ビジネス・コーポレート系業務に携わる方々が知見やトレンドなどを共有するコミュニティの創造を目指し、メルカリが2016年11月より企画・実施しているビジネスカンファレンス「THE BUSINESS DAY」。第4回目が7月2日にオンラインで開催されました。
第3回目の開催から、約1カ月弱。今回は、昨今の新型コロナウイルス感染拡大により、多くの企業がリモートワークにシフトするなか、日本経済や企業のコーポレート戦略の今後の変化を見据え、「withコロナ時代の企業経営に求められる新しいビジネス様式」をテーマに実施。「スタートアップ」「働き方」「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」「コミュニケーション・ブランディング」「経営」の5つの領域を主題に、さまざまな分野の有識者をゲストに招き、対談・パネルディスカッション形式で開催しました。
この記事では、「withコロナ時代にデジタル・トランスフォーメーションを推進するための『新しいビジネス様式』」のレポート記事を届け。政府や自治体、企業がDX推進のために必要だと感じる法律やルールとは何かを語り合いました。
この記事に登場する人
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平将明(Masaaki Taira)衆議院議員(内閣府副大臣)。早稲田大学法学部卒業後、家業を継ぐ。2005年、第44回衆議院議員総選挙にて初出馬・初当選。経済産業大臣政務官兼内閣府大臣政務官(第2次安倍内閣)、自民党副幹事長、内閣府副大臣(第2次安倍改造内閣・第3次安倍内閣)を歴任。現在は、防災、IT戦略、宇宙、クールジャパン、行政改革などの政策立案・とりまとめを担当。 -
熊谷俊人(Toshihito Kumagai)2001年早稲田大学政治経済学部卒業、NTTコミュニケーションズ株式会社入社。2007年5月から2年間、千葉市議会議員を務め、2009年6月、千葉市長選挙に立候補し当選。当時全国最年少市長(31歳)、政令指定都市では歴代最年少市長となる。現在3期目。市政の現状、施策の選択理由などを市民との対話を通してオープンに。指定都市市長会副会長。妻と子ども2人。趣味は登山、詩吟、歴史。 -
野原佐和子(Sawako Nohara)株式会社イプシ・マーケティング研究所 代表取締役社長。2000年より、㈱イプシ・マーケティング研究所代表として、オンライン・デジタル関連ビジネスの調査・戦略コンサルテーションを提供。また、2004年より産業競争力会議、IT総合戦略本部、サイバーセキュリティ戦略本部、経済産業省産業構造審議会総会等、極めて多数の政府の審議会等委員を歴任。さらに、2006年よりNEC、SOMPOホールディングス、ゆうちょ銀行、東京ガス、第一三共等、様々な企業の社外取締役・監査役として、コーポレート・ガバナンス向上に務める。2009年より、慶應義塾大学特任教授として、次世代の教育にも取り組む。 -
吉川徳明(Noriaki Yoshikawa)メルカリ 会長室政策企画 Director。2006年、経済産業省入省。商務情報政策局でIT政策、日本銀行(出向)で株式市場の調査・分析、内閣官房でTPP交渉などに従事。2014年からヤフー株式会社に入社し、政策企画部門で、国会議員、省庁(警察庁、金融庁、総務省、経済産業省、環境省等)、国内外のNGO等との折衝に当たってきた。また、一般社団法人セーファーインターネット協会等の活動を通じて、業界横断の自主規制の策定、幅広いステークホルダー間の利害調整、官民を横断したルールメイキングに従事。2018年4月、メルカリに入社し、政策企画チームの立ち上げを担う。チームの立ち上げと並行して、フリマ等のEC分野やキャッシュレス決済や少額与信等のフィンテック分野を中心に政府の審議会等で政策提言に従事。一般社団法人Fintech協会の理事も務める。
まずやってみて、理解してくれる人を増やしていく
吉川:今回のコロナ禍で、企業内におけるコーポレート業務の課題が明確になったのではないかと思っています。そこで、いかにコーポレート業務のDXを推進し、効率化していくのか。このセッションでは国、自治体、企業とそれぞれ立場も経験も異なる3名をお迎えし、議論していきます。
さっそく、平さんにお伺いしたいのですが。新型コロナウイルスを機に、政府はスピーディーにいろんな取り組みを進めています。法的、制度的な課題への対応についてかなり道筋は付けられているようにも見え、何か課題があるとすれば民間企業の実務側ではないかという気もしますが、いかがでしょうか?
