メルカリグループが掲げる「事業の3本柱」に、メルカリ日本事業、メルペイ事業、そしてメルカリ米国事業があります。メルカリ米国事業を行う「メルカリUS」は、アメリカに軸足を置いてサービスを展開。そこには、メルカリ日本事業を行う「メルカリJP」から転籍したメンバーもいます。
「では、メルカリUSへ転籍した彼らの今は?」
当然ながら、国境を越えれば言葉や文化、市場は異なるもの。同じフリマアプリ「メルカリ」と言えど、転籍を決意した彼らは何に悩み、手応えを感じているのでしょうか?
そこで今回のメルカンでは、メルカリUSへ転籍したメンバー3名にフォーカス。最終回となる第3弾では、2016年5月に入社し、2017年1月からメルカリUSで働く清水直樹(以下@deme)が登場します。現在はBackendチームのEngineering Manager(EM)を務める@deme。日本とアメリカでのマネジメントの違いとは?話を聞いてみると、浮かび上がってきたのは「プレイヤーとして働きたい」と語る彼があえてEMを引き受け、その先に見ている野望――。
※掲載写真はすべて、在宅勤務になる前に撮影したものです。
この記事に登場する人
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清水直樹(Naoki Shimizu ※@deme)2016年5月に株式会社メルカリに入社。ソフトウェアエンジニアとしてUS版メルカリの開発を担当。2017年1月にアメリカ現地法人であるメルカリUSに出向。新機能開発やサーバーサイドアーキテクチャのマイクロサービス化、アメリカ市場向けリブランディングに従事。2018年5月よりBackendチームのEngineering Managerとして、現地でのエンジニア採用やチームのマネジメント、各種プロジェクトのリーダーを務める。2019年1月にメルカリUSに転籍。ニックネームは@deme。
「BackendチームのEMは@demeね!」
―@demeさんは、メルカリに入社して約半年ほどでメルカリUSにジョインしていますよね。もともと、メルカリUSでの勤務を希望していたんですか?
そうですね。僕は、グローバル向けプロダクトをつくりたくてメルカリへ入社しました。当初は、メルカリ東京オフィスにあるUS版メルカリ開発チームにいたんです。その後、メルカリUSへ出向というかたちで異動。2019年1月からは、正式に転籍となりました。
―今、@demeさんはBackendチームのEMです。これは、メルカリUSへ出向したときからですか?
いえ、最初はいちソフトウェアエンジニアでした。というのも、2017年初めごろのメルカリUSは、エンジニアが10名ほどしかおらず、マネージャーを必要としない規模感だったんです。CSこそ現地採用を進めていたものの、プロダクト開発チームの多くが日本人でした。開発も、JP版メルカリをアメリカ向けにアジャストしている感じでしたね。
US版メルカリのアプリ画面
そんなメルカリUSが大きく変わったのは、2018年。一足先にメルカリUSのCEOとしてJohn(John Lagerling)、続いてCTOとしてMok(Mok Oh)が就任しました。そこから、US版メルカリをよりローカライズさせるためのリブランディング、開発体制の刷新、そして現地採用がスタートしたんです。同時に、1つだった開発チームを、ClientやML、Backendなどに分解。そのとき、Mokから「BackendチームのEMは@demeね!」と指名され、EMになりました。
―けっこうカジュアルなアサインだったんですね。
口頭でさらっと言われたので、今思えば超カジュアルでしたね(笑)。
メルカリUSで求められるのは「マネジメント×PL」の両立
―メルカリでは「マネージャーは役職ではなく、あくまでも役割」といった定義があります。メルカリJPでのEMはピープルマネジメントが中心ですが、メルカリUSではどうですか?
メルカリUSでも、メンバーのボトルネックを解決して成果をあげるピープルマネジメントが中心であるところは同じです。違いがあるとすれば、メルカリUSのEMは、プロジェクトへのコミットが求められるところです。
―プロジェクトリーダー(PL)的な役割ですか?
