
連載「AI Agent Dayから紐解く10の問い」。前回の#2では「エンジニア以外のメンバーが、本当にスキルを作れたのか?」という問いを中心に紐解きました。
今回も、引き続き参加者の声をレポート形式でお届けします。今回は、経理・マーケティング・営業を担当する3名に、「部門が違うと、作るスキルはどう変わるのか?」「『うまくいかなかった』経験から何を学んだか?」という2つの問いを中心に、AI推進の綺麗な成功談だけでなく、試行錯誤のリアルも含めて語ってもらいました。
*記事内には、Batch 2当日に撮影した写真を、当日の様子のイメージとして挿入しています。
この記事に登場する人
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@ohya
監査法人での勤務などを経て、2022年にメルカリへ入社。メルコインの立ち上げ期に経理を経験し、現在はグループ全体の連結決算・開示や会計方針の策定などを担当。
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@enomin
2022年入社。SNSマーケティングや未加盟店の新規獲得マーケティングを経て、現在はメルカリShopsの加盟店全般に向けた販売促進マーケティングを担当。
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@Yusuke
新卒で広告代理店にて営業・運用型広告コンサルタントとして3年半勤務したのち、2024年9月にメルカリにジョイン。現在は主にファッションカテゴリーのメルカリShops加盟店向け営業を担当。
事前に使っていたからこそ、「より深める」時間へ
—— AI Agent Dayに参加する前は、普段の業務でAIをどのくらい使っていましたか?
@ohya: 私はClaude Codeをほぼ毎日使っていました。Notion・Google CLI・Slackなど、つなげられるものは一通りつないで試していて、比較的積極的に使っている方だったと思います。経理チームでも、AI Task ForceのEnablerの力を借りてセッティングを終えていて、メルコインの月次決算をAIで締めるプロジェクトを数名で進めていました。
@Yusuke: 私も使っていましたが、提案活動や社内情報の参照といった個人用途が中心でした。だからこそAI Agent Dayで他の人のスキルや活用方法を知るのがとても楽しみでしたね。
@enomin: 私はClaude CodeをNotionやSocrates(社内分析ツール)とつないで使っていて、例えば検索キーワードのレポートを毎月定期実行して効率化したり、チームにスキルを共有したりといった取り組みも少しずつ進めていました。
—— 皆さん、参加前からかなり使い込んでいたんですね。
@Yusuke: そうですね。ですが、1日まるごとAIに向き合う時間が用意されていたおかげで、「自分の使い方は本当に最適なのか?」を立ち止まって考えることができました。普段は目の前の業務に追われて、なかなかその時間が取れないので、ありがたい機会でしたね。
業務が違えば、スキルのかたちも変わる
—— 今日集まっていただいた皆さんの中には、特に営業職のAI活用をイメージしきれていない方もいると思います。Yusukeさんは、どんなスキルを作ったんですか?
@Yusuke: 私が作ったのはスキル探索・推薦のためのスキル(パクりん)です。社内の既存スキルから、ピッタリなものを検索していいとこ取りするという意味を込めたキャッチーネーミングになっていて、早速スキル名を覚えてくれたメンバーも多いです。
きっかけは、営業の仕事がケースバイケースの連続だったこと。商談相手も場面も毎回違いますし、最新ステータスが目まぐるしく変化するので、「これさえ作れば終わり」という決まったアウトプットがないんです。
一方で、社内には便利なスキルがどんどん生まれているのに、どこに何があるか分からず使われていない。だったら、決まった成果物を作るより「最適なスキルを探して連れてくる」仕組みの方が営業には効くと思ったんです。

仕組みとしては、Notion上のドキュメントを横断的にクロールして、その人の業務に対して利用頻度やマッチ度の高いスキルを提案してくれる。一から自分で作るのではなく、すでにあるものから「80%を素早く揃える」。生成するより、「選ぶ・探す・判断材料を整える」、その方が営業の現場には馴染むという感覚でした。
—— なるほど。同じ「スキルを作る」でも、ohyaさんの経理はかなり方向性が違いそうですね。
@ohya: そうですね。私が作ったのは、メルコインの月次決算における仕訳起票を自動化するAIエージェントです。これまでは、事業部から上がってくる資料を経理担当が一つひとつ読み解いて、約30種類ある仕訳を手で起票していました。メルコインの月次だけで、ざっと2~3人×5営業日かかる作業です。
それを、資料の読み取り→会計処理の判断→クラウド型基幹業務システムへの転記まで、一連の流れでAIエージェントに任せられるようにしました。実はこちらのスキルは、当日だけで完成したものではなく、数ヶ月かけて少しずつ育ててきたものだったのですが、今ではAIエージェントへの指示書を作る作業自体もスキル化して、再現性を持たせることまで考慮しています。サンドボックス環境で検証したら、人間よりAIの方が正確なケースもあったので、今はメルカリ・メルペイへの横展開も視野に入れています。

—— 営業は「選ぶ・探す・判断材料を整える」、経理は「決まった処理を自動化してAIエージェントに任せる」。enominさんはいかがでしょう?
@enomin: 私は「自分が動かなくても、裏でスキルが回り続けている」状態を作ることを意識しました。代表的なのは、競合調査を毎週月曜の朝に定期実行する仕組みです。以前は競合の最新情報や動向を自分で巡回してチェックしていたのですが、今は週明けには最新の動きがまとまっている状態になっています。他にも、Slackメンションの返信漏れを翌日に検出するスキルなど、「定期実行で抜け漏れを防ぐ」使い方がハマった感覚があります。