平:今回は時間の制約があったので、あくまで緊急的な措置です。例えば、病床の稼働率を把握する仕組みも防災の文脈で言えば、もともとあった仕組みはあります。ただ、それを根本的に改修しようとすると膨大なお金と時間がかかるので、民間のソフトウェアを使って仕組みを開発した、という話です。
画面上中央から、平将明衆議院議員、野原佐和子さん、熊谷俊人千葉市長、吉川徳明
平:それを踏まえて、今回明らかになった課題は「今持っているシステムをどうやって捨てるか」。民主主義で物事を進めていくなか、大事なのは、いかに説得力を持たせるか。そのために、最近はきちんとビジョンを共有することが必要です。私は「デジタル遷都」と言っているのですが、ようするに「afterコロナの社会はデジタル空間に都を移しましょう」ということ。
デジタル空間に政府機能を移しておけば、首都直下地震が発生しても迅速な対応ができますし、地方創生もやりやすくなる。つまり、新型コロナウイルス対策は、密な空間から離れたところへ、みんなが移るということ。そのためにITツールを使い倒して進めていければと思っていますが、まずはビジョンを共有する大切さを痛感しています。
吉川:デジタルに政府機能を移す点では、熊谷さんが市長を務めている千葉市は2014年から押印見直しを実施し、「ハンコレス化」を推進されています。先ほど、平さんがステークホルダーを説得するのに、どういったビジョンを語るのか、どういう理由付けをするのかが重要と言われていましたが、平時においては難しいはずです。どのように説明して、ハンコレス化を進められたのでしょうか?
熊谷:千葉市もITツールを活用して先進的な政策をやっていますが、最初は市議会議員の人たちから懐疑的なことを言われるケースもありました。具体的な例を挙げると、「デジタル・ディバイト(情報格差)を広げることになるのでは?」という声です。デジタル・ディバイトは、何かをやろうと思ってもできない人が増えていく場合を指すのであって、何かをしたい人がより便利になり、何もやらない人にとっても特段不便にならない場合は、デジタル・ディバイトとは関係ない。そんな話をしながら、モデル事業をやっていきました。実際にモデル事業をやっていくなかで、多くの人がデメリットが多くないことに気づいたんです。今では議員のみなさんも、千葉市の先進的な政策に関して応援したり、提言したりしてくれるように変わってきました。
熊谷:やりたいことは、まずやってみるのが大事だと思います。新しく出てくるITツールも最初から全員で使用することはありませんが、利便性に着目してフォロワーが付いてきて、社会が変わっていく。ですから、まずは先行して実際にやってみることが第一。
地方自治体でも、そうした先進的な事例に率先して取り組むのが千葉市の役割。また、それを千葉市の魅力にしていきたいと思っています。
中央官庁のデジタル化を遅らせる「カルチャー」
吉川:熊谷さんの話では、まずはやってみせて、ステークホルダーの理解を少しずつ変えていくことが大事だったかと思います。これは民間企業も同じですが、メルカリのようなIT企業が「新しく○○を始めます」と宣言しても、世間的には「組織の人数も少ないし、IT企業だからやれるんだよ」と思われてしまう。
伝統的な企業で既存のルールや仕組みがある企業はそんな簡単にいかないというのが、大半の人の受け止め方だと感じています。大企業で新しいことに挑戦する際、どんなことを意識すればいいのか、野原さんの考えをお教えいただけないでしょうか?
