「メルカリグループは、育成型組織を目指します」 …そこで気になるのが“どうやって?”の部分です。メルカリグループでも多くの議論を重ね、「育成型組織の第一歩」として出した答えが、有志メンバーによるタスクフォースでした。
そんなタスクフォースが注力したのは、「入社オンボーディング」「マネージャー育成」の2つ。確かに、課題になりやすいポイントですが、なぜこの2つだったのでしょうか?何より、育成型組織づくりに取り組むなら、最初から専門チームで挑んだほうが早く進められるのではという考えも拭いきれません。
さっそく、今回のメルカンでは、タスクフォース立ち上げをリードしたMaya Tanakaをインタビュー。前述の疑問をぶつけてみたところ、返ってきたのは「“土台づくり”だからこそ、あえてのタスクフォース」でした。
※本インタビューでは、撮影時のみマスクを外しています。
この記事に登場する人
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Maya Tanaka(田中マヤ)北海道生まれ。日本の公立小学校へ通い、渡米。10歳からアメリカのミネソタ州で育ち、2004年に大学卒業後、国際交流員として仙台市で翻訳・通訳や国際交流イベントの企画などを担当。2008年に海外から東京へ赴任する方々の生活サポートをする会社でリロケーション・コンサルタントとして務める。2011年から、LIFULLにて社長秘書や国際事業部の一員として4年務めたのち、2015年に夫の赴任のためバンコクへ。現地NPOの広報としてボランティアを務める。2017年に日本へ帰国し、メルカリへ入社。現在はメルペイにて、翻訳や通訳を担当しているチームのマネージャーをしている。
「土台づくり」を目的にした、あえてのタスクフォース
−最初に聞きたいと思っていたのは、育成型組織を目指すために「なぜタスクフォースにしたのか」です。大事な部分でもあるので、専門チームを構えてガッツリやるといった方法もあったと思うのですが?
「専門チームを立ち上げる」は、もちろん検討していました!ですが、そのやり方ではグループの意見が1か所に集中しすぎてしまいます。みんな、組織についていろいろな考えを持っているので、どうしても飽和状態になりますよね。せっかく多くのメンバーの声をあげることがわかっているのならば、それを聞き入れながら、しっかりした土台づくりができる体制にしたほうがいい。そして2020年1月、私とDaniel Silva(メルカリGlobal People Operations、マネージャー)が中心となり、有志メンバーを集めてタスクフォースを立ち上げることにしたんです。
Maya Tanaka
−有志メンバーということは、他の業務と兼ねて参加してもらっていた?
そうです。もともとタスクフォースは、HRや人事、労務といったチームが集まるPeople & Cultureという部署内で誕生したもの。この部署では「20%プロジェクト」といって、本業務の20%を興味関心があるプロジェクトに費やしていい制度があったんです。今回は、その制度を活用して進めていました。かくいう私も、本業務はメルペイでの翻訳・通訳チームのマネージャー。以前から育成や社内研修を推進していて、メルカリで実現しようとしている「育成型組織」にも興味があったので、タスクフォース立ち上げに参加しました。
あと、このタスクフォースには「育成型組織の土台づくりをする」ともう一つ、裏目標があって…。
−裏目標?
People & Cultureでは、社内異動の制度をつくりたいと考えていました。でも、これってけっこう大きな制度改革じゃないですか?そのため、いきなりドーンと推し進めるのは難しい。20%プロジェクトを通じて他業務に触れ、新たなモチベーションにつなげられるプロジェクトはないかと考えていたところ、ちょうどタスクフォースが当てはまったのです。
「入社オンボーディング」「マネージャー育成」への大きな課題
−今回のタスクフォースは、あくまでも「育成型組織の土台づくり」が目的。まずフォーカスしたのが「入社オンボーディング」「マネージャー育成」ですが、その理由は?
