
メルカリが2014年にローンチした米国内のC2Cマーケットプレイス事業「メルカリUS」。 2025年6月期通期決算にサービス開始以来初の通期黒字を達成し、2026年第二四半期決算も累計GMV(流通取引総額)は前年同期比10%増、直近の第三四半期決算では18%増。リーンな組織で、成長のギアを着実に上げ続けています。
その裏側にあるのは、体制と戦略を見直し、お客さまの声を真摯に聞き続けながら、緻密な改善を一つひとつ積み重ねてきた、ここ2年の変化です。
今回は、その変化をリードしてきたメルカリUS VP of Growth*の Jeff(@jeff)と、VP of Engineeringの Takuma Yamaguchi(@kumon)に話を聞きました。事業の転換点、組織の哲学、そして次の仲間像について、率直に語ってもらっています。
*記事公開日時点
この記事に登場する人
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Jeff LeBeau(@jeff)
メルカリUS VP of Growth。2017年にメルカリUSへ入社。翌年、日本へ転籍し、2022年よりマーケットプレイス事業を統括。2024年に再びUSへ拠点を移し、その後VP of GrowthとしてUS事業の黒字化とグロースを牽引。
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山口 拓真(@kumon)
メルカリUS VP of Engineering。2016年入社。AI出品や画像検索などを手がけ、現在はメルカリUSのエンジニアリングをリードしている。
「最高のメンバーが集まっている」、V字回復の現在地
— まず、米国市場の状況と、その中でのメルカリUSの現在地を教えてください。
@jeff: 今のメルカリUSは本当に最高のメンバーが集まっていて、大きく成長できるプロダクトを作っていける環境にある、というのが正直な感覚です。
アメリカ市場では、特に若い世代を中心に「リユースで買うのはクールだよね」というマインドが広がっていて、大量消費への意識も変わってきている。それが追い風になりつつあります。とはいえ、まだV字回復の最中で、これからがとても重要なフェーズだとも思っています。

@kumon: その感覚は、社内の温度感とも重なります。今でこそポジティブな循環の中にいますが、ここに来るまでは一直線ではなかった。数年前までは、優先度高く進めてきたプロジェクトがうまくいかず、組織がネガティブなスパイラルに入っていく、という時期も経験してきました。
それがここ2年で完全に逆転し、うまくいかないものも次に活かせる、という雰囲気ができている。コミュニケーションの取りやすさ、腹を割って話せる感じも、うまく回っている印象です。
リーンな組織なので、一人ひとりの動きがプロダクトと事業に直結する。そのフェーズを今のメンバーで一緒に乗り越えてきた経験が、チームの一体感を自然と生んでいるんだと思います。
競争激化の米国市場で築く、独自のポジション
— その米国市場での、メルカリUSのポジションを教えてください。
@jeff: US市場はとにかく競争環境が激しいんですよ。カテゴリーに特化したマーケットプレイスが次々と出てきますし、ブランドやメーカーも独自のマーケットプレイスを始めている。
一方で、メルカリUSのような1000億円規模のGMVを持つ総合型C2Cマーケットプレイスは、他にほぼない。規模を持ったプレイヤーが限られているという意味では、一定の優位なポジションを築けているのは事実だと思います。
— 米国と日本の両方に拠点があることは、プロダクト開発にどう効いていますか?
@kumon: 米国に拠点があることは大きな利点です。サービスに実際に触れる環境にいないと、改善提案ってそう簡単にはできない。競合の動きも、自分でいちユーザーとして使ってみないと比較できないんです。他社サービスをユーザーとして実体験できるのは、現地にいるメンバーだけですから。
とはいえ、全員が現地に集まればいい、という話でもなくて、メルカリJPとのコラボレーションが進めやすいことも大きなメリット。両拠点があること自体が、大きなアドバンテージだと思っています。

組織の「景色」が、確実に変わった
— 2年でここまで変わった背景には何があったんでしょうか?
