
こんにちは。メルカリのCorporate Communication Division(以下、CC Division)の@omiyuです。チームの一員として施策を回しつつ、全社で業務構造そのものをAI前提に再設計するための組織「AI Task Force」のプロジェクトマネージャー(PjM)として、「CC Agent」という広報・コミュニケーション領域特化型のAIエージェントを育てる取り組みを進めています。
2025年10月には、CC Divisionの中のメルカン編集部として、CursorとNotebookLMを活用した新しい記事作成ワークフローの事例を紹介しました。
今回はそこからさらに発展させ、CC Divisionが戦略レイヤーまで含む組織横断のAIエージェントをつくってきた事例を紹介します。「AIで何を効率化するか」の先にある「AIで”どうコミュニケーションの上流を創造するか”」。この問いから始まったプロジェクトを、PjMとして関わってきた立場から、CC DivisionでともにCC Agent構築に関わってきたメンバーの声を集め、構築の裏側を紐解きました。
*この記事は、CC Divisionメンバーから寄せられた構想やメモをもとに、AIツールを活用して構成、執筆を行っています
広報の仕事は、個人の感性・経験に依存しがち
まずは、なぜ私たちが「広報のためのAIエージェント」を育てることにしたのか。
広報の仕事は、目に見えるアウトプット(プレスリリース作成、メディア対応、オウンドメディア記事作成など)のはるか手前で動いています。発信で目指す状態(To-be)を言語化し、現状(As-is:報道状況、社会課題、自社・他社・市場環境など)の調査、レピュテーションリスクのケア、その上でKeyMessageを定め、具体的なActionPlanを策定する。また、これらの精度を高めるための過去施策の蓄積など、コミュニケーション戦略を一つ描くために、これらを同時に頭の中で扱う必要があります。

しかも、その多くは個人の感性・経験に閉じてしまっていることもしばしばあり、チームで共通認識化しづらく、判断軸の再現性に限界がありました。
CC Divisionを統括するメルカリグループ広報責任者の@yax(Yuichi Miyamoto / Xアカウント)に、この課題感と「広報としてAIエージェントに求める役割」を聞きました。
—— 広報という仕事の特性を踏まえたとき、AIエージェントにはどんな役割を担ってほしいと考えていますか?
@yax: 広報の仕事って、発信することではなく、発信することによる「パーセプション形成・行動変容の実現」なんですよ。発信内容そのものの質の担保はもちろんなのですが、その結果ステークホルダーにどう解釈されるか、どう共感・共鳴を生むかをデザインするのが本質です。
そのためには、膨大なコンテキストを同時に扱う必要があるのですが、多くは個人の感性・経験に依存してしまっていて、チームで共通認識にしづらいという課題がありました。その結果、担当者の経験値の差によって施策や判断の再現性も落ちてしまう。長く広報の現場にいて、この構造的な限界をずっと感じていました。
だからこそ、AIエージェントに求めたのは、「単にアウトプットを出す役割」ではなく「CCの判断基準と組織の記憶を持つチームメンバー」としての役割。判断、記憶、哲学。この3つを持ったAIエージェントと一緒に働けるようになって、広報の仕事はようやく次の段階に進み始めたと感じています。
業務効率の先の、創造効率向上に向けて
—— 「AIに、どうコミュニケーションの上流を創造させるか」という問いに行き着くまで、どんな違和感や試行錯誤がありましたか?
