メルカリグループが定義するエンジニアリングマネージャー(EM)の役割は、メンバーの能力を最大限に発揮させること、そのための障壁をなくすこと──。
そんなEMに、採用面接時から「やってみたい気持ちがある」と話し、現在その役割を担っているメンバーがいます。では、実際にEMをやってみてどうだったのでしょうか?いちエンジニア時代に比べてギャップは?
今回のメルカンでは、ソフトウェアエンジニアやテックリードを経て、現在はEMとして活躍する横溝 崇(@shu)にインタビュー。聞き手は、彼の採用面接を担当したメルペイEMの主森 理(@osamingo)です。
※撮影時のみマスクを外しています
この記事に登場する人
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横溝 崇(Shu Yokomizo、@shu)2013年、新卒でヤフー株式会社に入社。クレジットカードサービスの開発・運用を担当。入社4年目からは福岡にある子会社へ出向し、開発や運用、更には課題解決や新卒教育に2年間取り組む。帰任後システム刷新プロジェクトに従事したのち、2019年8月にメルペイへ入社。Backendエンジニア、テックリードを経験後、現在はメルペイBackendチームのEMを務める。神奈川県出身。Slack名は@shu(syokomiz)。 -
主森 理(Osamu Tonomori、@osamingo)2016年にメルカリへ入社し、「メルカリ カウル」の立ち上げや運用を担当した。現在は、エンジニアリングマネージャーとしてメルペイのBackend/Architect領域を担当している。また、Technical Program Managerとして官公庁や、アライアンス案件等を担当した。趣味はOSS開発、「エキスパートたちのGo言語(技術評論社刊)」共著者、神奈川県出身。Slack名は@osamingo。
採用面接で放った「EMになる未来も考えています」
@osamingo:@shuさんと最初に会ったのは採用選考の時でしたね。当時はBackendチームの採用を担当していたので書類選考や技術課題の採点、面接まで担当していたんです。
@shuさんとは面接で「社会人としてどんなキャリアや未来を描いていますか?」という質問をした記憶があります。そのとき、@shuさんは「エンジニアは好きだけど、手段の一つだと思っています。プロジェクトマネージャー(PjM)やエンジニアリングマネージャー(EM)になる未来も考えています」という話をしましたよね?
@shu:そうですね。入社前からエンジニアに限らず、自分が貢献できることであればなんでもチャレンジしてみたいと思っていました。
横溝 崇(@shu)
@osamingo:メルカリやメルペイにはスペシャリストが多い印象もあります。でも、@shuさんはソフトウェアエンジニアでありつつ、視野も広くてすごく良いなと。今後メルカリグループが組織を拡大していくときに必要な「ゼネラリスト思考」があり、なかなか出会えない人材でもあるように思っていたんです。
そもそも@shuさんはどうしてメルペイへ入社しようと思ったんですか?
@shu:入社の大きなきっかけとなったのは、前職の同期が先にメルペイに転職していたことですね。会社の雰囲気がとても良いと聞いていましたし。
当時の僕は新卒6〜7年目だったのですが、ずっと同じサービスを担当していたこともあり、そろそろ異なるカルチャーの会社で新しいことにチャレンジし、自分自身も成長させたいと思い始めていました。そこで、転職を検討していたんです。そうしたら、転職サイト経由で当時のメルペイEMに声をかけてもらい、カジュアル面談することになりました。
カジュアル面談ではメルペイのプロダクト周りもくわしく聞くことができ「前職で培った知識やスキル・経験も活かせるし、面白そうだな」と思い、入社を決めました。
「自分なりのTLになればいい」と後押しされエンジニアからTLへ
@osamingo:入社後すぐはQRコード決済チームに配属していましたね。実際に入ってみてどうでしたか?
@shu:実は僕、メルペイの技術スタック(Go、GCPなど)をほぼ経験せず入社しているんですよね。そのため、入社して半年くらいはひたすら開発タスクを通して技術スタックやドメイン知識を習得していました。
その後、加盟店さまの申込み/審査ツールの開発や、管理などを行うPartner Platformチームへ異動。当時のテックリード(TL)が一人で開発から運用、相談や調査を引き受けていたんですが半分くらいを担当できるようになってほしい」と言われたんです。そのため、加盟店プロダクト周りのドメイン知識の習得と、チーム内を安定稼働させるための業務可視化と効率化のためのスクラム導入に注力していました。
その数ヶ月後、隣のチームのTLが退職することになりまして。スライドするような形で、僕がPartner PlatformチームのTLをすることになったんです。
@osamingo:当時はタスクがたくさん、それも乱雑にあったと思います。もともと物事を整理する能力に自信があったとか?
主森 理(@osamingo)
@shu:前職でシステム刷新プロジェクトをスクラムマスターとして担当していたことがあります。1年という期限内にやり遂げられたので「物事を整理する能力があるのかも」と漠然と思っていました(笑)。整理された状態で、みんなで作業を進める方がやりやすいし、チームとしても健全ですよね。
@osamingo:TLになってみてどんな感じでしたか?
@shu:正直、最初は自信がなかったんですよ。TLは技術的にリードできる力がないと厳しいと思っていたので。そんなときに@osamingoさんが「TLには、技術力だけじゃなくていろいろな特性の人がいる。プロジェクトをガンガンと回していくようなTLもいるし、最低限技術的な意思決定はしつつ手を動かして見せていくTLもいる。いろいろなTLがいるから、自分なりのTLになればいいんじゃない」と言ってもらえて、チャレンジしてみようと思えました。やってみた結果、すごく大変だったんですけど(笑)。
@osamingo:そう言ったかもしれない(笑)。どういうところが大変でしたか?