@jeff: 何か大きな一手というよりも、積み重ねだと思っています。
データ分析とカスタマーインタビューをもとに「メルカリUSとしてどういう価値提供をしていくべきか」を定義し直し、その上で一つひとつ施策を打っている。僕はメルカリグループに入って10年目になりますが、今までで一番、施策の勝率が上がっている感覚があります。
@kumon: コロナ禍で事業が大きく成長したことから社員数を大幅に増やし、巣ごもり需要が落ち着いた反動でGMVが減少し、レイオフをせざるを得なくなりました。その後、リーダーシップの大きな変更があり、コアプロダクトの改善に注力する方針へ転換。地道な改善を積み重ねた結果、黒字化と再成長を実現しました。
もう一度基本のところから振り返ってお客さま視点の改善を続けられるようになったこと、これが大きな転換点だったと思います。
— エンジニアリングの変化もありましたか?
@kumon: 開発手法自体は、実はあまり変わっていないんです。リーンであること、フォーカスエリアが明確にあること自体は以前から同じ。ただ、組織の中の景色は確実に変わりました。
以前は、大きなプロジェクトにアサインされているメンバーの優先順位はかなり明確だった一方、そこに関わっていないメンバーのプライオリティは、そこまで明確ではなかった場合もあった。意思決定が組織全体で明確になったことで、フォーカスエリアの内外に関係なく、みんなが同じ方向で判断しやすくなったんです。
@jeff: たとえばOKR(目標設定)も、1年を通して同じグロース関連のオブジェクティブを掲げ続けています。組織全体が1年単位で同じ方向を向き続けているので、レイヤーをまたいでも判断軸が揺れにくい、そういう構造的な部分が支えているものもありますね。

プロダクトとエンジニアリングを、グロース組織に統合する
— 組織構造の特徴を教えてください。
@kumon: 今のメルカリUSは、エンジニアとプロダクトチームがグロース組織の中にあるんです。僕自身もエンジニアのディレクターやマネージャー陣に加え、プロダクトの責任者などとも直接ロードマップを議論し、アライメントを取っています。優先順位に混乱がないようにすることは、常に意識している部分ですね。
— それはなぜですか?
@jeff: お客さまへの価値提供と、そこから生まれる事業の成長を最優先に置きたかったので、プロダクトもエンジニアリングもグロース組織に入ってもらい、サイロを撤廃してきた。やってきたことが数字として動いていたので、それをさらに加速していこう、という発想で今の組織構造に至っています。
— 意思決定の仕組みにも、違いがあるのでしょうか。
@kumon: Podという、必要な機能を備えた小さなクロスファンクショナルチームを並列で配置した組織構造があります。
どのPodも自分と同じロールの人は基本的にいない。エンジニアであればバックエンドエンジニアが一人、フロントエンドはウェブエンジニアとモバイルエンジニアが一人ずつ、という形なので、各メンバーがそれぞれの役割の中で意思決定しないと物事が進まないんです。「裁量を与えている」というよりは「そうしないと進まない」環境、と言うほうが近いかもしれません。だからといって、各人が孤立しているわけではなくて、必要に応じて同じ専門性を持つメンバーやマネージャからのサポートを受けられます。
また、限られたエンジニアリングリソースの中でプロジェクトを推進するために、バックエンドエンジニアがフロントエンドの実装に貢献したり、その逆もある。AI推進とか関係なく、もともとそういう動き方もしてきました。
@jeff: メルカリのバリューでもあるAll for Oneですよね。リーンで階層もほとんどなく、オープンに意見を交わせる。それがスピードにつながり、最終的に数字に反映されていく。
AI-Nativeは文化への追い風
— AI-Nativeの推進は、メルカリUSの中でどう進められているのでしょうか。
@jeff: メルカリUSはここ一年半「無駄なことをしない」「リソースを最大限活用する」「少人数でなるべく大きなインパクトを出す」というやり方をしてきました。その土台の上でAI活用を進めている点が強みかなと思います。AIによって個人ができることが増えたのは、もともとのスタイルにとっての追い風になった、という感覚ですね。
— AI推進で苦労している点もありますか?