@yax: 最初に違和感を持ったのは、汎用AIにプレスリリースを書かせたときでした。文章は、それっぽく綺麗にまとまったものが出力されるのですが、角度がついていない。「このメッセージは、どのタイミングでどのターゲットに対して届けるべきか」という戦略判断がないと、そのアウトプットは意味をなしません。もっと言うと、社会の空気、メルカリへのパーセプション、過去の発信履歴など、形式知化されていないコンテキストを踏まえた判断は、その場で指示しても再現性がない。
そこで気づいたのが、私たち自身も、最初はAIに「業務効率」を求めていた。もちろんそれによって工数が削減できる事例も多くありますが、CCの仕事の本質を解決するものではないということです。例えばプレスリリースを書くこと自体は仕事のごくごく一部で、本当に時間がかかるのは、その手前の戦略やコミュニケーションプランの策定です。であれば、求めるのは「業務効率」ではなく「創造効率」の向上だという結論に至りました。そこで、「AIに何をさせるか」ではなく「AIにどうコミュニケーションの上流を創造させるか」という問いが生まれました。
CC Agent:3つの設計思想
このような問いを受けて、CCが持つコンテキストや情報を前提として、AIエージェントが自律的に判断できる状態にするべく、設計を開始したのが「CC Agent」です。
CC Agentの設計思想は、3つの柱に整理されました。
1. Skills|業務の型ごとに判断基準を埋め込む
CCの業務プロセスを専門スキルに分解し、それぞれにプロフェッショナルの判断基準を埋め込んでいます。2026年6月時点で20以上のスキルが稼働し、戦略・企画系(コミュニケーションプラン策定、ファクトリサーチなど)、コンテンツ制作系(プレスリリース制作、報道資料制作、オウンドメディア記事制作など)、インテリジェンス系(ニュース収集、パーセプション更新など)をカバー。CC Agentがハブとなり、ユーザーの意図に応じて最適なスキルを提案する設計になっています。

2. Memory|組織の記憶の永続化
LangMem(長期記憶)の仕組みを活用し、NotionやGoogle Docsなどに残された戦略判断・解釈・要約を、チーム共有の資産として参照できるようにしています。網羅的なログというより、解釈や判断の履歴を補強する位置づけです。四半期ごとの戦略、ステークホルダーごとのパーセプションを整理することで、スキルや担当者が変わっても、判断の前提を引き継ぎやすい構造にしています。
3. Guardrails|判断基準の構造化
メルカリ広報チームが持つ哲学と品質基準を、SKILL.mdというMarkdownファイルにコードとして書き込んでいます。それにより、ポジショントークの回避、恣意的データの排除、競合攻撃の回避など、今まで議論されてきたCCが守るべき判断軸が、すべてのスキルに通底するガードレールとして組み込まれています。
加えて、判断品質を担保するルールとは別のレイヤーで、機密情報へのアクセスや危険な操作を検知・抑止するための安全対策も組み込んでいます。
設計の軸にあったのは、「実際にエージェントを活用していくCCメンバーが、技術的な知識がなくても直接スキルを書ける状態にする」という方針でした。実装を支えるCC DivisionのEnabler(部署に深く入り込み、技術的な観点で貢献するエンジニアメンバー)である@wakitに、設計思想について詳しく伺いました。
—— SKILL.mdというMarkdownにドメイン知識を書くだけでスキルが作れる構造にしたのは、技術的にはどんな選択だったんですか?「あえてシンプルにした」部分があれば教えてください。
@wakit: 一番大きかったのは、独自の専用ツールやDSLを作るのではなく、Claude Code Skills という既存の仕組みに乗せたことです。Claude Code 自体の能力が日々上がっていく中で、ビジネス領域の専門性をどう渡せば、その力を業務に活かせるのかを考えていました。
そこで着目したのが、Markdownで書けるSkillです。CCメンバーが持っている判断基準やワークフローをMarkdownに落とし込めば、それをClaude Codeが参照しながら、専門性の高い業務をある程度再現できる。独自の専用言語を作るよりも、CCメンバーが普段の言葉で更新できる形にした方が、育て続けられると思いました。
「あえてシンプルにした」部分でいうと、CCメンバーが触る範囲をSKILL.mdに絞ったことです。判断基準、ガードレール、トーン、ワークフローはMarkdownで書けるようにし、技術的な実装の複雑さはできるだけ表に出さない設計にしました。
一方で、NotionやSlack、Google Drive、LangMemなどの業務ツールやデータソースにつなぐ部分は、MCPなどを使ってEnabler側が担保しています。つまり、CCメンバーは「どう判断するか」をMarkdownに書き、Enablerは「どの情報に安全にアクセスできるか」「どう配布・運用するか」を支える、という役割分担にしています。
事例紹介:現場で何が変わったか
PjMとして見てきた現場の変化を、4つの事例で紹介します。
事例①|comms-plan-creator:戦略立案の壁打ち
戦略的に広報活動を進める上で必要不可欠なコミュニケーションプランを、AIと壁打ちしながら作成できるスキルです。
AIに一発で書かせず、「読み込ませるファクトはオーナーが責任を持つ → AIが戦略を複数案で提示 → 人が選ぶ →AIが本文化・監査する」とプロセスを分けているのが特徴です。人が最終判断するための選択肢と質の高い叩き台を、AIが用意してくれます。
