メルカリでは「お客さまの声を重視する」ため、プロダクトマネージャーが中心となり、カスタマーサービスに寄せられた声を分析してプロダクトへ反映するほか、ユーザビリティテストを実施してきた歴史がありました。
お客さまの声をさらに重視するために、メルペイでUXリサーチチームが発足したのは2018年11月のことでした。その経緯は、こちらのメルカン記事にあるとおりです。
そこから3年が経ちました。前出のメルカン記事では「お客さまの豊かな体験を実現するために本質的な問いを立てられるUXリサーチャーでありたい」と書き綴っていた彼らですが、その手応えは?メルペイUXリサーチチームの草野孔希(@keiny)と松薗美帆(@mihozono)に話を聞きました。
※取材時のみマスクを外しています
この記事に登場する人
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草野孔希(Koki Kusano、@keiny)電気通信大学大学院修士課程修了後、通信事業会社の研究所に入社し、デザイン方法論の研究および研究知見を活用したコンサルティングに従事。同時に社会人博士として慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科にて博士後期課程を修了博士(SDM学)。2018年11月にUXリサーチャーの1人目としてメルペイに入社し、UXリサーチを活用したサービスデザインに取り組む。 -
松薗美帆(Miho Matsuzono、@mihozono)国際基督教大学教養学部卒、文化人類学専攻。リクルートジョブズに新卒入社し、人材領域のデジタルマーケティング、プロダクトマネージャーに従事。リクルートテクノロジーズに出向し、UXリサーチチームの立ち上げに携わる。2019年よりメルペイにてUXリサーチャーとして、新規事業立ち上げやUXリサーチの仕組み作りなどに取り組む。北陸先端科学技術大学院大学博士前期課程に社会人学生として在学中。2021年、著書『はじめてのUXリサーチ』を出版。
ユーザビリティをテストする人→企画の初期からいると助かる人
ーメルペイUXリサーチチームが発足して3年経ちました。振り返ってみてどうですか?
@keiny:3年前と言えば、まだメルペイはリリースされていませんでした。今や無事にメルペイをリリースしただけでなく、メルペイスマート払いの翌月払いや定額払い、バーチャルカードも誕生しています。さらに言うと、2020年2月からは新型コロナウイルスの感染拡大防止のために在宅勤務がスタート。そのため、1年半はリモートでリサーチ業務をしていましたし…。「何があったんだ!?」と言いたいくらいに一瞬で過ぎ去った3年間でした(笑)。
草野孔希(@keiny)
@mihozono:私、メルペイへ入社する前は「スタートアップのフェーズだから、私が所属するのは3年くらいかな」と思ってたんですけど、ふたをあけてみると「もう3年か」みたいな気持ちです(笑)。
ーお2人が入社したとき、メルペイではどのようにUXリサーチが行われていたんですか?
@keiny:UXリサーチというより、ユーザビリティテストは多く実施されていた印象です。少数でしたが、探索的なユーザーインタビューをしている人もいましたね。メルカリグループでは、当時からお客さまの声を重要視する文化がすでに根付いていました。僕らとしては、メルカリグループのその姿勢に対して「もっとできることはありますよ」と伝えてきた3年間でもありました。
@mihozono:そういう意味では、私たちUXリサーチチームにとって「土台づくり」に費やした3年間でしたね。私たちは数字には表れにくい「お客さまの声」を拾い上げる役割。そういった定性的なものは、認知・評価されるまでに時間がかかります。@keinyさんが話したとおり、メルカリグループではお客さまの声を重視する文化はあったものの、UXリサーチのイメージが少し狭かったように思います。
だから、UXリサーチャーとして主業務をこなしながら、UXリサーチの手法がいかに多様で効果があるかを社内へ発信し続けてきたんです。うれしいことに、3年前に比べて協力してくれるメンバーも増え、私たちが関われる仕事の範囲も増えました。「UXリサーチャー=ユーザビリティをテストする人」だけでなく、「お客さまのことを深く理解しているからこそ、企画の初期から関わってもらえると助かる人」に変わった気がします。@keinyさんも、最近はプロジェクト初期段階のカオスな状態のMTGに参加することが増えましたよね?(笑)。
松薗美帆(@mihozono)
@keiny:ですね(笑)。お客さま視点を大事にしているサービスだから、「UXリサーチの使いどころ」がわかると、早い段階で声をかけてくれるんです。UXリサーチの認識が噛み合ってきた手応えがあります。先日、マーケティングメンバーが集まる定例に参加したんです。そこで「UXリサーチチームは、どんな場面でも“お客さまがいること”を思い出させてくれる貴重な存在」「視点を戻してもらえる」と言われました。すごくうれしかったし、引き続きその役割を担える存在でありたいと思いましたね。
メルペイの採用ページを見て「私を呼んでいると思った」
ーお2人とも、前職はUXリサーチとは異なる仕事をしていたと聞きました。なぜUXリサーチャーになろうと思ったんですか?
