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メルカリが創業時から目指す「循環する社会」とは。CEO山田進太郎に聞く

2019-6-19

メルカリが創業時から目指す「循環する社会」とは。CEO山田進太郎に聞く

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    「限りある資源を循環させ、より豊かな社会をつくりたい」

    こう話すのは、メルカリの代表取締役会長兼CEOの山田進太郎。創業以来、モノの価値が循環する社会の実現を目指してきたメルカリは、今年で創業6年を迎えました。現在は、日本とアメリカを拠点にサービスを展開し、国内の利用者数は月間約1,300万人。2018年には東証マザーズへ上場しました。誰もが簡単にモノの売り買いができるマーケットプレイスとして成長してきたメルカリですが、山田は今のメルカリについて「大きな変化を迎えている」と話します。その一つが、社会的役割の変化です。

    事業の拡大や上場を経て、「社会の公器」になりつつある今、メルカリが取り組むべきこと。そして創業当時から変わることのない「メルカリを通じて実現したい社会」について、創業者である山田に話を聞きました。

    世界一周の旅で目にした新興国の現実。芽生えた問題意識

    ーまずは改めて、メルカリの創業当時についてお聞きしたいと思います。進太郎さん(山田)は創業前に経営していたモバイルゲーム会社を、米国の大手ソーシャルゲーム会社であるZyngaへ売却。その後、世界一周の旅に出ますよね。そもそも、なぜ世界一周へ?

    山田:もともと旅が好きで、休みを見つけてはアジアを中心に回っていました。前の会社を売却し、しばらくして辞めて、長く休める時間ができたので、遠い場所まで旅をしようと思ったんです。地図を広げ、行きたい国や場所に点を付け、線を引き、まずはそれらをすべて回ってみようと。

    ーどういう基準で行き先を選んだのですか?

    山田:せっかくの機会だし、そのときしか行けない国に行こうとだけ決めていました。南米やアフリカ、インド、中東など、いわゆる新興国と呼ばれる国々を中心に選びました。その時の体験が自分の価値観を大きく変えたんです。
    山田進太郎(代表取締役会長兼CEO)

    ー具体的にどんな体験を?

    山田:印象的だったのは、ボリビアからチリに移動する道中での出来事でした。ウユニ塩湖からチリ側まで向かうツアーの車に乗ると、助手席には小学生くらいの少年の姿があって、何日も運転手である父の手伝いをしていたんです。教育を受けることよりも、少しでもお金を稼ぐことを優先しなければならない。仕方のないことかもしれませんが、この状況を何とかできないかと思ったんです。

    ーその国で生まれたがゆえに、教育を受けづらい環境があると。

    山田:そうです。どんなに努力しても環境によって生き方や活動が制限されてしまう人たちがたくさんいる。生まれる国が違うだけで、海外旅行に行くことが難しかったり、教育すら十分に受けられないわけです。それでも彼らは豊かになろうと努力していました。とはいえ「全員が先進国のような暮らしができるか?」と聞かれると資源も限られていて難しい。問題意識だけを抱えて、日本に帰国しました。

    ーフリマアプリ「メルカリ」の着想は、そんな彼らの生活を見たことがきっかけに?

    山田:そのときは問題意識だけを抱えて帰国したので、「これだ!」と思える発想は正直ありませんでした。しかし、その後旅から帰国して何より驚いたのは、スマートフォンの普及。旅に出る前は、ガラケーで赤外線通信をしてケータイメールしていたのに、帰国すると大学時代の友達がLINEでやりとりしていて。その光景を見て、僕が新興国で出会った人たちも、いずれスマホを持つ時代が来ると確信したんです。

    ー日本の状況が一変していたのですね。

    山田:その一方で、スマホに特化して個人間取引ができるサービスがいくつも出てきていました。スマホを通じて世界中の個人と個人をつなげ、資源を流通させることができたら、新興国の生活水準を少しでも上げられるかもしれない。日本には「ヤフオク!」という巨大なサービスがありましたが、栄えている市場だからこそ「三振」か「ホームラン」しかない。ここに賭けてみよう思い、創業したのがメルカリです。

