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#5 約1,000人にAIエージェントを”作らせて”分かった。つまずく理由は、「自信のなさ」ではなかった—— 企画担当 @saeの振り返り

2026-8-31

#5 約1,000人にAIエージェントを”作らせて”分かった。つまずく理由は、「自信のなさ」ではなかった—— 企画担当 @saeの振り返り

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連載「AI Agent Dayから紐解く10の問い」。

前回の#4では、「守り」の領域を担う3名に、Batch 5-6を終えて立ち上がった問いを聞きました。

連載の締めくくりとなる今回は形式を変え、5月から7月まで6つのバッチを走らせた企画者 ・塗木冴(@sae)にバトンを渡します。

この記事に登場する人

  • 塗木 冴(@sae)

    メルカリAIエージェント開発&推進。2018年に東京工業大学情報理工学院を修了後、AIとiOSアプリ開発を中心としたプロダクト開発に従事。カナダ・トロントに留学しData Analyticsを学ぶ。東京を拠点とする国際ハッカソンコミュニティ「MeltingHack」を創設し、国内外を問わず多様な背景を持つ人々が学び合い・共創する場づくりを実践。そこで培った「テクノロジーへの心理的障壁を取り除き、熱量を引き出す設計」のノウハウを、社内のAI浸透施策にも還元している。

AI Agent Dayの企画を担当した、AIエージェント開発&推進の@saeです。

AI Agent Dayは、AIエージェントを作ることが目的ではありません。活用して、日常業務が変わる原体験を届けることです。作れたかどうかは、当日の会場でわかります。でも、日常業務が変わったかどうかは、当日にはわかりません。

だから、翌週を記録することにしました。1週間後に振り返りの場を持ち、そこで話されたことと、Slackに流れた報告を、行動の記録として1件ずつ分類する。成功も失敗も、同じ粒度で残しました。

この記事は、その記録から書いています。

1. 全員が作れた。それは前提です

当日、参加者の99.3%が、その日のうちに自分の業務のスキルを1つ完成させました。「翌日から業務で使えそう」と答えた人は91.0%。会場では、最初に「できた!」と声が上がった瞬間、自然と拍手が起きました。AIをまったく使ったことのない人ほど、動いた瞬間の驚きが大きい。その拍手が広がって、会場の熱が上がっていく。

うれしい光景でした。でも、この数字は事前準備を厚くすれば出せます。座学もセキュリティ研修も、ツールのセットアップも、1つ目のスキル作成も、全部当日より前に済ませました。だから当日は、業務で本当に使えるスキルをどう設計するかの議論に、まる1日を使えたのです。

作れたかどうかは、前提です。本題は翌週にあります。

2. 翌週、階段は一段ごとに細くなった

数えてみると、こういう階段になっていました。

  • 何かしら手を動かした:88.1%
  • スキルを作った:66.2%
  • 業務フローに組み込んだ:29.4%
  • 定期実行にした:11.0%

研修の翌週としては、私の想像よりずっと多い数字です。それでも「全員が変わった」ではありません。点火は全員。定着は、一段上がるごとに細くなる。これが実像でした。

そして階段を上り切った先には、確かに日常業務が変わった人がいます。

  • 取引先への往査レポートの作成を、45〜60分から約10分に縮めた(リスク管理)
  • 溜まっていた4ヶ月分を一括処理して、233件の回答を確定させた(財務)
  • カレンダー・Gmail・Slackをつないだ日次ブリーフを、毎日自動で走らせている(法務)
  • 作成した火曜日以降、このスキルと毎日一緒に仕事をしている(社内IT)

原体験は、ここに届いていました。一方で、一段も上がれなかった人もいます。私が本当に知りたかったのは、そちらでした。

3. 人を止めていたのは、自信ではありませんでした

始める前、一番心配していたのは「非エンジニアは自信がなくて手が止まるのではないか」でした。

外れました。しかも、止まる理由は段階によってまるで違っていたのです。

一歩も動けなかった人の理由は、8割が「まとまった時間が取れない」「自分の業務での使いどころがわからない」。権限や接続といった環境の問題は3件だけ。「自信がない」が理由だったのは、1件です。

作り始めてから詰まった人では、逆になります。時間や使いどころは2割弱。残りは、2種類の壁に分かれました。

  • 開ければ解ける壁(記録の約3分の1):書き込み権限、データ接続、ツールの利用可否
  • 開けても解けない壁(記録の約3分の1強):出力の品質、実行のたびに結果が変わること、検証の手間、作ったスキルの保守

前者は、たとえばこういう声です。「Notionの書き込み権限がなくて、MD/CSV管理に留まっている」「Coworkに書き込み権限がなくて、更新スキルが実行できない」。もう1つ、後半の回で一気に増えた声があります。「そもそも社内にどんなスキルがあるか分からない。近い作業のスキルを探す検索が欲しい」。