@shu:一番は、少人数体制ながら開発案件はガンガンと回していくこと。僕自身のドメイン知識がまだ完全ではない状態で、審査の自動化など大型プロジェクトを進めつつ、PM、オペレーターへ調査依頼にも対応しなければならない状況でした。スクラムを入れていたおかげで、そのあたりを整理して1個ずつ進めることはできていました。リソース不足についても@osamingoさんと相談しながら解決していきましたね。
@osamingo:@shuさんがTLしていたプロジェクトは、めちゃくちゃステークホルダーが多かったんですよね。プロダクトやエンジニアリング側だけでなく、加盟店審査を行うオペレーションのメンバーや、BizDev、セールスなど。ハードなコミュニケーションが必要だった印象です。コミュニケーションで注意していたことはありましたか?
@shu:何事も最初に「無理」と決め付けないで、相手の立場になって考えるように心がけていました。基本的にみんな良い方向に進めたくて、相談してくれているわけです。なので、職種間で意見が違えど「エンジニアとしてどうすれば課題解決や貢献することができるのか」を同じ方向で考えて、コミュニケーションをとるようにしていました。
「プロダクトを進化させるためには、EMになってチームを進化させなくてはいけない」
@osamingo:そしてTLからEMにチェンジしています。これはどういった経緯で?
@shu:TLの仕事が慣れてきたときに「プロダクトを進化させるためには、チームを進化させなくてはいけない」と考えるようになったんです。もちろん、それ以前でもスクラムの改善や、プロダクトチーム全体の課題解決、開発チームやプロダクトチームのチームビルディングにも注力していました。その中でチームメンバーの育成に注力をし始めていたんです。「これを達成するためには彼にこういう成長をしてもらわないといけないから、そのためには今このタスクをやってもらう」みたいな壁打ちを当時のEM相手にしていたんですよ。そのときに「EMをやってみたら?」と声をかけられまして。
最初は「現場で手を動かすところから離れるとは、けっこう大きな決断だな」と思い、「少し考えさせてください」と返答しました。3〜4ヶ月ぐらい経ったときに「ちょっとそろそろ本気でどう?」と結論を迫られて。断れる雰囲気ではあったんですけど、メルペイが組織としてどんどん拡大していくなかでEMとして仕事をしていくチャンスはなかなかないかもしれないと思いました。
それに、メルカリグループにはソフトウェアエンジニアからTLになったり、EMになったり、再びソフトウェアエンジニアに戻ったり…というメンバーがわりと多い。また、@osamingoさんのように本業ではEMだけど副業先ではバリバリとコードを書いている人もいます。「そういうキャリアパスもあるんだ」と気づけたことも大きな後押しになり、EMにチャレンジしてみました。
@osamingo:EMに興味はあれど、納得感を作るのにはそれなり時間がかかりますよね。今までは、プロダクトやシステムに向き合っていたのに、それがいきなり人間になって「そもそもコミュニケーション苦手だからエンジニアになったのにな」と思い出したりは、EMあるあるだったりします(笑)。@shuさんはEMになって1年ぐらい経ったと思うんですけど、どうでしたか?
@shu:以前までは「EMの業務はピープルマネジメントくらいでしょ」というイメージだったんですが、全然そんなことはありませんでしたね。実際にはピープルマネージメントのほかに、今担当しているパートナープラットホームチームのチーム構成や方向性をTLと一緒に考えたり、エンジニア採用のためにHRメンバーとコミュニケーションをとったりしていますね。
@shu:一番印象的だったのはCodecovのインシデント対応です。この件は、メルペイだけでなくメルカリグループ全体で反省すべき事案。GitHub上のsensitive dataを最新情報(HEAD)だけでなく、Historyからも完全削除するプロジェクトのオーナーを担当していました。
@osamingo:気づいたら@shuさんが担当になっていたような気がしますけれど?
@shu:そうなんですよね。でも、誰が担当なのかは関係なく、一刻も早く事態をあるべき状態へおさめることが最優先事項でした。各ステークホルダーに影響調査をして、解決策となる各選択肢のメリット・デメリットを出し、経営陣に承認を依頼。英語も日本語も同時に使いながらの対応だったので、めちゃくちゃハードでしたね。手順書をまとめるほか、そのために必要なフローも作りました。なんとか踏ん張って最後までやりきることができてよかったです。
@osamingo:それをEM1年目からやるってGo Bold。先ほども「相手と同じ方向を向いてコミュニケーションを取る」と話していましたが、その辺はEMになっても一貫していて、すごく感動していました。
@shu:自分の中の少ない武器の一つなので、それを使って課題に立ち向かっている感じでしたね。
メルペイEMとして大事な目的意識
@osamingo:@shuさんが今後やっていきたいことや、なりたい理想像は?
@shu:まずは採用活動に力を入れたいですね。メルカリグループが拡大するなかで採用に失敗をすると、事業が停滞してしまうという危機感があるんです。だからこそ、取り組んでいきたいです。その後は、より高いレイヤーで会社をどうしていくかを考える仕事をしたいですね。「エンジニアリング組織全体をどうしていくか」、もっというと「メルペイをどうしていくか」など、ちょっとずつ自分の影響範囲を広げていきたいです。
@osamingo:「こういうことを考えられる人だったら、メルペイのEMにチャレンジできるんじゃないか」と思えるところは?
@shu:All for Oneな意識が強い人ですかね。エンジニアリング自体は一つの手段でしかないんです。では何が大事なのかというと、メルペイのミッション、またはメルカリグループのミッションを達成すること。All for Oneな意識が強い人だったら、今はゴリゴリにBackendエンジニアとしてコードを書いてる人でも、EMとして活躍できると思います
@osamingo:「マネジメントは技術」と言われることもありますよね。いい意味で属人化された技術として習得できるからこそ、目的意識が重要になってきそうですね。