    「使っては捨てる」は思い込み。人、社会、地球に優しい循環を

    ー進太郎さんがメルカリを創業された当時、サービスを通じて、どんな社会を実現したいと考えていたのでしょうか。

    山田:当時から「モノを大切に使う社会を実現したい」と考えていました。限られた資源のなかで「使っては捨てる」を続けていると、新興国の人は永久的に先進国と同じような生活を送ることができない。だからこそ、もっと「循環する社会」をつくらなければいけないなと。正直、ほとんどのモノは「使っては捨てる」の考え方に当てはまらないと思うんですよね。

    ーそれは、どういうことですか?

    山田:例えば、僕はパソコンを使って仕事しているから新品を買うけど、そうじゃなくて、趣味で使う人であれば、安い中古品を買って利用した方がいいかもしれない。子ども服も一緒です。子どもが成長して、着れなくなってしまう服も、別の家庭にとっては必要になるかもしれない。「使わないから捨てる」という発想は、ある種の思い込みだし、そもそも地球に優しくないじゃないですか。そのメッセージは創業時から今に至るまで変わらないですね。

    創業当時のサービス説明資料には「今後世界が経済発展しリソースが逼迫していく中で、C2C(個人間取引)は必然的に重要になってくる。その中でより時代に合ったC2Cサービスを提供し、『なめらかな社会』を実現する」と書いてある。

    ーとはいえ、単に「資源の無駄をなくそう」というメッセージを広げても、肝心なお客さまからの共感はなかなか得られませんよね。社会的なメッセージと事業の実現、そのバランスについてどう考えていますか?

    山田:はっきり言って、インターネットサービスは使われなければ意味がないんです。例えば、メルカリはメルペイというフィンテック領域にも挑戦していますが、これは単純に「メルカリで得た売上金をそのままお店で使えたら便利だよね」という話からスタートしています。これをもし「これからの時代はキャッシュレスですよ」と伝えても、お客さまには理解しづらいし広がらない。使っていただくためには、あくまで具体的な利点を強く打ち出さないといけません。なので、事業の裏側にある思想やメッセージについては、大々的に打ち出すことを控えていました。

    ー事業を成長させるうえで、上手くいかないことなんて山ほどあったと思います。なぜ、進太郎さんは踏ん張ることができたと思いますか?

    山田:どうだろう(笑)。「こういうサービスは絶対に必要とされる」と信じていたから、それを証明したいと思っていたかな。例えば、100人がダウンロードしてくれたら、そのうち何人が出品してくれて、何人がホーム画面にアプリを残してくれるのか。そう考えると「お客さまにとって、どれだけ便利なサービスにしていけるか」を突き詰めるしかなくて。その結果、気づいたらここまできた……という感じです。「循環する社会」みたいなメッセージは事業が拡大すると自然に実現されればよいかなと。目の前のお客さま、サービスにしっかり向き合うことに集中していました。

    ー進太郎さんのビジョンは、創業当時から一貫しているのですね。

    山田:一貫してると思いますが「一点の曇りもなかったか」と言われれば、それは違います。常に「疑いの目」は持つべきだと思っています。メルカリには「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」というミッションがありますが、そこに関しては疑いはないです。でも、「そのやり方は間違っているんじゃないか」「もっと良い方法があるんじゃないか」ということは常に考えています。メルカリは間違いなく便利なサービスだし、もっと多くの人に使われてもいい。でも、まだまだ僕たちが思い描くような規模ではないんです。そう考えると、これまでのアプローチよりも、もっと良い方法があるのではないかと疑ってしまいますよね。そのために「疑いの目」は常に持ち続けています。それは事業だけではなく、組織などにおいても同じことが言えますね。

    メルカリは本気で世界を掴む。創業7年目の変化と決意

    ーメルカリは今年で創業して7年目を迎えました。ここまでサービスや組織が急拡大するとは進太郎さんも想定していなかったと思います。何に一番の変化を感じていますか?

