──カルチャーフィットを見るとき、必ず質問することはありますか?
2019年11月19日、組織づくりに携わるエンジニアたちが集まり、知見を共有し合うことを目的とした勉強会「EM Talk #1 〜エンジニア採用編〜」を、メルカリ東京オフィスで開催しました。この勉強会は、組織づくりに欠かせない採用・育成・配属・評価・制度などについて、過去の事例・失敗談・成功談・現在の取り組みを共有するというもの。
当日のコンテンツは、トークセッションとパネルディスカッションの2本立て。そこで今回のメルカンでは、トークセッションとパネルディスカッションそれぞれのレポートを前後編でお送りします。前編はこちら。
後編となる今回は、スマートニュースのエンジニアリングマネージャー(EM)である天野仁史さん、グリーCTOの藤本真樹さん、DMM.comのCTOである松本勇気さんによるパネルディスカッションをお届けします。モデレーターは、メルペイVP of Engineeringの木村秀夫。内定承諾率はどうなっている?カルチャーフィットを確認するために必ず質問することは?…各社それぞれの考えが展開されました。
各社の内定承諾率、選考日数、リファラル比率は?
木村:まずは、各社の採用に関する数値についてお聞きしたいです。何人くらいから応募があり、最終的に内定を承諾してもらう割合はどれくらいなのでしょうか?
藤本:グリーでは、トータルすると1%を切るくらいですね。
松本:DMMは…今調べてみたんですけど、3〜4%くらいですね。これが高いのか低いのか。今まできちんと比較してみたことはなかったのですが、似たような数字になると思いました。
写真奥から、天野仁史さん(スマートニュース)、松本勇気さん(DMM.com)、藤本真樹(グリー)、木村秀夫(メルペイ)
天野:スマートニュースは、1.35%です。個人的には低い数値かなという認識だったんですけど、各社、同じ感じなんですね。ただ、チャネルによって、パーセンテージは異なります。
木村:リファラルは、内定承諾に進むまでのパーセンテージが異なりますよね。あと、個人的にはリードタイムが気になっています。選考過程では、どれくらい日数をかけているのでしょうか?メルペイは、平均40日くらいです。メルカリの場合、海外でもエンジニアを採用しているので、平均70日ほどかかっていますね。
藤本:グリーでは、厳密に数字はとっていないのですが、平均で35〜40日くらいです。たぶん。
松本:DMMも同じくらいですね。
木村:それは、最初から35日くらいだったんですか?それとも、短くする努力をしたとか?
松本:個人的には、今も日数がかかりすぎていると思っているので、もう少し改善したいですね。僕たちの場合は、国内での採用が中心。それを踏まえると、フローの洗練が足りていない。今、人事と一緒になって改善に取り組んでいるところです。
藤本:グリーの場合、基本的には、日数の短い方が内定確率が高いですね。
天野:スマートニュースは、調べてみたら平均で55日ほどでした。弊社はステップ数が多くて、何回か会社に来てもらう必要があるので長いんです。最近は、1日ですべての面接を行う施策にも挑んでいます。
木村:なるほど。シリコンバレーの企業は丸1日かけて、すべての選考を完了させています。そうなると、候補者は大変かもしれませんが(笑)。ところで、採用チャネル・母集団形成はどうしているんですか?メルカリ・メルペイは、リファラルをずっと頑張っていました。しかし、最近ではエージェントの割合も多くなってきています。みなさん、いかがですか?
天野:リファラルが一番多いですね。ただ、スマートニュースもリファラルだけでは足りない。エージェントとのコミュニケーションを密にとり、優秀なエンジニアを紹介してもらっています。エンジニアが70人くらいの規模で、月に数人をおもにリファラルで採用していますが、採用目標と比べるとまだまだですね。
松本:僕がDMMにCTOとして入社したのは、昨年10月。今、この会社の改革を進めているところです。個人的に、いい会社のバロメータは、リファラルの比率だと思っています。DMMでも、まずはリファラル比率を50%にすることを目標にして、いろいろ取り組んでいるんです。実際、チャネルの割合で言えば、自社HPとリファラルで45%ほど。それ以外はエージェントが45%、残りはダイレクトリクルーティングでだいたい月に10〜20人くらいを採用しています。
木村:リファラルに関して言うと、最近、メルペイでeNPS(Employee Net Promoter Score)を始めました。これは、社員がどれだけ会社をオススメできるかを数値化するもの。この数値を組織の健全性を測る指標として、真面目に追っています。
選考プロセスは多いほうがいい?少ないほうがいい?
