メルカリには多様なバックグラウンドを持つメンバーが集っています。そんなメルカリにとっての「Diversity & Inclusion(以下、D&I)」とは、特別な取り組みではなく、日常の業務のなかに宿る考え方です。誰もが気持ちよく、活発に働けるメルカリのあり方を考え、実践しているメンバーにインタビューを行いました。
栗田青陽(せいよう)はメルカリの研究開発組織「R4D」のソフトウェアエンジニアとして働きながら、聴覚障がいを持つメンバーのために、会議の書き起こしを行っています。D&Iの取り組みとしてではなく、「自分にできることがあれば助けさせてほしい」というパーソナルでピュアな思いからはじまった活動について尋ねました。
この記事に登場する人
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栗田青陽 (Seiyo Kurita)株式会社メルカリR4Dリサーチャー。2012年株式会社アスタリスク入社、iOSエンジニアとしてアプリケーション開発に従事。2016年株式会社はてなに入社。2018年9月にメルペイに入社後はブロックチェーンの研究開発に取り組む。2019年4月から現職。
きっかけは「自分のスキルを高めたい」からでした
ーまずは現在の栗田さんの業務について教えてください。
栗田:「R4D」という社内の研究開発組織に属していて、ブロックチェーン関係の研究開発を行なっています。ブロックチェーンとメルカリがどのような関わりを持つのか、といったことから、法律とブロックチェーンはどう折り合いをつけていくのかといった社会的なトピックまで、さまざまな企業や組織と連携しながら研究開発しています。
ー業務とは関係なく、聴覚に障がいを持つメンバーのために書き起こしをしていると伺いました。その活動をはじめたきっかけは?
栗田青陽(メルカリ研究開発組織「R4D」)
栗田:事の発端は、質問を投げかけると答えが返ってくるSlack上のチャットボットに、「AI(人工知能)で書き起こしはできませんか?」と相談しているメンバーがいたことです。「なぜかな?」と思ったら、耳が聞こえないメンバーが社内にいて、その方をサポートするためにAIでの自動書き起こしを検討したい、とのことでした。
ーなるほど。
栗田:今のところ、書き起こしをすべてAIでやるのは難しいんです。よくインターネット番組に不思議なAI字幕がついてしまうことってありますよね。あのような事例からもわかるように、人間の方が正確。それなら、AIではなく自分が役に立てると思ったんです。
ー自分が、ですか?
栗田:実は大学時代に、耳が聞こえない学生のために書き起こしのアルバイトをしていたんです。だから書き起こしには慣れていて、これなら自分のスキルを活かしてサポートできるなと。普段から会社のメンバーは、翻訳や通訳を担当するGOT(Global Operations Team)に言葉を訳してもらったり、チームで助け合ったりしていますよね。自分にできることがあるから手伝いますよ、という単純な発想でした。
自分の得意なこと、できることを必要としている人がいる
ー具体的にはどのようなサポートを?
栗田:耳が聞こえないメンバーと一緒に会議に出席し、リアルタイムに会議の内容をタイピングして書き起しをしています。 「Google Docs」を使うので、席は離れていてもいいし、複数の人が同時に書き起しも可能。会議を開催する人によっては、「書き起しをすると集中できないからメンバーにはやらせたくない」という人もいるのですが、そういう意識は変えたいと思っていて。
ーどういうことですか?
栗田:自分にとってタイピングをすることは、「集中を妨げること」ではなく「集中力を高く保つための習慣」なんです。特別なことではなく。タイピングしていないと眠くなってしまうこともあるくらい(笑)。もっとカジュアルにできることを示して、普通に助け合いが行われる社内にしたいなと思っていて。
ーそれから徐々に日常的な活動へと変化していったんですね。
栗田:そうです。それからは、自分一人だけでやるのではなく、書き起こしが得意なメンバーが手伝えるように、社内のSlackに「#pj-notetaker」というチャンネルを立ち上げて、そこで気軽に書き起こしを依頼できるように整備しました。
ーその活動を行うときに、D&Iという考え方や取り組みは意識していましたか?
栗田:正直、社内でこういう動きがあるということは知りませんでした。書き起こしが得意で手伝っていたら、社内でD&Iの動きとして捉えてもらった、という順番ですね。プリミティブな感情として、「できることがあったらやってあげたい」と思いました。また、メルカリは自身で労働時間のコントロールがしやすい環境があり、後ろめたいこともない。努力しても解決できないことに困っている人がいたら、自分のできる範囲で助けたい、と。
ー言葉にすると高尚に聞こえるかもしれないですが、決して無理せず、自分のできる範囲でサポートしているんですね。栗田さんは、普段の生活のなかでも、そのようなことを意識して過ごしているのですか?
栗田:常にそう考えているということではないですね。自分の得意なこと、できることを必要としている人がいるということが、活動のモチベーションとして大きいと思います。
ー学生時代、書き起こしをやろうと思ったのはどうしてですか?
栗田:大学生のとき、ソフトウェアエンジニアになるためには、ブラインドタッチできなければならないと思っていて、ちょうど耳が聞こえない学生のための書き起こしのアルバイトを見つけたんです。自然と打つスピードは速くなるし、やらなければならない状況がつくれる。読む人にとっては僕の打った文字がすべてだから、ちゃんとやらないといけない。そのプレッシャーを利用して自分を追い込んで、どんどん上達していきました。
ーなるほど。そういった経緯があったんですね。
栗田:実際にiOSエンジニアになってみたら、勉強会やカンファレンスが盛んに開催されていて、そこでは有用な情報の交換が行われているんですね。この貴重な機会に参加できない人のために書き起こしをしたら、みんな助かるんじゃないのかな? と思って、大きなカンファレンスのセッションが終了した瞬間に、書き起こしブログを投稿するっていうのを続けてみたんです。そうしたら、あるテックメディアに取り上げられて、これがきっかけで「iOS業界の書き起こしマン」のように認知されていったんです(笑)。勉強会レベルならツイッターで実況するし、遠隔で参加できない人や、ボランティアスタッフの人たちからも、助かるって言ってもらえて。
ー現状への課題感や、社会の未来について何かイメージはありますか?
栗田:視聴覚障がいのサポートだけに限らず、あらゆることにログを残す習慣ができるといいと思います。情報をテキストベースで保存し、検索にかかる状態にすれば、誰もが平等に知りたい情報にアクセスすることができる。みんなが書き起こしを日常的にやるという習慣はその第一歩なのかな、と。