    山田:大きく変わったのは、メルカリの社会的役割だと思います。もちろん、まだまだサービスに磨きをかけて成長させる段階ではあるのですが、ある種の「社会の公器」になりつつある今、それだけを考えてはいけない。例えば以前、現金が出品されて社会的な問題になり、ご迷惑をおかけしました。僕自身、現実よりも理想を追い求めていたと思っていて。でも、今はそうはいかない。一つひとつの問題に誠実に向き合いながら、社会とうまく折り合いをつけることが大切だと思っています。

    ー法律で禁止されている範囲外であれば良いという問題ではなく、社会にどういう影響を与えるかが問題だと。

    山田:そうです。メルカリはルールメイカーにならなければいけないことに気づくのが遅かった。それがこの6年間の最大の反省だったかもしれません。逆に今は問題点について能動的に良し悪しを決めていますし、ルールづくりもはじめています。例えば、C2Cという個人間取引ならではの良さは残しつつも、法令に違反する商品だけでなく社会的に好ましくないものが流通しないようにしなければなりません。そのために、業界団体や省庁と連携し、意見交換を行いながらポリシーを適宜見直すようにしています。社会的な変化に応じて、柔軟に対応する。まさにこういうことが「社会の公器」としての自覚なんじゃないかなと。

    ー「社会との折り合いをつけることが大切」という話がありましたが、メルカリの成長にどのようにつながるのでしょうか?

    山田:「社会との折り合い」と聞くと「妥協する」というような、ネガティブに聞こえてしまうかもしれません。でも、決してそういうわけではなく、企業やサービスの価値を高めていくために必要な条件のようなもの。メルカリは日本で月間1,300万人ものお客さまにご利用いただいていますが、まだ伸び代は十分にあると思っています。このサービスをもっと多くのお客さまに使ってもらいたい。そのためには社会に受け入れられる必要があるんです。「メルカリ」と聞いて「便利だけど、怖いよね」みたいな印象があれば、真摯に向き合い、変えていかなければならない。また、メルカリは印象だけでなく村から街、そして街から都市のように、規模や性質も変化している。そのようなメルカリを実質的に安心・安全な場にしていく必要があるんです。そこにどう対応するかによって、1,000万人規模のサービスで止まるのか、5,000万人規模のサービスになれるのか、はたまた1億人規模のサービスになれるのかが変わってくる。もはや社会にどう受け入れてもらうかを考えないと、これ以上成長することは難しいとも言えると思います。

    2019年6月、メルカリは「捨てるをなくす」社会の実現に向け、繰り返し利用可能な梱包材「メルカリエコパック」を提供開始。

    ー「どんな想いを持っていても、サービスが使われないと意味がない。」その姿勢は創業時からずっと変わらず、これからも変わることはないんだろうなと感じました。

    山田:そうですね。僕は「メルカリを世界的なサービスにしたい」と公言していますが、当然、現状の経営体制や開発体制に関しても、多方面からいろいろなご意見をいただきます。「日本人が日本でつくったものが、本当に世界で使われるの?」なんてことも言われてきました。もちろん、それについても変化を恐れず、世界中のお客さまに対応できる体制をつくっていく。どんな困難な壁があろうと、一つずつ乗り越えていこうと考えています。

    ーメルカリのミッションにもつながっているんですね。

    山田:そうです。メルカリのミッションを達成するためにも、不足している要素を補強していくイメージ。そのためには「循環する社会」の実現や取引環境の整備だけではなく、ガバナンスやコンプライアンスの強化も必要です。「ここができていなかったから、これをやるべきだよね」「ここが弱いから、もっと強化しなければならないね」という議論が社内でどんどん起きています。その一つひとつに、誠実に向き合い、実現していくことが、自分たち、ひいては社会のためになると信じています。

    Profile

    山田進太郎(Shintaro Yamada)

    早稲田大学在学中に、楽天株式会社にて「楽オク」の立上げなどを経験。卒業後、ウノウ設立。「映画生活」「フォト蔵」「まちつく!」などのインターネット・サービスを立上げる。2010年、ウノウをZyngaに売却。2012年退社後、世界一周を経て、2013年2月、株式会社メルカリを創業。

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