木村:選考プロセスも、気になるところです。みなさんは何段階くらいの選考プロセスを経てから採用するようにしていますか?
天野:職種によって違いますね。例えば、Mobileエンジニアだと、まずはレジュメを送ってもらった後、Webでコーディング試験を受けてもらいます。そこからプログラミングのホワイトボードコーディングを2回やり、システム設計をやって、モバイル開発の知識を聞きます。その後、カルチャーフィットを見る面接があるので…全部で5ステップくらいを1〜2日で実施していますね。
松本:DMMは、いたって平均的です。書類面接があり、一次面接で現場の人が面接し、二次面接でEMが面接し、最後は僕か本部長が面接します。ただ、技術試験が入っていないことには、課題に感じています。どういう仕組みで技術を見ていくのか。その標準化を、CTO室で企画しているところです。
藤本:グリーもほとんど同じですね。違いがあるならば、コーディングテストを最近始めてみたことくらいですかね。
木村:多くの会社では、3回くらい面接があったりします。一方で、Googleでは8人で面接をしていたり。たくさんの人が面接すると採用の確度も高くなりますが、どうしてもコストがかかってしまいます。みなさんは、手厚く面接するパターンを検討したことはありますか?
天野:スマートニュースは、手厚くやっていると思います。実際、たくさんのエンジニアが面接してくれることをポジティブに受け取ってくれる人もいます。弊社の技術レベルを突破してきたことでエンジニアの信頼関係が増すなど、カルチャーにもいい影響があります。
藤本:グリーは、あまり多くの人を採ろうとしていません。そのため、面接以外に、候補者とご飯に行って話すパターンも多いですね。それは軽い面談としてもそうですし、最終面接の前後でのアトラクトも含めています。
木村:それで言うと、メルカリ・メルペイは「カジュアル面談」という、選考の前に行う取り組みを重視していますね。
天野:それ、いいですよね。個人的には、カジュアル面談から選考に至った人の方が、面接の体験が良く感じています。
面接では、ネガティブをすべて話し切ることが大事
藤本:僕は入社した後に「何か違うかも」と思われるのが、トラウマになるくらい嫌なんですよね(笑)。だから、面談でお互いにきちんと理解して入社してもらうようにしています。
木村:それは大事!先ほどのトークセッションでも、期待値に関する話があったじゃないですか。僕も今、メルペイの最終面接を担当しているんですけど、そこで必ず「こういうところもありますよ」と、強く課題に思っている部分を伝えるようにしています。期待値が合っていないと、お互いに不幸になってしまう。なので、ネガティブな部分は、最終面接で言うようにしています。
松本:ネガティブをすべて話し切るのは、大事なことですよね。
木村:そうなんです。そして、もう少し面接について深掘りしたいのです。それぞれの会社で面接のフォーマットはありますか?メルカリ・メルペイは、一応フォーマットはありつつも、みんな自由にやっていて。それが結果的に面接のクオリティにバラつきが出てしまうなど課題はあったりします。
天野:スマートニュースでは、毎週エンジニアが集まって「面接でどんな質問をするのか」のディスカッションをしています。そのための社内Wikiがあり、課題プールもあるんです。例えば、「課題に対して見るべきポイント」「候補者からこういったシグナルが出たら話を深掘るべき」「この質問に答えられたらどのグレードの評価にすべきか」といった感じです。レベルの高いエンジニアを採用するためにどうすればいいかを、日々話し合ってます。
松本:そういった取り組みを、DMMでも最近やり始めました。我々の会社にとっての技術的水準をどうやって測るのか。その基準をつくっているところです。面接の内容が属人的になってしまうと、通すべきだった人が通らない可能性も出てきますよね?そういった部分で言いわけがないように、CTO室で技術レベルの基準づくりをしています。あとは、実地研修の意味で、面接にマネージャーも同席させています。
藤本:僕は、中途採用での最終面接を担当しています。そこで、今までの面接についてどうだったかを聞くことがあります。それは会社に対する理解度を知ることに加えて、面接官に対してどう思ったかを知るためです(笑)。
天野:候補者の体験が悪いと、エージェントが優秀なエンジニアを紹介してくれなくなったりするので、けっこう大事な指標ですよね。
カルチャーフィットを確認するため「必ず質問すること」
木村:カルチャーフィットを見るとき、必ず質問することはありますか?
