「なぜ、私が“普通”評価なんですか?」
「“普通”と評価されたことに、納得がいきません」
これは、フリマアプリ「メルカリ」に多く寄せられるお問い合わせの1つです。
メルカリでは取引終了後に「良い」「普通」「悪い」のいずれかを選び、お互いを受取評価するシステム(受取評価システム)がありました。そんなメルカリの受取評価システムから「普通」が消えたのは、2020年6月のこと。理由はほかでもない、冒頭のようなお問い合わせが多く「“普通”評価があることで、お客さまを混乱させてしまう」と判断したから。
しかし、なぜメルカリの「普通」評価が多くのお客さまを混乱させることになっていたのでしょうか。そして、メルカリが受取評価システムのなかから「普通」をなくすまでの経緯は?
メルカンでは、受取評価システム改善プロジェクトを担当していたメルカリCustomer Experience Improvement(CXI)チームの栗田祐志と、UX Designチームの山田静佳、CS Program Management(CSPM)チームの徳永幸大にインタビュー。リリース当初から貫いてきた3段階評価を変更した背景、その意図は何か。インタビュアーは、Customer Reliability Engineering(CRE)チームの國分佑太です。
この記事に登場する人
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栗田祐志(Yuushi Kurita)人材系サービスの事業会社にて、サーバーサイドエンジニア・PM・人事を経て、2018年6月にメルカリへジョイン。現在はPMとして、CREにてフリマアプリ「メルカリ」のお客さま体験改善を担当。 -
山田静佳(Shizuka Yamada)広告代理店、事業会社にてメディア・アプリ制作経験を経て、2016年4月にメルカリへジョイン。現在デザイナーとしてフリマアプリ「メルカリ」JPのデザイン全般を担当。 -
徳永幸大(Koudai Tokunaga)アパレルの中古買取、一次流通の販売を経て、ファッションブランドの立ち上げを経験、その後アパレルの企画会社にて企画営業を経て、2017年9月にメルカリへジョイン。現在はCSとしてフリマアプリ「メルカリ」JPの施策立案や運用構築を担当。 -
國分佑太(Yuuta Kokubun)ITコンサル1社、ITスタートアップ2社を経て、2018年7月にメルカリへジョイン。職種はプロダクトマネージャで、入社後はお客さま満足度向上・利用制限の改善・dポイント連携などを担当。2020年7月からCREのPM Headに着任。
お客さまによって「メルカリでの評価」の解釈と役割が異なる
國分:フリマアプリ「メルカリ」では、リリース当初から「良い」「普通」「悪い」の3段階評価でした。今回の受取評価システム改善プロジェクトでは、「普通」をなくし、2段階評価にしています。まずは、プロジェクトのきっかけから教えてください。
栗田:大前提として、僕が所属するCXIでは、CSメンバーと連携してお客さまの声を拾い上げ、機能などに実装していくことがおもな仕事です。そのため、定期的にお問い合わせ内容を見ているのですが、受取評価システムに関するものが多かったんです。なかでもたくさん寄せられていたのが「“普通”評価に納得できない」。
そもそも、メルカリでは取引後に多くのお客さまが「良い」と評価する傾向がありました。そのせいか「普通」と評価されたお客さまの多くが「なぜ“良い”じゃないんですか?」となっていたんです。
栗田祐志(CXIチーム)
栗田:もう少しくわしく状況を知るために、お問い合わせ内容を分析。そこでわかったのは、「普通」と評価する側と評価される側でも、解釈の相違があったことでした。「普通」と評価するお客さまは、悪いと感じたわけじゃない。ところが、評価されたお客さまは「普通=悪い」と感じている。僕としても、お客さまの反応を見続けるなかで「“普通”があるとかえって混乱させるため、新しい受取評価システムをつくったほうがいいのではないか」と考えるようになっていきました。
國分:ほかの2人は、以前までの受取評価システムをどう感じていましたか?
山田:栗田さんの考えに、すごく共感したんですよね。私自身、いちメルカリユーザーです。やりとりのなかで「普通」評価をもらったこともあるのですが…、お問い合わせされるお客さまと同じ気持ちになることもありました。そうすると、初めてメルカリを使ってくださった方々は「あまりいい思いをしなかった」となり、使うのをやめてしまいます。それもあり、受取評価システムを「もっと良くできるはず」と感じていました。
山田静佳(UX Designチーム)
徳永:僕はメルカリCS組織でPMをしているのですが、栗田さんが話していたとおり「評価に納得できない」というお問い合わせは多く、かつ温度感が高いものもありました。そして、栗田さんが話していた受取評価システムの解釈の相違に加え、お客さまによっては「メルカリでの評価」の役割も異なっていました。
國分:解釈だけでなく、役割も違っていた?
