ビジネス・コーポレート系業務に携わる方々が知見やトレンドなどを共有するコミュニティの創造を目指し、メルカリが2016年11月より企画・実施しているビジネスカンファレンス「THE BUSINESS DAY」。第4回目が7月2日にオンラインで開催されました。
第3回目の開催から、約1カ月弱。今回は、昨今の新型コロナウイルス感染拡大により、多くの企業がリモートワークにシフトするなか、日本経済や企業のコーポレート戦略の今後の変化を見据え、「withコロナ時代の企業経営に求められる新しいビジネス様式」をテーマに実施。「スタートアップ」「働き方」「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」「コミュニケーション・ブランディング」「経営」の5つの領域を主題に、さまざまな分野の有識者をゲストに招き、対談・パネルディスカッション形式で開催しました。
この記事では、「withコロナ時代の経営に求められる『新しいビジネス様式』」と題したセッションレポートをお届け。コロナ時代において、企業や経営者、個人にどういった変化が求められるのでしょうか?
この記事に登場する人
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冨山和彦(Kazuhiko Toyama)経営共創基盤 代表取締役CEO。東京⼤学法学部卒、スタンフォード⼤学経営学修⼠(MBA)、司法試験合格。ボストンコンサルティンググループ、コーポレイトディレクション代表取締役を経て、2003年に㈱産業再⽣機構設⽴時に参画しCOO に就任。解散後、IGPI を設⽴し現在に⾄る。パナソニック㈱社外取締役。経済同友会政策審議会委員⻑。財務省財政制度等審議会委員、財政投融資に関する基本問題検討会委員、内閣府税制調査会特別委員、経済産業省産業構造審議会新産業構造部会委員など政府関連委員多数。近著に『コーポレート・トランスフォーメーション ⽇本の会社をつくり変える』『コロナショック・サバイバル ⽇本経済復興計画』がある。 -
瀧口友里奈(Yurina Takiguchi)セント・フォース/フリーアナウンサー。東京大学出身。幼少期に米国に滞在した帰国子女(TOEIC955点)。大学在学中にセント・フォースに所属して以来、フリーアナウンサーとして活動。テレビやラジオを中心に多くの番組に出演してMC・リポーターなどを務め、ForbesJAPAN エディターとして、イノベーション・スタートアップ・テクノロジー領域の取材・記事執筆も行う。現在は、日経CNBCにて経済キャスターとして毎日生放送のマーケット番組のMCを務める。シリコンバレーにも足を運び、これまでに多くの経営者やトップランナーを取材。 -
山田進太郎(Shindaro Yamada)メルカリ代表取締役CEO(社長)。1977年9月21日愛知県瀬戸市生まれ 早稲田大学卒業後、ウノウ設立。「映画生活」「フォト蔵」「まちつく!」などのインターネット・サービスを立上げる。2010年、ウノウをZyngaに売却。2012年退社後、世界一周を経て、2013年2月、メルカリを創業。
「知的生産性」の向上に本気で取り組まない企業は淘汰される
瀧口:最終セッションは経営共創基盤の冨山さん、メルカリの山田さんと一緒に「withコロナ時代の経営に求められる『新しいビジネス様式』」をテーマに、コロナショックを受けて、今後社会はどのように変わっていくのか、そして企業経営に求められる新しいビジネス様式を考えていきたいと思います。
まず、コロナ禍で日々の仕事のルーティンにも大きな変化があったと思うのですが、冨山さんはどのような変化を感じていますか?
冨山:都内から少し離れた場所に住んでいるので、リモートワークが基本となったことで通勤時間を減らせたのは大きいですね。おそらく、人生の10%ぐらいを移動に使っている気がします。その時間を減らせたので、個人的には生産性が上がってます。時々、対面のコミュニケーションをとりたくなるときもあるのですが、バランスはとれているので問題ないかなと。
瀧口:山田さんはいかがですか、コロナショックにおける仕事の変化は?
山田:会社は“安全第一”ということで、いちはやく「完全在宅勤務」に移行しました。7月に入ってからオフィスも開けていますが、おそらくほとんど出社しておらず。私も1ヶ月以上、オフィスに行っていない状態です。完全在宅勤務に移行した後の社内のサーベイ結果を見ると、短期的には生産性もほとんど影響がなく、むしろ上がっています。とは言え、中長期的な影響については注視すべきだと思っています。
画面右上から瀧口友里奈さん、冨山和彦さん、山田進太郎
山田:個人的には、新型コロナウイルス発生前は毎月のように海外出張に行っていて、ビデオ会議の割合が多かったので、日常的な仕事はまったく困っていません。ただ、社内外の繋がりで影響を受ける部分は大きいので、意識的にコミュニケーション量も増やしていますし、対面のコミュニケーションでも、少人数など安全な範囲で増やしています。
瀧口:メルカリさんでは、生産性最大化を目指した新しいワークスタイル「メルカリ・ニューノーマル・ワークスタイル」のトライアルを開始を発表されていました。これはリモートや出社の有無、出社時間・頻度などを個人、チームの裁量に合わせて自由に選択できるようにする、というものですか?
