※株式会社リクルート運営『HRナビ』に掲載(2018年9月末にサイトクローズ)
※本稿は2016年04月11日に掲載された記事です
日米合計でのダウンロード件数は3400万件に上るフリマアプリ「メルカリ」。その運営会社であるメルカリは、3月2日に総額84億円という大型の資金調達を発表、年明けにはEコマースプラットフォーム「BASE」を運営するBASEと資本業務提携するなど、経営面で次々と大きなニュースを発表している。
一方、ビジネスの核となっているプロダクトについてはどうだろうか。経営者として、また創業者としてプロダクトにどのように向き合い、プロデューサー的な役割を果たしているのだろうか。メルカリの山田進太郎社長とBASEの鶴岡裕太社長に話を伺った。
(フリマアプリの勝敗を分けた要因について聞いた後編はこちら)
設計の段階からプロダクトに関わる
–お二人はどの程度、プロダクトに関わっているのでしょうか。
山田:最初の頃は僕も設計から仕様までほとんどやってました。今はプロダクトは創業者のひとりである富島に任せていますが昨年の夏までは仕様に関するチケットはすべて見るようにしていました。何がどう動いていて、いつ何がリリースされているかを把握してましたね。でも、今はプロダクトチームも人が増えてきて、そこまで目を行き届かせるのは不可能ですね。
最近は自分が考えているイメージと違うときでも、担当者に聞いてみて、納得できればそれでいいという感じです。ディティールにこだわりたい思いもありますが、現場の方が分かっているケースも多いですから、細かいところにはあまりこだわらないようにしています。もちろん、方向性とか根幹のところについては今でも関わるようにしていて、プロデューサーとしての役回りに近いですね。
鶴岡:僕は一昨年まで大学生で、在学中に起業しました。その前は、クラウドファンディングサービスの「CAMPFIRE」でインターンをしていて、その流れで家入一真さんと一緒にいろんなサービスを作って、時には炎上したりしていました(注:家入氏は現在BASEの取締役を務めている)。
その経験を通じて感じたのは、インターネットって楽しいなってことです。コードを書く楽しさも知ったし、リリースするとすぐ皆が使ってくれて、それによってもたらせる影響も理解できた。そんな経験と、自分が抱いていた関心から作ったのがBASEというサービスになります。
ちなみに創業時のオフィスは、メルカリさんと同じビルにありました。他にもGunosyやCoiney、CAMPFIREなんかが入ってましたね。
メルカリの山田進太郎(左)とBASEの鶴岡裕太さん(右)
–お互い、プロダクトをローンチする直後から見てきているわけですね。
鶴岡:studygiftを作ったときには、進太郎さんもすぐに使ってくれたんですが、メールアドレスの@の前が「s」の一文字で登録できないという問題が発覚して、急いで修正したのはいい思い出です。おかげでメールのバリデーションを覚えました(笑)
山田:同じビルにいたよしみで、イーコマースを展開する上で必要なカード会社の方を紹介してもらったりしたのは助かりましたね。サービスのリリースはメルカリの方が遅かったので。
鶴岡:進太郎さんはいつも朝早く会社に来てるんで、ビル全体がぴりっとしまってました。当時のBASEは学生起業ベンチャーなんでどうしてもだらだらしがちだったんですけど、進太郎さんがちゃんと9時や10時に来ているので、「俺たち、ヤバくね」って引き締まりましたね。
根拠がなくても自信ありげに、機能リリースは肌感覚
–プロデューサーとしてプロダクトに深く携わる一方で、開発面で自身のアイデアが周囲から反対されるケースは?
