※株式会社リクルート運営『HRナビ』に掲載(2018年9月末にサイトクローズ)
※本稿は2016年04月13日に掲載された記事です
メルカリの山田進太郎社長とBASEの鶴岡裕太社長の対談後編。プロダクトのヒット率を上げる「肌感覚」の養い方について聞いた前編に続き、後編は「使ってもらえるWebサービス」のあり方を掘り下げる。2月末には、メルカリの競合とされていたLINE MALLが市場撤退を発表したが、対談はフリマアプリの勝敗を分けた要因にも及んだ。
メルカリの山田進太郎(左)とBASEの鶴岡裕太さん(右)
「長く使い続けられるサービス」を作るには
–長く使い続けられるWebサービスを作るために意識していることは?
鶴岡:FacebookやTwitterなどいろんなサービスがありますが、「ずっと使い続けられるWebサービス」ってまだあまりありませんよね。僕個人としては、車や建物のように、インターネットの上でずっと使い続けてもらえるWebサービスってどんなものだろうか、ということにずっと興味を持っています。インターネットってすごいものですよね。その上で、再現性があってずっと使ってもらえるWebサービスを作れないかなと。
BASEに関していうと、既存のユーザーにとっても、また新規のユーザーにとっても優しいサービスであることを追求しています。BASEのようなサービスって、ユーザーとプラットフォームが一緒に成長し続けていくものです。だから、どこかで新規のユーザーを見失ってしまうポイントが出てくることは避けられません。
その中で、既存ユーザーと新規ユーザーの両方を補い続けられWebサービスはどういう設計であるべきかを考え続けています。これには正解がいまだにないと思っていて、ずっと探し続けていますね。
山田:インターネットは本格的な商用化が始まってから20年とかで、まだアーリーな状態だと思います。これが10年後、20年後にどうなっているかを考えると、自分たちが作っているサービスがこのままでいいとは思えませんよね。
おそらく、PCを全人類が使うことはないとして、しばらくはスマートフォンの時代が続くかなと。通信速度やバッテリーを本当に気にせず使えるような理想的な状態が実現されたとき、どういうインターフェースやどういうサービスがいいのか。理想的な状態を考えることで、今のサービス設計が変わっていくきっかけを見つけられるかもしれません。
例えば最近、Snapchatがすごく流行り始めていますよね。あれを見ていると、動画の使い方が全然違ってきていると思います。ああいう先進的なサービスが存在することによって、人の意識も変わります。では、イーコマースの中で動画はどう使われるべきか、ということも考えますよね。
鶴岡:最近は何でも動画ですね。BASEでもGIFを使って動画で商品を紹介するところが増えています。僕、こういうのは全然想定してませんでした。
サービスの“遊び”が「○○様専用」文化を生んだ
–ユーザーによって想定外のニーズに気付かされることがある。
山田:その意味で、メルカリを作るときに一つ心がけていたことがあります。あまり限定しないようにすることです。こちらで一応カテゴリ分けも用意していますが、「その他」っていう要素をいろんなところに入れています。そうすると、僕らが全然想定していなかったやり取りが生まれてくるんですよ。それを排除しない、遊びのあるサービスっていうのがいいサービスなんじゃないかなという気がしています。
つまり、イレギュラーなものや遊びが許される、懐の深いサービスを用意しておき、後々それをシステム化していくということですね。ガチガチに固めてしまうと、ユーザーも想定された使い方しかせず、面白くないところがあるんじゃないでしょうか。
メルカリの場合、こちらが想定していなかった「○○様専用」なんていう使い方が生まれています。「初めての人には分かりにくい」といった意見もありますが、こういった元々想定していなかった需要を取り込めるような仕組みを考えて実装していければいいなと思っています。
※○○様専用とは、出品者が購入希望者に対して商品を取り置くなどの目的で専用ページを作る、メルカリのユーザーが作った独自ルールのこと。
どこまでユーザーの声に応えるか
–とはいえ、すべてのユーザーの声に応えるのは厳しいですよね。
鶴岡:「ニッチな方がユーザーに刺さる」という意見もありますが、BASEも懐の深さは意識しています。僕は、「野菜」とか「ハンドメイド」「女性」といったカテゴリに特化するのはあまり好きじゃなくて、やるからには全部やりたいんです。あまりニッチになりすぎないように、と意識しています。
今、20〜30万ほどマーチャントさんがいますが、そのうち数百店舗にしか恩恵が生まれないような機能は開発しない方針です。少なくとも万単位のマーチャントに恩恵があることでなければしない、という方針は、社内でも明確に徹底しています。
山田:あんまり小さいところを狙ってもしょうがないですよね。よく、新規事業ならば「一年以内に黒字化する」といった目標が立てられますが、僕はそういうのはあまり気にしなくて、「このサービス、本当にみんなが使うのかな、本当に万人が便利に使うものになるのかな」というところを見ていきたいです。
一部の人にしか刺さらないようなものを、メルカリでやる意味があるのかなと思いますし。その意味では鶴ちゃんとは考え方が近くて、それが出資にもつながっています。あまり小さいところはこだわっていないのがいいなと(笑)
鶴岡:僕は、進太郎さんと同じように、ユーザーさんがどう使ってくれるかを楽しみにしている部分もあります。アパレルショップや雑貨ショップは想定内なんですが、中には「朝、起こしてくれる権利」なんてのを売っていたり……サービス利用者が遊んでくれれば、いい発見がありますよね。そういうサービスの方がいいなと思います。Webサービスには一定の遊びがないといけませんよね。
フリマアプリ勝敗分けた要因
–最近では、競合と言われるLINE MALLがサービス終了を発表しました。かたやメルカリは黒字化も達成していますが、この状況をどう分析していますか。