野原:今回「オフィス出勤者を減らす」という数値目標に関して、政府が“最低でも7割削減”と決めたのは、非常に大きかったです。その目標に向けて、各企業は多大な努力をしたと思います。結果的に多くの会社が在宅ワークに踏み切れたわけで、これは小さなことの積み上げですが、この1〜2ヶ月の間だけでもずいぶん変化し、DX(デジタル・トランスフォーメーション)が進みました。
野原:一方で、少し遅れていると感じたのは中央官庁です。私は多数の中央官庁の審議会・研究会などの委員を務めているのですが、未だに紙の資料で説明する文化が根強く残っていて。そうしたなか、私は「リモートで開催してほしい」とお願いをしたら、ある省庁は事前にメールで資料を送ったうえで「電話で会議をお願いします」と言い、ある省庁はしばらくすると「Skypeを使わせてください」と言ってきたんです。それを聞いて「Skypeで打ち合わせができるようになった。これはすごい、中央官庁も変わってきたな」と思ってオンライン会議のURLを開いてみたら、担当者が会議室を取れずに課長の自席でSkypeしていて。その結果、周りの雑音がすごく聞こえてきて会議どころではなくなってしまいました。
こういった事態は民間企業の会議では1つもない。みんなリモート会議をするための場所を確保したり、ヘッドセットなどで問題ないようにしたりするんですけど、まだその状況まで進んでおらず、中央官庁の遅れを感じました。逆に言うと、同じ状況に遭遇したことを考えると、大手レガシー企業はいろいろな努力をして進んだな、と思っています。
平:中央省庁が遅れている、というご指摘はまったくその通り。私が見えている限りにおいて、課題は「カルチャー」にあると思っています。今回のように政府が直接、国民一人ひとりに給付金を配る場合、自治体から給付してもらいます。しかし、国民からすれば政府が直接給付するように見える。
給付金のアナウンスをする際、ちゃんと準備をして、マイナポータルから申請するにしてもシステムが止まらないようにしたり、混雑するので分散して申請してくださいって声をかけたりすることがじゅうぶんでなかったかもしれない。サービスを享受する側からすれば、政府なのか、千葉県か、千葉市なのかは関係なく一緒なので、そういったカルチャーを根本から変えていかないといけないのです。
日本が真のIT社会になっていくためには「標準化」が必要
熊谷:平さんがおっしゃった通り、国民からすれば行政体の区分は関係ないし、わからないと思うんです。特別定額給付金の話も、千葉市はこれまでにもプレミアム商品券や、年金世帯向けの臨時福祉給付金などを実施してきました。こういったものは全国一律にできる仕掛けをつくるべきだと言ってきたのですが、結局、今回の特別給付金ではそのスキームを整備できず時間かかってしまっている状況です。
こうした全国規模のスキームについては、平時からスムーズに進めるための仕掛けをつくっていく必要があると思います。また千葉市として、いろんな取り組みをしていたなかで感じるのは、地方自治体も国もそうですが、制度やシステムがバラバラなんですよね。例えば、介護保険制度が少し変わっただけで、全国の市町村がシステムを改修する。
自分が千葉市長に就任した際、IT業界出身としては非常にバカらしいので「システムを一緒にしませんか?」と話をしたのですが、突き詰めていくと自治体ごとに微妙に運用が違う。どんどんガラパゴス化しているので、本当のIT社会になっていくためには標準化が必要です。システムを統一する前に業務の標準化を行い、いわゆる無意味なカスタマイズをせずにシステムに合わせる。みんなが統一の仕様に寄せていかないかぎり、システムを統一化することはできません。これはある程度、国がリーダーシップを発揮するか、標準化するインセンテブを地方自治体に与える、いわゆる飴と鞭の両方が大事。それで時間をかけて業務を標準化し、カスタマイズを一部にとどめることで、最終的なシステムが統一できれば国も地方も一つの方向に変えていくことができると思っています。
吉川:先ほどお話しいただいた通り、例えば公的サービスは利用する側からすると、国も自治体も関係ないという話がありました。これは、「お互いにこれをやってもらいたい」という注文や期待はあるのかなと思ってまして。それぞれの立場から他の登壇者に期待すること、注文することがあれば、ぜひこの場で出していただきたいです。国のほうが注文を受けることも多いかもしれないので、野原さん、熊谷さん、平さんの順番でお願いします。