この2つは、全社で展開している組織サーベイで、数値が低い項目でした。同時に、組織づくりにおいてとても重要です。そのため、最初のとっかかりとして、この2つを特に注力して進めることになりました。
というのも、これまでの入社オンボーディングは、配属先チームやメンバーによってやり方もバラバラ。入社したメンバーによっては、入社オンボーディングが不十分という事態も起こっていたんです。メルカリは自由のある組織なので、自ら情報を取りにいくことを推奨されています。ですが、組織規模の拡大とともに、各チームでどんな入社オンボーディングになっているのかが見えないのはリスク。今回のタスクフォースでは、チームやメンバーに頼りっきりにしないための全体プロセスをつくろうとしていました。
そして「マネージャー育成」。これは、メルカリグループ内で明確な「ロールモデル」などがなく、人によってマネージャーのスキルが異なることが課題でした。メルカリグループでは、「チームの成果を最大化するのがマネージャーの役割」と、大きな方針は示していました。とは言え、具体的な期待値があったわけではないです。なので、マネージャーに指名されたメンバーは、前職のやり方をならってみたり、未経験ながら手探りで始めたりしていました。
何より、マネージャーは、メンバーにとって入社〜退職までのタッチポイントすべてに関わります。つまり、マネージャー育成にフォーカスすれば、チームはもちろん、メンバーの育成にもつながると考えました。そのため、まずは「マネージャー」にフォーカスを当て、育成プログラムづくりもフォーカスすることにしたのです。
「ゼロからつくる」の難しさ、新型コロナウイルス発生
ちなみに、私が担当したのは「マネージャー育成」でした。やりたい気持ちはあれど「ちゃんとできるかな」という不安もあって。
−Mayaさんの本業務は、メルペイでの通訳・翻訳でしたよね?
そうです。どちらも「あるものを英語・日本語に直す、さらに良くする」じゃないですか?なので、今回のように「ゼロからつくる」は、私にとって初めての挑戦でした。マネージャー育成の前例がほぼないなか、戦略を立てて研修内容に織り込んでいくわけですが、その「アイデア」が思っていたよりたくさん出てしまって(笑)。さらに、「20%プロジェクト」ということもあり、リソースは限られている。スコープの絞り込みは、けっこう苦戦しましたね。
うまくいったと感じたのは、わりと早い段階からいろいろなステークホルダーを巻き込んでいたところ。アイデアを練る時点で「あの人にもヒアリングしよう」と、声をかけられそうな人にどんどんアタックしていたんです。そのおかげで、全マネージャー向けに戦略を発表したとき、反対の声はあがりませんでした。むしろ「いつのまにこんなことを?」と声をかけてくれるマネージャーが多くて…これには、みんなで感動しました。
入社オンボーディングでは、むしろすでにあるものを整理するところに一番時間を費やしました。先ほどお話ししたとおり、部署ごとに任せっきりだったため、フローがいろんなところに散らばっていたんです。そこでつくりあげたのが、入社オンボーディングチェックリスト。「これをやる」「この人に聞く」的なものをリストにし、誰が見ても「次はどうすればいいのか」がわかる状態にしました。
ようやく、それぞれの戦略が完成。本来なら、3月ごろに研修を実施していく予定だったのですが、新型コロナウイルスの感染拡大が始まり…。
−そうでした!
マネージャー研修も入社オンボーディングも、基本的には「オフラインでやりとりする」想定でした。新型コロナウイルス発生当初は「しばらく様子を見よう」と思って延期判断していましたが、「これって、もうオンライン前提での働き方になるんじゃない?」となり、思い切って研修スタイルや内容を変更。オンラインでも研修内容がワークするかどうかをテストするため、一歩引き下げて考え直しました。
−具体的に、どこを大きく変えたんですか?
マネージャー研修はすべてオンラインで実施。オンラインにしたことで、参加型であることを意識しました。研修のところどころで「〇〇さんはこちらについてどう思いますか?」「〇〇さん、何か質問ありますか?」と声をかけるなど、参加型のアクティビティを多めに入れました。その結果、全員が集中していた手応えのほか、参加型にしたことによって内容を深く理解してもらうことができ、研修自体の質がむしろ向上されたと思っています。
入社オンボーディングも、オフラインを想定して実施予定だったものをすべてオンライン仕様へ切り替え。そのなかで最もよかったのが「オンライン同期飲み」です。オンラインのままでは「誰にも会えない」となるところでしたが、おかげで同期同士のつながりができ、メンタルサポートの1つとして成果がありました。
タスクフォースは続かない。でも…
−タスクフォースの結果は、どうだったんですか?
