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メルカリが目指す2030年の世界に向けて。川原圭博がR4D所長に就任することで起こる、研究開発組織「R4D」の変化とは?

2022-6-23

メルカリが目指す2030年の世界に向けて。川原圭博がR4D所長に就任することで起こる、研究開発組織「R4D」の変化とは?

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メルカリの研究開発組織 「mercari R4D」(以下、R4D)で新設されたHead of Research(所長)に、東京大学大学院・工学系研究科教授の川原圭博氏が就任しました。

これを機にR4Dは、研究開発の推進体制を強化すると同時に、社会実装のさらなる加速を目指します。

今回は、川原さんが所長に選ばれた経緯や、具体的にどのような取り組みを行なっていくのかを川原さん(@yoshy)とR4Dでマネージャーを務める多湖真琴さん(@tago)に伺います。

この記事に登場する人


  • 川原圭博(Yoshihiro Kawahara,@yoshy)

    株式会社メルカリ 研究開発組織R4D (Head of Research)
    1977年生まれ。東京大学大学院工学系研究科教授。
    2005年 東京大学大学院情報理工学系研究科 電子情報学専攻博士課程修了。博士(情報理工学)。東京大学大学院情報理工学系研究科助手、助教、講師、准教授を経て、2019年工学系研究科教授に就任。2015-2022年 JST ERATO川原万有情報網プロジェクト研究総括。2019年インクルーシブ工学連携研究機構長。また2019年よりメルカリR4D アドバイザリーボードメンバーを兼任。

  • 多湖 真琴(Makoto Tago,@tago)

    株式会社メルカリ 研究開発組織R4D (Manager)
    弁理士。京都大学卒業後、開発職として富士通株式会社に勤務。2013年に弁理士資格を取得し、TMI総合法律事務所にて権利化から係争案件まで幅広い知財業務を担当。2018年、メルカリに入社後、知財チームの初期メンバーとして知財活動の立ち上げに従事。2019年よりR4Dを兼務しR4Dのガバナンス構築に尽力。2022年より現職。


川原先生以外に適任はいなかった

―@yoshyさんには、R4Dのアドバイザリーボードメンバーとして、研究を審議する立場として長年ご協力いただいていたそうですね。今回、あらためて所長就任の打診をした経緯について教えてください。

@tago:R4Dでは、2017年の設立当初から具体的な研究領域を定めず、在籍しているリサーチャーの専門性や自主性を重視して研究を続けてきました。この5年で着実に研究成果がでてきて、また体制も少しずつ整ってきて、組織全体の戦略をあらためて考えるフェーズに差し掛かっていたんですね。

そこで組織を牽引してくださる方を探していたのですが、私たちが求めているものすべてを兼ね備えていらっしゃったのが、川原先生だったんです。研究分野がバラエティに富んでいるだけでなく、研究開発組織の運営に関する経験も豊富、トップレベルの若手研究者とのつながりも広い。そして何より、私たちのようなベンチャー企業とコラボレーションして研究結果を社会に還元したいという意志が強くある。川原先生以上にうってつけな方はいないと考え、所長就任のお願いをさせていただきました。

―@yoshyさんとしては、アドバイザリーボードのメンバーとしてある程度の年月を一緒に過ごしていたことも、所長就任を前向きに考える理由のひとつになったのでしょうか?

@yoshy:そうですね。R4Dとは初期の頃からお付き合いがあるのですが、その頃からリサーチだけでなくデプロイまでやるという明確な態度を示していたんですね。それはつまり、自分たちのビジネスだけが繁栄すればいいという考えではなく、新技術であってもそれを率先して世の中に広めて社会に貢献していく気持ちの表れでもあると思うんです。実のところ、そういう研究機関は珍しい。だからこそ、共感を覚えて、一緒に取り組んでいきたいと考えました。

―@tagoさんは組織の在り方を身近で見ていた方の一人だと思うのですが、設立からの5年でどのような変化があったと思いますか?