山田:はい、チームや部署単位で自由にいろんな働き方をしてみることで、新しいワークスタイルが確立できるのではないかと思い、開始しました。さらに、それを横展開することで“メルカリらしい働き方”をつくっていけるとともに、競争力の源泉にもなってくるはずです。今から、非常に期待しているプロジェクトですね。
瀧口:新しい働き方、新しいビジネス様式をつくっていくことが、今後の企業の競争力の源泉になってくる。これについて冨山さん、いかがですか?
冨山:まさにメルカリが典型的だと思いますが、企業の競争力の源泉は「知的生産性」から生まれているんです。今は巨大な設備を用意し、短い時間で大量に製品をつくる時代ではありません。知的生産性が求められる時代は、個々人の高い生産性がチームとしてワークすることが前提なので、個の生産性が高くならないとチームの生産性も高くならない。
冨山:もともと30年ぐらい前から、実はすべての産業で知的生産が求められていたのですが、新型コロナウイルスで改めて知的生産性が重要だった、と気づかされているところじゃないですか。この状況で新しいワークスタイルを確立することにチャレンジし、一人ひとりの知的生産性を上げることに本気で取り組まない会社は今後、間違いなく淘汰されますね。
昔の姿のまま経済活動を復活させることは諦めるべき
瀧口:また、コロナショックで浮き彫りになった課題が他にもたくさんあります。日々、状況は刻々と変わっていますが、現時点で社会や経済への影響をどう見られていますか?冨山さんは著書『コロナショック・サバイバル』で、経済的危機はローカル、グローバル、ファイナンシャルの順で訪れると書かれていましたが、いかがでしょうか?
冨山:飲食業界や観光業界など、ローカルの部分が壊滅的な状況に陥っているのは、みなさんご存知の通りだと思います。そうした状況に対し、国も助成金や給付金などお金を一生懸命に動かしましたけど、日本の財政状況を考えたら持続性がなく、2〜3年は続けられない。そうした状況を踏まえると、ローカルは今後もかなり厳しい状況が続きます。
グローバルに関しては、自動車業界や家電業界の業績もかなりシビアですし、グローバルのエアライン各社も厳しいです。残念ながら、自分が想定しているより、悪い方向に進んでいる。今後はwithコロナの考えのもと、いかに新しいビジネス様式で経済活動ができるか、ということに腹を括って取り組まないといけない。昔の姿のまま経済活動を復活させることは、諦めた方がいいですね。
瀧口:そして、コロナショックのインパクトは国ごとに異なります。表層的に見れば、アメリカはこの状況下でナスダック総合指数が過去最高値を更新したり、GAFA+Microsoftの時価総額が東証一部全企業の時価総額を超えたりと、変化の兆しが見えているようにも思えます。
冨山:これには理由が2つあります。1つは、世界中で猛烈にお金を刷っているのに景気が悪いため、刷ったお金が株式市場で回っているためです。フローの経済はデフレ化が進み、ストックの経済はインフレが進む。日本もずっとそうだったのですが、それが今、世界中で起きてしまっているんです。
もう1つは言わずもがなですが、デジタルトランスフォーメーション(DX)はどう考えても加速します。IT企業などのデジタル銘柄への投資が進むため、先ほど瀧口さんが仰ったような状況になっています。
嵐が過ぎるのを待つか、変化を進めていくか
瀧口:メルカリもコロナ禍で“巣篭もり消費”など新たな消費のトレンドが生まれています。経営的には追い風な面もあると思うのですが、いかがでしょうか?
