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世界基準のサービス開発を経て思う、プラットフォーマーと開発基盤のあり方とは。メルカリCTO若狭建

2021-12-2

世界基準のサービス開発を経て思う、プラットフォーマーと開発基盤のあり方とは。メルカリCTO若狭建

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2013年のサービス開始から8年が経ち、月間利用者数が2,000万人を突破したメルカリ。しかし今、表向きの成長の裏側で大規模な開発基盤の見直しが全社をあげて進められています。

そのプロジェクト名は「Robust Foundation for Speed(以下、RFS)」。メルカリグループ全体の非連続的な成長を支えるために、ビジネス共通基盤の複雑な技術的課題の解決と抜本的な強化を図るプロジェクトです。

今回のメルカンでは、「RFS」と名付けられたこの大規模プロジェクトに関わるキーパーソン4名を取材。それぞれのキャリアにフォーカスしながら、なぜ開発基盤の大幅な見直しを“今”行うのか。どのような形でプロジェクトに携わっているのかを語ってもらいました。第一回目に登場するのはRFSの名付け親でもあるメルカリCTOの若狭建(以下、@kwakasa)です。

※撮影時のみ、マスクを外しています

この記事に登場する人


  • 若狹 建(Ken Wakasa、@kwakasa)

    東京大学大学院工学系研究科情報工学専攻修了。Sun Microsystems、Sonyでハードウェア(携帯電話・AV機器)関連のソフトウェア開発を担当。GoogleにてGoogle Mapsの開発に従事した後、2010年以降、Android OS開発チームでフレームワーク開発に携わる。Appleでのシステムソフトウェア開発、LINEでのLINEメッセンジャークライアント開発統括を経て、2019年8月、Director of Client Engineeringとしてメルカリに参画。2021年7月、執行役員 メルカリジャパンCTOに就任。


エンジニアドリブンな会社を渡り歩いて

 

ー@kwakasaさんのファーストキャリアは富士通研究所ですよね?どういった理由で選んだのでしょうか?

実は深く考えて選択したわけではないんですよね(笑)。大学で情報工学を専攻していたのと、研究室の先輩が富士通研究所で働いていたのが大きかったですね。スーパーコンピューター上で動かすフレームワークを開発したりと技術的にすごく面白い経験ができたのですが、そこで関わっていたお客さまは一般的な「生活者」ではなく、大学の研究所や金融機関。もっと身近な生活者に近いプロダクトに関わりたいと思い、アメリカのシリコンバレーに本社があるSun Microsystemsに転職しました。

若狹 建(Ken Wakasa、@kwakasa)

ーSun Microsystemsではどういったことを?

Sun MicrosystemsがJavaを開発した会社だったこともあり、Java実行環境 (Java Virtual Machine や Java Core Runtime) の開発に携わっていました。当時は日本の携帯電話が世界最先端だったので、携帯端末でももっと動的なコンテンツを扱えるようにしよう、と。Sun Microsystemsは“ザ・シリコンバレー”と呼んでもいいくらいエンジニア中心の企業で、組織としてもすごく魅力的でしたね。シリコンバレーにも何度か出張で足を運ぶ機会があり「エンジニアが世界を変えているんだ」という実感を得ることもできました。

ーSun Microsystemsの後はSONYに転職していますよね?

2001年にアメリカでドットコム・バブルが弾けて、多くの企業で人員整理が始まっていたんです。Sun Microsystemsの日本法人は解雇が始まるほどではなかったんですけど、自分のキャリアについて考えた結果、違うことに挑戦してみたくなって転職しました。SONYには知り合いの先輩や後輩が何人か働いていて、彼らから「面白いことがたくさんできる」と聞かされたのが大きかったですね。また当時はPlayStation 2が大ヒットしたこともあり、ソフトウェアエンジニアの需要が高まっていたんですよ。

ー当時のことで印象に残っていることはありますか?

SONYには設立趣意書というのものがあって、そこには「真面目なる技術者の技能を、最高度に発揮せしむべき自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」と書かれているのですが、エンジニアが面白いものをつくって、世界で売れて、世界が変わるという考え方があったように思います。これまで僕が働いてきた企業と比べても遜色がないくらい、すごくエンジニアドリブンな会社でした。結果として4年半ほど在籍していたのですが、現場のマネージャーやエンジニアたちが反骨精神あふれる人ばかりで、SONYの創業期の人たちが言っていた「面白いことは上司に黙ってやれ」を地でいく雰囲気がありましたね。

世界規模のサービス開発で学んだ2つの大切なこと

 

ーGoogleに転職されたのはどういうきっかけがあったんですか?

