「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」をミッションに、国内外で活躍するメンバーの採用に注力してきたメルカリ。そして現在、メルカリ東京オフィスでは、約40カ国から集まったメンバーが勤務。特にエンジニア組織については、この1年で海外から来たメンバーの比率が約15%→約40%に増えています。
つまり、一気に組織内のグローバル化が進んだわけですが…それによって社内では何が起きていたのでしょうか?
開発現場の目線で「メルカリ社内のグローバル化」を伝える「#TowardAGlobalMercari」。最終回は、海外から来たメンバーが多く在籍しているメルカリBackendチームの後藤秀宣と、エジプト出身のAyman Imamの2人による対談をお送りします。1記事目、2記事目はこちら。
日本人以外のメンバーが増え、言語ポリシーが揺れているタイミングで入社した2人。ボトムアップで意思決定が行われ、日本語・英語がごちゃまぜな環境下、開発現場で起こっていたことは?
「英語でやりとりするかどうか」は、チームに依存していた
後藤:僕は2018年11月にメルカリへ入社したのですが、この時点ですでにBackendチームには海外から来たメンバーが多く在籍していて、開発によっては英語が必須になりつつありました。そして、僕にとってこれほど日本人以外のメンバーが多い企業は、メルカリが初めて。入社したばかりのころはスムーズにコミュニケーションできず、いろいろなメンバーにサポートしてもらっていました。
Ayman:そうだったんですね。僕はエジプト出身で、これまでサウジアラビアやドイツ、イタリアなどで働いてきました。ずっと英語メインだったので、メルカリに入社したとき、先に海外から来たメンバーが多く入社していたことは内心「ラッキーだな」と思ってたんです(笑)。入社してから最近はずっと、越境販売プロジェクトを担当しています。
Ayman Imam(メルカリBackendエンジニア)
後藤:やりやすそうでよかった(笑)。
Ayman:あはは。でも、そうでもないところもわりとあって。僕が入社したばかりのころ、メルカリではチーム以外のミーティングでやりとりされるのはほぼ日本語。これは、ちょっとショックだったんですよね。英語でやりとりできるかどうかは、チームに依存していました。僕の場合、Slackなどを通じてコミュニケーションするか、対面の場合はGOT(Global Operations Team、メルカリの翻訳および通訳を行うチーム)に助けてもらったりしていました。さらに言うと僕、Slackを使うのはメルカリが初めてで…。
後藤:え、そうなの?基本的な使い方は難しくないでしょうけど、メルカリのSlackはチャンネル数も多く、ルールもあります。そして、だいたいにおいてメインは日本語。すべて把握して使いこなすまで、時間がかかったんじゃないかと思うのですが?
Ayman:かかりました!それに、Slackだけだと相手の感情がわからなくて、余計に混乱したこともありましたね。
言語の壁と、「担当者は誰だ」問題
後藤:最近は少なくなっていますが、以前の日本には「同じ釜の飯を食う」という言葉があるくらい、家族のように深い絆を持ちながら働くことを良しとされる文化がありました。僕も、そういった強い関係性を築きながら仕事をするのはとてもいいと思っているんです。一方で、僕らエンジニアには効率化を好むので、Slackでのコミュニケーションを中心とする方も多くいます。Aymanさんはどうですか?
Ayman:「家族のように」って、いいですね。僕もエンジニアですが、どちらかと言うと「対面でのコミュニケーション」推奨派です。そのほうが、お互いの関係性も強化される気がしているんですよね。もちろん、すべてそういったやりとりをすると時間が足りないので、「はい」「いいえ」で終わる短いやりとりは、Slackがいいかもしれない。でも、僕の場合は、長く話し合う必要があるものは対面でやりとりするようにしていますね。というのも、相手の言葉の背景がわからず、ミスコミュニケーションをしてしまったことがあったので。
後藤:ミスコミュニケーション?