@mihozono:私は大学時代に文化人類学を専攻していて、フィールド調査やインタビューを行っていました。でも、当時は周囲から「そういった学問は就職では役に立たないのでは」と言われていたこともあり、仕事に活かそうなどと考えずに就職しました。なので、ファーストキャリアは「マーケター」だったんです!ところが、数字を追い続ける毎日にモヤモヤするようになっていきまして。そんなとき、当時の先輩に「文化人類学を専攻していたなら、UXに関する仕事が合うんじゃない?」と言われたんです。
そこで初めて、UXという単語自体も知りました。その後、UX関連の業務を行う部署へ異動。勉強しながら、ゼロベースで実践を重ねていきました。その中でも特にユーザー調査の業務が自分にとって面白く、「これって文化人類学でやっていたことに似ている」と気づいて。原点回帰でした。そしてUXリサーチを専門的に行える場を探すなかで出会ったのがメルペイです。
@keiny:@mihozonoさんは、メルペイでUXリサーチャーの採用ページを見たときに「私を呼んでいると思った」って話をすることがありますね(笑)。
@mihozono:そうそう(笑)。メルペイの採用募集ページを見て「これ、全部できるわ!」「逆に私以外いる?」と思いましたね。それに、当時はUXリサーチャーという職種の募集もあまりありませんでした。メルペイがお客さまの声を重視する!というメッセージだと感じていました。
ー@keinyさんは?
@keiny:僕は前職でデザイン方法の研究をしていました。どんなデザインすればお客さまにとっていい体験を作り出せるのか、つくり方を研究するようなものです。世の中にはいい方法がたくさんあることを研究を通じて感じていました。ところが、それを実践できる人は少ない。世の中にいい方法を広めるにはどうしたらいいかを考えていたなかで「自分自身が実践できる場所へ行こう」と思うようになりました。
ちょうどそのタイミングで、@miyattiさんからメルペイでUXリサーチャーの募集が始まると聞きました。話をくわしく聞いてみると、調査だけでなく調査結果を活かしたデザインスプリント(短い期間でプロダクトの成功確率を高めるためのデザインプロセス)のオーガナイズも任せたいという話を聞いて…これなら自分にあっているかもしれないと思ったんです。さらにこれから大きく変化していくであろう決済・金融事業という業界的な面白さを、実践を通じて体感できるチャンスでもある。これは良い機会だと思って転職することを決めました。
UXリサーチで、メルペイの倫理を守る
@keiny:僕からも@mihozonoさんに質問したいです。先ほど「土台ができた」と話していましたが、次にやりたいことはもうあったりしますか?
@mihozono:メルペイを含めて国内外の信用事業を見ていて感じたのは「信用を創造するということは、倫理の番人が必要な事業だな」でした。事業なので、当然ながら売上を伸ばしていかなきゃいけない。一方で、お客さまに対して公共性のあるサービスを提供していくような感覚も必要。私たちUXリサーチャーは「口うるさい」と言われてもお客さまの立場で大事にすべきことを主張していく必要があります。
その役割をしっかり担うために、UXリサーチチームをもっといろんな場面で信頼してもらえるポジションにしたいと考えています。そのためにも、事業を健全に伸ばし「UXリサーチに投資した結果、事業が成長している」という結果も出したいんです。倫理観を大事にしながら事業を成長させるのは難易度が高いけれど、これを達成できればUXリサーチの価値も認められ、業界にも大きなインパクトを与えられると思っています。
@keiny:豊かなお客さま体験と事業成長の両立は大事なところですね。メルカリグループとしても「循環型社会を目指す」と公言していますし、@mihozonoさんが話していた倫理観も欠かせません。
@mihozono:@keinyさんが次にやりたいことは?