Sun Microsystemsで一緒に働いていた同僚からの誘いがあったんです。その当時、Googleはウェブ検索機能以外にGoogle マップやGmailなどのサービスも多くの人に使われ始めた時期で、僕の経歴としても貢献できることがありそうだったので転職しました。このときの経験が今でも活きています。なかでもすごく勉強になったことが2つあります。1つ目が「安易なローカライズをしない」こと。

ーどういうことですか?

当時、僕はGoogle マップのルート機能の開発を任されたのですが、特に日本の都市部は歩道橋があったり、歩行者専用道や横断歩道があったりと交通事情がすごく複雑なんです。Google マップが当時使っていた日本国内の地理データでは、それらも含め詳細な道路ネットワークがデータ化されていたんですね。それを考慮すると日本の事情に合わせてロジックをローカライズした方が効率が良いと当初は考えました。でも、グローバルで1つのデータベースでつくらないとスケールしないという結論になり、複数のエンジニアで手分けをして、新たな要件をモデル化していきました。

ー膨大な時間がかかりそうですね。

2年弱かかりました(笑)。でも、そのおかげで世界中のどこにいても同じ体験でGoogle マップを使うことができるわけです。もし各国向けにそれぞれローカライズされたものをつくっていたら、ここまで拡がりのあるサービスになっていなかったでしょうね。そしてGoogleでは、例えばGoogle検索でも同じことをしていて。何か追加で機能を加えたい場合は、システムの根幹部分から変更を施すようにしているんです。普通だったら、完成している部分をいじりたくないと思うんですよ。

ー確かに。でも長期的に考えると、無闇に小手先のテクニックに頼って機能を追加するよりもコストもリスクも下がるということですよね?

まさに。それとは別にもうひとつ学んだことがあります。それが「身内を特別扱いしない」こと。実はGoogle マップの開発がひと段落ついたタイミングで転職しようと考えていました。ところが、転職を考えていた企業が買収されてGoogleへ参画することになったんです。それで転職する理由がなくなってしまって(笑)。

結局Android開発チームに異動してAndroid OSのフレームワークやコアアプリケーションを開発していたのですが、Androidはもともと別会社だったこともあり、意思決定が独立していました。彼らは、Google社内の他チームから「特定のサービス向けに特別にAPIを足してほしい」といった要望があっても絶対に断るんです。パブリックになるならやるけど、あなたたちだけのためならやらない、と。

ーすごい徹底ぶりですね。

でも、それくらいしないとOSにはならないんだということを身をもって実感しました。事実、僕が異動した当初の時点でAndroidのアクティブユーザー数は100万人程度だったのですが、その後、約5年で10億人を超えたんです。そこまでの規模になれた大きな理由の1つは「中立性を保っていたから」だと思っています。

しっかりとした基盤がないと「良い場」はつくれない

 

ーその後、@kwakasaさんはAppleやLINEを経由してメルカリに入社しています。どのような学びが現在に活きていると思いますか?

LINEでは単なるサービスではなく、いわゆるエコシステムやプラットフォームと呼ばれるような社会の公器になることが一般のお客さまにとってどんな意味を持つのかを学びました。僕の言葉にすると「場をつくる」ということでしょうか。その後、メルカリに転職したのも「場をつくる」ことへの共感が大きかったからなんですよ。

ーメルカリは「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」をミッションに掲げていますが、そこに共感したということ?

それってつまり、メルカリ以外の企業や個人が参加できる場をつくるということでもありますよね。そのミッションを達成するためには、過去にエコシステムやプラットフォームを生み出した先人たちに学ばないといけないし、どんなに過酷でも同じ道を通っていく必要があるんですよ。その1つが基盤の整備なんです。しっかりとした基盤がないと良い場はつくれないので。

ーそれが今回の「RFS」の実践につながるわけですね。でも、なぜこのタイミングだったのでしょうか?

最も大きい理由は、経営陣と合意形成が取れたことです。実は1年くらい前から進太郎さん(メルカリ代表取締役CEO、山田進太郎)に開発スピードについて指摘されていました。クオリティを求めすぎるあまり、デリバリーやリリースが遅れているのではないかと。確かにその側面がなかったわけではないのですが、それ以上に開発基盤に問題があり、スピードを担保できない状況があったんです。

ー開発基盤の問題とは具体的にどういうものですか?

