「情報が行き届かないことによる、経営とメンバー間のギャップをどう考えていますか?」
「連携が重要なのに、メルカリとメルペイでコーポレート部門を分けた理由はなんですか?」
メルカリグループにはメルカリ・メルペイ・米国事業であるメルカリUSの「3つの柱」があります。なかでもメルカリとメルペイは1つのアプリである関係上、一体となって動くことになるわけですが…コーポレート部門は別々だったりします。
今回のメルカンでは、メルカリのコーポレートを担当する横田 淳と、メルペイのコーポレートを担当する長利一心、そして2021年1月にジョインしたメルカリCFOの江田清香による鼎談を実施。冒頭の疑問に加え、各コーポレートの役割や現状の課題、求める人材像を新メルカリCFOである江田が切り込みました。
この記事に登場する人
-
横田 淳(Jun Yokota)メルカリ上級執行役員 SVP Corporate。株式会社エヌ・ティ・ティ・データを経て、2001年8月株式会社サイバーエージェントに入社。グループ全体のコーポレート業務に従事する傍ら、多数の新規事業やグループ会社の経営支援、特命案件業務に従事。経営本部長、執行役員を歴任。株式会社AbemaTV取締役としてインターネットテレビ局の立ち上げに尽力。同社を退社後、2017年6月に株式会社メルカリ、株式会社ソウゾウに入社、執行役員に就任。2017年11月、株式会社メルペイ取締役に就任、2019年4月から現職。2019年8月、株式会社鹿島アントラーズ・エフ・シー監査役就任。趣味はマグロ釣り。 -
長利一心(Kazutoshi Osari)メルペイ取締役VP of Corporate。京都大学大学院航空宇宙工学専攻修了。戦略コンサルのベイン・アンド・カンパニー マネージャー、株式会社セガゲームス社長室長を経て、2018年3月メルカリ参画。ファイナンスIRグループ、リスク・コンプライアンスグループ、ガバナンスチームのコーポレート各所でメカニズム化やプロジェクトを推進したのち、2019年7月より経営戦略室(元会長室)ディレクター。2020年2月よりメルペイのHead of Corporateにて財務、経営企画、法務、コンプラ、リスクを管掌。 -
江田清香(Sayaka Eda)メルカリ執行役員CFO。慶應義塾大学大学院 理工学研究科 前期博士課程(修士)修了 。2006年4月からゴールドマン・サックス証券株式会社に入社。入社以来、自己資金等を活用した投資・融資案件等に携わり、コーポレート・ファイナンスのみならず広範な金融知識をもとに同社のマネージング・ディレクターを2017年より務める。業務以外でも同社内において Japan Women’s NetworkのCo-Chairを務めD&Iの推進をリード。2021年1月より現職。
入社の決め手は「経営メンバーのワクワクする姿」
江田:私がメルカリへ入社したきっかけは、本当に偶然だったんです。前の会社に勤めていたときから、何度か進太郎さん(メルカリ代表取締役CEO、山田進太郎)をはじめとする経営メンバーたちと話す機会がありました。そのなかで「メルカリグループをどうしていきたいか」「どんなビジネスをつくっていこうか」の話題にもなり、話している経営メンバーが純粋にワクワクしているのが伝わってきたんです。
特に進太郎さんって…正直にお伝えすると、かっこいい言葉で語れるセールスマンタイプの人ではないじゃないですか(笑)。だから、かえって信頼できると感じられたんですよね。私も一緒にお仕事をすることを想像してみたらすごく楽しみになってしまって、気づいたらここにいるっていう感じです。
メルカリは、前職に比べてまだ若い企業でしたが、入社することについては全然リスクだとは思っていませんでした。もちろん、歴史があり大きくて安定している企業で先人たちがつくってきたものが揃ったところで自分の力を蓄えていくのもいい。けれど、みんなで今から道をつくるとしているところへ参加するのも、それはそれですごく楽しいアドベンチャーだと思うんですよね。
江田清香(メルカリ執行役員CFO)
横田:経営メンバーが率直に経営方針を話したのは、オープンネスな文化があるからだと思います。もともとメルカリグループにはメンバーを信頼して、情報にあまり制限をかけずオープンに共有してきた歴史があります。メルカリもメルペイも、そこは突出しているところです。その前提には、メンバーの意識の高さや“性善説”みたいなものがありますね。
