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誰ひとり「同じじゃない」ホーム画面を──メルカリが“他社に比べて難解”なパーソナライゼーションに挑む理由

2021-4-7

誰ひとり「同じじゃない」ホーム画面を──メルカリが“他社に比べて難解”なパーソナライゼーションに挑む理由

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「メルカリに気になっていた商品が表示されてて、ついつい見ちゃう」。それ、パーソナライゼーションによるものです!

「パーソナライゼーション」とは、お客さまそれぞれの使いやすさを追求し、サービス体験向上を目指す戦略の1つ。メルカリでも、パーソナライゼーション機能全般の開発からプラットフォーム運用まで行う「レコメンデーションチーム」が2019年に誕生。メルカリのホーム画面で最初に表示される「おすすめタイムライン」などで実装してきました。

ではさっそく「メルカリにおけるパーソナライゼーション」についてインタビューしようとしたら…実は、レコメンデーションチーム誕生以前からスモールスタートしていたことが発覚しました!一体どういうこと?

プロジェクト時代から開発に関わる古澤智裕(@furufuru)と木村俊也(@kimuras)、Aki Saarinen(@akis)に話を聞きました。

この記事に登場する人


  • 古澤智裕(Tomohiro Furusawa、@furufuru)

    図書館司書を目指して大学で勉強していたら、データサイエンスとソフトウェアエンジニアリングの楽しさに出会いいつの間にかITの世界へ。大学院卒業後は図書館情報学をバックグランドとして情報検索や情報推薦のプロダクト開発に従事。2019年5月より株式会社メルカリに入社し、検索評価やレコメンドシステムのプロトタイプ開発に取り組む。その後レコメンデーションチームの立ち上げを経て、現在はスクラムマスターとしてチームによるパーソナライゼーション機能の開発を推進している。


  • 木村俊也(Shunya Kimura、@kimuras)

    2007年よりSNS企業にて研究開発を担当。機械学習の知見を活かして、レコメンデーションエンジンやグラフマイニングエンジン開発を担当。その他、自然言語処理学の知見を活かした広告開発や マーケティングデータ開発にも携わる。その後、技術を統括する組織の責任者を経て、インフラからアプリまで幅広いマネジメントを経験。2017年よりメルカリにて研究開発のオフィサーを担当し、AIを中心とした幅広い研究領域のリサーチを担当。現在はPersonalizationチームのエンジニアリングマネージャーを務める。


  • Aki Saarinen(アキ サーリネン、@akis)

    8歳でプログラミングに出会い、それ以来ずっと「素晴らしいプロダクトをつくること」を目指し続けている。いくつかのベンチャー企業を経て、2019年10月にメルカリへ入社。現在はCustomer Experience and DataチームのDirectorとして、パーソナライズに向けたお客さま体験を構築している。


当時から変わらないのは「お客さまにとって使いやすいサービスを目指すこと」

ー2019年にパーソナライゼーションを専任で行うレコメンデーションチームが誕生。メルカリ開発組織Camp体制(複数のスクラムチームを1つにまとめ、その領域ごとで企画・開発が行われるスタイル)へ移行後は、「Personalization Camp」として引き続き開発が進められています。でも、実のところはチーム化する前からプロジェクトとしてスモールスタートしていたと聞きましたが?

@furufuru:そうなんです。社内ではっきりと「パーソナライゼーションのためにレコメンデーション開発をします!」と声をあげたのはチーム化してからなので、その前から粛々と取り組んでいたことはあまり知られていないかもしれないですね。

そもそも、私がプロジェクトとして取り組む以前から、メルカリでは「おすすめタイムライン」と呼ばれる機能があり、パーソナライズされていました。でも、継続的な改善はできていなかったんです。メルカリは多くのお客さまに使っていただいています。そのため、レコメンド機能における可能性はとても大きいと感じていました。そこで、有志の社内メンバーで一緒におすすめタイムラインのほか、ホーム画面でのコンポーネント、商品詳細画面での関連商品など、レコメンド機能の改善施策を検証し始めたのです。その後、2019年秋ごろにレコメンデーションチームが発足。アプリホーム画面のリニューアルに合わせてレコメンドのコンポーネントを構築していました。そして現在のPersonalization Campに至ります。

古澤智裕(@furufuru)

@kimuras:スタート時点からずっと関わっているのは、@furufuruさんですね。僕はアプリホーム画面をリニューアルするタイミングで、レコメンデーションチームに参加。エンジニアリングマネージャーを担当しています。しばらくしてからテクニカルプロダクトマネージャー(TPM)として入社したのが@akisでしたね。

@akis:私が入社したときには、すでにパーソナライゼーションは始まっていました。そして、当時から変わらないのは「お客さまにとって使いやすいサービスを目指すこと」です。