後藤秀宣(メルカリBackendチーム、エンジニアリングマネージャー)
Ayman:僕は今、越境販売プロジェクトに関連する開発を担当していたのですが、コミュニケーションの中心がSlackでした。開発において、ある特定のDBテーブルを使うことになり、使用可能かどうかをSlackで質問したことがあったんです。そうすると、返ってきたのは「Yes」。なので、さっそく開発に取り掛かったのですが、その後すぐ、他のチームから懸念事項とともに「使わないでほしかった」というフィードバックがあり…。
後藤:それは、なかなか難しい問題ですね。
Ayman:Slackに慣れたころ、ようやくチーム内外でうまくコミュニケーションできるようになりました。しかし、何か質問したいときに「誰に聞くといいのか」を探し出すのは未だに難しいです。これは言語の違いによる問題もありますが、メルカリにおける開発がモノリスからマイクロサービスへ移行し、担当者が不明瞭になりがちだという問題が同時に起こっていたことも原因の1つだと思っています。
言語ポリシーはボトムアップで決めるべき?
後藤:僕が入社したとき、メルカリ社内では日本人以外のメンバーが増え始めていました。そのため、日本語と英語のコミュニケーションが混ざり合っていたんです。多文化になりつつあるなか、言語ポリシーが定められているわけではなく、各チームでどのようにコミュニケーションしていくかを判断している状態でした。
Ayman:つまり、経営判断としての言語ポリシーがなかった?
後藤:そうです。その結果、全社向けに公開されるドキュメントは日本語と英語併記でしたが、GitHubのプルリクエストやSlackでのやりとりはほとんど日本語。GOTは、かなり大変そうでしたね。
Ayman:僕の前職では、むしろ日本人メンバーが英語を話すようにトップダウンで定めたルールがありました。けれど、メルカリはボトムアップで決断を下すカルチャーがあります。言語など、社内のグローバル化に関するポリシーもそうです。そこで、英語話者に対する日本語サポートなども実施されるようになったんですよね。メルカリBackendチームでは、このボトムアップでの決断はどうでした?
後藤:さまざまなことをボトムアップで決めるカルチャーは、とても良いと思っています。しかし、コミュニケーション言語に関しては、もうちょっと早く決めてほしかったという気持ちもあるんです。僕らがいるメルカリBackendチームでは、少なくともボトムアップで決めたことによる悪影響が起こっていた時期がありました。結果はどうであれ、スピード感を持って混乱をおさめなけばならないタイミングでは、トップダウンでの意思決定が重要だったんじゃないかと思っていたりするんです。
中長期的にグローバル化を推し進めるならば…
Ayman:メルカリは今、言語の違いによって生じたギャップを埋めようとしています。全社的に共有するドキュメントでも、日英併記が義務付けられていますよね。それに、言語サポートだけでなく、英語・日本語学習サポートにも力を入れています。
後藤:今、メルカリでは約40カ国から集まったメンバーが働いています。そして、開発チームでは、基本的には英語を使うようになっています。同時に、メンバーへの言語教育(LET)も強化。でも、これは社内での公用語を決定したわけではなく、あくまでもポリシー。それでも、トップダウンで言語に関する決定を下したおかげで、コミュニケーションも大幅に改善されたように感じています。
Ayman:僕は、ボトムアップで考えていくことには賛成なんです。もちろん、後藤さんが言うようにトップダウンでの決断が必要な場面もあります。言語の壁を越え、さらに事業スピードを上げるならば、いっそ英語話者と日本語話者でチームを分けてしまう考えもあります。でも、そうなるとやりとりが完全に遮断され「隣の人は何する人ぞ」状態になってしまう。グローバル化におけるポリシーこそ、中長期的に取り組んだほうが良い。
後藤:同感です。現在に至るまでにもさまざまなトライアンドエラーを重ねてきたので、この経験値が今後に活きるといいですよね。
Ayman:そうそう。先ほども言いましたが、僕もメルカリの「ボトムアップで物事を決めていく」というカルチャーはとてもいいと思っています。こうやって紆余曲折しながら、僕らは前へ進んでいくんでしょうね。そして、家族のような絆を築けるようになれたら、最高ですね。
-
後藤秀宣(Hidenori Goto)
PHPメンターズでソフトウェア設計を中心に活動していた。2018年11月に株式会社メルカリに入社後はマネージャー職に。メルカリBackendチームのEngineering Managerとして、メルカリ本体をモノリスからマイクロサービスへ移行するプロジェクトにも関わっている。システムと組織の両面での変革に奮闘中。
-
Ayman Imam
アジャイルソフトウェア開発や分析、設計に11年ほど従事。現在は、メルカリBackendチームのテックリードとして、安心安全なサービスにすべく、マイクロサービス構築に注力している。