長利:メンバーみんなが、情報に対する“食欲”が旺盛なんですよね。メルカリグループでは経営会議の内容もそのままバーッと垂れ流す、みたいなことをやってしまうんですが、そこまでやらないとメンバー側も「もっと情報をくれ!」ってなる(笑)。逆に、僕ら経営陣やマネジメント層からしても、変にかみ砕いてから情報を渡すよりも、そのままの情報を渡したほうが、現場が咀嚼して動いてくれるので楽なんです。お互いがBe a Proだから、ずっとフラットな組織で居続けられているのかなと思います。
情報の透明性があるメリット・デメリット
江田:いざ入社してみて、私もいろんな情報に触れることができて「すごい、ここまで見れちゃうんだ!」と驚きました。その一方で、情報が行き届かないと、経営とメンバーの間にギャップが生まれることはあるかもしれないと懸念しています。
私が以前いた会社は規模が大きくても、それぞれのエリアに全社的戦略がちゃんと行き届いていたんです。それは頻度の高いタウンホールやさまざまなセグメントで、トップが社内の人に「今の経営陣の考え」を発信する場があったからなんですよね。メルカリグループでも、そういったなにかしらのフォローは必要なのかなと思っています。
長利:たしかに、組織の規模の拡大にあわせて、必要な情報が汲み取れない・行き届かないことは実際に起き始めていますね。そこに対して、新しい文化や習慣が必要になっているのは、江田さんのおっしゃるとおりです。
長利一心(メルペイ取締役VP of Corporate)
横田:メルカリグループでは基本的に情報はオープンになっていますが、インサイダー情報は注意が必要だと感じています。当然ながら、オープンネスを高めると同時に、情報漏洩のリスクを防ぐ難易度は上がる。メンバーに悪気はなくても罰則が適用されてしまうこともあるので、性善説ではカバーしきれないところを管理する必要があります。それがなかなか難しいんですが…。
長利:僕はオープンなことが制限になっている感覚はあまりなくて。なぜなら、有事になればメルペイで起きたこともメルカリメンバーに協力してもらえますし、その逆も然り。グループ横断で一丸となって動いていくので、情報が共有されることは前提なんです。その中で情報統制とか情報管理をアドオンしている感覚の方が強いのかなと。
なぜ、メルカリ・メルペイのコーポレート部門を分けたのか?
江田:であれば、メルカリ・メルペイそれぞれでコーポレート部門を分けず、1つにまとまっている方が効率的かと思うのですが…。そもそもメルカリグループって、そういったリスクもあるなかでどうして別々にコーポレート部門を持っているんですか?
横田:実は、いくつか変遷を経て今の体制になっているんです。現状では「HRBP(Human Resource Business Partner)はグループに集約するよりも、事業部の中に置いた方がバリューを出せるはず」「インフラをつくる仕事はグループで整合性をとるため、それぞれ分けたほうがいい」という方針で、今に至ります。
横田 淳(メルカリ上級執行役員 SVP Corporate)
長利:僕は以前までメルカリのコーポレート部門にいて、組織や会社の基盤づくりをしていました。なので、連携の大事さは骨身にしみています。その後、メルペイへ異動してからは、組織や会社の基盤づくりよりも「事業をつくる」「事業に並走できる体制をつくる」ほうが最優先でした。メルカリとメルペイでは、コーポレート部門で求められる役割が異なっているんです。そうすると、グループとしてまるっと推進するより、事業ごとの時間軸や目線の違いにあわせて、コーポレート部門を分けたほうがいいのではないかと感じるようになりました。
たとえば、メルカリのコーポレート部門はメカニズムや仕組みをつくり、メルペイのコーポレート部門は事業に並走。その一方でソウゾウのような新規事業が立ち上がる。そして、ステージの違う会社間の各所でコーポレートメンバーが連携し、組織や会社づくりに邁進していく。そういう点が、コーポレートが別々にあるグループシナジーたるところなのかなと思うんですよね。
横田:組織のあり方は、グループの成長の中で変わっていきますよね。今もメルカリグループが広がったり、事業部門が増えたり…をくり返しているので、今後も変わっていく気がします。
長利:大事なのは、グループの成長に合わせて変われる組織であることですよね。そのへんは、横田さんの言う「韮人材」(各専門分野に深く根ざしながら、横とのつながりも強いスキルを持つ人材を指す、横田のオリジナル用語)のような、コーポレートの中で循環したり、部署をまたぐ異動があったりして、変われる組織である状態を常に保っていることが大切なのかも。