メルカリは、毎月2,000万人近くのお客さまに使われています。でも、お客さまにとってメルカリの使い方はさまざま。「売る」「買う」の目的はもちろん、興味や関心、好みも異なります。欲しいものがはっきりしていれば検索して見つけ出すことも可能ですが、何が欲しいのかがわからなかったら?そんなとき、アプリホーム画面に興味関心が高いものが表示されていたら、サービス体験は高まりますよね。ところが、当時のアプリホーム画面や検索結果は「誰が見ても同じもの」。これは、お客さまにとってあまり良いものとは言えませんでした。

Aki Saarinen(@akis)

メルカリの「おすすめタイムライン」の変遷

ーそう言われると、「音楽が好き」だったとしても興味がないジャンルばかり提案されるのは微妙な感じがしますね。

@furufuru:まさにそれです。お客さまそれぞれに、異なるコンテクストがあります。にも関わらず、すべてのお客さまに同じコンテンツを提供するのは多くの機会損失を生む可能性があります。FacebookやTwitter、Instagramでは、すでに個人に合わせてパーソナライズできる機能が多く採用されています。これによってサービス体験がよくなっていることは明らかなので、メルカリでも導入すべきだと思っていました。そして、パーソナライゼーションのために当時は小規模なプロジェクトをスタートさせたんです。

プロジェクトを始めたばかりのころは「何をすべきかわからなかった」

ー小規模なプロジェクトからスタートしたということですが、最初からチーム化するつもりだったんですか?

@furufuru:いいえ、どちらかと言うと「こういう効果がある」と証明できてから規模を拡大させていこうと考えていました。ところが、当時のマネージャーに「すごく大事なプロジェクトだから、チーム化しよう!」と言われ、あれよあれよとチームになっていきました(笑)。

そして正直に話すと、プロジェクトを始めたばかりのころは「何をすべきか」がわからなくて。

ー「何をすべきか」がわからない?

@furufuru:それこそ最初は「パーソナライゼーションのために、レコメンデーション機能をつくるぞ!」「そうすればいい方向へいくはず!」くらいの解像度でした。暗中模索しながらも「これはいい気がする」と思った機能はできるかぎり時間をかけてつくっていきました。そんななか、@akisがジョイン。それをきっかけに「お客さまにとっていいコンテンツを明らかにしよう」となり、チームの方向性やディレクションが定まっていきました。

@kimuras:@furufuruさんの話に付け加えると、レコメンデーションにはいろいろな手法があります。最新トレンドを意識したもの、お客さまの購買行動を重視したものなど。そのなかで、どれがメルカリに最適なのかがわからなかったんですよね。そして、実験できる環境もなかった。いくつか仮説を立てながら実験し、お客さまにとって価値あるものを見つけようとしていましたね。

木村俊也(@kimuras)

@akis:@kimurasさんの言うとおり、海外サービスが取り入れているレコメンデーション事例を真似すれば、メルカリのお客さまにとっていいコンテンツを届けられるわけじゃない。だからこそ大事なのが「お客さまにとって良いものとは何か」を推し量る指標です。レコメンデーションチームではその指標をもとに、改善サイクルを何度も回し続けてきました。同時に、プラットフォームを構築。いろいろなところでレコメンデーションできる基盤をつくっているところです。

ただ、レコメンデーションチーム時代は、バックエンド開発に閉じていました。お客さまが直接触れるのはクライアント開発部分。そこまで広げるにはどうすればいいかと考えていたところ、メルカリの開発組織は「Camp体制」へ移行。Personalization Campとなり、さまざまな職種のメンバーとクロスファンクショナルに協力できるようになりました。おかげで、バックエンドのロジック改善だけでなく、クライアント開発も着手。サービス全体を変えるような開発も行えるようになったんです。

メルカリのレコメンデーション機能が他サービスに比べて難解な理由

ーメルカリにおけるレコメンデーション開発の正解みたいなものは見つかった…?