山田:コロナ禍で起きている変化は、大きく分けて2つあると思っています。まず1つは、感染リスクを避けるために従来のアクティビティの形が変化を余儀なくされていることですね。例えば、カラオケ、ライブなどがそうでしょう。
もう1つは、来るべき未来が早く来ていることですね。EC化や遠隔医療、ハンコの廃止などDXが急速に進んでいると感じています。メルカリで言えば、後者の影響を受けていると思います。この変化は将来起こるであろう変化が早く起きている感じなのですが、もとに戻ることはないと思っています。スマホを持った人はガラケーに戻れないみたいな感じですね。また、新型コロナウイルスによって「資源を大切に使おう」といったような循環型社会への機運も高まっているので、それもメルカリのビジネスには追い風になっています。
今回、冨山さんにお伺いしたことがありまして、今後のこういった変化のスピードはスローダウンするのか、それとも危機感をもとに加速していくのか、どう見られていますか?
冨山:「二極化」が進んでいくと思っています。8割の企業はすべての投資を止めて、とにかくコストカットし、嵐が過ぎるのを待つというスタンス。ただし、このスタンスの企業は10年後のブラックスワンで間違いなく淘汰されるでしょうね。
一方、2割の組織能力の高い企業は危機意識をもとに、改革を進めると思います。ですから、2対8で差が一気に開いてしまう、というのが正直な感覚ですね。あとは世界中の企業が短期的な痛みを止める“鎮痛剤”を打ってしまっているので、問題が顕在化するのが遅くなっている。本当は癌が進行しているのに、気が付かないイメージですね。
先ほど山田さんが仰ったように、鎮痛剤によって早く済みそう、大したことなく終わりそう、という状況に浸ってしまうのか。もしくは、本当にヤバい状況だと思うのか。これも経営者の技量の問題ですが、危機意識の問題で一気に差がつく気がします。
「組織の多様性」はメルカリ創業前から意識していた
瀧口:冨山さんはご著書『コロナショック・サバイバル』で、「日本では100年に一度というレベルの大きな危機が、10年に一度ほどの頻度で起きているにも関わらず、それに対して用意ができていない。レジリエンス(弾力性)がないことはもはや基礎疾患だ」と書かれています。
冨山:もともと進んでいた「デジタル革命」や「グローバル革命」もそうですし、ブラックスワン的に10年に1度起きる危機に対して、会社は変化していかなければいけない。戦略を切り替えたり、事業をピボットしたりする必要があるんです。
ただ、日本の大半の企業は高度経済成長期にできあがったモデルが今も続いており、新卒で入社して定年まで勤め上げることが当たり前となっている。同質的で固定的な人ばかりが集まった結果、組織が硬直化し、環境変化に対応できなくなってしまったんです。
私はそうした会社の形、あるいは働き方が“基礎疾患”であり、それを変えていくことが“トランスフォーメーション”だと思っています。この点に関して、自分は山田さんにメルカリで意識的にそういった組織の形をつくっているのか、それとも成り行きでそういった組織の形になっているのかを伺いたかったです。
山田:意識的にやりたい、と考えていました。というのも、私は前の会社をシリコンバレーの会社に売却しました。その会社は3年で3,000人規模の組織になっていて、当時シリコンバレーで最もホットな会社と言われていたんです。実際、多様な人が集まっていましたし、今でこそ「OKR」という目標管理法が有名ですが、自分はその会社で初めて触れました。データの見方やユーザビリティテストも含めて、先進的だったんです。
山田:世界中の優秀なタレントを集め、すごく多様的な組織が強さの源泉であり、それが今のGAFAをつくっている。だからこそ、メルカリを立ち上げるときは、最初からグローバルで勝負できるビジネスをやりたいと思っていましたし、組織も多様的にしたいと思っていました。実際、最初の数年でアメリカに進出していますし、組織も日本人がマジョリティだったのですが、今はエンジニアの新規採用は7〜8割は外国人。英語教育にも力を入れていて、自分で学習するスタイルを取り入れています。
それによって、組織のグローバル化やダイバーシティも進み、外部に対するメッセージングも多様になってきています。一見、捉えどころがないように見えるかもしれません。しかし、これはシリコンバレーのテックカンパニーに近いスタイルだと思っていまして、そこは意図的につくってきています。
冨山:メルカリは、会社の理念が強いじゃないですか。理念が明確に会社全体に浸透している部分と、組織運営における“多様性”という掴みどころがない部分は共存している感じですか?
