「“斜め上”の経営陣をメンターにする」
「期間は半年。頻度や内容、やり方はすべてメンバーが決める」
そんなルールのもと、メルカリグループで新たに始まったのが「Exec Mentoring Program」でした。これは経営陣とHRBP(HR Business Partner)が企画したプログラム。選抜されたメンバーは、自分の“斜め上”にあたる経営陣と月1時間程度/半年間の1on1を実施。業務へのフィードバックはもちろん、キャリアプランを相談するメンバーもいます。
では、その成果はいかに?
そこで今回は、Exec Mentoring Programの第一期に参加したメルカリ上級執行役員 兼 US CEOのJohn Lagerling(@john)、メンティーだったConnect UXチームの円谷雄人(@u_gene)、HRBPチームの田井美可子(@mikako)の3名による鼎談を行いました。話を聞いてみると、@u_geneと@mikakoにとって、本プログラムがキャリアの大きな分岐点となったと言いますが?
この記事に登場する人
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John Lagerling(@john)1976年7月19日スウェーデン生まれ、ストックホルム商科大学修士課程修了。在学中、東京大学大学院経済研究科でも論文研究を行う。GoogleでAndroidグローバルパートナーシップディレクターなどの重要なポジションを7年間に渡り務めた後、2014年にFacebook社のバイスプレジデントに就任。 グローバルビジネスデベロップメントやモバイルパートナーシップをはじめ、 数多くの分野における事業提携業務を統括。2017年6月、執行役員Chief Business Officerとしてメルカリに参画。2017年9月からUS CEO。2020年9月上級執行役員就任。 -
円谷雄人(Yujin Tsumuraya、@u_gene)メルカリConnect UXチーム。新卒で株式会社VOYAGE GROUPに入社し、新人賞を授賞。その後ディレクションやマーケティング業務を担当。2010年に独立し、日本発の工芸品や作品を海外へ販売する事業をはじめ、フランスでも事業展開。2015年に帰国とともに株式会社ビズリーチに参画。2017年から株式会社メルカリにてプロダクトマネージャー(PdM)としてジョインし、新規事業やeKYC Projectのプロダクトマネジメントを経験。現在はアライアンス事業を担当している。 -
田井美可子(Mikako Tai、@mikako)メルカリHRBP。ニューヨークの国際NPOに5年半勤務しアフリカ諸国における教育・人材・経済開発施策に携わる。2017年5月に通訳/翻訳者としてメルカリ入社。当社のインドIIT採用プロジェクトを主導した後、Onboarding & Global Talent Outreachチームのマネージャーに就任、海外社員の受け入れと海外候補者アウトリーチを担当。2019年4月より、メルカリJPエンジニア組織の担当としてHRBP参画。2021年2月よりHRBPマネージャー。
なぜ「メルカリUS CEOのJohn」をメンターに選んだの?
@john:まずは@u_geneさんと@mikakoさん、「Exec Mentoring Program」への参加お疲れさまでした。僕はこのプログラムで、メンターとメンティーの立場や場所をブレンドして、フラットに話し合えたことがすごくよかったです。メルカリ米国事業(メルカリUS)と日本事業(メルカリJP)で起きていることの比較ができたり、情報交換しながらアクションを起こして物事がスムーズに進んだりと、学ぶこともたくさんありました。自己啓発にとどまらず、本当に会社のためになっている手応えがあったように感じています。
ところで…。そもそも、なぜお2人は僕をメンターに選んだのでしょうか?
John Lagerling(メルカリ上級執行役員 兼 US CEO、@john)
@u_gene:理由は2つあります。1つは、単純に一番話したことがない経営陣を選んで、飛び込んでみたかったからです。もう1つは、ぶつけたい悩みから選びました。というのも、僕の担当領域では、ビジネスサイドとプロダクト開発の間に入ることが多いんです。プロダクトマネジメントだけではなく、ビジネスサイドのアドバイスをもらうんだったら@johnさんがいいな、とイメージしていました。
@mikako:@johnさんは、これまで国際的な舞台でさまざまなステークホルダーを巻き込みながらビジネス推進をしてきた方です。そんななかで、国境や文化を越えた“@johnさん”という、どんな場面でも通用する人としてのブランドを確立していると尊敬していました。私自身も「これからどうなろう」と考えていた時期だったので、ぜひお話したいと思ったのが理由です。
@john:先に結果を聞いてしまうようなのですが、実際にどうでしたか?