@kimuras:いえ、引き続き模索中です。メルカリでのレコメンデーション機能は、ほかのECサービスに比べてつくるのが難しい。なぜなら、メルカリは出品と同時に売れることも多いからです。そのため、在庫という概念がない。出品されている商品もユニークで単一。逆に、レコメンデーションは在庫があるから機能しやすい。

メルカリの場合、出品された商品が売れるまでの間にレコメンデーションしなければならないので、処理・学習スピードが求められます。この難易度はとても高いのですが…エンジニアリング観点ではとてもおもしろい!レコメンデーションするうえで、トレンドにとらわれない商品が上位になる現象をどうクリアするか、ほかではなかなか味わえない課題です。

@furufuru:同感です。モデリングや「レコメンデーションのロジックをどうつくるか」を考えるのは楽しい!同時に、メンバー全員が真正面からエンジニアリングに向き合えている環境も魅力の1つだと思っています。ロジックだけ考えて実装するなら、分業スタイルでも進められる。僕らはロジックも考えるし、開発もするし、なんなら運用だってする。全部、みんなでやっているんです。ハードですが、自分でつくったものに責任を持ち、お客さまへ届けられるのは刺激があります。分業スタイルだと「これはできない」と言われたらそこで終了ですが、自分で一気通貫させるから、やりたいことを責任持って実現できる。そこは、すごくいいところですね。

@kimuras:あと、@akisのようなTPMがいることもいい。僕らPersonalization Campは、機械学習など専門領域に対して強みを持つメンバーが多いんです。そしてレコメンデーションには幅広い知識が必要なので、専門領域を理解しつつ、他メンバーをディレクションしていくスキルが求められます。そういった環境下では、専門性の高いメンバーと衝突することもよくあるのですが、@akisはアルゴリズムまで理解する能力があります。だから、メンバーを正しい方向へ導けているんです。ここまでレベルが高いTPMは、あまりいないと思います!

@akis:ありがとう…(笑)。レコメンデーションは、数学的な分野でもあります。とは言え、僕らが最終的に実現したいのは「お客さまに喜んでもらえるかどうか」。数字的なところをチェックしつつ、感情的な要素も重視していました。メルカリの場合は、誰でも売り買いでき、かつ出品すればすぐに売れてしまう。多くのコンテクストがあるので難しいんですよね。そんななか、TPMとして、メンバーをモチベートし、どんどんつくってもらえるようにする役割を担えるのは楽しいですね。

パーソナライゼーション領域は、これからますますエキサイティングになっていく

ーそして、今のホーム画面はお客さまにとって最適なコンテンツがレコメンドされるようになったんですよね?

@akis:そうです。でも、まだまだパーソナライズできる範囲が限定的です。お客さまに合わせて「何を表示するか」はパーソナライズできるようになりました。今後は、お客さまがアプリホーム画面を開いた瞬間にパーソナライズされ、お客さまが「今なにをしたいのか」が考慮されている世界観を目指したいですね。「売る」「買う」だけでなく、メルペイによる支払いなど異なるコンテクストを組み合わせることで、メルカリを開くたびに面白いものと出会えるようになるはず。もともと小さなプロジェクトから始まったものでしたが、チームになり、1つのCampになりました。次は会社全体で取り組めるようにしていきたいですね。

@furufuru:思えば、これまでは少人数で取り組んできたプロジェクトでした。それを今、いろいろなメンバーと協力し、同じ目標を追いかけています。さまざまな知見や経験を活かしながら、がんがんとレコメンデーションを実装していきたいですね。

ー感慨深いですね。

@furufuru:いやもう、本当に。今後は、もっと多くの技術を試したいですね。世界中で、日々、いろいろなレコメンデーションの手法が開発されています。メルカリによさそうな技術を取り入れ、進化させていきたいですね。そしてもう1つ、メルカリのお客さまに合ったレコメンデーションをもっと追及したい。お客さまが「メルカリにどんな商品が並んでいるのか見たい!」と思い、使い続けていただけるような体験をつくりたいんですよね。

@kimuras:僕は、メルカリを使ううえでの障壁をレコメンデーションでなくしていきたいですね。概念的なところではありますが、使い始めたばかりのお客さまと使い慣れているお客さまとでは求めるものが違います。使い始めたばかりのお客さまは商品を探すことに慣れていないので、人気やトレンドになっている商品情報を提供したほうがいいし、使い慣れているお客さまにはお得な情報を出したほうがいい。そうやって、お客さまのステージに合わせてスムーズに楽しく使えるコンテンツを提供できるようにしたいんです。

@akis:メルカリにおけるパーソナライゼーションは、これからますますエキサイティングになっていく領域だと思っています。今はレコメンデーションのための基盤づくりをしていますが、これをもとに、お客さまごとに異なる情報を出していくことができます。さまざまな方法を試し、お客さまにとって何が重要かを見つけるのは楽しいし興味深い。誰も正解がわからないから、「うまくいかなかった」と感じることすら僕らにとっては大事なポイントです。

@kimuras:そうそう、メルカリでのパーソナライゼーションはまだ始まったばかり。@akisが言うように、これからいろいろなテストをし、試行錯誤をくり返していく。未知なことばかりだから、研究テーマとしてもおもしろい。そして、これはメルカリで働く僕らにしか解けない問題と言ってもいいですよね。

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