どれも、個人の頑張りでは越えられません。やる気の問題ではなかったのです。一歩目が出ない人には時間と使いどころを、走り出した人には権限と接続を。渡すものが、段階ごとに違っていた。

だから、回を重ねながら渡すものを変えていくことになりました。そして、ここからがこの3ヶ月で一番書きたかったことです。

4. 5月の問いと、7月の問いは、違っていました

約1,000人を一度には集められないので、5月から7月まで6回に分けて開催しました。最初の回と最後の回のあいだには、2ヶ月あります。この2ヶ月で、二つのことが同時に動きました。

一つは、私たちの守り方です。最初の回は、かなり厳しく閉じた状態で実施しました。使えるツールを絞り、触れるデータの範囲も狭く取る。事故を起こさないことを最優先にしたからです。回を重ねるなかで、実際に何が起きるかを確かめ、参加者の慣れ具合も見えてきました。それに合わせて、許容する範囲を少しずつ広げていきました。守りを固めるのは、止めるためではなく、開けるためです。

ところが、権限や接続についての声は減りませんでした。この壁が記録に占める割合は、最初の回でいちばん高く45.7%。一度下がったあと、最後の回でまた40.7%まで戻っています。後退したのではありません。声の中身が変わっていました。データへのアクセスを求める声は、最初の回の1.9%から最後の回の7.8%へ。浅いところで詰まっていた人が、もっと深いところに繋ぎたいと言い出したのです。開ければ壁が消えるのではなく、次の壁が現れる。

もう一つ動いたのが、参加者の問いです。5月の最初の回で、会場の空気を占めていたのはこれでした。「非エンジニアの自分に、本当に作れるのか」。

7月の最後の回で、振り返りの場で交わされていたのは、こういう話です。「小さいスキルをつなげて大きくする」「モデルが素でできることは、スキルにしても薄い。価値は構造や型に宿る」。使ってみて出力がずれたら、その場の会話で直さずにスキル本文へ書き足す。次に呼んだときには、同じずれが出ない。

作ったものも変わっていました。定期実行まで持っていった人は、最初の回の2.3%から最後の回の8.5%へ。任せない判断をする人も現れました。あるマーケティングのメンバーは、同じ入力なのに実行のたびに出力が変わることに気づき、揺れを自分で測って「28項目中、約18〜21%が揺れる」と記録し、確実性が要るその用途では使うのをやめています。監査のチームは複数のAIモデルを自分たちで比較して、「想定に反してOpusが最良だった」と結論を出していました。

問いが「作れるか」から、「どこまで任せてよいか」へ動いていたのです。

セキュリティのメンバーの一言が、いちばん記憶に残っています。

「何かあったらスキルを作る、という思考が習慣になってきた」

この縦の変化は、単発のイベントでは絶対に見えません。2ヶ月かけて回を重ね、そのあいだ守りを開いていったから見えた景色です。そして、問いがここまで動いたということは、原体験が届いたということだと思っています。一度この線を越えた人は、元の働き方には戻りにくい。

5. スキルが、人から人へ回りはじめました

階段の外に、もう1つの数字がありました。「他の人のスキルを再利用した」人が10.7%。およそ10人に1人です。誰かが自分の業務のために書いたスキルが、部署を越えて別の誰かの時間を生み、その人がまた次のスキルを書く。スキルを書くには、自分の業務の手順と判断基準を文字にしないといけません。頭の中にしかなかった仕事のやり方が、読める形になる。それが共有された瞬間から、個人のメモでなくなります。

全社の集まりで、私は持ち帰ってほしいことを3つ挙げていました。明日使えるスキルを1つ作ること。一度作って終わりにしないこと。そして、シェアし合えるようになること。

1つ目は、その日のうちに。2つ目は、2ヶ月かけて。そして3つ目が、やっと回りはじめたところです。

メルカリのミッションは「あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる」。スキルもまた、循環する価値でした。LLMそのものの性能は、これからも上がっていきます。それでも、自分の業務のコンテキストとフローを言葉にして渡す作業は、その仕事を知っている本人にしかできません。「仕事を言語化する」積み重ねは、ツールが変わっても残ります。

一度AIエージェントで業務が変わる体験をすると、元の働き方には戻らない。その体験を約1,000人に届けたこの3ヶ月で、その確信は深まりました。

編集後記

連載「AI Agent Dayから紐解く10の問い」は、今回で完結です。

#0の「なぜ全員対象なのか」から始まり、#1で企画の舞台裏を、#2で「エンジニア以外のメンバーが、本当に作れたのか」を聞きました。答えはYes。#3では職種によってAIに任せる線引きが分かれ、#4の「守り」の領域では、問いはもう「どう作るか」ではなく「どう回し続けるか」に変わっていました。

5月の問いと、7月の問いは違っていた。本文にあるこの変化は、連載そのものにも起きていました。10の問いから始めて、最後に残ったのは答えではなく次の問い。この継続の先に見える景色は、さらに一巡した後に、あらためて記録したいと思います。

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