山田:フリマアプリの中ではメルカリが一番遊びがあると思うんですよね。LINE MALLでは禁止となっていた値下げ交渉もありで、むしろ一つのコミュニケーションととらえて楽しんでいる人もいる。これは一例ですが、なるべく自由にしておけると言うのは、スタートアップならではのいいところです。
大手になればなるほど、どんどん万が一の事故が起こらないように自由さがなくなってしまうかもしれませんね。ある程度遊びを作ることができるのはスタートアップの強みだと思うし、その中から何か本質的なものが生まれてくるんじゃないかなと思います。
UberやAirBnBなども、違法といわれながら、「こういうのっていいよね、便利だよね」という需要側の声に押され、規制の方が変わってきている状況です。これってとてもスタートアップ的ですよね。サービスに遊びを設けて、そこでユーザーが予想外の形で使い出すというのは非常にインターネットっぽいところでもありますし、そういう力をうまく使えたところが勝つんじゃないでしょうか。
山田:後は、総合型のフリマアプリ市場という意味でいうと、メルカリが受け入れられている理由の一つに、ちょっと「早かった」こともあると思います。早く参入したからこそ、機能やサポートを含めた体制が強かったし、売買されるアイテム数も多かった。
ユーザーさんは当然他のサービスと比べますよね。両方とも試してみた結果、「メルカリの方が売れるじゃん」と実感していただけたんじゃないでしょうか。LINEさん、ZOZOTOWNさん、楽天さんなど大手の企業がフリマアプリ市場に参入していただいたことで、認知度が高まり、市場そのものが広がったことも要因の一つだと思います。
次の投資は? 動画、VR、自動翻訳の可能性
–今、注目しているジャンルは?
鶴岡:今一番使っているアプリは「torne」です。録画したものをお風呂で見たりしています。それで改めて感じるのは、テレビ、動画ってすごいなってことです。今、明らかに動画コンテンツの消費方法が変わってきていますよね。動画自体がライトなものになって、それに関わるアプリやサービスもどんどん生まれている。コンテンツの消費の仕方がどんどんミニマムになってきていて、それに関連するアプリも面白いなと思っています。
山田:動画に近いですが、僕はVRが面白いと思っています。OculusやPlayStation VRにも触ってみたんですが、あれは本当にすごいですね。没入感がすごくて、一度体験してしまうと後戻りがきかないタイプの技術です。その意味で、インターネットを初めて使ったときに近い気もします。いろんな可能性がある一方で、まだ全容も見えていません。ゲームや映画、スポーツ、いろんなところに影響があると思いますが、個人的にはとにかく全部体験して、試すことで、未来像を明らかにしたいと思っています。
こういうのってタイミングも重要です。過去にソーシャルゲームを手がけたときも、米国や中国での状況を見ていたこともあって、いち早く参入できました。VRも、最先端の例に触れられるかどうかが重要だと思っています。もしその中で自分たちの事業に関係するものがあれば、取り組めばいい。だから、常に新しいことへのアンテナを張っておくことが重要ですね。じゃないと、いつの間にか別の波が来ていて誰かに全部取られていた、なんてこともあり得ますから。
メルカリに関しては、今は日本では利益が出始めていますが、もっともっと投資していくフェーズだと考えています。その一環として、例えばAIとか自動翻訳とか、自動翻訳の中でもトランザクションに特化した自動翻訳ならばいけるんじゃないかとか、CTOも含めてエンジニアたちと話をしています。
鶴岡:僕は、個人的な興味でもある「いかに長期的なサービスを作るか」ということにコミットしたいですね。インターネットは一つの革命で、そのインフラを使っていろんなサービスが作り出されて、多くの人の生活が一気に変わりました。しかも普遍的な存在で、少なくとも僕が生きている限りは残り続けると思います。あまりにすごすぎて、インターネットの上に、もう一度インターネット級の何かができると思っています。それを追い続けるのが、インターネット人の僕としては楽しくて、面白さを覚えるところです。
山田:僕としてはまだアメリカや海外で大成功を収めた日本発のインターネットサービスがないので、それを実現したい気持ちが強くあります。それができたらヨーロッパへ、さらには新興国にも広げ、最終的には全マーケットをつなげてクロスボーダー取引を実現したい。それに、位置情報を使って近くの人とやり取りできるようにしたり、送金もできるようにしたり……そういう将来像を考えると、今のプロダクトの未完成な部分も見えてきます。僕自身、その実現に当たって海外に住む必要があれば住むし、できることがあればやっていきたいです。それができれば、人生に悔いなしと言えると思っています。
先行するサービスもありますが、日本でも状況は同じで、競合するフリマアプリは山ほど出ています。その中でいいサービスを作り続けていくことしかありませんし、そうすればユーザーもついてくると思っています。
鶴岡:僕は、さっきも触れた「インターネット的な何か」にコミットしていきたいですね。特に「価値のあり方」に興味があります。生きていく上ではお金が必要です。時間や労働力をお金に換え、そのお金でお米を買って、また働いて……というサイクルの中で、価値を交換しながら生きていますが、今の紙幣や硬貨による価値の交換方法が最適化されたものとは思えません。お金って、情報に近いというか、データベースの一種ですから、インターネットを使って変革が起こせると思っています。価値のあり方にどう向き合い、テクノロジを活用できるかが大事だと思っています。
BASEと同時に運営しているPAY.JP事業は、まさしくそうした部分にフォーカスしたサービスを通じて、この世から「500円玉」や「千円札」をなくすところにコミットしていきたいと考えています。それで、みんなが喜んでくれるような「インターネット的な何か」を作れるように、会社としても個人としても頑張りたいですね。