ソフトウェアっていろんな部品を組み合わせて動いていて、それぞれに影響し合っているんです。事実、メルカリの基盤はモジュール数が膨れ上がっていました。しかも、何がどう作用したり依存しているのかすぐにわからない。そのため、そのすべてを確認してからでないとそれぞれのモジュールに触ることができないわけです。

ーその結果、時間が掛かって開発が遅れてしまう?

はい。だから基盤改善への投資強化が必要だと進言して、承認を得られたのが2021年5月でした。そのタイミングで僕がメルカリCTOに就任することが決まったので、陣頭指揮を執ることになったんです。

メルカリがビッグ・テックになるために

ー@kwakasaさんはCTO就任時に「RFS」を推進していくと宣言していましたよね。具体的にどのような役割を担っているのでしょうか?

僕の最大の役割は「RFS」の必要性を社内外に向けて説明していくことだと思っています。何が問題で、何を解決しようとしているのか。その理解が多くの人に浸透することで、エンジニアたちの動きやすさも変わるはずなので。

実際のところ「開発基盤を整えます」と宣言してもわかりにくいと思うんですよ。これが機能追加だったら「こんな新しい機能が追加されました」と言えばわかるじゃないですか。でも、今回の件については水面下で動いていることなので、何をやっているのかあまりピンとこない人もいるはずです。

ー水道管やガス管のメンテナンスに近いですね。

そうですね。メルカリはおかげさまで月間2,000万人以上のお客さまにご利用いただくまでのサービスになりました。ただ、当然ですが初期段階ではそれほどの規模になることを想定していたわけではないので、システムに限界が近づいているわけです。だから今、このタイミングで基盤を整えなければいけません。サービスが成長していくうえでこれは避けて通れない道でしょう。

とはいえ、これだけの規模の改修をお客さまが使い続けている状態を保ったまま実行するのはすごく大変なこと。これは「RFS」のプロジェクトをリードしている塚さん(@mtsuka)が話していた例えですが、飛行機が飛んでる状態でエンジンを変えるような取り組みなんですよね。

ー聞いているだけで難しそうな…。

ただ、世界的IT企業、いわゆるビッグ・テックと呼ばれる各社もこうした地道な取り組みを当たり前のように実践しています。何より、それができてはじめてビッグ・テックと呼ばれる存在になれるんですよね。そこでは「難しいうえに水面下で目立たない仕事」に取り組むエンジニアが高く評価されますし、それを誇りに思っている人もたくさんいます。メルカリでもそういう文化をきちんと築いていきたいなと。

ー水上を優雅に泳いでいるように見えるけど、水面下では必死に足をかいている?

メルカリもそういうフェーズにきていると思います。華やかに見える面がある一方で、目立たないけれどすごく重要な取り組みもしなければいけない。それが実現できなければ、我々が掲げている壮大なミッションは達成できないだろうし、そのための必須条件だと考えています。

ーメルカリはよく完成されたサービスのように思われることも多いですが、実は課題も多いのが実情ですよね

メルカリは大きなサービスになりましたが、さらに大規模なサービスになっていくための準備が整っているとは言えません。まだまだ成長していく可能性を秘めているし、そのためには解決しなければいけない課題も山ほどあります。なかでも今取り組んでいる「RFS」は、技術的観点でメルカリがスタートアップ企業から脱皮するターニングポイントになると思います。

そして、今回の機会を逃したら二度とチャンスが来ないくらい面白く、そして難易度の高い取り組みです。大きい規模の会社になると巨大なプロジェクトの一部を任されて終わることがほとんどですが、今のメルカリの規模であれば全体を見渡しながらプロジェクトに携わることもできます。こうした経験は非常に稀有だし、間違いなくエンジニアとして大きく成長できる機会になるはず。我こそはという方がいれば、この険しい山をぜひ一緒に登りましょう。

おわりに

この記事を通して、メルカリが取り組む「Robust Foundation for Speed」プロジェクトに携わるキーパーソンの思いが伝われば幸いです。そして現在、この大規模な取り組みを一緒に成功させるための仲間を募集しています。

少しでも興味を持っていただけたら、ぜひ以下の特設サイトをチェックしてみてください。より技術的な話をプロジェクトメンバーが語る「mercari engineering」の記事や、採用イベント情報がまとまっています。

応募はこちらから!ぜひお気軽に!

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