メルカリにある3つのバリュー、Go Bold(大胆にやろう)、All for One(全ては成功のために)、Be a Pro(プロフェッショナルであれ)。なかでも特にメルカリらしいと感じられるのが「Go Bold」です。このメルカン特集企画「Bold Challenge」では、変化するメルカリの現場で挑み続けるメンバーにフォーカス。その現在地から、挑戦の原動力を紐解いていきます。
第1回では、UK版メルカリ立ち上げを担当し、現在はメルカリ・メルペイで開発を行うプロダクトマネージャー(以下、PM)の川嶋一矢と正木貴大が登場します。
UK版メルカリは、JP版やUS版に続く3つ目として2017年3月にリリース。「日本のサービスを海外で展開したい」とメルカリに入社を決めた彼らが、UK版メルカリ立ち上げのなかで学んだこととは? また、クローズをどのように受け止め「今」に至るのか?
UK版メルカリのクローズは、日本で知った
ーメルカリグループは2018年12月に、UK版メルカリのクローズを発表しました。川嶋さんも正木さんもイギリスに赴任し、サービスづくりをしてきましたが、この発表をどこで耳にしていたのでしょうか?
正木:クローズが発表されたのは12月18日。忘れもしません。僕も川嶋さんもすでに日本へ戻り、メルカリ・メルペイそれぞれにいました。当然ながら「雰囲気を察する」「先に内情を知らされる」ということがなかったので、発表を聞いたときは驚きました。僕が離れる直前は「UK版メルカリをiOSに絞ってやっていく」という判断したところでしたね。今思えば、そこから何かを判断しようとしていたのかもしれないです。
川嶋:そうだったね。応援してくださった方々や一緒に働いたメンバーへ申しわけない気持ちや感謝の気持ちがあります。しかし、だからと言って足を止めるわけにはいかないし、「次こそは」という気持ちもありましたね。
川嶋一矢(メルペイPM)
正木:同じくです。
ーお2人は、UK版メルカリをつくること前提での入社だったんですか?
川嶋:僕はそうですね。CtoCサービスで、それもフリマアプリ「メルカリ」で培われてきた知見やデータを駆使しながら海外でサービスを立ち上げていくことに興味がありました。2016年にメルカリへ入社し、夏にはイギリスへ赴任。その後、UK版メルカリの立ち上げや現地採用などを行っていました。
正木:僕の場合は「UK版メルカリありき」というより、「メルカリなら日本のサービスを海外展開する挑戦ができそう」が決め手でした。入社したのは2016年10月、その直後にUS版メルカリにあるCSツール開発のPMとしてアサインされました。……なのですが、そこからさらに一週間経ったころに川嶋さんとのミーティングがあり「CSツール開発担当として、イギリスに来てほしい」って言われて。
正木貴大(メルカリPM)
川嶋:あれ、そうだっけ?(笑)。
正木:そうですよ!(笑)。僕、今日の取材のためにカレンダーを見返していたんですから。ちょうどアメリカ出張から帰国するときも川嶋さんに「そのままイギリスへ来れないかな? Go Boldに」と言われて、「さすがに無理です」と断ったのを覚えています。そして、その年の11月にCSツール開発のためにイギリスへ出張し、その後改めて赴任しました。
イギリスはEC先進国だった
正木:このまま話を続けると、当初は複数のプロダクトチームみたいなものもなくて。2017年3月の正式リリースまでは1チームで動いていました。2017年1月ごろから現地メンバーを採用できるようになり、人が増えてきたタイミングでチームを分け、いろいろな施策を同時進行で進めていきました。結果的には、最大3チームになっていた気がします。
川嶋:それも、けっこうインターナショナルなチームでしたよね。それこそ、ヨーロッパの国々からメンバーが集まっていました。そして、みんな仲が良かった。当初、不安に感じていた「日本メンバーvs海外メンバー」の構図にならず、すんなり融合できていました。ほぼ毎週金曜日は、みんなで近くのPUBへ飲みに行ってましたし。一方で、模索し続けていたのが他のCtoCサービスとの差別化でした。
UK版メルカリがソフトローンチされた瞬間
ソフトローンチ後の記念写真
ーUK版メルカリの競合サービスがあったということですか?