徳永:そうです。ひと口に「評価」と言えど、あるお客さまにとっては「受取完了通知」、また別のお客さまにとっては「感謝を伝えるツール」、さらに別のお客さまにとっては「売買する際の指標」。特に3つ目は、「良い」以外の評価がついているとやりとりしないお客さまも多かった。つまり「普通」評価は、メルカリ内ので売上にも影響していたんです。
徳永幸大(CSPMチーム)
栗田:ですね。そこで山田さんと徳永さんと話し合い、受取評価システムは「誰のための何なのか」を再整理。「普通」評価をなくすことでお客さまの混乱をなくし、「次のお客さまが買い物をするときの指標」となるように改善を進めることにしました。
「お客さまにわかりやすく」を目指して、文言までこだわり抜いたデザイン
國分:受取評価システム改善プロジェクトは、まず何から着手したんですか?
國分佑太(CXIチーム)
栗田:本格始動したのは、2019年秋ごろ。当時、先ほど話した仮説をもとに、デザイナーである山田さんがラフを作成。それを持って、Tamoさん(取締役メルカリジャパンCEO、田面木宏尚)やKeiさん(メルカリHead of Product)に何度かプレゼンしていました。そこで、新たにCREのトップになったGuyさん(メルカリProduct Designチーム、マネージャー)から言われたのは「メルカリの世界観がわかるものにしたほうがいい」。そういったアドバイスを受け、軌道修正しつつ進めていました。
同時に、社内メンバー30〜40名ほど集まってもらい、受取評価システム改善のブレストも実施。印象に残っているのは「“悪い”評価は削らないでほしい」というもの。「良い」評価はもちろん、「悪い」評価もきちんと見えていることがメリットだと話すメンバーもいて、僕らにはなかったHowを得られた気がしました。そこで、あくまでも「次のお客さまが買い物をするときの指標」として、お客さま個人ページでは取引件数とコメントのみを表示するように開発していきました。
國分:デザイン観点では、どうでしたか?
山田:やはり、名称に悩みました。もともとの「良い」「悪い」を残すのか、それとも、思い切ってアイコンごと変えるのか。このあたりを栗田さんにも相談したんですが「わかりやすく言葉・やさしい言葉ならいいんじゃない?」くらいしか言ってくれなくて。
徳永:その温度差、傍からも感じていました(笑)。
(一同笑)
栗田:当時はそこまで気にしてなかったのですが、実際やってみると文言1つとってもめちゃくちゃ重要だなと今は感じています。すみません!
山田:と、まぁいろいろアイデアを出し、社内でクイックにアンケートもとりました。その結果、今のものに決まりました。
栗田:個人的には「モヤモヤ」推しだったんですが、ぜんぜん投票されませんでしたね。言葉って難しいなと思いました。
CSとプロダクト開発チームで密に連携した、リリース後のお客さま対応
國分:受取評価システム変更となると、やはりCS側での対応も変えることになるんですよね?
徳永:そうです。受取評価システムは、お客さまの誰もが目にする部分であり、必ず使われる機能です。メルカリでも、今回のような「絶対にお客さまが使うシステム改善」はあまり例がなかったこともあり、どんな反応があるのか誰にもわかりませんでした。
そこで、CS側で対応したのは「お客さまへの事前のご案内やサービスブログでのお客さまへの伝え方」「CS内で誰でもすぐに対応できる体制の構築」でした。その結果、プロダクトの想いがお客さまに伝わり、想定より少ない反響に抑えることができました。
國分:すごい!