野原:これまで議論してきたような「withコロナ/afterコロナ」における働き方改革に関しては、やるべき議題はかなり洗い出されています。各省庁、IT戦略本部でもしっかり取り組み始めているので、そこまで注文は多くありません。ただ、本質的な働き方改革をやっていくには“ジョブ型雇用”と言いますか、時間単位での評価ではなく、成果報酬型の報酬制度に変えていく必要があると思っています。しかし、労働基準法により、社員の就業時間を把握しなくてはいけないルールになっているので、適切に変えるべきところを変えていただきたい。それが国への要望になります。
また、欧米では握手したり、ハグしたり、キスしたりして体を触れ合うことがコミュニケーションの基本になっているのに、それが新型コロナウイルスによって全部できない。そういった部分に海外の人たちはすごくショックを受けている、と感じています。withコロナ時代を生きていくなかで、我々もダメージを感じていますが、それ以上に彼らは甚大なショックを受けています。その結果、経済ダメージを受け、社会が不安定になり、アメリカ発で抗議デモも起きている気がします。自国主義なのか、協調主義なのか、どっちの道を進みながら乗り越えていくのか。しっかりとグローバルを見ながら、日本、ひいては自分の会社はどうするのかを考えるべきだと強く感じています。
新型コロナウイルスは改革を進めるチャンス
熊谷:どうしても期待する先は、国になってしまいますね(笑)。今回、平さんがいらっしゃるので本当に期待をしていまして。私たちからすると、DXもどんどん推進してほしいなと思っています。例えば今回、給付金の関係で口座情報とマイナンバーカードを紐づける話が出ていますが、以前にも、千葉市では口座情報を紐づけたい話は出ていたんですよね。
マイナンバーのさらなる活用については、いろいろハードルがあるわけですが、日本全体で0か100かの議論ではなくて、いくつかの自治体で特区的に実証実験をやってみる。そして、どういったメリット・デメリットがあるのかを見てみる。自治体と市民の距離の近さによる信頼関係であれば、実証実験の議論できると思うんです。特区的にやってみて、それを全国で展開するかどうかを議論していく流れが今後、必要じゃないかなと考えています。
熊谷:新型コロナウイルスの関係でオンライン診療やオンライン服薬指導など、大胆に規制が緩和されました。これはもともと国家戦略特区で議論し続けてきたからこそ、すぐに対応できたわけです。この国家戦略特区で穴を開け、議論してきた実績があるからこそ、今回の新型コロナウイルスの対応としてオンライン医療が実施できた事実を国にもっと宣伝してほしい。特区的な扱いとしてチャレンジし、有効だったものを、いざというときに展開していく。最終的には、日本全体の行政分野における改革を進めていくための、一番の近道なのではないかと思っているので、平さんには期待をしています。
平:まず、働き方改革は本当に重要。前回の働き方改革は不十分だった、と私自身は思っています。在宅ワークが基本となり、仕事と休憩の境界が不明な部分があるので成果主義を導入した方がWin-Winになる。これはしっかりやらなきゃいけないので、民間のみなさんからも、ぜひ声を挙げていただきたいです。
熊谷市長からいただいた特区の話は、まさに私がやっていたところです。例えば、遠隔医療は医師会は「競争したくない」という理由からかもしれませんが、今まで反対していました。しかし、新型コロナウイルスを機に感染症の診療は遠隔でやったほうが、お互いリスクをコントロールできる。そこで、一気に話が進んだ。まだ難しい部分もありますけど、私はもっと進めるべきだと思っています。こちらも応援していただきたいですね。
平:新型コロナウイルスで、本来やるべき改革が進んでいなかったことが顕在化しました。それを多くの国民が認識したわけですから、今は改革を進めるチャンスと捉え、前に進めていきたいと思っています。
吉川:以上でセッション3を終了させていただきます。日々、現場で忙しくされてるなか、ご参加いただき、ありがとうございました。