天野:スマートニュースは、エンジニアが自発的にボトムアップでやっていくスタイル。なので、「プロジェクトが凪の状態のときに、どういった行動をしたか」を聞きますね。そのなかで、チームと会社の戦略に沿った行動ができているか、どういう考え方でやっているかを気にしています。
松本:「物事に理由があるか」は、聞くようにしています。特別な質問をするより、今までの事業で何をしてきたのか、なぜその技術を選定したのか。嘘をつくとボロが出てくるので、そこを見るようにしています。ちゃんと理由を持って物事に向き合える人でなければ、課題にもちゃんと向き合えないと思うので。
藤本:僕の場合は「ちゃんと議論ができるか」を確認しています。エンジニアの議論は、難しい。言ってしまえば、正解がないことも多く、それゆえに負けない議論をするのが簡単なんですよね。「なんで俺の主張はダメなんですか?」としか言わない人がいると、物事が先に進まなくなってしまったり。自分の考えと他人の考えをちゃんと同じ地平で見て、ゴールに向かってどうすればいいか。それを考えられる頭の良さがあるかは、あらゆる面接で大事にしています。
木村:僕は、「経験がどれくらいあるか」を聞きたいですね。レジュメを見れば、ある程度のスキルは載っています。しかし、引き出しがどれくらい多いのかはわからない。そこでよくしているのが、「リリースが近いけど開発が間に合わないとき、Quality(品質)、Cost(コスト)、Delivery(納期)のどれをトレードオフにするか」というたとえ話を通じた質問です。これはケースバイケースで違うので、その理由をどれくらいロジカルで話せるかを確認するようにしています。
松本:そう言われて思い出したのですが、「正直者かどうか」も質問していますね。自己認識と実際の差分が大きいと、後々ズレが生まれてくる。レジュメに書いてあることでも、他のメンバーの面接の評価から「この技術領域は強いです」と聞いたら、そこを実際に深掘っていきます。ここでの差分が大きい人は、意外と知らないことがたくさん出てくるんです。ただ、本人はできると言っている。この場合、その人は他のところでもこういった差分を出しうる可能性があります。
木村:面接における候補者は、受かりたい気持ちゆえに大きく見せがちになると思います。それが過剰だと、難しいですよね。
スマートニュース、グリー、DMM、メルペイの「新卒採用」
木村:ちなみに、新卒採用についてはどうですか?
藤本:それなりに採用していますし、新卒にも力を入れています。そのなかでも、エンジニアは、僕が面接しています。
松本:DMMでも、20人ほど新卒を採用しました。今後も20人前後で常に採用し続けていこうと思います。ただ、人数を明確に定めているわけではなくて。いい学生がいたら、全員採ろうくらいのスタンスなんです。それが、結果的に20人くらいになっています。
木村:新卒採用は、面接が大変ではないですか?
藤本:中途採用と、そんなに変わらないですね。新卒だからどうっていうのは、好きじゃないんですよね。ただ、新卒採用に関しては、時間をかけてます。人事にも、現場のエンジニアにも会ってもらう。新卒は、面接してから入社するまで1年くらい時間が空くじゃないですか。だからこそ、中途採用以上に期待値、理解を擦り合わせないと、半年くらいで「違うとな」となり、辞めてしまうかもしれないので。
木村:スマートニュースはここから先、新卒採用をやるんですか?
