。

—— 進め方として、AI Task Forceを共に推進してきた同僚も一緒にHRに加わると聞いています。
@kimuras: はい。AI推進の地続きとしてHRの変革を進められる体制になることは、僕としてもとても心強く感じています。テクノロジーを使った組織のチェンジマネジメントの経験を持つメンバーが、HRの内側から議論に入る。これは今後の変革を進める上で、大きな力になると考えています。
—— 評価やタレントマネジメントの前提としてAIを活用することについて、All Handsでは「センシティブな領域なので実験的に」と話されていました。実験的アプローチとは、どういう進め方を構想していますか。
@kimuras: まず明確にしておきたいのが、評価自体を完全にAIに任せるという話ではないということ。今のAI技術と、私たち自身のAIへの習熟度を考えると、評価に対しては人間がしっかり責任を持って見るのが当面の前提です。
その上で、AIが担えるのはヒントや支援の部分です。たとえば、自己評価を書くとき、メンバーが日々やってきたことをNotionやGitHubといった根の情報から効率的に集めて、フェアに書ける形にしたり、マネージャーがフィードバックを書くとき、より広く活躍が見えるようにしたりといった、前提情報収集の効率化には大きく貢献できると考えています。
—— 「広く活躍が見える」というのは、どういうイメージでしょうか。
@kimuras: これは、AI時代の評価で僕が一番大事だと考えていることなのですが、働き方自体が変わっていく中で、メンバー一人ひとりが影響する領域がどんどん広がっていきます。よく越境と呼ばれますが、AIを使って、いろんな人がいろんな業務や、これまでとは違う領域に手を伸ばしていく。そうすると、マネージャーがすべてを把握しきれなくなる時代がやってきます。
その業務の価値を本当に理解している人がきちんと評価できないと、せっかく影響を与えて成果を出したのに、見えなくて評価されない——そんなことが起こりかねない。これは絶対に避けたい状況です。だから、AIが「人を評価する」のではなく、AIが「その人の働きが正しく見えるようにする」。この役割分担で進めていきます。
タレントマネジメントについても、可能性はあると考えています。AIを使わないと、活躍の捉え方は一定のバイアスがかかったメンバー抽出にならざるを得ませんでした。さまざまな実績や成長を眺めることで「この人はもっと新しいチャレンジができるのではないか」「こういう挑戦をしたら可能性が広がるのではないか」と発想を広げられる。ただし、ここはセキュリティ・プライバシー・AIガバナンスのチームと相談しながら、メンバーに不安な思いをさせないための実験から始めていきます。
「今のHRを壊さない」——リスペクトの上に立つ変革
—— 社内向けに発表・説明をしてから、周囲からはどういった声が届いていますか。
@kimuras: 発表直後から、Slackや1on1でいろんな声をもらっています。期待もあれば、率直な不安もあって、両方が同じくらいの量で届いている、というのが正直な実感です。
特に多かったのは2種類の問いかけです。ひとつは「『壊さない』と言いつつ、実際どこまで変えるつもりなのか」という、変革のスピードと範囲に対する問い。もうひとつは、I&Dの観点から「日本人男性のトップに、自分たちの声が本当に届くのか」という、女性メンバーや外国籍のメンバーからの不安です。
「AI時代の組織変革を本気で進められる体制になった」というポジティブな声もあって、ありがたく受け止めています。その一方で、不安が出てくるのは当然のことだし、僕自身も発表前から覚悟していた部分でもあります。だからこそ、このタイミングでひとつずつ向き合っていきたいと考えています。
—— その「向き合い方」を、もう少し具体的に聴かせてください。
@kimuras: 「変革のスピードと範囲」についても、I&Dについても、僕個人の姿勢だけで受け止めるのではなく、「仕組み」として組織で担保していくことが必要だと考えています。これから話す「HRを壊さない」という前提、HRボードというガバナンス、そして多様性を担保する仕組み。この3つをセットで設計していきます。
—— All Handsでは「まず今のHRを壊さない。これはもう絶対」という言葉が印象的でした。
@kimuras: HRは、本当の意味で会社の基盤だと考えています。HRが壊れると会社が壊れますし、メンバーの生活にも直結します。だから前提として、今のオペレーションは壊さない。ここにまずは集中します。
これまでメルカリの成長を支え、組織変革を担ってきたのもHRです。その功績を深くリスペクトした上で、未来をどう描くかを話していきたいと強く思っています。

—— 今後変革を進める上で、どのような意思決定プロセスを経て決めていくのでしょうか。
@kimuras: 僕一人の意思決定だと、不安が残ります。そこで、「HRボードミーティング」という新しい意思決定の場を作ります。HRのリーダーに加えて、markさんやshujiさん(執行役 SVP of Management Strategy)も参加する。エンジニアリングボードやプロダクトボードのHR版という位置づけです。
そこで僕が大胆なチャレンジを提案し、「やりすぎではないか」「ガバナンス的に問題はないか」というフィードバックを受ける。どんな意思決定をするにしても、ガードレールで守られることを仕組みとして作った上で、大胆なチャレンジを進める。この両立を組織として担保したいと考えています。
—— I&Dについても「個人の意識ではなく、仕組みで担保する」と話されていました。
@kimuras: I&Dは、社会から求められているからではなく、メルカリの成長のために必要だから大事にしています。この前提は今後も一切変わりません。
その上で、単刀直入に言うと、僕は長く開発領域に携わってきた日本人男性です。HRのトップが僕のような属性になることで、不安を感じるメンバーがいることは強く認識しています。特に女性メンバーや外国籍のメンバーから寄せられる懸念については僕自身、真摯に受け止めたいと考えています。
男性である僕がトップに立つからこそ、組織のジェンダー比率の改善にはこれからも取り組みますし、むしろこれまで以上に意識的に責任を持って実行したい。
ここで大事なのは、「いつでも僕に相談してください」という個人依存の形にしないことです。多様な視点が継続的に意思決定に反映される仕組みを、組織として担保していきます。AIで本質的に目指したい組織像とは、まさにこういう多様性が担保された状態のことです。技術と組織カルチャー、両方のバランスを取った施策を進めていきます。
—— 最後に。AI-Nativeな組織を一緒に作っていく仲間として、今のメルカリにどんな人に来てほしいですか。
@kimuras: 私たちが目指すAI-Native Companyは、AIツールを使うことそのものではありません。働き方、意思決定・承認プロセス、組織構造、リソース配分をAI前提で再設計していく。そのために、メンバー一人ひとりがコア業務や創造的な挑戦に集中できる環境を、自分たちの手で作り直していく必要があります。
テクノロジーの発展は凄まじく、数年後には私たちの役割や働き方はさらに変わっているかもしれません。メルカリは、その変化を恐れず、むしろ楽しむ会社です。まだ見ぬ未来の組織像を「Go Bold」に描き、自ら組織のあり方をアップデートしていく。そんなモメンタムの中で、新しい挑戦を一緒にしてくれる仲間を待っています。
まだまだ至らない点もあるかもしれませんが、それでも、なるべく対話を重ねて意思決定していけるHRにしていきたいですし、皆さんと一緒に、ワクワクするような組織を作っていければと思います。

撮影:タケシタトモヒロ