正木:イギリスは、日本よりEC化率が高いんです。AmazonやeBayを使っているのは当たり前。生鮮食品ECや、商品を一時的に置いておくための無人ロッカーなどもけっこうありましたね。スーパーへ行くよりアプリで注文している人が多かったんです。
ーまるでEC先進国ですね。
正木:そんな感じでした。UK版メルカリは、US版メルカリとほぼ同じデザインと設計で、決済と配送のみイギリス基準にあわせてリリースしていました。しかし、すでに多くのECが存在しているなかでは、どんなに機能が良くても「なぜ使わなくちゃいけないの?」となってしまう。
川嶋:競合サービスが多いからこそ、差別化が必要。でも、メルカリはオールジャンルを扱うフリマアプリということもあり、現地のお客さまからすると「オールジャンル=何ができるサービスなのかわからない」と受け止められがちだったりしていました。正式リリース後、そこをどうやって変えていくかは悩みましたね。
ーUK版メルカリは2018年7月に、ロゴなどをリブランディングしています。これには、そういった「差別化」の背景もあったんですか?
川嶋:そうですね。あと、それまでは僕ら日本人PMメンバーが開発をリードしていましたが、そのころは現地メンバーであるPMに意思決定を引き継いでいました。僕は当時、UK版メルカリから離れていましたが、現地メンバーが市場でのポジショニングやバリュープロポジション(提供価値)を再検討してGo Boldな手を打ってくれたように感じます。
ゲリラインタビューでわかった「寄付する文化」「UXリサーチの重要性」
ー海外でのサービス展開で、肝になるのがローカライズと言われていたりします。UK版メルカリでは、現地のお客さまのニーズをどうやって探っていたんですか?
川嶋:ユーザーインタビューやフォーカスグループ、街頭でのゲリラインタビューなどさまざまなUXリサーチ手法を組み合わせていましたね。お客さまをオフィスにお呼びしてインタビューするだけではなく、オンラインのユーザーテスティングツールもフル活用していました。なかでもゲリラインタビューは、そりゃもう大変だったんですから! 僕らがぎこちない感じで道行く人に「Hi!」って話しかけるものだから、当初は怪しまれたりして(笑)。
正木:そうそう! 駅で待ち合わせしている人にも、そうやって声をかけていましたね。全員が話を聞いてくれるわけでもなかったのですが、おかげで1つわかったことがありました。それが、イギリスには「不要品を寄付する文化がある」。
ー「捨てる」じゃなくて「寄付」?
正木:そうです。ゲリラインタビューで「不要品をどう処分しているのか?」と聞いたら、多くの方が「チャリティ(寄付)」って言うんです。僕らはイギリスでしか調査できていないので、ひょっとすると他の国にも近しい文化があるのかもしれませんが。少なくとも、イギリスには街なかにチャリティショップがあり、いつでも不要品を持ち込めるようになっていました。だから「捨てる」の前に、「寄付」「譲る」がある。JP版メルカリでもUK版メルカリでも「不要品を売る」というアクションは同じですが、そこへ至るお客さまの心理には大きな違いがあったのです。
川嶋:今改めて振り返ってみると、UK版メルカリはもっと「市場を見てからプロダクトをつくる」ができたかもしれないと感じます。もちろん市場を見ていなかったわけではありませんが、当時のメルカリはプロダクトドリブン、データドリブンな意思決定が核にあり「まずプロダクトを出してから考える」という姿勢でした。定性的なものを探り、サービスに落とし込むような動きをもう少し前倒しでできたんじゃないかと考えていたりします。
正木:でもこの悔しさは今、メルカリとメルペイそれぞれで活かされていたりもするんです。
ーそうなんですか?