天野:スマートニュースはまだ新卒採用をやっていないのですが、インターン採用は開始しています。インターンで気になった人がいたら採用しようかな、という感じです。ただ、会社が大きくなってくると、新卒採用も考えていかないと思っています。そこで、僕もみなさんに質問なのですが、スマートニュースはエンジニアリングカルチャーがフラットな組織で、先輩・後輩がありません。新卒が入ってくると、先輩・後輩の関係がはっきりできてしまう気がするのですが、そのあたりはいかがですか?
松本:それはできますね。みんな「○○年卒」みたいなラベルを貼るので(笑)。それは仕方ないことだと思います。ただ、あまりネガティブなことはないですね。
木村:入社後のギャップは起きていたりしますか?もし起こっていた場合、どう解決してますか?
松本:相当、ギャップが出ます。ギャップをきちんとトラックできるように1on1をしたり、人事でオンボーディングの面談を入れてもらったりして、フラットに話をしてもらう。それを適宜、会議などの議題にし、解決策を考えるようにしています。
天野:スマートニュースは「Machine Learning Companyです」と言っているのですが、実際は泥臭いことも多い。そういったギャップを感じる人は、いるかもしれませんね。ただ、採用担当のエンジニアが「最初の半年はこういうことやってください」とオファー時点で伝えるので、入社後すぐの仕事のギャップはあまりありませんね。
木村:なるほど、ありがとうございます。
エンジニアの「組織づくり」を語り合う勉強会、第2回目も企画中
4社それぞれの採用スタンスが語られるなか、あっという間にパネルディスカッションは終了。異なる部分はもちろん、共通した考えがいくつかあったことが驚きでした。
今回が初となった、組織づくりに携わるエンジニアのための勉強会「EM Talk」。第2回も企画中ですので、引き続き弊社のイベントページをチェックしてください!
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天野仁史(Hitoshi Amano)
2003年〜2012年まではエンジニアとして、 SNSやグループウェアなどのさまざまなサービスの立ち上げに携わる。2012年にカクテル株式会社を創業。SNS事業やライブ配信事業の立ち上げを行う。その後、事業売却しスマートニュースに入社。スマートニュースでは、マーケティングテクノロジを開発するチームのPM兼エンジニアを経て、現在はMobile App Team (iOS, Android, Web Frontendエンジニアが属するチーム) のEMとしてその組織づくりに携わる。
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藤本真樹(Masaki Fujimoto)
2001年、上智大学文学部を卒業後、株式会社アストラザスタジオを経て、2003年2月有限会社テューンビズに入社。PHP等のオープンソースプロジェクトに参画しており、オープンソースソフトウェアシステムのコンサルティングなどを担当。2005年6月、グリー株式会社 取締役に就任。
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松本勇気(Yuki Matsumoto)
2018年10月11日より合同会社DMM.comのCTOに就任。2018年8月まで株式会社Gunosyにて執行役員 CTOおよび新規事業開発室室長。Gunosy創業直後に入社。これまでニュース配信サービス「グノシー」「ニュースパス」などの立ち上げから規模拡大、また広告配信における機械学習アルゴリズムやアーキテクチャ設計を担当し、幅広い領域の開発を手がける。新規事業開発室担当として、ブロックチェーンやVR/ARといった各種技術の調査・開発を行う。2019年5月よりDMM GAMESのCTOを兼任。
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木村秀夫(Hideo Kimura)
ISPでエンジニアとしてのキャリアをスタートさせ、独立起業や通信キャリアなどでの開発業務を経て、2009年DeNA入社。Mobageオープンプラットフォームの立ち上げ、グローバル展開、Mobage全体のマネジメントに従事。2013年に執行役員に就任。その後もオートモーティブ新規事業立ち上げ、システム&デザイン本部長を経て、2018年5月、株式会社メルペイ執行役員VP of Engineeringに就任。