メルカリにはさまざまなキャリアを持つメンバーが集まっているのですが、なかには「元CTO」ながら、現在は“いちエンジニア”として働くメンバーもいます。
2021年7月からメルコインへ異動したひらいさだあき(@sadah)もその1人。エンジニアとしてキャリアをスタートさせ、その後エンジニアのマネジメント、CTOを経験し、メルカリでは、エンジニア採用責任者として選考プロセスの改善などに取り組んでいました。
そんな多彩なキャリアを持つ@sadahが、メルコインでは再び“いちエンジニア”として現場に復帰したようで…?
その節々ではどんな意思決定があったのか。なぜメルカリからメルコインに異動を決めたのか?それらを紐解くことで、@sadahのキャリアに対する考え方が見えてきました。
この記事に登場する人
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ひらい さだあき(Sadaaki Hirai)大学を卒業後、SIerに新卒入社。その後カカクコムに入社し、レストランのインターネット予約サービスの開発に携わる。2015年1月にGoodpatch(グッドパッチ)に入社、2015年12月にCTOに就任。 2018年11月にメルカリに入社。Mobileチーム全体のEngineering Manager等を経て、EngineeringOfficeチームでエンジニア採用も担当。現在はメルコインのバックエンドエンジニア。
新卒エンジニアが「CTO」になるまで
ーまずは、@sadahさんのこれまでのキャリアを教えてください
@sadah:もともと大学ではコンピューターサイエンス系の学科で学んでいました。卒業してからはSIerに入社して流通系のシステムを担当していたんですが、ほとんどコードを書く機会はあまりありませんでした。そのため、部署異動を希望して異動先ではJavaやLinuxを専門にしたシステム開発やインフラ構築をしていました。
そして30歳の節目になり、これからの自分のキャリアを考えたときに、「このままSIを続けていて良いのか?」「もっとコードを書きたい!」という気持ちがありました。そこで今度は“Web系”の領域を経験したいと思ったんです。当時流行のRubyを使っていた、食べログを運営するカカクコムへ転職し、インターネット予約サービスの開発などに携わりました。主にRuby on RailsやJavaScriptを使ったプログラミングを行うなかで2年半ほど経った頃に「より小さなスタートアップにもチャレンジしたい」と思い、Goodpatchに転職したんです。
@sadah(Hirai Safaaki)
ーそのタイミングで「スタートアップに挑戦したい」と思ったのはなぜですか?
@sadah:新卒で入社したSIerは2~3千人規模の大きな会社だったし、カカクコムも一部上場企業で食べログもすでに大きなサービスだったので、「何かを自分で立ち上げる」という経験はまだできていなくて。その点、スタートアップではよりクイックに開発をしたり、自分で意思決定ができるかなと思ったんです。スキル面でも、当時多くの会社が使っていたRubyを書けるようになったことで、「エンジニアとしてはどこの会社でも働けそう」という自信がついていました。あとはもともとデザインが好きだったので、Goodpatchを選びましたね。
ーGoodpatchでは、思うような経験はできましたか?
@sadah:それが予想外の経験をすることに(笑)。「プログラミングをたくさんしたい」という思いで入社したものの、結果的にはマネジメントをやることになったんです。当時のチームには優秀なエンジニアが集まっていたんですが、プロジェクトマネジメントする人がいなかった。そんな中で「チケット管理やデプロイの方法を整えた方がいいよな」などと思い自分で色々やっているうちに、いつの間にか僕がプロダクト開発やエンジニアのマネジメントをするようになっていて。メルカリで言うと、テックリードのような仕事ですね。
そしてある日、「CTOをやりませんか?」と声をかけていただきました。ちょうど会社として執行役員を立てるというタイミングがあり、そこで初めてCTOという立場になりました。2015年1月に入社して、CTOになったのは同年12月くらいなので、あっという間のキャリア変化ですね。そこからメルカリに転職して今に至ります。
元CTOがメルカリで得たかった経験とは?
ーエンジニアとしても不自由しないスキルを持ち、CTOという立場もあった中で、なぜメルカリへ?