山田:メルカリのミッションは「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」なのですが、“世界的”や“新たな価値を生み出す”に一部の人が魅力を感じてジョインしてくれています。一方、サービスを利用するお客さまはそこまで意識せず、家の中にある不要なモノが簡単に売買できるということで使ってくれている。サービスを使うなかで、ミッションのエッセンスを感じてもらい、「メルカリっていいよね」と感じてもらえることがスティッキネス(粘着性)と言いますか、サービスを使ってもらえている要因なのかな、と思っています。ミッションだけでなく、バリューも含めてアライン(連携)させているので、根本の部分でみんなが繋がれています。
冨山:古い会社とモデルが真逆なんですよね。古い会社は、いわゆるヒエラルキーはカチッと決まっていて、一応理念はつくるけれど、基本的には誰も信じていない。そういうケースがほとんどです。それを逆にしていかないと、特に日本の古い会社は厳しいので、そこは使命感を持っていろいろやっているつもりではありますが、山田さんの話を聞いてさらに自信を持ちました。ありがとうございます。
日本の企業には「技術的な強み」がある
瀧口:冨山さんが仰っていた“古い会社”は、組織的な問題もあるかもしれませんが、何と言ってもDXが重要な経営課題になっています。ここは日本の会社が変わっていかなければいけない部分ですよね?
冨山:残念ながら、コロナショック前のDXブームは正直言って、ほとんどが“DXごっこ”だった印象です。会社の形や働き方、評価体系に本格的なメスを入れられてないんです。そのため、日本の会社で偉くなる人は新卒で入社して、一度も転職せずに40年間勤め上げた人。きっと、一部上場企業の8〜9割の役員がそうだと思います。
そこにメスを入れていかないと、本当の意味でDXできない。デジタル空間で事業をやっていくのは、野球からサッカーに競技が変わるぐらい大きく異なります。結局、家電メーカーもデジタル空間に席巻されてきていて、昔のテレビはハードウェアが主役だったのですが、もうNetflixやYouTubeを見るためのディスプレイに過ぎなくなってしまった。このハードウェアに喜んでお金を払う人はいないにも関わらず、家電メーカーは事業の形を変えず、いまだにテレビを大量生産し、販売している。ハードウェアではなく、ソリューションの提供に事業を変えるのであれば、根本的な会社の形も変えないとついていけません。
瀧口:山田さんは、日本の大企業のDXに関してどうご覧になっていますか?
山田:大企業の研究所の人たちと話す機会が多いのですが、やはり大企業にはすごい技術がたくさんあるんです。例えば、ソニーさんはリカーリングに舵を切ったことで安定的な収益を出すことに成功しました。技術があるからこそ、それをもとにリカーリングしていくことはできる。私たちのように、アプリを開発できる技術は特別なものではないので、AIやブロックチェーンにも踏み込もうとしています。
ただ、日本にはそうした技術を持っている会社がたくさんあります。その技術をDXの文脈に近づけていけば、すごく競争力のあるプロダクトをつくれるんじゃないかと、個人的にはすごく羨ましい。今は新型コロナウイルスで世の中がすごく変化していて、新しいことに対しても今まではどうしても「今のままでいいじゃん」で終わっていたのが、「変わらなければいけない」と全員が考えるようになっています。企業も消費者もそうなので、これは日本企業が世界に出ていく千載一遇のチャンスなのではないか、と思いますね。
冨山:今後、付加価値が生まれる源泉が、ハードウェアの技術を含めてファンダメンタルのテクノロジーが問われる状況になっている。そのとき、日本の会社には長年蓄積した技術があり、それが大きな強みになっています。日本の会社には追い風が吹いているのですが、その追い風を受けようと思ったときに、会社の構造や経営スタイルが従来のままだと、頭では理解してても、どうしても対応できない。競技がサッカーなのに、一生懸命にバットを振っているようなイメージです。そうではなく、もともと持っている強みを磨き込みながら、新しいことの探索にどうアプライしていくか。そこが強烈に問われていると思います。
失敗しても評価される体制をつくっていく
山田:今の時代は深く探索していくこと、そして深く深化していくことの両方が求められていると思うのですが、だからこそ個人的には“探索”の重要性が高まっている感覚です。冨山さんは、そのあたりの感覚はありますか?
