「エンジニアリングマネージャーの役割とは何か?」
メルカリグループが定義するエンジニアリングマネージャー(EM)の役割は、メンバーの能力を最大限に発揮させること、そのための障壁をなくすこと。しかし、EMによって、そのアプローチはさまざまです。
では、メルペイでEMを務めるメンバーはこの定義をどのように解釈し、何をしているのでしょうか。
今回のメルカンでは、メルペイBackendチームのEMであるGodric Cao(@godriccao)、鈴木博文(@hirsuzuk)が登場。それぞれが考える役割や理想を、メルペイVP of Engineeringの野澤貴(@nozaq)が聞きました。
※撮影時のみ、マスクを外しています。
この記事に登場する人
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曹 楨(Godric Cao、@godriccao)2017年11月にメルカリへ入社。現在は決済基盤と認証認可基盤チームのエンジニアリングマネージャーを担当。前職の楽天でGlobal Point Platformの開発するほか、Wyingoで越境EC事業全般の立ち上げやWanderlustで旅行記サービスの開発を担当していた。 -
鈴木博文(Hirofumi Suzuki、@hirsuzuk)大学卒業後、セキュリティーベンダー及びドワンゴを経て、2003年にヤフーへ入社し、Yahoo!オークション(現ヤフオク)開発エンジニアとして、新機能開発、既存システムのパフォーマンスアップなど広範囲に携わる。2010年よりポールトゥーウィン・ピットクルーホーディングスの系列会社にて技術系役員を務める。2017年、DonutsにてBackendエンジニア兼エンジニアリングマネージャー、2018年11月IoTベンチャー企業のVPoEを経て、2020年1月よりメルペイにてエンジニアリングマネージャーを務めている。 -
野澤貴(Takashi Nozawa、@nozaq)慶應義塾大学大学院在学中にIPAが主催する「未踏ソフトウェアプロジェクト」に採択された4名のメンバーが中心となり、2006年、モバイルアプリ開発基盤などを手掛けるネイキッドテクノロジーを創業。2011年、同社がミクシィの子会社になったことを受け、分析基盤作りなどに携わる。2012年より株式会社Origamiの創業に参画し、技術担当ディレクターを担う。2020年2月、同社のメルカリグループ参画により、株式会社メルペイへ入社。2020年7月より現職。
EMが担う、組織・戦略・業務マネジメント
@nozaq:僕は2020年3月にOrigamiからメルペイへ参画し、7月からVPoEになりました。だからこそ改めて聞きたいのですが、そもそもお2人はEMの役割をどう捉えているのでしょうか。
@godriccao:僕が考えるEMの役割は「Backend組織を支えることで、プロダクトを成功させ、会社のミッションを実現する」。そのためにEMがやるべきだと考えている仕事内容が「組織のマネジメント」「戦略のマネジメント」「業務のマネジメント」です。この3つを果たすことが、Backendチームを支えていくためには不可欠だととらえています。図にしてみると、こんな感じです。
@nozaq:チームのパフォーマンスを最大化するために、具体的に何をやっているんですか?
@godriccao:会社の経営戦略をインプットすることですね。大きなビジョンはもちろんのこと、「今週どのような会議があるのか」「どういう意思決定がなされるのか」「どの目標数値が進捗しているのか」といった週次の動きも把握し、自分の言葉でメンバーに伝えるようにしています。こうすることで、メンバーはプロジェクトの背景がわかり、より動きやすくなります。もちろん、説明が不足することもあるので、そのたびに1on1などで適宜フォロー。全体を把握するため、僕自身が担当領域ではない戦略会議に参加することもあります。
曹 楨(@godriccao)
個人の能力を最大限に発揮してもらうために「評価のズレ」をなくす
@nozaq:@hirsuzukさんも、メルペイBackendチームのEMを務めています。役割への捉え方は、@godriccaoさんと近しい感じでしょうか?