@tago:研究者メンバーが R4Dに馴染むほど、“メルカリらしさ”みたいなものが生まれている気がします。ご質問に対して遠回りな回答になってしまうかもしれないのですが、社会との接点をすごく考えるようになったというか。R4Dの取組みの一つに「テクノロジーアセスメント」というものがあります。これは、新しい技術を世の中に発信する際、その技術が過度に期待されたり不安視されたりしないように期待値を調整していくものなんですが、こういう取組みからも、メルカリが”社会の公器”であろうとすることに対して、R4Dとしても意識が強くなっている気がします。

―@yoshyさんが所長になることで、今後どのような変化があると考えていますか?

@yoshy:これまで私は大学側の人間としてお付き合いしていたので、当然ながらメルカリの社内にあるデータやニーズ・シーズのすべてに目を通すことはできなかったわけです。そういう組織対組織の付き合いでは見えなかった部分に関して、所長というポジションをいただくことで、ビジネスと研究の接点のことを私がより深く理解できると考えています。その結果、関係機関との連携がより密になり、研究開発のスピードを加速させることができるはず。

@tago:それと同時に、アカデミア界隈におけるR4Dの認知度を向上させたい気持ちもあります。これから先、研究をさらに加速させるためには、さまざまな方々に興味を持っていただく必要がありますし、信頼と実績が積み重なっていくことが、例えば採用などにも効いてくるんじゃないかなって。

@yoshy:研究パートナーを増やすことについてはけっこう楽観的に考えています。R4Dにはすでに魅力的な研究者の方々に集まっていただいていますし、その方々が特徴ある取り組みを続けていれば、自ずと素晴らしい研究者と出会えるはずなので。むしろ、研究者の方々が自身の研究に集中できるようにしていくことが所長の役目だと思っているので、私自身は環境づくりに力を入れていきたいですね。

研究と実装の両輪を実現する組織を目指す

―企業の研究機関と大学の研究機関で、どのような違いがあるのでしょうか。

@yoshy:大学の研究機関は、論文が中心にあります。私自身も経験があるのですが、評価の高い学会で自分の論文が認められることはすごく嬉しいし、達成感もある。ただ、実装への道のりが遠いテーマが多く、自分の仕事が世の中の役に立っているのか手応えを感じるのが難しくなることもあります。一方、企業の研究機関には確かなニーズに基づく課題が山ほどあるんですね。R4Dであれば、メルカリというサービスが直面している問題をどのように解決していくか、または、目指す未来に対してどのようなアプローチができるかを日々考えることになります。さらに、事業部との距離も近いので、課題をダイレクトに聞くことも可能です。だから、研究成果を世の中に還元するまでを見通した研究ができる。大学の研究機関に長年籍を置いている身として、この環境は興味深いものでした。

@tago:確かに、自分が携わっている研究がサービスやプロダクトに反映されるのは、多くの研究者にとって魅力的だと思います。

―実践の場があるということは、裏を返せば自分が取り組んでいる研究が真っ向から全否定される可能性もありますよね。そういうタフなシーンも多い気もするのですが、その点はいかがでしょうか?

@yoshy:少し論点がずれるかもしれないのですが、研究者の信念が強ければ強いほど、建設的な批判であれば原動力になるんですよ。「あなたは間違っている」と言われれば、議論ができますから。

インターネットはまさにそうで。かつては「コンピュータとコンピュータをつなぐなんてギークの趣味だ」と言われていました。ところが、現在は社会的インフラになっている。何が起きるのかなんて誰もわからないわけです。いちばん辛いのは、理解されず、そのまま無視されることかもしれません。

―確かに。数十年間も日の目を浴びなかった研究が、あるときノーベル賞に選ばれる可能性もあるわけですよね。

@yoshy:そうですね。最近は、研究機関においても最短で結果を求められる風潮が強まっています。キャリアのスタート時点で「結果が出るまでに10年かかります」なんて答えようものなら、どこにも就職できないのではないでしょうか。しかし、すぐに結果は出ずとも、長く研究を続けていくなかで、いつの間にか問題の本質を捉えていることもあるんですよ。