そうです。メルカリUSは、メルカリJPに比べて組織的にもまだまだ小さいです。そのため、僕はBackendチームのピープルマネジメント+機能横断型のPLもやっています。
難しかったのは、担当するプロジェクトの成功とBackendチームのマネジメントを両立させること。両者は必ずしも利害が一致するわけじゃない。また、僕自身がプレイヤータイプだったこともあり…自分でやったほうが楽しくてつい抱え込んでしまうところがありました。それがプロジェクトやチームのブロッカーとなり、結果的に失敗したケースも起こっていたんです。そこで立ち返ったのが、マネジメントの基本とも言われる「思い切って任せる」でした。
開発の様子。真ん中に映っているのが@deme
―「自分でやったほうが楽しい」というのは、わかる気がします。
自分でやった方が早かったりしますしね。でも、それではチームを大きくできません。多少の不安があっても、メンバーを信じて任せる。例えば、Backendはほぼ全プロジェクトに関わるので、僕がキャッチアップできないものに関してはスキルがあるメンバーをアサインするなど。ただし、リカバリー部分はEMである僕が責任を持つようにしています。
また、アメリカでは採用条件に詳細な業務の責任範囲が書かれるほど、仕事での役割がはっきりしています。つまり、メンバーはみんな、自分の領域には高い責任感がある。仕事を任せるときも「これだけのことを任せるよ」「こういった期待をしているよ」と明確に伝えるように意識しました。とは言っても自分を含め、割り当てられた仕事をすべて完璧にこなせるわけではなく、責任範囲を越えた助け合いも重要です。注意深くメンバーの状況を見極め、必要に応じて相手の領域に踏み込むときは丁寧にコミュニケーションをとるようにしています。
その結果、2019年9〜12月期では、開発責任者を務めたプロジェクトが全社KRを達成。うれしいことに、Backendチームのメンバーが参加した他のプロジェクトでも、それぞれが活躍して目標を達成することができました。自分が直接担当するプロジェクトはもちろん、Backendチームとしても大きなインパクトを出せた。マネジメントとPLの両立がうまく進み始めた感触がありました。
あえてBackendチームのEMになった本当の理由
思い切って話してしまうと、実は今もプレイヤーとして仕事をしたい気持ちがあります。当然ながら、Backendチームに新たなEMが見つかるまでの間はしっかり役割を果たすつもりですが、そのあとはまたソフトウェアエンジニアとしてごりごり開発に向き合いたいと思っているんです。
―Backendチームに新たなEMが見つかるまで?
Backendに関しては、深いドメイン知識と技術面でのリーダーシップが求められます。また、メルカリはフリマアプリということで、配送や決済など複雑な機能を開発することもあります。さらに、メルカリJPのSREチームやセキュリティチームとの密な連携も必要です。複雑性の高い技術領域を担うEMなので、新しく入ったメンバーがすぐに引き受けるのは簡単ではありません。
一方で、僕は日本オフィスで働いていたことがあり、メルカリJPの人たちともやりとりがありました。また、メルカリの開発に携わって4年の経験があるので、ドメイン知識もそれなりにある。そのため、BackendチームのEMを引き受けました。EMになり、アメリカ現地でエンジニア採用を始めたのが2018年夏ごろ。今では、当時採用したメンバーが、PLや新しいメンバーのメンターを担当するようになっています。
メルカリUSのBackendチームメンバーとの集合写真
―現地で採用したメンバーで大きなサイクルができ始めている、ということですか?
そうです。これがもう少し進めば、メンバーが僕のEMという立場を置き換えてくれるはず。これが、直近での野望です。アメリカ現地でいきなりBackendチームのEMを採用するのは難しい。でも、チームメンバーを引き上げ、EMを担えるレベルにすることは可能。そして、僕はまた違うポジションでプレイヤーとして仕事ができればと思っています。
メルカリ日本事業と米国事業は、同じようで同じじゃない
―@demeさんは、グローバル向けプロダクトをつくりたくてメルカリへ入社したと話していました。正直、他の企業でもグローバル向けプロダクト開発は可能だと思うのですが、なぜメルカリを選んだのでしょうか?
やはり、現地で開発できるところですね。知らない土地でプロダクト開発をするなんて、なかなかできない体験です。それに、メルカリUSはまだまだスタートアップのフェーズ。プロダクトや組織の成長過程にいるのは面白いですよね。
グローバル向けプロダクトで成功することがどれだけ難しいか、理解しています。そんななか、メルカリUSは今、プロダクトも組織も順調に成長しています。Backendチームでもいいサイクルが生まれ始めているからこそ、ここで一気に駒を進めたい。
そして、メルカリUSを取り巻く環境も変わりつつあります。メルカリUSは、メルカリJPから生まれました。しかし、現在はリーダー陣のほぼ全員がアメリカ現地で採用されていて、メルカリJPとは違った組織・プロダクトになっています。今は、「日本発のメルカリ」の他拠点というより、独立したスタートアップのイメージです。
とは言え、メルカリがグローバルで成功するためには、メルカリJP・USの技術やカルチャーといった強みをお互いに還元し、組織やプロダクトを成長させていくことが必要。数少ないメルカリJP出身メンバーとして、深いシナジーを生み出す原動力になっていきたいと思っています。