2022年1月、メルペイは経営体制変更を発表。特に社内を驚かせたのは、メルペイCPOの交代でした──。これまでメルペイCPOを務めてきた伊豫健夫はCOOへ、そして新たにバトンを引き継いだのはデザイン部門のHeadだった成澤真由美。
もともと伊豫にはプロダクトマネージャーとしてのバックグランドがあり、メルカリでも長年CPOを務めてきました。そんな彼のあとを継ぐことになった成澤が持つ武器は「デザイン」。では、今後のメルペイプロダクト開発体制はどうなっていく?
今回のメルカンでは、伊豫(@takeo)と成澤(@narico)の対談を実施。これまでのプロダクト開発体制の変遷と、CPO交代の裏側を振り返ってもらいました。
※撮影時のみ、マスクを外しています
この記事に登場する人
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成澤真由美(Mayumi Narisawa、@narico)音楽大学卒業後、音楽教育事業を通じてITに転身。株式会社ディー・エヌ・エーで多くのモバイルサービス事業のService Design/ UIUXDesignに携わり、その後、株式会社Kyashにて物理カードの体験設計を担当。2018年よりメルペイに入社、ProductDesignerとして、新機能誕生のたびにメルペイ画面を最適化(リニューアル)するUX Leadを担い、メルペイの立ち上げからGrowthまでを牽引。Head of Designを経て、2022年1月より現職。 -
伊豫健夫(Takeo Iyo、@takeo)大学卒業後、松下電器産業株式会社(現パナソニック株式会社)、株式会社野村総合研究所を経て、2006年に株式会社リクルート入社。中長期戦略策定および次世代メディア開発等、大小問わず多数のプロジェクトを牽引したのち、2015年3月株式会社メルカリに参画。2016年8月より執行役員。US版メルカリのプロダクトマネジメントを担当後、2017年4月より国内版メルカリのプロダクト責任者を務める。2022年1月より現職。
「メルペイ入社前から@takeoさんの名前だけ認識していました!」
@takeo:僕は2019年7月からメルペイCPOに就任。そして2022年1月からはその役割をメルペイのデザイナーでもある@naricoさんへバトンタッチすることになりました。よろしくお願いします!
@narico:ありがとうございます!@takeoさんからCPOを打診されたのは、2021年10月末ごろだった記憶です。驚きすぎて会議室に響き渡るほど叫んでしまいました(笑)。まさか自分がCPOに打診されるとは思わなかったので…。なぜ私だったんですか?
成澤真由美(@narico)
@takeo:@naricoさんにCPOポストを託した最大の理由は、圧倒的なアウトプットの強さです。僕の中では「優秀なデザイナー、プロダクトマネージャー、エンジニアは自分の専門分野で強いアウトプットを出せる」という仮説があり、@naricoさんはまさにそれを体現していた。何より、一緒に働くメンバーに対しても心配りができる人だと感じていたんです。「このまま組織のトップに立って、メルペイ全体により良い影響を与えてほしい」と打診しました。
@naricoさんの強みは、デザインで周囲を牽引していけるところ。メルペイに限らず、メルカリグループでは@naricoさんのようにアウトプットを通じてメンバーに背中を見せていくような人が必要だと思っています。そういった人がトップに立つことで、メルカリグループ全体を成長させられるとも感じたんですよね。
@narico:光栄です(笑)。そして実は私、メルペイへ入社する前から@takeoさんの名前だけは耳にしていて…。
@takeo:えっ!?
伊豫健夫(@takeo)
@narico:私がメルペイへの転職が決まったとき、前職の同僚が「@takeoさんという人は信頼できるから、困ったら声をかけるといいよ」と言ってくれて。その後、@takeoさんがメルペイCPOになってから存在を認識しましたね。
@takeo:なんと(笑)。僕が@naricoさんと最初に仕事で関わったのは、メルペイスマート払いの開発プロジェクトでした。@naricoさんはメルカリアプリ内にあるメルペイ画面の担当デザイナー。僕自身、決済サービスに関わるのはメルペイが初めてだったのでとても難しく感じていました。そのなかで、@naricoさんをはじめとするデザインチームと「もっと財布やカードのメタファーを取り入れた方が使いやすいんじゃないか」と話をしていたのを覚えています。
@narico:このときはグロース期真っ只中だったので、5分先のことしか考えられない状況でしたよね(笑)。なので、@takeoさんが言いたいことはわかるものの、それを形にする方法を突き詰める余裕もなかった…。あのときはすみませんでした!