@u_gene:プログラムを通じて、@johnさんを身近に感じられるようになりました。今までは全社定例などの壇上で発表している姿を見ることが多かったので、どこか遠い存在だったんです。でも、実際に話してみると、僕のバックボーンや歩んできた人生を含めて理解しようとしてくれました。壇上ではわからない、@johnさんの思慮深さを感じられました。なおかつ、1on1での会話をきっかけに自分の行動が変わり、キャリアの分岐点にもなりました。
円谷雄人(メルカリConnect UXチーム、@u_gene)
@mikako:私は、絶妙なタイミングにこのプログラムへ参加しました。なぜなら当時、担当業務には満足している一方でもっと非連続な成長の機会を欲していたり、自分らしい発信の仕方、インパクトの出し方を模索している時期でもあったんです。なので、@johnさんには1on1でキャリアやビジネスパーソンのスタンスについて漠然とした考えや意見を、たくさん壁打ちさせてもらいました。けっこう抽象的な話題も多かったので、答えるのが大変だったと思うんですけど(笑)。
そのようなやりとりをくり返して「経営陣のなかには、私を応援してくれている人がいる」という感覚を、このプログラムを通して得られました。初回の1on1でも、@johnさんが「自分を1人の“guy”として扱ってほしい」と言ってくれたのも、ここまで身近に感じられた理由だと思います。
田井美可子(メルカリHRBPチーム、@mikako)
理想像との乖離で悩んでいたときのアドバイスが「Ride on wave」
@john:プログラムを通して変化したことはありましたか?
@u_gene:僕はプログラムが始まる前、自分が得意としていて周りの方々からも求められる仕事と、自分がなりたい像との間で、少し乖離があることに悩んでいました。そういったキャリアプランを@johnさんに相談したら「Ride on waveだよ」という言葉をもらいました。求められているものに対してアクションを起こしてみる、乗っかってみるのも一つの道だよ、と。それを素直に実行したら、自分の仕事や環境がガラッと変わりました。
あと、プログラムを通じて発見したのは、プロダクトをグローバルへ向けてグロースさせるうえでの共通点。てっきり別々の課題があるかと思いきや、@johnさんの話を聞いていたら、メルカリJPもメルカリUSも基盤となる部分の悩みは同じなんだとわかりました。ファンダメンタルな部分のものづくりは、忍耐と努力が必要ですからね。1on1を通じて、メルカリUSも同じ方向へむかっているんだと確認できたのはよかったですね。
@john:自分の頭のなかのイメージに基づいて泳ごうとしても、上手くいかないことはあります。そして、そのイメージが必ずしも正しいとは限らない。だから、たまにはいい波がきたときに、勇気を出して乗ってみるのも非常に重要だと僕は思うんです。それができれば、どんどん新しい仕事がきて、キャリアづくりもできるはず。
そして…地味な作業は馬鹿にできない。スタートアップには、かっこいいことをやるイメージがありますよね。もちろんそれも重要なんですが、地味で大変な作業も企業の競争力につながっています。それを@u_geneさんが感じてくれたのはうれしいです。
@u_gene:1on1のなかで一番印象に残っているのは、キャリアプランを相談して方向性も固まってきたころ。「次は具体的なアクションを考えよう」となったとき、@johnさんに「直属の経営陣に提案してみなよ」と言われたことです。考えていたけれど行動に移せていなかったのですが、@johnさんに背中を押してもらい「そうだよね、やらないとダメだよね」と素直に思えました。そのあとで経営陣に提案したら、自分のチームが少し大きくなり、関係する領域も広がりました。それまで数回重ねてきた1on1があって、@johnさんとの信頼関係ができていたからこそ、実現した行動でもありました。
@john:僕はメルカリUSのCEOという役割があるため、ほかのメンバーから遠慮されてしまうことも多いんです。もちろんメンバーの気持ちもわかるのですが…ちょっとしたフラストレーションを感じていました。会社は、みんながいるから成立している。それに、僕も1人の人間です。だから、僕を前にしたとき、自分自身を小さく感じる必要なんてないんです。
上下関係を意識せず、フラットな感覚で素直に話し合えたほうがお互いにとっても、会社にとっても絶対にいい。そういう意味では、今回の1on1ではほどほどの距離を保てていた気がします。
「本音で話すと、会話の質が上がるんだな」と感じる1on1だった
@john:@mikakoさんはどうですか?
@mikako:変化のきっかけになったと感じたのは、@johnさんとキャリアの話をしたときに「過去にマネージャーになる機会があったけど、今はこういう理由でメンバーとしてHRBPをやっている」と伝えたところ、「影響力を出したいと思っているなら、マネージャーという立場のほうがレバレッジが効く。マネージャーになれるチャンスは、絶対ものにするべきだと思う」と言われたことです。なんと言うか、ハッとしました。@johnさんの「マネージャーになって、一緒に会社をドライブさせていこうよ」という言葉も、すごく心に響きました。
実は、過去に一度マネージャーからメンバーに戻って以降、次にマネージャーになるタイミングをしばらく悩んでいたんです。でも、@johnさんの助言があったおかげで「次にチャンスがあったら、ちゃんと掴み取ろう」と思えるようになりました。そして再びチャンスがあったので、今はマネージャーとして頑張っています!