このスキルは、メルカリの新サービスの発表ストーリー策定でも活躍しました。PR側は社会的なトレンドに乗せた切り口を推し、事業部側はサービスの全体像が正しく伝わるかを懸念する——広報の現場ではよくある「フレーミングの差異」が起きたケースです。
CC Agentの壁打ちモードで、まずフレーミングの差異を言語化。双方の意図を整理した上で、「トレンドを入り口にしつつ、サービスの本質的な価値に着地させる」という統合ポイントを導き、ストーリー構造を可視化することで、事業部との合意形成が進みました。また、テキストの資料だけではなく、HTMLでビジュアル化した図も併せて共有することで、重要なポイントをわかりやすく伝えることができるようになりました。

このスキル活用により、社内合意リードタイムは、従来想定の約1週間から2営業日に短縮されています。
事例②|cc-review:AI同士のレビュー
「作る」AIに対して、「検証する」AIです。CC Agentが起案したコミュニケーションプランやプレスリリースを、別人格のレビュー担当として、CCが持つ判断軸に照らしてクリティカルな視点で問い直してくれます。
CCのアウトプットは抽象度が高く、これまで関係者間のミーティングで議論を重ねて精度を上げてきました。cc-reviewは、そのプロセスをより「Move Fast」に、戦略精度を高くするためのスキル。CC Agentと”判断・レビューのプロ”の目線を持つcc-reviewを自律的に議論させることで、アウトプットをブラッシュアップさせています。
特徴は、答えを押し付けず「ここはどう考えてる?」と問いを返してくる対話型である点です。CCが保有している思考プロセスそのものをスキルに昇華させる設計により、より深い議論結果を戦略に反映させることができます。
下記のように、指定した往復回数分、cc-reviewスキルとCC Agentが自律的に往復議論します。

事例③|owned-media-writer:メルカン記事制作のスキル化
CC Agentとの対話形式でメルカン記事の企画からチェックまで完了するスキルを作成しました。企画書作成・取材準備・記事執筆・公開前チェックの4モード構成になっており、最初にモード選択することができ、途中のプロセスから開始することも可能です。

参照するソースにもよりますが、CC Agentとの対話開始からおおむね15分程度で、7割ほどの完成度の初稿が出力されるようになっています。
もちろん、この記事もowned-media-writerスキルを使って書かれています!
事例④|sns-check:SNS投稿の自動収集スキル
メルカリサロンのメンバーが発信するSNS投稿を見逃さずに把握し、一つひとつの発信に丁寧に向き合うための基盤となるスキルです。RSSフィードを活用して新着投稿をNotionのDBに集約しています(※InstagramとXは権利の関係上、自動取得不可)。

サロンメンバーの発信は、YouTube、noteなど複数のプラットフォームにまたがっています。以前は各プラットフォームを一つずつ確認していたため、投稿を見落とすリスクがありました。このスキルの導入により、新着投稿をNotion上に自動で収集できるようになり、「投稿を探す」時間を「投稿を読む・活かす」時間へと転換できました。
具体的には、RSSフィードから直近の新着投稿を取得し、すでにNotionに記録済みの投稿は重複チェックで除外したうえで、新規投稿のみをNotion DBにまとめます。メンバー名・投稿日・コンテンツ種別・URLも自動で整理されるため、誰がいつ何を発信したかを一覧で把握できます。その結果、サロンメンバーの投稿を漏れなく閲覧できるようになり、今後のコンテンツやサロン活動にどう活用できそうかの構想に、しっかり時間を使えるようになっています。
実際にスキルを日常で使っているCCメンバー(Fintech PR Manager @tamo2 / Culture Relations @mikitty) にも、普段どのようにCC Agentを活用しているか聞いてみました。
—— CC Agentを使い始める前と後で、自分の仕事の進め方で一番変わったことは何ですか?よく使っているスキル名と合わせて教えてください。
@tamo2: 「まずは何でもCC Agentに相談する」という変化が起きています。普段の広報業務においては、経験則でパッと判断するようなことも過去ありましたが、やはり属人的で考慮漏れがないとは言い切れません。
メルカリとして積み重ねたコンテキストや、他に考慮すべき点に漏れがないかなど、今の自分では見きれていない視野を与えてくれるのがCC Agentの良さだと感じています。CC Agentと壁打ちをして精査しますが情報量は非常に多いので、以前より最初のアウトプットまでの時間はかかるようになりましたが、アウトプットの質は高まっているので後続タスクがスムーズに進み、全体としては関係者全員の時間短縮に寄与していると感じます。
特にPR Actionの骨子となるコミュニケーションプランづくりにおいては、特にcomms-plan-creatorスキルを多用しています。より広く、より深い世の中の状況分析や、届けたいお客さまのインサイト分析を行い、そこから仮説を立てていくことは以前より遥かにやりやすく、その過程における思考の漏れは少なくなったと思います。ただ、AIと協業するのはあくまでも最初のアウトプットを自分で作り切るまでで、その後、関係者と議論するという過程は減っておらず、むしろ増えているくらいです。質の高い「叩き資料」をCC Agentと作ることで、充実した議論のできる場を増やせていると感じています。
—— 「CC Agentに任せられる仕事」と「自分が判断すべき仕事」の線引きは、どう体感していますか?