でも、@takeoさんの存在や言葉はすごく意味のあるものだったんです。それに、@takeoさんから提案されたものをデザインに反映すると、メンバーから「いいデザインですね」と言われることも多かった。私はメルペイスマート払いの開発をしながら、チーム対抗でメルペイの次を担うサービスを提案する「よげん会議」にも参加していました。そのときは「とりあえず@takeoさんから言われたことを意識してデザインしてみよう」と好き勝手やりましたね。「メルカリのデザインって、こうやっていけばいいのかも」という手応えを得られた体験でもありました。
「メルカリのお客さまがどう解釈するか」にセンターピンを置き続けた第2フェーズ
@narico:メルペイの初代CPOは@ryomatsuさん。そして2代目が@takeoさんでした。当時は「メルカリとメルペイのシナジーをより強めるため」という背景があるなかでの引き継ぎが行われた記憶です。@takeoさんにとって「2代目メルペイCPO」はどうでしたか?
@takeo:今もそうですが、サービス拡充期って感じでしたね。僕がメルペイへ異動したときはスマート払いのリリース直後。その後スマートマネー(メルカリの利用実績等を元に金利・利用限度額が決まり、アプリ内で申し込みと利用が完結する少額融資サービス)も誕生するなど、新機能を続々とリリースしていました。そのなかで1つ、強く意識していたのは「メルペイを使うのは、メルカリのお客さま」ということ。そのため、MTGでは「One UX」という言葉を何度も口にしていました。
@narico:冗談抜きで、1,000回くらい言っていたような。
@takeo:僕も、それくらい言っていたような気がします(笑)。とにかく「メルカリのお客さまがどう解釈するか」にセンターピンを置き、不要な枝葉を生やさないようにしていました。
そしてもう1つ意識していたのは、僕らがやりたいのは「車輪の再発明ではないこと」です。メルペイ誕生前からクレジットカードなどでの与信サービスは存在しています。「そもそも与信とは?」と見つめ直すことも大事ですが、それは僕らがトッププレイヤーになってからでいい。このタイミングで僕らが車輪の形を変えることは筋悪です。
どちらかというと、今やるべきなのは「与信などこれまでの決済サービスを現代風にアレンジし、スマホを通じてお客さまへ届けること」。そのためにも、お客さまのニーズにきちんと向き合い、価値を提供することに注力すべきなんです。
@narico:@takeoさんとして、メルペイで達成できたと思うことは?
@takeo:そうですね…、おかげさまでいい数字は出せつつあります。一方で、もっとサービス内容をわかりやすくできるのではないかと思っているんです。メルカリを使うお客さまにも「アーリーアダプター」と「そうじゃない人」がいらっしゃいます。前者はすぐに「なるほどね」と感じてサービスを使ってくださりますが、後者はそうじゃない。メルペイは、両者にとってわかりやすいものにできる要素はたくさん残っているはずなんですよね。
@narico:@takeoさんのいうとおりですね。それに、メルペイは今、初期に打ち立てた仮説検証が終わったタイミングでもあります。ようやく第2の仮説を検証する段階に入ってきました。他サービスでも後払いが始まり、比較されるようにもなったからこそ、今後打ち出していくのは「他では真似できない後払いの価値」だと感じています。
メルペイは、プロダクト開発サイドにとってパワーバランスがいい組織
@takeo:@naricoさんは、自分がCPOになったらどこが強みなりそうだと考えていますか?