@hirsuzuk:ちょっと違うかもしれません。というのも、僕は@godriccaoのようにメルカリ・メルペイでエンジニアとして活躍してからEMになったのではなく、最初から「メルペイEM」として採用されました。それもあり、メルペイでの開発における細かい理(ことわり)には深く入り込まないようにしているんです。
そのうえで僕が注力しているのは、各個人の評価です。メルペイも含めて、よくあるのが「自己評価と第三者視点での評価のズレ」。ここがズレているとモチベーションは下がり、一方でフラストレーションが上がっていく。そして、メルペイには、第三者からの評価は高いのに、自己評価が低いメンバーはわりといます。
自分にリミッターをかけ、本来の能力を発揮できなくなってしまうのはすごくもったいない。だから、僕はEMとして、できるだけ第三者視点での評価をはっきり伝えたり、どういう仕事の進め方をすれば自己評価と周りの評価が一致するかをアドバイスしたりして、ズレをなくすようにしています。個人が能力を最大限に発揮できるよう、コンディションを整えることがEMの仕事だと考えているんです。
鈴木博文(@hirsuzuk)
@nozaq:会社からの期待を個人に伝えていくうえで工夫していることは?
@hirsuzuk:会社としての期待値を自分なりに言語化して、チームの役割という位置付けでメンバーに自信を持って伝えることです。チームの役割に対し、仮に個人がまだ能力的に達していない場合は、近づいていく方法を一緒に考えていく。自信が持てるような考え方、行動に落とし込んで伝えるようにしています。
個人の能力が正しく発揮できれば、チームとしてのコンディションも非常に良くなります。個人のコンディションがよければ、周りのメンバーの状態にも目が届くようになり、サポートする動きも自然とできるようになるので。そういうレベルにまで到達できるようにしたいですね。
EMは技術領域に関与すべき?すべきじゃない?
@nozaq:@godriccaoさんと@hirsuzukさんの考えるEMの役割がけっこう違っていて面白いですね。
僕、メルペイで印象的だったのが、EMとテックリード(TL)の役割が明確に分かれていたことです。TLは技術面を専門性高くチームをサポートし、EMは組織の点からプロダクトエンジニアリングをサポートする。そして今、メルペイは組織・事業ともに成長し続けています。だからこそ、EMへの期待もすごく大きい。
そこで、もともとエンジニアとしてのバックグラウンドのあるお2人に、技術的な部分への関与度合いも聞きたいです。
野澤貴(Takashi Nozawa、@nozaq)
@godriccao:メルカリグループでのEMの役割自体が、ピープルマネジメント中心。そのため、設計・開発にコミットすることは要求しません。しかし、チームの技術ロードマップに責任を持っているので、技術に対する敏感さは大事だと思っています。
現場を離れれば離れるほど、当然ながら技術領域に関する判断の正確性は若干疑わしくなります。もちろん、TLからいろいろな意見をもらいながらマネジメントするのですが、それでもある程度のリテラシーがないと自信を持って判断ができない。そうならないために、プロジェクトに参加したり、参考になりそうな本を読んだりしています。
僕は当初、TLやプレイングマネージャーを兼任しながらEMをやっていました。そのころは技術に関する意思決定やアサインも正確にできていたのですが、チームが大きくなるとだんだん難しくなって…。そうなってからは考え方を改めて、TLを信頼して、意見を吸い上げて意思決定していくようになりました。
@hirsuzuk:僕は、技術にはほとんど関与していません。そもそもメルペイでEMになろうと思った理由が、「自分がエンジニアとして全盛期だったころに、寄り添ってくれるEMがいてほしかった」と思っていたから。そのときにEMに求めていたのは、技術力ではなく、メンバーの状況を理解して、コンディションを整えてくれることだったんです。だから、僕もEMとして技術ではなく、個人の能力を引き出すことにコミットしていきたいです。
EMとしての能力を高めるためのインプット
@nozaq:個人的に、EMとして組織マネジメントのメソッドは諸説あると思っていて。お2人はどういうものを参考にして意見を取り入れていますか?