土台として大きかったのは社内分析ツール「Socrates」の存在です。「Socrates」がローンチされてから、SQL(Structured Query Language)を書かなくても精密な分析や提案までしてくれるようになって、業務の進め方そのものが変わりました。マーケは「手を動かす前の調べ物・整え物」が多いので、その部分をAIに預けられるのは大きいです。
「うまくいかなかった」から学んだこと
—— 当日やその後の運用で、「これはうまくいかなかった」という経験はありましたか?そこから何を学びましたか?
@enomin: 画像生成用プロンプト作成スキルは、正直うまくいきませんでした。ルールを遵守するためにデザインガイドラインや色指定などを厳密にAIエージェントに渡した結果、かえって「メルカリらしさ」が失われてしまって…。
むしろ指定しすぎず、AIにラフに依頼した方が、意図をよく汲み取ってくれました。そこからの学びとしては、情報を「網羅的に渡しすぎない」こと。「メインカラー4色だけ」のようなシンプルな制約のみとする方が、意図に近いアウトプットが出てくるのは少し予想外でしたね。
@Yusuke: 少し似た観点なのですが、「答えを出そうとするとズレる」というのが大きな学びでした。営業のナレッジは個人に集約されがちで、それが営業に携わる者としての強みでもあるんですが、裏を返すと暗黙知が共有されないままで終わってしまいます。これを形式知に変換して展開していく部分は、これから改善していくべき課題です。だからAIに「答えを教えてもらう」のではなく「判断材料を揃えさせる」方向に振り切った、というのがあります。
@ohya: 経理は逆に、答えのある領域で数字の正確性が絶対条件なので、お二人の話を聞いていると興味深いですね。AIは間違いなく数字を出力すること自体は得意なのですが、それを人間に分かりやすく説明する資料として出力するという点ではまだまだ課題があります。
監査や内部統制の観点では、人間がその数字を承認するための根拠となる資料をわかりやすく提示することが大切です。例えば最終的に出てきた数字がどういう根拠で算出されているのか、数式で過程まで追えるという意味での「わかりやすさ」です。将来的には別のモデルに承認させることも考えられますが、監査や内部統制の観点から、現時点では人間による承認を前提にしています。だからこそ、ここは伸びしろと捉えています。

サークルのメンバーと試行錯誤しながらワークに取り組む様子
サークルで得た、いちばんの学び
—— サークルのメンバーとのやりとりを通しての気づきや学びがあれば教えてください。
@ohya: 私は経理メンバー中心のサークルで、AIチャンピオン(各サークル単位で、技術のプロではなく「気軽に相談できる人」を重視して選ばれたメンバー)も務めました。そもそも、Claude Coworkにまだ慣れていないメンバーに対しては、まずは「何ができて、何ができないのか」を共有することを意識していました。
@enomin: 私のサークルは、普段からClaude Codeを使っているメンバーが多く、Claude Coworkを使ったワークもスムーズに実施できていたメンバーが多かった印象です。ただ、普段あまり触っていないメンバーだと、何ができて何ができないのか、触りながら掴んでいく部分も多かったように思います。事前学習をしたとしても「触ってみないと想像できない」部分はやはりあるなと痛感しました。
@Yusuke: 私にとっては、「これすごい!」という成果物そのものよりも、論点や目の付け所の広がりが最大の学びでした。「どうやるか」より「何をやるか」。効率化できる部分のヒントを、他の人の視点からたくさんもらえた感覚です。実は「パクりん」を作ったのは残り20分の時点だったのですが、それを作ろうと決めたのも、サークルでの会話がきっかけだったので、少人数のグループワークの価値を実感しました。
Agent Dayのその後——スキルを「育て、運用する」段階へ
—— Agent Dayから数週間が経ちました。あの日作ったスキルは、その後の業務にどう影響していますか?また、今後ご自身の業務はどう変わっていくと思いますか?
@ohya: 新しいプロジェクトやサービスの会計処理方針を、スキルで自動生成して経理メンバーが活用し始めています。出てきたアウトプットをブラッシュアップしてデータベースに溜めていくことで、「メルカリの知識を持ったスキル」として育てていく方針です。月次決算の自動化も、引き続き本番環境への移行を目指しています。
最終的には、人間が「人にしかできない業務」に集中できる環境を作りたいですね。
@Yusuke: 作成したスキルの普及はこれからです。鍵になるのは、探索の元になるデータをいかに溜めていけるか。改めて、営業×AIの勝ち筋は「生成する」より「選択肢を出す・論点を見える化する」だと思っています。AIによって対応できる商談数が増えていくと、顧客から情報を引き出す力や、問いを立てる力といった、営業ならではの価値がより重要になると考えています。
@enomin: ちょうど先ほど、チームでピアラーニングの振り返りミーティングを終えました。各自が新しいスキルを作って共有して、すごく活発な場でした。
一方で、似たようなスキルが乱立してきていて、バージョンの最新化や書き換えのルールなど、運用面の整備が次の課題です。効果測定や分析結果をNotionに蓄積してスキル化していく流れも始まっているので、社内のベストプラクティスを参照しながらルールづくりを進めたいです。

まとめ:職種の数だけ、AIとの向き合い方がある
今回3名の話を聞いていて、最も印象に残ったのは、「AIにどこまで任せるか」の線引きが、その仕事が”答えのある仕事”か”答えのない仕事”かで異なっていたことです。
一方で、3名に共通していたのは、Agent Dayで得た気づきをもとに、自らの職種のあり方そのものを問い直していたことです。AIに任せられる部分が増えるほど、「では、自分にしかできない仕事とは何か」という問いが立ち上がる。一人ひとりの試行錯誤は、単なる効率化にとどまらず、それぞれの職種の価値の再定義へと向かっているように感じました。
次回 #5では、後続のBatch 5-6に参加したメンバーとともに、参加者レポートの集大成として、スキルの横展開の可能性を中心に問いを深めていきます。
撮影:タケシタトモヒロ