山田:リリース当初は、検索をはじめ、便利に使うための機能が全然足りていなかったので、それを追加するので精一杯でした。アメリカに進出するときには、デザインも含めかなり大きく変更を加えたのですが、根本的なファンクションが変わっていないからか、特にネガティブな反応はありませんでした。
最近は自分で意見を出すというよりは自分が懐疑的なことがあってもA/Bテストができるなら反対はしません。ここ1年は、かなりのA/Bテストを実施して、多いときには毎日40〜50本のA/Bテストを走らせています。クリック率や成約率、リテンションがどのくらい変わるかという数字が出てくるので、それを見ながら方向性を決めていますね。
鶴岡:僕の場合、どんなに根拠がなくても自信ありげに言うこともあって、アイデアが周囲に反対されることはあまりありませんね。そもそも僕らは、既存の何かの置き換えではなく、新しいことに取り組んでいます。正解を見つけるには、とにかくどんどんやってみるしかない。
–とりあえず、いち早くリリースしてみようという感じですね。
山田:スタートアップって、完全なものを時間をかけて出すのではなく、荒削りなものを出して、それをちゃんとしたサービスに仕上げていくものですよね。
鶴岡:ただ、どのレベルでリリースするかの判断は、けっこう難しいと思います。あまり作り込み過ぎる前にリリースすべきだとは思いますが、早すぎるとこちらの伝えたいことが届かなかったりします。新機能を企画してから早ければ1日ぐらいでリリースすることもありますが、どの段階でリリースするかは、肌感覚に近いところがありますね。
プロダクトドリブンな経営者が求められる
鶴岡:経営者がどのくらい数字を追うかーー。そのバランスはずっと悩んでいます。もちろん数字は大事ですし、追い続けるんですが、僕がどの粒度まで追うべきか。あまり細かく数字を追ってしまうと、プロダクトが短期的になってしまうことを懸念しています。
山田:おそらく「経営者像」というものも変わっていくんじゃないでしょうか。これまでの経営者というと、リソースの割り当てや大まかな戦略を決めて、後は現場に任せるイメージがありました。時代に乗って成長していける時期はそれで大きくなれたでしょうが、これからはもっと「プロダクトドリブン」である必要があると思います。
GoogleやFacebookが象徴的ですが、社長が一番プロダクトのことを分かっていて、プロダクトを細かいところまで見て、時には軌道修正しながらいいものを作っていく。そうしてより多くの人に使ってもらい、収益を上げることで、優れたメンバーが企業に集まるという好循環ができています。
これからの経営においては、優れたプロダクトを作れる人をいかに集めるかが重要でしょう。僕自身、その肌感覚をキープしておかなければいけないし、プロデューサーであり続ける必要があると思っています。
上位ランキングのアプリはすべて試す
–優れたプロダクトを作るための肌感覚が必要だと。
山田:僕の場合、メルカリ以前にいろんな失敗をしてきたことが役に立っているかもしれません。過去に失敗したサービスの中には、自分で「こういうのが欲しいな」と思って作ったのに、全然使われなかったものもありました。それがなぜダメだったのかを考えていくと、自分のフィーリングと、他人がサービスを目の前にしたときのフィーリングをそろえていくことが大事なのかなと思います。そこをそろえることで、精度が上がると思うんですよね。
今は、いろんなアプリも出ています。とにかく触って、例えば「Snapchatって何が面白いのかな、ここがイケるよね、このいいところをメルカリにも取り入れられないかな」と参考にしたり。あるサービスを対象に一年後のパフォーマンスを測って、どこに自分の感覚とのギャップがあったかを分析することで、ヒットの打率を高めることができると思います。
山田:アプリって、若い人から火が点くことが多いですよね。僕みたいに40歳近くなってくると、かなり意識して努力しないと、「何が面白いの、これ」って分からなくなってきちゃいます。だから、アプリのランキングを見て人気のものはとりあえずダウンロードして試してますよ。
で、Facebookなどでログインしていたり、電話帳などと同期しているので分かるんですが、こういうイケてるアプリを最初に使い始める人たちってだいたい決まっているんです。そういう感覚の鋭い人たちと「あれ、どう思います?」って話しながらコミュニケーションするのも、僕にとってとても重要な時間です。
収益化に踏み切るタイミングは?
鶴岡:ちゃんと会社運営をしなきゃいけないと思っていますし、それが楽しい部分もあります。ただ、極論すると、会社の制度作りとかそういったことは、自分以外の人でもできるかもしれないって思うんです。けれど、「この先こんな未来を創りたい」というビジョンを描くことは、創業者にしかできないと思っています。
山田:どちらかというと、プロダクトのための会社という感じだよね。僕の場合も、メルカリをグローバルに、クロスボーダーでやっていきたいという思いがあるから、そこから逆算して会社や僕自身のあり方を決めているところがあります。
鶴岡:もちろん、売り上げは大事ですよ。上げなきゃいけません。けれど、売り上げのためにサービスをやるんじゃなく、サービスを作るために売り上げが必要なんですよね。作りたいサービスがあって、それを実現するのに一番適している手段が会社、という感じです。
–メルカリもBASEも開始当初は手数料無料でした。どのタイミングで、収益化に踏み切ったのでしょうか。
山田:メルカリはサービス開始後1年ちょっとで、販売手数料をいただくようにしました。ある程度規模感が出てきて、使ってくれる人が「メルカリっていいよね」と思ってくれたタイミングと判断したからです。「手数料を払っても、メルカリなら早く、高く売れる」という具合に、メルカリというマーケットとサービスの価値を感じてもらえるところまで来たというのが大きい理由ですね。
10%という手数料に「高い」という声もありますが、これまでの中古品売買の買取時と販売時の差額を考えると、納得感はあるのかなと思っています。
鶴岡:僕もまったく同じ考えで、サービスの収益化に踏み切るタイミングは、払っていただく手数料以上の価値を提供できると思ったときですよね。実際にそれを判断するのはユーザーさんですが、運営側としてそう思える時期に来たら、収益化を考えるべきと思います。それでユーザーさんが離れてしまうようであれば、それまでのサービスというだけです。