冨山:正確に言うと、探索と深化を相互にくり返すスピードが上がっている感じです。今のIT業界も探索モード、その後に深化モードでどんどんリファイン(洗練)する力が求めらているじゃないですか。オペレーショナルエクセレンスと言いますか、PDCAを回す力は強烈に問われていますし、物流が絡むと余計にそうだと思います。
時代の変化とともに新しいテーマに自分たちが破壊されるので、結局のところ探索で成功していたのが、いつの間にか深化モードに切り替わっている。そのサイクルが従来であれば、30年ぐらいだったのが10年、5年に短くなり、場合によっては1年になっているので、いかに有機的かつ高速に循環させていくかが勝負です。
冨山:組織が大きくなり、時間が経てば経つほど、深化のバイアスがかかるので経営者のマインドはあえて探索に振り切ってしまうぐらいでいいのかもしれません。特に古い会社の場合は99対1で深化モードに入っているので、逆に1対99にするぐらいのイメージです。
山田:そういう意味では、メルカリグループでは「Go Bold(大胆にやろう)」を会社のバリューの1つに設定しています。つまり、大胆に行動して失敗しても評価されるようにしている。私たちも探索していかないといけないので、そこは重視して考えているところです。
冨山:いくら口で「失敗してもいいよ」と言っても、実際に失敗して梯子を外されてしまうと、「やっぱり口だけだよ」ということになる。社員はすごく目を皿のようにして見ていているのですが、結局のところ、そのテストに耐えられないケースが多いんです。経営者、評価する側の自信や信念の問題もありますし、実際に結果が出なかった人を降格させた方が、組織的なマイナスの影響も起きにくい。だから、そっちに逃げてしまうんですよね。
非難される可能性もあるけれど、そこは覚悟を決めてトップもしくは評価する側が失敗することを称賛していかないと、誰も信じなくなってしまう。「会社の本音は違うじゃん」と見透かされてしまうと、みんな「負けないゲーム」しかしなくなる。負けないゲームは勝負しないことなので、そんな組織では絶対にダメですね。
「変容力」を高めることが、この時代を生き抜くポイント
瀧口:過去、インターネット・バブル崩壊の危機のなかでもGoogleやAmazonが生き残って成長を続けていますし、このコロナショックはスタートアップにとって、大きなチャンスになり得るかもしれません。そこで、いかにして大きなチャンスに変えていけばいいのか。まず、山田さんはどう思われていますか?
山田:変化が求められている、変化を余儀なくされている業種は多いので、スタートアップにとってはすごいチャンスだと思います。新型コロナウイルス発生前に比べると、今すぐ起業するほうが大きな果実を得られる可能性が高いのかな、と感じますね。
冨山:インターネット・バブルが崩壊したとき、おもに2つのことが起きたんです。1つは“なんちゃって”の企業が淘汰された。その結果、たくさんあった検索エンジンの会社もGoogleしか残らなかったので、強い企業はより強くなります。ですから、強い企業にとっては大きなチャンスが来ているということでしょう。
それから、社会に大きな変化が起きるときはいろんな窓が開くので、チャンスが増えますよね。実際、ベンチャー周りのリスクマネーも想像していたよりは収縮してないので、ある意味、洗練されたんだと思います。資金調達も中身が良い企業はきちんとできている認識なので、むしろチャレンジすべきですね。
ニューノーマル、withコロナが長引くけば長引くほどチャンスは大きくなります。自信のある人にとっては、今はすごくいい時代。正直、今の若い人は羨ましいです。
瀧口:最後に個人の生活、働き方が今後どう変化していくかを伺いたいです。個人としてはどんな人材になっていくことが必要でしょうか。山田さん、いかがですか?
山田:変化できる人ですね。正直言って、今後も思いもよらないことが起きると思うんです。変化にいち早く察知し、そこに適応したプロダクトを出す。そういったことをやっていきたいので、失敗してもいいから新しいことに挑戦していく気概を持った人と仕事したいです。それは取引先も含めて、そうですね。
瀧口:冨山さんはいかがでしょうか?
冨山:まったく同じですね。変容力は国、会社、個人にとって大きなキーワードになります。本当に、何が起きるかわからないですよね。正直、またブラックスワンは来る。自分としては、サイバー戦争が始まり、世界中のシステムが不可逆的にダウンすることが次のブラックスワンなのかな、と思っていたんです。結果的には、新型コロナウイルスの世界的流行が起きてしまったわけです。そうした要素はいっぱいある。
となると、国も会社も個人も変容し続けなければいけないのですが、規模が大きいものほど難しくなる。国の変容は大変なので、個人と自分が関わる会社をどう変容していくかが大事になってきます。実はガバナンスの本質もそこにあるんです。結局、経営者も永久に有能ではない。もちろん、リーダーは強くて有能でなければいけないのですが、永久に有能かどうかわからない。だから、強いリーダーをつくって支える力と、何かあれば交代してもらう仕組みがあることがガバナンスの本質です。
それを踏まえて、社会のレベル、会社のレベル、個人のレベルでも変容力を高めることが、この時代でも愉快に生きていくポイント。トランスフォーメーションする力が本当に大事で、それが真の競争力になります。
瀧口:お時間になりましたので、こちらで最後のセッションを終了させていただきます。冨山さん、山田さん、お忙しいなかありがとうございました。