私は常々、研究開発はパズルのピースをはめるようなものだと言っているんですね。一つひとつのピースは、単体だと絵のどこに当てはまるのかはわかりません。ただ、少しでもピースがつながっていくと、一気に全体像が見えてくる。たとえば、量子コンピュータの原理は何十年も前からありますが、ひょっとしたら実現できるかもしれないと言う認知が広がったのはここ最近のことですよね。答えを急ぐのではなく、じっくり時間をかけながら研究を進めていくことも大事だと思います。

―その点、さまざまな研究者とネットワークを築きながら自身の研究に集中できるR4Dは、ある意味パズルのピースも集まりやすい環境であると言えるのでしょうか。

@yoshy:まさに。大学はあくまでも教育機関なので、総合大学では特定の分野に精通した研究者を100人集めることはできないんですよね。極端なことを言えば、AIの研究者は1人いればいい。一方で企業の研究機関では、必要であれば特定の分野にフォーカスして人を重点的に採用できます。そうすることで自身のネットワークを強化できるはずです。

研究者の働き方をより豊かなものに

―では、企業が研究開発に力を入れていくことは、社会的にどのような価値があるのでしょうか。

@yoshy:たとえば、スマートフォンには高性能なカメラが搭載されていますよね。そのカメラで手軽に写真が撮れるから、自宅にある不用品を簡単に出品できる。そう考えると、技術革新がなければメルカリという会社は生まれなかったと思うんですね。

さらに遡ると、薄くて強いガラスがなければタッチパネルは作れなかっただろうし、そもそもコンピュータの進化がなければスマートフォン自体この世に存在しなかったかもしれない。技術開発に投資することで、新たなビジネスが生まれる土壌ができるわけです。そして、そういうことに投資のできる企業が、次の時代を切り拓いていく存在になるんじゃないかと思います。

―理想の研究組織としてベンチマークにしている存在はありますか?

@yoshy:アメリカに「PARC(パーク)」というコンピュータサイエンスの主要な発明をかなり早い段階で生み出した研究所があります。そこではGUI(グラフィカルユーザインターフェース)、ネットワークなど数多くの歴史的な開発がされていました。なぜそれほどまでに抜きん出た結果を出すことができたのか。その理由について当時の資料を頼りに考察してみると、どうやら開発研究に余白があったからだと気づいたんです。

PARCでは、「コンピュータを利用してオフィスにおける生産性を高める」というフワッとしたビジョンが共有され要素技術は自分でやることを決める裁量がありました。だからこそ、研究者たちが自分たちで仮説を立て、その解を導き出すために技術研究を進めることができたわけです。

この事例を我々の状況に置き換えた場合、メルカリというプラットフォームが軸になるわけですが、たとえば循環型社会を実現するために役立てようとしたら、何が必要かをまず考えますよね。ただ、道筋はひとつではない。そうなると、多様なアプローチが求められます。だからこそ、より多くの方々に幅広く研究していただきたいと考えています。

―そのために取り組もうと考えていることはあるのでしょうか。

@tago:研究者の働き方のバリエーションを増やしていきたいと考えています。@yoshyさんをはじめ大学と兼業で携わっている方もいらっしゃいますし、2022年からは「R4D PhD support program(社会人博士支援制度)」もはじめており、少しずつでも日本の研究者を取り巻く環境にいい影響を与えることができたらいいなと思います。

@yoshy:私としては、R4Dだけでなく、世界中の研究機関と連携しながら、地球規模で物事を考えていきたいです。現時点で東大や慶應、大阪大、筑波大などと共同研究を進めていますが、そういった輪を広げながら、メルカリが目指す2030年の世界を形成するために必要な技術の種をどれだけ作れるかに挑戦していきたいです。とはいえ、関わってくださる人数も規模もまだ大きくないので、私自身は積極的に外に出ていく。それが現時点で所長の果たす役割だと思います。

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