メルカリがユニフォーム・スポンサー契約を結ぶ、名門クラブ・鹿島アントラーズ(以下、アントラーズ)に、ジーコ氏がテクニカルディレクターとして戻ってきました。
ジーコ氏は現役時代、アントラーズでプレイし、Jリーグ通算23試合14得点、リーグカップ通算13試合7得点、天皇杯通算4試合2得点を記録。現役引退後は1996年から2002年までアントラーズのテクニカルディレクターを務め、2002年から2006年にかけては日本代表を指揮。2006 FIFAワールドカップ(ドイツ大会)への出場を果たしました。
そんなJリーグのみならず、日本のサッカー界に大きな影響を及ぼし続けているジーコ氏が、なんと先日メルカリに初訪問。そこでメルカン編集部は、筋金入りのアントラーズファンである小泉(取締役社長兼COO)とジーコ氏による対談を急遽実施。常勝軍団を率いるジーコ氏は、今のアントラーズに何を想い、どんなチームをつくろうとしているのでしょうか。貴重な15分間の対談の記録をお届けします。
技術だけじゃない。鹿島アントラーズの哲学や姿勢を育てる
小泉:ジーコさん、はじめまして。ようこそメルカリへ。
ジーコ:小泉さん、はじめまして。お会いできて嬉しいです。
小泉:実は僕、現役時代のジーコさんのプレイを何度か目にしたことがあるんですよ。一番最初に観戦したのが1993年。カシマスタジアムで行われたオープニング試合でした。たしか当時中学一年生でしたが、よく覚えています。
ジーコ:たしか、鹿島アントラーズ対フルミネンセですね。
小泉:そうです、そうです! 覚えてらっしゃるんですね。
ジーコ:もちろんです。勝利をおさめた試合ですから(笑)。
ジーコ氏(鹿島アントラーズ・テクニカルディレクター)
小泉:アントラーズは、日本のみならず世界に引けを取らない常勝軍団ですが、そんなクラブに所属する選手のメンタリティはどのように育てていったのでしょうか?
ジーコ:まず鹿嶋という町がとても小さいので、毎日24時間、アントラーズのためにサッカーを考えられる環境でした。スタジアムや施設設備など、申し分ない練習環境でしたので、それも選手にとって大きなモチベーションになったと思います。またクラブの設立初期から、勝つためのノウハウを教え、優秀な選手を揃えるだけではなく、その選手が培った技術や精神を次の世代に継承するような組織づくりを意識していました。あとはクラブのスポンサーさんに対する恩返し。これも選手に強く伝え続けましたね。
小泉:「恩返し」ですか?
ジーコ:当然のことですが、メルカリさんをはじめとしたスポンサーさんには「アントラーズに投資したお金は、絶対に無駄ではない」と、しっかり示さなければならない。アントラーズは鹿嶋市民だけのチームではなく、日本全国にいるサポーター全員のチーム。これは世界中のクラブをみても、稀なケースなんです。そんなクラブに投資することは絶対に正解だったと言ってもらえるように、勝利にこだわり続けたいと思っています。
小泉:それは心強いお言葉ですね。今の日本サッカー界について、ジーコさんはどのようにお考えですか?
ジーコ:私はブラジルという非常に競争が激しい環境でサッカーをしてきました。それだけに、トップに辿り着いたからといって満足せず、もっと上を目指さなければならないという教育を受け続けてきたんです。今、ブラジルという国は経済的にいろいろな問題を抱えていて、サッカー界も低迷の時期を迎えています。しかし、ブラジルには非常に優秀な選手が多く、17歳になるとヨーロッパのクラブと契約し、18歳には正式に渡欧するわけです。日本人も、世界をフィールドに活躍するサッカー選手の一人として、日本に留まらず、どんどん海外でプレイしてほしいですね。逆に海外の選手を受け入れられる環境を、日本のクラブにつくることも重要だと思っています。
小泉:なるほど。今回、16年ぶりにアントラーズのテクニカルディレクターに就任されたわけですが、その目的は今おっしゃった人材育成なのでしょうか?