横田:僕の予想としては、長利さんのような「メルカリにいたけどメルペイの立ち上げをすべて担う」みたいな人が増えていくはずなんですよ。そうすることで「韮」的な人が増えてきて、社内で人材のローテーションもしやすくなる。それが経営基盤の強さにつながっていく。ある意味、進化論に近いのかもしれません(笑)。
江田:「韮進化論」ということですね(笑)。
横田:メルカリグループにおいては、「進化しないと生き残れない」と僕は捉えています。多様性を取り入れていかないと硬直的なコーポレートになり、成長できずに会社が弱体化していく。そういう意味で、組織に一番大事なのは「変化対応力」だと思っているんです。
「韮人材」が多ければいいというわけじゃない
横田:…と、僕は「韮人材の重要性」みたいなことをいろいろなところで話してきたのですが、韮人材ばかりの組織がいいと思っているわけではないんです。
長利:あら?(笑)
横田:何と言いますか、韮人材もいれば、特化型の専門人材もいる、ルーティーンを得意とする人材もいる…みたいな、いろいろな属性のメンバーがいる組織にしたいんですよ。「韮」を押し出したことによって「韮人材じゃなきゃダメだ」と勘違いさせているところもあると反省しているので、明確に「そうじゃないですよ」と伝えたいです。
長利:激しく同感ですね。韮人材を生み出せる組織、変化対応できる組織であるべきだとは思うけど、その時々で「自分が身につけたい力」は変わっていきます。たとえば、僕は最初、管理会計の仕事から始まったけど、リスクやコンプラをやらせてもらったことで、今まで上半身を鍛えてたけど下半身を鍛えた感覚になったんです。そうしたら次は、体幹を鍛え直さなきゃと、その人の人生やキャリアの中で、「今どこを鍛えたい」が変わっていく。ずっとメルペイ的な仕事をやるのもいいし、メルペイが変化して合わなくなってきたときはソウゾウにいく…みたいなことがあっていいと思うんです。
江田:それはいいですね。そして、いろいろな属性を持つメンバーがいることが理想と話していましたが、「こういう人材はメルカリ・メルペイのコーポレート部門と相性がいい」などありますか?
横田:メルカリの場合、上場企業で働いた経験がある人がいいかもしれません。一方で、メルペイは決済金融業界なので、金融業界出身者が即戦力になると思います。とはいえ、上場企業や金融業界経験のある人もそうでない人も、いろいろな人材を有機的に組織として取り込み、社内での人材のローテーションをしながら個人が経験を積んでいくことが、今のところの理想像ですね。
長利:メルペイのコーポレートには、横田さんが話していたように金融知識や経験がある方が望ましい。でも、僕はそういった経歴は持っていないんですよね。実際、そういう人もコーポレートに混ざっています。
そこで改めてメンバーの共通点を考えてみたところ、浮かび上がってきたのは「事業をつくるコーポレートの経験」。規制やあり方が激しく変化しているフィンテック業界、かつメルペイのように攻めている会社ならではのスタイルでもあります。メルペイのコーポレートの醍醐味でもあるので、そういった思想を持つ人、それを楽しめる人が活躍できるんじゃないかなと思っています。
これからのメルカリグループが尽力するのは「グローバル」
江田:メルカリグループは、メルカリとメルペイそれぞれの事業はもちろん、越境プロジェクトやソウゾウの立ち上げを経験してきました。今後さらに強化していくのはやはり「グローバル」でしょうか?
横田:ですね。会社として強く打ち出したいのは「グローバル」です。その領域へさらにチャンレジをするために、いろんなリソースを増やしていきたい。僕自身も英語は得意ではないけれど、それでも僕は自分のポジションや役割をしっかり全うしたいと思っています。だから、グローバルチャレンジをしようとしている会社やグループの船に乗りたいと思ってくれる人、会社と一緒に貪欲に成長したいと思っている人にはぜひ来てほしいです。
江田:グローバルに関して言えば、外からいろんなものを吸収しつつ、社内の異なる事業部同士で常に情報交換をして実践を繰り返したほうが、組織力の強化や拡大に繋がる。そこは、メルカリがグローバルチャレンジをする上でやるべきことのひとつです。一緒に働く人でいえば、仕事でもプライベートでもいろんなものに興味があって、常に“欲張りな人”だと、きっとこの会社は楽しいかもしれませんね。
長利:それはありそう!僕個人がチャレンジしたいことになってしまうんですが、もともと「今までにない会社や組織をつくりたい」と思い、メルカリに入社しました。コーポレートを担うリーダーとして、事業づくりも組織づくりもいい循環でできるような仕組みや文化をつくりたい気持ちがすごくあります。優秀な人を集めて強いチームにしながら、そこに対するチャレンジを続けることに尽きますね。