@john:それはよかった!
@mikako:あと、いろいろ考えを共有していくなかで「それは違うと思うよ」とストレートに言ってもらったことも何度かありましたよね。今まで経営陣からフラットに意見を言われる機会はなかったので、新鮮でした。そして「その考えには同意できない」と言われているけれど、自分自身のことは肯定してもらっていると伝わってくるので…不思議な感覚でした。「本音で話すと、会話の質が上がるんだな」と体感した1on1でもありましたね。取り繕っていては本当にいいフィードバックは得られない。自分が持ちうるすべてを言語化し、出し切ることが、インパクトへつながるんだなと思いました。
@john:「あなたをリスペクトしている」という基盤があるならば、ハッキリと本音を言えた方がお互いにハッピーだと思うんですよね。だから、お2人とも本音で話してくれて、僕自身もすごくやりやすかったです。
僕がメンターをしてみて感じたのは、メンターは「教える」ではなく「まず相手の話を聞く」スタンスが大切だということ。話を聞くことは、相手が話すきっかけをつくることでもあると思うんです。自分の頭のなかで考えるだけでは進まなかったことも、誰かに話すことでスムーズに進むケースがあります。安心して話せる場を用意するのも、メンターにとっての重要な役割ですよね。
あと意識していたのは、大勢のミーティングでは共有しないような社内の事情や情報、経営陣の考え方を、できる範囲でメンティーに共有することです。そうすることで、信頼や理解が深まります。
@mikako:メンティー側としては「せっかく貴重な時間を経営陣のみなさんにいただいているから」と考え、これは話すべき・話さないべきと正しい答えを求めがちです。でも、その時々で自分が課題に感じていることを率直に伝えて、ちゃんと壁打ちさせてもらって…というプロセス自体がものすごく大切。1on1はある意味「正解がないなかでの話し合い」なのかなと思っています。
「この人は本当に相談していい人なのかな?」とジャブを打っていた
@john:今回のExec Mentoring Programでは「メルカリを愛している」という共通認識があり、かつそれぞれが別組織にいるからこそほどよい距離がありました。会社にとっても個人にとってもいい投資だと思うし、この規模の会社だからこそできるプログラムなので、今後も絶対に続けるべきだと思いました。お2人は、プログラムを終えてどうですか?
@mikako:最後の1on1で、@johnさんが「僕たちは今後もキープインタッチするよね」と、あえてカジュアルに終わらせてくれました。プログラムが終わった今でも「いつでも何か悩みがあったら@johnさんに連絡していいんだな」という感覚があります。
@u_gene:僕はプログラムが終わってから、自分のチームメンバーと1on1やコミュニケーションをとる時間が増えました。そこで、@johnさんとの会話で得たものを意識的に周りに伝えています。学びをみんなで共有することも、今回のプログラムが意図していたことですし、@johnさんへの恩返しになるだろうから。なので、また新しいエレメントが欲しくなったら、きっと@johnさんに相談しにいくと思います!
@john:もちろん!そこに遠慮はいらないですよ。お2人が今後も僕に相談してきたとしても、驚きも違和感もまったくないです。
@u_gene:僕はそういう@johnさんの人柄だからこそ、本音を言えたのかもしれません。正直なところ、今までキャリアプランを誰かに相談したことがあまりなかったんです。今回のプログラムでは、それにあえて挑戦してみようと思っていましたが、実は相談する前に「この人は本当に相談していい人なのかな?」とジャブを打っていた期間もありました(笑)。
(一同笑)
@u_gene:でも、@johnさんからもらった返事や返答が自分に刺さったというか、納得できることがとても多かったんです。例えば「地味な仕事は大事」という言葉など。みんなわかっていることだけど、CEOという立場にいる人がちゃんと言えるのが重要なんですよね。だからこそ「@johnさんに相談するのは間違いないな」と思えました。
@john:お2人ともBe a Proなので、僕はただ相談されたことに「こうしたらどう?」とか「やってみればいいよ」と言っただけなんですよね。それが今、すごく良い結果につながっているのは何よりです。会社やキャリアの相談は、同じ会社の人にするべきだと思っているんです。なぜなら、社内のことをよくわかっているから。でも、みんな誰に相談すればわからないから、まったく事情を知らない友人に相談してしまうことも多い(笑)。そういう意味では、このプログラムでは、自分で抱いた答えが本当に合っているかを相談できる相手を見つけられるところもメリットかもしれませんね。