ジーコ:そうですね。昔はクラブの下部組織(ユースチーム)というのは、今ほど充実していませんでした。もちろんサッカー人口も少なかったので問題はありませんでしたが、今はポテンシャルのある優秀な選手が増えてきているので、クラブはトップチームと下部組織の両方を持つべきではないかと。今、アントラーズで活躍している選手たちも下部組織に所属していた選手が多いです。単に外のチームから選手を引っ張るのではなく、自分たちで育成することが非常に重要じゃないかと思っています。私は、中田(浩二)や小笠原が高校生のとき、はじめてプレイを見て「ダイヤの原石」だと感じましたよ。
小泉:若いうちから技術だけではなく、アントラーズの哲学や姿勢も教え込むということが大事なんですね。
小泉文明(取締役社長兼COO)
ジーコ:そうです。アントラーズに下部組織ができて以降、他のクラブも同じようにユースチームを強化するようになりましたよね。アントラーズから世界に優秀な選手が輩出され続けるようなクラブにしていきたいと思っています。
アントラーズも日本一ではなく「世界一」を目指したい
小泉:僕たちメルカリも、日本からグローバルに挑戦していこうと思っているのですが、日本人のメンタリティについて、ジーコさんはどのようにお考えですか?
ジーコ:日本人は規律を重んじ、プロフェッショナル、そして勤勉です。ただし困難なことが起こると、内面にある規律が邪魔をし、自らストップをかけてしまう場面がある。それを解放することが、日本人選手にとって重要ではないでしょうか。突然ですが、小泉さんはライオンとワニが戦った場合、どちらが勝つと思いますか?
小泉:え……考えたこともなかったです。ワニでしょうか?
ジーコ:陸上であればライオンが勝ち、水中であればワニが勝ちます(笑)。
小泉:なるほど(笑)。
ジーコ:つまり、いかに相手を自分たちのフィールドに持ち込み、戦えるかということが勝利への鍵なんです。そこには外からは見えない精神的な駆け引きがある。ときには相手選手に対し、感情的になることも必要ですし、ときには4万人のサポーターを煽り、会場を盛り上げることも必要。日本人選手独特の弱さですが、それは鍛えることで強くなる。アントラーズの選手にも常に同じようなことを伝えています。
メルカン編集部:非常に残念ですが、終了のお時間が迫ってまいりました。もしよろしければ最後にメルカリへメッセージをいただいてもよろしいでしょうか?
ジーコ:まずメルカリさんが私たちを信用・信頼をしてくださったことに、心から感謝します。アントラーズの選手をはじめ、メンバー全員が一丸となり、スポンサーのみなさんにきちんと恩返しできるよう、がんばりたいと思います。一緒にタッグを組み、日本一ではなく「世界一」を目指していきましょう。この胸にあるアントラーズのエンブレムは表面だけのものではない。しっかりとみなさんの心にまで刻まれるよう、我々アントラーズも一生懸命プレイしたいと思います。必ず勝利を掴みますので、期待していてください。
小泉:これからも楽しみにしてみます。一緒にがんばりましょう!
快く写真撮影に応じるジーコ氏
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ジーコ(Zico)
1953年、ブラジル出身。元サッカー選手。元サッカー日本代表監督。現役時代は鹿島アントラーズでプレイ。Jリーグ通算23試合14得点、リーグカップ通算13試合7得点、天皇杯通算4試合2得点を記録。現役引退後は1996年から2002年までアントラーズのテクニカルディレクターを務め、2002年から2006年にかけては日本代表を指揮。2006 FIFAワールドカップ ドイツ大会出場を果たす。2018年7月、鹿島アントラーズのテクニカルディレクターに就任。
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小泉文明(Fumiaki Koizumi)
株式会社メルカリ取締役社長兼COO。2003年大和証券SMBC(現・大和証券)入社。投資銀行本部にてインターネット企業の株式上場を担当した後、07年ミクシィ入社し、取締役CFOに就任。13年12月メルカリに入社。14年同社取締役に就任。17年4月から現職。
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