@keiny:メルカリ・メルペイの体験をもっとなめらかに、1つにしたいですね。お客さまにとってメルペイは「メルカリアプリの中にあるサービス」。そこに、ポテンシャルがある。モノの流通とお金の流通を別け隔てなくなめらかにできたら、世の中が変わるんじゃないかと思っているんです。
そしてもう1つチャレンジしたいのが、UXリサーチの力で業界の常識をひっくり返すようなサービスを実現すること!
ーひっくり返す!
@keiny:そうです。金融業界が培ってきたスキームには「わかりやすさや使いやすさ」が足りないところがあると思っています。もちろん、今までのやり方を否定するわけではありません。ただ、僕はより良いUXを実現できるようにサービスを磨き込み、「メルペイはお客さまにやさしいサービスだから事業的にも成功した」という事例にしたい。これは、僕のミッションだと思っています。
@mihozono:ひっくり返したい気持ち、わかります!通常ならば「多数のお客さまから得られた声=事業インパクトへつながる」という認識があります。でも、たった1人の気付きから事業にインパクトを与えることだってあるんじゃないかと私は考えています。そういった新たな事例を、メルペイで証明してみたい。UXリサーチャーは、それができるポジションです。だから日々チャレンジしがいがありますね!
メルペイでUXリサーチャーをする魅力は「価値観をひっくり返せること」
ーメルペイでUXリサーチャーをすることのメリットは?
@keiny:金融事業でUXリサーチをすることのおもしろさは「人によってお金に対する考え方がぜんぜん違うところ」です。それゆえに、調べないとわからないこともたくさんある。他の人から見ると非合理的でも、その人なりの合理性を持っていたりするんですよね。そんな多様さを知りながら、プロダクトづくりにつなげていく楽しさはメルペイならではです。
一方で、プロダクト開発での議論にも一歩踏み込むことが求められる環境でもあります。いわゆる「調査してレポートをまとめたら終わり」じゃない。だから、リサーチだけをしたい人には合わないかもしれません。リサーチ業務からどんどん踏み込まないと「メルペイでUXリサーチャーをするメリット」にたどり着けないと言いますか(笑)。
@mihozono:「私の領域はここまでです」といった感じのやり方はしていません。どちらかというと、UXリサーチを活かしてメンバーの価値観をひっくり返したり、事業を大きく変えたりしてみたい人が合っていますね!
ーまた「ひっくり返す」が出た!(笑)。
@mihozono:大事なキーワードです(笑)。むしろ、それこそがメルペイでUXリサーチャーをするメリットかも!かくいう私も、UXリサーチというより「そのスキルを武器に何かしたい」と考えているタイプですし。
ーUXリサーチャーがより事業に参加するため、必要なことは?
@keiny:やはり、UXリサーチャーに限らずさまざまなメンバーが自然にUXリサーチに触れられる・行える状態をつくることでしょうか。それが「本当にUXリサーチが浸透している状態」なんですよね。そういった状態を実現するには、さらに社内でUXリサーチの認知・価値を高めることが必要でしょう。今後は、経営陣ともUXリサーチを活かして事業についてディスカッションするなど、All for Oneに多様なメンバーがUXリサーチを活かせる状況をつくりたい。僕らが「UXR Academy」のような、UXリサーチを他メンバーでも行えるように、実践的に学べる仕組みをつくっているのはその一環です。
@keiny:専門家がいなくても当たり前のようにUXリサーチを活かして、豊かなお客さま体験とはなにかを熟慮できる環境ができれば、事業も組織も次のステージへ進める。UXリサーチャーはそれをファシリテートする役割も担っていくことになります。そしてそのような環境は、UXリサーチャーの活躍の幅もさらに拡げてくれる。メルペイは、それができる会社です。
@mihozono:先ほどお話ししたとおり、今のメルペイはようやく土台が整い、UXリサーチという領域にとらわれないチャレンジをしやすい状態になっています。UXリサーチを武器に、経営へコミットしたり、事業を立ち上げたり、何ならメルカリ・メルペイを横断してみたり。そんな挑戦がしたい方、ぜひ一度お話させてもらえればと思います!