徳永:でも、僕なりの反省もあって。今回の対応をするために、属人性をなくし、対応できるメンバーを増やせるように考えたのですが…。これって、これまでCS対応してきたメンバーのやり方を否定しているところもあるんですよね。「自分たちが今までやってきたことはなんだったんだ」というような。メンバーへの考慮が、少し甘かったところは反省しています。
その認識に気づいてからは、対応フローのシンプル化をCSマネージャーたちと何度もディスカッションし、最終的には工藤さん(執行役員VP of Customer Service、工藤 節)とも話し、方向性や進め方を決めていきました。一度にすべて押し通すような事態は避け、お互いに納得するまで細かくたくさん話し合うようにしましたね。
栗田:メルカリCS組織は、チームやメンバーごとに業務がプランニングされています。なので、通常であれば急な対応は難しかったりするんです。CSメンバーのみなさんも受取評価システム改善には賛成してくださっていて、直前にも関わらず柔軟に対応してもらっていました。本当に、感謝しきれないです。
企画〜開発までに経た「沈黙の4ヶ月間」
栗田:ここまで話すととても順調に思われるかもしれないのですが。実は言うと、受取評価システム改善プロジェクトは企画から開発までに約4ヶ月ほどかかっているんです。
國分:4ヶ月!?
栗田:昨年秋ごろに企画していましたが、開発に着手できたのは今年初めごろです。それまでは、いわば「沈黙期間」でしたね。
國分:ですが、受取評価システム改善で「普通」評価がなくなれば、お客さまがよりお買い物をするようになることは明らかです。GMV(Gross Marchanise Value /流通取引金額)にいい影響を及ぼす意味では、優先度を上げて取り組めそうな印象もありますが?
栗田:受取評価システム改善は、たしかにGMVへいい影響を及ぼすことは明らかでした。しかし、すぐに効果があるわけではなく、あくまでも「中長期的に見て」のこと。メルカリとしても、当然ながら事業を拡大させていくことが第一ミッション。そうすると、GMVへの影響が強い施策のほうが優先度も上がります。その点、受取評価システム改善によるGMVへのインパクトは、他施策と比べて若干弱いものでした。
もちろん、経営メンバーには定期的にプッシュしていましたがなかなか進められず。最初から巻き込んでいた山田さんや徳永さんをお待たせして、申しわけない気持ちは日に日に大きくなっていきました。
國分:それでも、プロジェクトを諦めなかったのはなぜですか?
栗田:正直に話してしまうと、実は前職でも近しい状況を体験したことがありました。当時は心が折れてしまい、そのまま退職してしまったんです。その経験があったおかげで、今回は「諦めずにトライし続けよう」と思えたんですよね。プロジェクトがなくなってしまう覚悟はしつつ、絶対に受取評価システムは改善すべきだと思い、経営メンバーへのプッシュも含め、自分でできる限りのことをしていました。
山田:先ほどお話ししたとおり、私も「受取評価システムは改善すべき」の考えに賛同していました。プラットフォームとして、中間指標のない世界のほうがわかりやすく、お客さまにとってもいいはず。ステークホルダーも多い機能なので手放しに進められないことはわかっていたので、誰も栗田さんを責めていないです!
栗田:僕も同じです。だから、僕も山田さんも、4ヶ月間待つことができました。「受取評価システムは改善すべき」の考えは、僕ら以外のメンバーも同じだったようで、CSメンバーにプロジェクトを話したときはみんな賛成してくれていましたね。
リリース後、ネガティブな受取評価が半減!
國分:リリース後の反響はどうでしたか?
栗田:ネガティブな受取評価は半減しました!これは、「お客さまにとって悪い体験を減らせた」ということなので、けっこう大きなインパクトです!!
徳永:機能リリースは段階を経て徐々に解放していく流れだったのですが、「受取評価システムの変更はまだですか?」とお客さまから問い合わせがありました。「この機能はどういうこと?」といった問い合わせはよくあるのですが、「リリースまだですか?」は非常に稀なので驚きました。
栗田:今後は、受取評価システムを軸に感謝コメントをつけたり、善意が循環する流れをつくりたいですね。そうやって、お客さま同士がつながりを感じられるシステムができればと思っているんです。
山田:私は、過去に「悪い」がついてしまったお客さまでも、その後のやりとりで改善されていることが見えるようにしたいですね。誰でも失敗はするものなので、その後どうなっているのかがわかるのは、お客さまにとっても安心できるんじゃないかと考えています。
徳永:CS観点からも、山田さんが話した「昔より良くなっている」が見えるようにしたいですね。評価を受けるたびに「前より良くなっている」とわかると、サービスはより愛されるんじゃないかと。
栗田:やりたいことは、わりとたくさんあります。今後もお客さまに焦点を当てながら、さらに良い機能にしていきます!