@sadah:Goodpatchで担当していたプロダクトの方向性が大きく変わったことと、今まで大きな組織から小さな組織まで見てきた中で、今度は「エンジニアリング組織をスケールさせる」という経験をしてみたくなったんです。当時はメルカリ以外にそういったフェーズの会社がなかったし、もともと知り合いの方もたくさんいたので入社したいと思いました。
ー悩んだことや不安だったことはありませんでしたか?
@sadah:とくに悩みはなかったですね。選考もメルカリしか受けていなかったので、「メルカリがダメだったらまた考えるか~」と思っていたくらい、あのときはメルカリ一択でしたね(笑)。僕があまり不安にならないのは、キャリアを筋道立てて考えていないからだと思います。「計画的偶発性理論※」という、“キャリアの8割くらいは予測できないことによってできていく”という考え方があるんですけど、まさにそれなんです。
(※スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授らが提案したキャリア論に関する考え方)
ーメルカリに入社してからはどんな業務を?
@sadah:メルカリに入社した2018年は、Mobileチーム全体のエンジニアリングマネージャー(以下EM)として、ピープルマネジメントやMobile開発のプロセス改善などに取り組んでいました。2019年からは、メルカリのEngineeringOfficeチームでエンジニア採用を担当し、新卒採用と中途採用の戦略立案や、選考プロセス改善などに取り組みました。
ー@sadahさんが入社した頃のエンジニアリング組織は、良くも悪くも“未整備状態”だった記憶です(笑)。もともとCTOや組織開発をしてきた@sadahさんから見て、当時の組織はどんな印象でしたか?
@sadah:ちょっと言いづらいんですが(笑)。エンジニアとプロダクトマネージャー(PM)、英語話者と日本語話者との間など、至るところでコンフリクトが起きていた印象です。あとは育成する環境が整っていないところへIIT(インド工科大学)の新卒メンバーが大勢入ってきたり、メルペイリリースのためにメルカリの優秀なメンバーたちがみんなそちらへ行ってしまったりと、色々なことが重なっていましたね。
ーそんな未整備な状況で、@sadahさんが変化させられた部分ってありましたか?
@sadah:結果として僕はMobileチームをしっかりとマネジメントしきれなかったので、反省の方が大きいです。ただ、その状況でもエンジニア採用はなんとか進めていて、現在メルカリでCTOを務めている@kwakasaさんを採用した時期でもありました。後の組織をつくるうえでは、少しは貢献できたのかなと思います。
ー@sadahさんが感じている、現在のエンジニアリング組織の強みや課題はなんですか?
@sadah:まだまだ課題は多いにしろ、少しずつ改善は進んでいるなと思っています。具体的には、僕がMobileチームにいたときのEMは、日本のメンバーが多かったんです。でも今は、メルカリでも外国籍のEMメンバーがかなり増えています。僕が入社した頃よりはさまざまなバックグラウンドを持った方が働きやすい環境になっていると思いますね。あと、「エンジニアリングラダー」ができたことで、エンジニアに求めることの言語化が進み、ハイコンテクストだった期待値がローコンテクストになってきました。
D&I観点の課題で言うと、現状ではエンジニアリング組織のジェンダーの割合が男性に偏ってしまっているところです。もうひとつの課題は、開発していくうえでのファンデーション(基礎)となる部分にこれまであまり投資ができていなかったところ。それは今、@kwakasaさん主動でプロダクトのベースの部分の改善に力を入れているところです。
ー経歴の話に戻りますが、その後MobileチームのEMから、メルカリのEngineeringOfficeチームに移籍しています。どんな経緯があったんですか?
@sadah:正直に言うと、Mobileチームの方でなかなか成果が出せなかったから。そして、その時期にメルカリがエンジニア採用を強化していくフェーズだったからですね。そんな中で僕がCTOとしての経験があったり、メルカリでも採用活動に携わったりしていたので、EngineeringOfficeチームで採用を見るようになりました。
チームでは、最初は中途の採用関係、そのうちに新卒採用もするようになり、そのあとはDevDojo(新卒エンジニア向け研修)、最後はD&I活動にも関わるなど、徐々に業務を広げていった感じです。
ーエンジニア採用にコミットして、なにか変化はありましたか?