@kumon: AIによって既存の働き方の効率化はできるんですが、それだけだとAIのポテンシャルを引き出しきれない。本当に有効活用しようとすると、開発プロセスや意思決定のシステム自体を変えていく必要がある。
まだまだ変えられる余地があるからこそ、AIによってさらに加速できるポテンシャルもあると思っています。

強烈にハンズオン、そして次のフェーズへ
— 採用ではどんなところを重視されていますか?
@kumon: 全ドメインで共通しているのは、プロダクトへの興味です。エンジニアリングスキルがどれだけ高くても、C2C事業そのものに興味がないと厳しい。「プロダクトをこうしたほうがいいんじゃないか」「こういうマーケティング施策を試してみたい」と自分から提案したくなるかどうかは、すごく重要なポイントですね。
もう一つは、エンドツーエンドで機能を捉えられること。裁量の範囲が広い分、自分の責任範囲を少し超えて、隣接領域もオーバーラップしながら貢献していける姿勢がほしいんです。Jeffも僕も最終面接を担当していて、そこではプロダクトの話を必ずするようにしています。
@jeff: 僕は、カルチャーフィットをすごく意識しています。小規模な組織なので、1人増えることが組織にとって大きなイベント。「メルカリの中でバリュー(Go Bold, All for One, Be a Pro, Move Fastのこと)を発揮してもらえそうか」「ミッションに心から共感してくれそうか」は、お互いのためにも慎重に見極めています。
応募者はビッグテックからスタートアップまで多様で、自分で事業をやってきた方もいらっしゃる。職歴のラベルよりも、”強烈にハンズオンできるかどうか”という姿勢を重視していますね。
— USで働くメルカリUSのメンバーと、日本からメルカリUSに携わるメンバー、それぞれ出自も言語も様々ですよね。そのコミュニケーションの壁の中で、どうスピードを実現していますか?
@jeff: メルカリUSは様々なバックグラウンドのメンバーで構成されていて、JPもまた多様な組織になってきている。
多様なメンバー同士の協業について「コミュニケーションが大変なのでは?」とよく聞かれますが、僕の感覚では、難しさのほとんどは時差なんです。文化や言語が壁になっているケースは、ほぼない。
@kumon: JPとの協業の現場でも、同じ感覚があります。5年ほど前は時差に加えて言語の壁も大きかったんですが、今のJPはエンジニアの半数以上が外国籍であることもあり、技術的なコミュニケーションが英語だけで成立することが多く、言語の壁がほとんどなくなった。だからこそ、JPとのコラボレーションのスピードを、ここからさらに上げていけるはずだと思っています。
— これから先のチャレンジについても教えてください。
@jeff: 大きなテーマは「再現性のあるグロース」です。これを実現していく軸はプロダクト開発とAI-Nativeの加速で、ここを深め続けることが欠かせない。事業規模が大きくなっても、一人ひとりが大きなインパクトを出せる体制を維持したいと考えています。組織と組織の間に壁ができないように、一人ひとりのインパクトが見えるあり方を続けていく。それがこの1年で意識したいことですね。
@kumon: エンジニアリングに関しては、これまでのやり方をAIで効率化するだけではなく、AIエージェントと協業することを前提に、開発プロセスやシステム運用を変えていく必要がある点です。慣れたプロセスを大きく変える以上、混乱や一時的な生産性低下のリスクもありますが、真のAI-Nativeソフトウェアエンジニアリングを目指す上では必要な変化だと思っています。
— では最後に、メルカリUSに興味を持ってくださっている方へメッセージをお願いします。
@jeff: メルカリUSは新たな成長フェーズに入っています。All for Oneの精神で、米国のC2Cというサービスに本気で向き合いたい方と一緒に働きたいです。
@kumon: 僕もほぼ同じです。「自分の成長のために」ではなく「米国のC2Cというマーケットで試行錯誤しながらサービスを伸ばしたい」と思える方と一緒に働きたい。