川嶋:メルペイには、UK版メルカリを一緒につくってきたデザイナーの鈴木伸緒さんもいて「リリース前のリサーチは細かくやるべき」「UXには徹底的にこだわるべき」という共通の考えを持っていました。そのため、リリース直前までユーザーインタビューやリリース前のサービスを社内で試験運用するドックフーディングを何度も実施。おかげで、かなり満足度の高いUXが完成したと感じているんです。また、メルペイではプロダクトリリース前からUXリサーチャーを迎えています。
正木:僕は今、メルカリで出品するお客さまを増やすための施策を考案・実践するLister Growthチームにいるのですが、そこでも今まさにUXに注力し始めています。メルカリにはまだUXリサーチャーというポジションはないのですが、BI(Business Intelligence)チームにそれを実施できるメンバーがいるので、細かくチェックしてもらうようにしているんです。
川嶋:だよね。メルカリグループ全体として「UXリサーチは重視したほうがいい」とお客さまのインサイト理解に注力するようになったきっかけは、少なからずUK版メルカリでの知見が影響している気がしています。
優秀なメンバーと新しい挑戦を続けられるのがメルカリ
ーお2人は「海外で挑戦できる」ということで、メルカリへの入社を決めたと話していました。クローズを聞いたとき、気持ちの切り替えなどはしていたんでしょうか?
正木:気持ちの切り替えに、それほど時間はかかりませんでしたね。はっきり言って、毎日やることがたくさんありすぎて考えている暇がない。考えている暇があったら、目の前のことをやれって感じで今まで過ごしていました。
川嶋:「考えている暇がない」はそのとおりですね。僕自身、新しいことをするのが好きで、UK版メルカリを志望したのも「やったことがないから」でした。そして、今関わっているメルペイもそうです。ペイメント業界はとても盛り上がっているところですし、そのなかでステークホルダーとどうやりとりしながら大きくしていくかは、新しい挑戦だと思っているんです。
正木:僕にとって働くうえでのモチベーションは「日本のサービスを世界に広げる」。そのためには今一度、本体であるJP版メルカリに関わるべきだと考えて今のチームを志望しました。僕らが入社した当時に比べて、確かにメルカリグループの規模は拡大しています。だからこそ、そのなかで自分がどれくらいのインパクトを残せるかを試したい気持ちもあります。
川嶋:何より、メルカリグループの魅力は優秀メンバーと一緒に働けること。これが一番。そんなメンバーたちと、純粋にプロダクトづくりをやっていきたいだけなんですよね。
正木:わかる! 「優秀な人たちと働ける」って、なかなかできない経験でもありますしね。今はJP版メルカリ・US版メルカリ・メルペイの3本柱ですが、チャンスがあればまたヨーロッパで挑戦できないかと思っていたりしますね。
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川嶋一矢(Kazuya Kawashima)
カリフォルニア州立大学ノースリッジ校卒業後、電通国際情報サービスを経て2006年株式会社エニグモへ参画。VP of EngineeringとしてBUYMAや数多くの新規事業立ち上げを経験し、2012年7月マザーズ上場。2014年より株式会社stulioの代表取締役に就任。2016年3月よりメルカリに参画後、ロンドンへ渡りメルカリUK版を立ち上げる。2018年春に帰国し、メルペイにプロダクトマネージャーとして参画。
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正木貴大 (Takahiro Masaki)
新卒で入社したITベンチャー企業で、企業向け採用支援サービスのプロダクトマネージャーやバックエンドエンジニアを担当。2016年10月にメルカリに入社。入社後約2年間に渡り、メルカリUK版のプロダクトマネージャーとして立ち上げからグロースまでを担当する。2018年冬に帰国し、メルカリJPのプロダクトマネージャーとして参画。