@godriccao:本はいろいろ読みましたね。まず『The Practice of Management』でマネジメントについて学びました。他にはオライリーのEMのキャリアパスについて書かれた『The Manager’s Path』も読んで、「エンジニアからマネジメントラインに転換するとどのようなキャリアパスがあるのか」「EMの役割は何か」「解決すべき課題は何か」「EMとVPoE、CTOの役割の違い」などをひと通り理解できました。
あとは、セルフマネジメント力を高めるために『スタンフォードの自分を変える教室』を読んだり、課題解決力を高めるために『考える技術・書く技術―問題解決力を伸ばすピラミッド原則』を読んだりしました。
ロールモデルになっているのは、自分のマネージャーたちですね。障害対応のときの振る舞いや、メンバーとの接し方などはこれまでのマネージャーたちを意識しています。
@hirsuzuk:僕の場合は、マネジメント系のほかにも、メンタルヘルス系の本も読みました。いろいろな解決方法が書かれているので、まずは自分に試してみて、効き目のあるものだけを提案していました。それ以外は自分の経験則ですね。もともと「何でも話すことができるEMはいたほうがいい」と考えていたタイプだったので、過去の経験値を振り返ってメンバーの心理状態を推測し、接しています。
キャリアパスとしての「EM」をどう考えているのか
@nozaq:メルペイBackendチームのEMとして、組織の課題など感じるところはありますか?
@godriccao:直接技術とは関係ないかもしれませんが、組織全体を強めるためには多様性を高めなければいけないですよね。
@godriccao:個人的にまず着手したほうがいいと思っているのは、言語と性別の多様性です。やはり強いエンジニアリング組織をつくってプロダクトを支えていくためには、世界中の人材を採用できる状態をつくることが大事。そのためには日本語だけではではなく英語でも働きやすい環境を構築し、世界中の人材に我々のミッションに共感してもらえて、受け入れられるような体制をつくり上げていきたいですね。
@hirsuzuk:あえて言わせてもらえるならば、内部登用のEMと僕のような外部登用のEMがミックスされているので、期待値をそれぞれで変えるのか、一緒にするのかをハッキリしたほうがいい。外部登用だからこそできることを強く打ち出していくか、それとも「メルペイのEM」としての定義したうえで行動していくのか。これについては、@nozaqさんや@godriccaoさんとも話し合いながら決めていきたいところですね。
@nozaq:ぜひです!エンジニアリング組織としてのあり方をEMのみなさんと一緒に考えていきたいですね。と言いますか、はやく一緒に考えなければという危機感すらあります。今後さらに深く、課題のすり合わせをしていきたいです。
ちなみに、お2人はご自身のキャリアはどのように考えているのでしょうか?これからもEMを続けていくのか、それともマネジメント以外のところへ向かうのか?
@godriccao:自分自身のキャリアパスを長い目で見ると、必ずしもずっとEMをやるわけではないと考えています。キャリアパスの1つとしてマネジメントを経験して、何か新規のプロダクトを立ち上げるときにTLとして関わっていく。そして、事業がグロースするにつれマネジメントが必要になったら再びEMに…というパターンも視野に入れています。
@hirsuzuk:僕はエンジニアとして成功体験は充分に積んだと思っているので、“やり切った感”があったりします。そして、メルペイには若手エンジニアが成功体験を積めるチャンスがたくさんある。だからこそ、彼ら・彼女らを支援していきたいですね。そのため、僕のなかでEMとは、カウンセラーとしての役割に近いかもしれません。「この人と話したら悩みがラクになった」というような、数値では測れない陰ながらの役割を続けていくことが、僕自身がメルペイで一番貢献できるところじゃないかと考えていたりします。
@nozaq:めちゃくちゃいいですね!僕はこの半年間、入社したばかりだった僕は現状を追いかけるだけで精一杯でした。組織をどうデザインしていくかは、引き続きしっかり連携してやっていきましょう。ありがとうございました!