@mikitty: 最初は正直、「自分の仕事がなくなるんじゃないか」という不安が少しありました(笑)。でも、使い続けるうちに、その線引きが明確になっていきました。
「任せる仕事」は、”見に行く”作業です。 私の担当領域だと、メルカリサロンメンバーのSNS投稿、社内Slackでの自分へのメンション、プレスリリースやメルカンの新着記事、OKRの進捗情報など、これらはすべて自分から見に行かないと把握できない情報でした。1つひとつは5分、10分の作業でも、毎日何種類も重なると、朝イチの1時間が「情報を探しに行く」だけで終わってしまう。今はCC AgentがそれぞれをNotionに収集してまとめてくれるので、私は「探しに行く」のではなく、「Notionを開いて、その内容にしっかり向き合う」ところから1日を始められるようになりました。
一方で、「自分が判断する仕事」は、”答えが1つではない”ものです。 コミュニケーションプラン策定ではCC Agentとの壁打ちを何度も重ねますが、たとえば「この企画はやるか/やらないか」「KPIに何を置くか」といった判断は、最終的に自分で決めています。CC Agentは論点を整理したり別の視点を返したりしてくれますが、「これでいく」と決めるのは人間の仕事です。
最初と今で一番変わったのは、「判断に使える時間」が増えたことです。 以前は情報収集に追われ、戦略を考える時間が後回しになりがちでした。今は「素材が揃っている」状態から考え始められるので、コンテンツの企画案をどう設計するか、コミュニティの体験価値をどう高めるかといった「正解がない問い」に集中できるようになっています。
まとめ:AIエージェントを育てたその先へ
PjMとして半年走ってきて、CC Divisionの仕事の定義が少しずつ変わってきている感覚があります。「CC Agentに何をさせるか」を棚卸しし、決めていくフェーズから、半年を経て「育てる」フェーズに移ってきています。AIエージェントがアウトプットを出し、メンバーが使い、違和感があればスキルを修正する。このループを回すこと自体が、これからのアウトプットをより洗練させていくために必要なことです。最後に、組織としての方向性を@yaxに聞きました。
—— 1年後、CC Divisionはどんなチームになっていてほしいですか?広報組織にとってのAI-Nativeとは、どんな状態を指しますか?
@yax: 正直に言うと、まだ道半ばだと思っています。これからは、作ったスキルをチームのみんなでbrushupしていきCC Agentを育てる、ガードレールをどう言語化するかも継続的に議論が必要です。それでも続けているのは、これが「完璧になってから出す」種類の取り組みではないと思っているからです。出して、使って、違和感があれば直す。そのループ自体が、私たちの組織をAI-Nativeにしていくプロセスだと捉えています。
1年後に目指したいのは、むしろCC Agentが「すごいツール」として語られなくなっている状態です。チームメンバーのように当たり前にそこにあって、メンバー一人ひとりが、情報を取りに行く時間ではなく「正解のない問い」に向き合う時間に集中できている。AIが組織の記憶と判断の土台を持つからこそ、人は自分の強みを解き放てる——それが、広報組織にとってのAI-Nativeだと考えています。
広報の仕事の本質は、AIが入っても変わりません。ステークホルダーの心を動かし、共鳴を生み、行動変容につなげること。AIは、その本質に使える時間と思考の余白を増やすための手段でしかありません。
そして願わくば、この取り組みが私たちのチームの中だけに閉じないこと。経験の差に関わらず誰もが高度なコミュニケーション戦略に向き合えるようになり、もっと多くの人がこの仕事を面白がれるようになる。その扉を開いていけたらと思っています。
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