マネージャー研修は全部で3つあり、計51名のメンバーに実施することができました。特にインパクトが大きかったのは、丸々2日間に渡るピープルマネジメント向けの研修。この研修に参加したのは17名。アンケート結果では、「学んだことを活かせると思う(4.9/5)」「ほかのマネージャーにこの研修を勧めたい(4.6/5)」と、うれしい数値が出ていました。
私自身、タスクフォースという取り組み自体がよかったと思うところは、プロジェクトに参加したメンバー個人のスキルアップにつながったことです。今までやったことがないことをやったり、他チームのメンバーと連携したり。どうにかみんなのやる気と「こうしたい」と思う気持ちはうまくすくい上げたかったので、1on1では、業務量の確認はもちろん、方向性のすり合わせも実施。メンバーのオーナーシップやモチベーションが下がらないように気を付けていました。そのおかげか、フィードバック時には「成長できた」「視野が広がった」という声が多かったです。
一方で、プロジェクトがひと段落した今でもチームをうまくコントロールできていたかどうか疑問です。みんな自チームじゃないので、本業務での作業量が見えないんです。手をあげて集まったメンバーなので、みんなやる気はある。しかし、オーバーワークはよくない。そこは細かく1on1して何度も確認しましたが、「本業(80%)+タスクフォース(20%)=100%」となった人は…正直いなかった気がしています。
−タスクフォースは、このまま続く?
いえ、タスクフォースに持続性はありません。今回注力していたマネージャー研修や入社オンボーディングの施策は、新設されたPeople Programsチームが引き継ぐことになりました!また、そのチームには、タスクフォースに参加していたメンバー3名もジョイン。つまり、裏目的だった「社内異動」も達成したことになります。
−なんと!
タスクフォースで私たちが進めてきたことは、育成型組織になるための第一歩でしかない。メルカリグループで働くみんなが成長できる組織にするには、この歩みを止めてほしくないし、タスクフォースでできなかったことにもどんどん挑んでほしい。その想いは、People ProgramsチームのマネージャーであるTutti Quintellaさんに託します!
写真左からMaya Tanaka、Tutti Quintella
<Tutti Quintella、コメント>
Our team already had responsibility for D&I (Diversity & Inclusion), with the new team People Programs, we incorporated the area of L&D (Learning & Development), carrying on what the task-forces have started.
私たちのチームではすでにD&I(Diversity & Inclusion)に取り組んでいました。今期、新たに立ち上がったPeople Programsチームは、L&D (Learning & Development) の領域を取り入れ、タスクフォースで取り組んでいた施策を引き継ぎ、継続して取り組んでいきます。
People Programs mission for the upcoming year in each area is:
People Programsの今後のミッション(分野ごと):
D&I
・ Attract, develop and retain diverse talent by promoting inclusive workstyle policies, a safe/comfortable work environment, and development opportunities for diverse members.
(Attract(関与)、Develop(開発)、Retain(定着)をベースに、多様なバックグラウンドを持つメンバーのためにインクルーシブな働き方、安全で働きやすい環境、成長機会を推進する)
L&D
・ Bring Mercari leadership to high-standards of performance according to our company values and management pillars (strategy, execution & team).
(会社のバリュー、マネジメントの役割(戦略、業務、チーム)に基づいて、メルカリのリーダーシップ力を高める)
・ Enable high-performing diverse teams. Ensure an inclusive team environment where everyone has fair chances of success.
(パフォーマンスの高い多様なチームを生み出し、誰もが公平に成功の機会を得られるインクルーシブなチーム環境をつくる)
Data & Mechanisms
・ Ensure all of our efforts are strategically planned and unbiased by informing all teams with D&I and L&D data analysis.
(私たちの取り組みが戦略的に計画され、かつバイアスがかからないよう、D&IやL&Dの分析をもって情報を提供する)
・ Find ways to make our efforts scalable and efficient, maintaining standards of quality, effectiveness and satisfaction.
(品質、有効性、満足度の基準を維持しながら、効率的でスケールできる取り組みを目指す)
On the L&D side, we are leveraging the foundation that the task-forces created and building on top of it. Our focus now is to scale the leadership trainings and on-boarding practices to the whole company, making sure they are sustainable in the long-term. We also plan on creating additional programs to fill in the remaining gaps to achieve our mission.
L&Dでは、タスクフォースで構築した基盤を活用し、さらに積み上げていきます。そのなかでも今、私たちが重視しているのは、リーダーシップトレーニングと入社オンボーディングの取り組みを会社全体にスケールし、長期的に継続していくことです。これからもプログラムを拡張、追加しながら、私たちのミッション達成に近づいていきたいと考えています。
Of course, this is a long-term effort, but we hope we can continue investing in creating this learning culture and enable our leaders and teams to achieve their full potential.
もちろん、長期的な取り組みではありますが、これからも学ぶ文化の醸成に投資し、メルカリのリーダーシップとチームが力を発揮できる環境を作りたいと考えています。