@sadah:ひとつのことに注力させてもらったので、より集中して取り組めました。あとは、一度Mobileチームを見てメルカリのプロダクト開発の現場を知った経験から、起きている課題などをEMだけで解決していくのはリソース的に難しいとも感じていました。そこで選考プロセスの課題などをEngineeringOfficeチームのメンバーとして関わり、改善していけるところに意義を感じていました。
最終的には、TA(採用)チームが母集団づくりをして、EngineeringOfficeチームで選考プロセスの改善に注力するなど、お互いに役割分担をしながら採用活動も改善できるようになりました。
メルコインでは、再び“いちエンジニア”としてスタート
ーそして2021年7月に、メルコインへの異動ですね。どんなことをしているんですか?
@sadah:ソフトウェアエンジニア(バックエンド)をしています。
ー統括する立場から、再び“いちエンジニア”として現場に戻られたんですね。そこにはどういった背景が?
@sadah:僕は「計画的偶発性理論」のもとキャリアを考えているので、せっかくよい転機があるならそれを選択する心づもりをしていたいし、そういったときに声をかけてもらえる人でありたいとも考えています。そのため、日々の仕事を丁寧にやることを意識していました。
同時に、もともとコードを書きたくてエンジニアをしていたので、「また現場に戻っても良いな」という気持ちがあったんです。そんなときに、「メルコインのエンジニアリングマネジャーをやりませんか?」と声をかけてもらったんです。僕としては手を動かしたかったので、「コードを書くことから遠ざかっているので、最初はソフトウェアエンジニアとして関わることはできますか?」と相談し、受け入れてもらえました。
ー将来的なマネジメントを見越してのエンジニア回帰だったんですね
@sadah:単にコードを書きたいだけではなく、今後マネジメントをするうえでも、メルコインで使う技術やアーキテクチャを理解しておいた方がスムーズだと思ったんです。あとは、プロダクションのコードや開発から遠ざかってしまっていたので、いったん自分の中の知識をアップデートしておきたいなという思いもありました。EngineeringOfficeにいたときも、競技プログラミングをやってみるなど、コードを書くチャンスがあったら書くようにはしていたのですが、実践に勝るものはないので。
ー異動の際には技術課題も受けられたそうですね。
@sadah:メルカリグループでは「ローテーションプログラム」という社内異動のプロセスがあります。例えばバックエンドエンジニアがiOS、フロントエンドエンジニアがBackendなど、新しい技術領域に挑戦するときに、一部の技術領域には外部からの一般選考と同じ技術課題を設けているんです。僕自身、コードを書くようにはしていたものの、本当にできるのか試してみたかったので、自分の実力を知るにもちょうど良い機会でした。
ただ、平日は仕事をしたあとに課題をやって、土日もコードを書いてっていうのは大変でしたね(笑)。課題内容自体は、コーディングだけでなく、設計など色々な知識が問われるもので、自分の実力確認にはとても良かったです。
ー異動するときに悩んだことなどはありましたか?
@sadah:繰り返しになりますが悩みはありません(笑)。しいて言えば、異動までのスケジュールがタイトだったことですね。最初に声をかけてもらったのが2021年6月7日頃で、異動したのが7月1日。その間に技術課題を1週間やり、引継ぎもやり…という感じです。
良いプロダクト開発には“エンジニアと他職種との連携”が必要不可欠
ー最後に、メルコインを含めて今度どんなことをしていきたいか、@sadahさんのキャリアプランを聞かせてください!
@sadah:メルコインは組織を立ち上げていくタイミングなので、これまでのメルカリグループの組織づくりや経験を活かして、「スケールするエンジニアリング組織」をつくっていきたいですね。当然「良いプロダクトをつくる」という前提のもとで。そこへの関わり方は、エンジニアとしてもありますし、ゆくゆくはエンジニアリングマネージャーとしてかもしれません。
メルカリでの経験から、プロダクト開発をうまく進めるためには、エンジニアリング組織だけを改善しても限界があります。それに、エンジニアリング組織だけがハッピーだったら良いわけではないと感じています。良いプロダクト開発には、PMやほかの職種の方との連携がとても大事。それを踏まえて、最終的に“みんながハッピー”に仕事をできる環境をつくっていきたいと思っています。