@narico:やはり、デザイン部分をより濃くしながらプロダクト開発をしていくことになる気がしています。@takeoさんは、エンジニアリングだけでなく、プロダクトマネジメントやデザインまですごくカバレッジが広かった。数年かけて@takeoさんイズムを浴び続けたおかげで、経営サイドとプロダクト開発サイドが一体化できつつある感覚もあるんです。私は、そのあたりをより強く表現していきたいですね。
@takeo:デザイナー出身CPOがメルペイのプロダクト開発トップに加わるという意味では、これからUXにもより注力しやすくなると思っています。@naricoさんとして、このあたりはどうですか?
@narico:はい、私としてもUXにより注力したいと思っています。「UXを築き上げる」と言葉にするのはシンプルですが、実際にやり抜くには1〜2年ほどかかるはず。その間に、メルカリグループ内ではソウゾウやメルロジ以外のグループ会社が立ち上がるなど、いい意味でより複雑になっていくと思っています。そんなメルカリグループの輪郭を可視化することは、私だけでなくメンバー全員の新しいチャレンジになる。その牽引役を担いたいですね。
また、デザイナーに限らず、エンジニアやプロダクトマネージャーをバックグラウンドに持つメンバーがメルペイのプロダクト開発のトップにいます。そういう意味では、パワーバランスがとてもいい状態になったとも言えますよね。
@takeo:ですね。僕としては、デザインの本質的な役割を世の中に問えるチャンスだと思っているんです。特にFintechはインターフェースの大きな転換期なので、デザインの役割はすごく重要。だからこそ、デザイナーのバッググラウンドのある人がプロダクトのトップに加わることにはすごく意味がある。「もっとデザインで世の中を変えていくことができるのに」と、悶々とした日々を送っているデザイナーの方にとっては大きな希望になるはずです。
@narico:私にとってメルペイは、デザイナーの存在意義が大きい会社だと捉えています。メルカリやメルカリShopsは商品写真があるから表現しやすいんですが、メルペイの場合はわかりやすいオブジェクトがない。だから、生活シーンにおけるあらゆるメタファーを取り入れて、オブジェクトづくりから取り組まなくてはいけないわけです。
@takeo:説明したい内容をデザインで可視化するのが難しいサービスですよね。言い方を変えるなら、FinTechの世界はデザインで解決できることがたくさんある。決済したり、返済したりという行動自体は何も変わっていない。そこにデザインの力が加わり、Fintechのトレンドを生み出したといっても過言ではないわけです。デザイナーにとって、ソフトウェアの領域でこれほどまでにデザインの価値を発揮できるシーンは滅多にないと思いますよ。
デザイナー出身CPO就任で「よりプロダクトドリブンへ」
@takeo:@naricoさんも話していたように、メルペイのプロダクト開発トップには「実際にサービスを作り込んできたキャリア」が色濃く反映されているメンバーが揃っています。そのため、経営スタイル自体がプロダクトドリブンになってきているんです。経営判断も、プロダクトを通じて「その施策はうまくいく?」「お客さまに価値を届けられるのか?」と議論しながら進めています。かつてのメルカリがそうだったように、考え方がどんどんプロダクト寄りになってきている。そんな組織は、ほかにもあまり例がないですね。
@narico:メンバー間だけではなく経営陣とも本質的な話がしやすいのはいいですよね。そもそも議論すること自体がウェルカムな組織でもあるので、「ああ、そうだよね〜。それってどこのプロジェクトに紐づく?じゃあ、このプロジェクトリーダーと話してみたら?」みたいな話になります。それに加えて、コーポレートなどの直接開発に関わらないチームのメンバーも「どうやったらメルペイがよくなるのか」とお客さま視点で議論に入ってくるシーンは増えましたね。
@takeo:そうそう、まさに「プロダクトカルチャー」ですよ。会社やプロダクトが成長していくにつれて、お客さまにとっての「当たり前」と向き合うのはどんどん難しくなる傾向があります。でもメルペイは、今回の体制変更でお客さまとさらに強く向き合えるようになりました。今後ジョインしてくださる方も堂々と当たり前のことを発信してほしいし、それが求められていると言えますね。