こんにちは。メルカリ経営戦略室のmune(浅井宗裕)です。
先日、メルカンの連載企画「メルカリのイシューを分解する」で、私たち経営戦略室が策定と運用をリードする「ロードマップ」に関する記事を公開しました。
そして、この記事に関連したイベントが2022年8月25日に開催されました。今回のメルカンでは、当日の内容を振り返りつつ、イベントに登壇して感じたことを私の目線からお伝えできればと思っています。
当日のスライドはこちらからご覧ください。
メルカリ流「経営メカニズム」=高い目標を達成するための日々の“習慣づくり”
当日は、メルカリ上級執行役員・経営戦略室長のshuji(河野秀治)と、同じく経営戦略室のhaiero(山下ひとみ)、私の3名でお話をさせていただきました。
まず、冒頭でshujiから、メルカリの経営メカニズムについて説明がありました。経営メカニズムと言うと仰々しく聞こえますが、平たく言いなおすと「高い目標を達成するための日々の習慣づくり」に尽きる、というのがshujiの説明でした。
わかりやすい例として、メルカリには「超・ドキュメント文化」があります。メルカリでは普段、パワーポイントやスライドを活用しません。基本的に全て、テキストでコミュニケーションと意思決定がなされます。Amazonの有名な習慣を参照したものですが、Amazonは会議の冒頭にテキストを黙読する時間を設けるそうです。メルカリはそれを必ず事前に読み込み、フィードバックまでしあった状態で会議を始める、といったカスタマイズをして、全社的に運用しています。
こういった「考えてみたら当たり前のことを愚直にやり続け、研ぎ澄ませる」ことで日々の習慣は形作られ、掲げた目標の達成確度が高まります。当日はこれを、メルカリ流「経営メカニズム」として紹介しました。
議論の過程で獲得する“共通言語”にこそ価値が宿る
メルカリ流「経営メカニズム」において、最も重要なツールと位置付けられているのが「ロードマップ」です。当日は、ロードマップの具体的な内容や、その特徴について紹介しましたが、この振り返りレポートでは、特に伝えたかった「ロードマップ策定における考え方」について触れたいと思います。
それは「ロードマップの価値は、出来上がった言葉それ自体よりも、議論の過程で経営チームが獲得する共通言語にこそ宿る」ということです。
・ 同じ言葉を使っていても、それぞれ意図することが違う
・ 表面的に話していることと、本当に思っていることが違う
・ そもそも利害が噛み合わない
こうした、「どうにも話が通じない」という悩みは、いつの時代も尽きないのではないかと思います…。そんな違和感を全てさらけ出し、受け止め合いながら獲得するのが経営の共通言語です。正直とても居心地が悪く、タフなプロセスです。しかし、それを乗り越えると、明らかに実感する「組織のなめらかさ」があります。
・ グループが向かう方向性に強い納得感が生まれる。これならやりたいという社員の主体性を引き出せる
・ 普段は接点が少ないグループ会社や他のチームのメンバーが本当にしたいことが何なのかがわかる。そしてそれをリスペクトできる。いつどこで接点ができたとしても、すぐにコラボレーションが発動する、そのための前提条件になる
・ 圧倒的に声の大きな上司や、煽ってくる競合など、誰かの顔色をうかがって仕事をしなくて済むようになる
この「納得感」や「組織を超えたリスペクト」、「誰かの顔色に振り回されないで済む自由」を引き出したくて、私自身ロードマップ策定に関わっていると言っても過言ではありません。
シンプルな問いかけを、ただただひたすらに粘り強く重ねる
さらに具体的な策定のプロセスについてもご紹介しました。
これも実はとてもシンプルで、ただただひたすらに同じ問いかけを繰り返すのみです。一方でこの種の問いは、どれだけ言葉にしてもなかなか万人が納得するレベルに達しません。疲れてくると「こんな細かいところどうでもいいよ…」という反応も出てきたりします。でも、そこで「じゃあ逆に、これだけは絶対に譲れないというポイントはどこですか?」と問うことで核心に迫ります。
こうしたタフな議論を粘り強く重ねると、異なる利害を持つ関係者がある瞬間に合点するポイントがやってきます。それこそが「共通言語」です。必ずしも単年で到達できるものではなく、毎年議論を重ねることでようやく見極められることもあります。
このプロセスは、実はコーチングのプロセスと似ています。私はコーチングを副業としており、日々、数多くのエグゼクティブや、ミドルマネージャーの話を伺う機会をいただいていますが、一般的なコーチングのアプローチだけだと、どうしても「答えはご本人の中からしか引き出せない」という壁にぶつかりがちです。
ですが、メルカリのロードマップ策定はそこからさらに一歩入り込むことができます。つまり、「経営幹部同士の対話を通じた課題の構造化」ができるのです。複雑に絡まり合った課題を整理し、経営幹部それぞれが内に秘める情熱を明らかにしながら、「では、本当になすべきことは何なのか?」までを一緒に探りあてていきます。
経営戦略のキャリアとコーチングのキャリアがうまく掛け合わさった、とてもいい経験をさせていただいていると日々感じています。
予測不能な未来に向けて、試行錯誤の真っ最中
参加いただいた皆さまから、たくさんの質問をいただきました。せっかくなので、こちらでいくつか紹介をさせてください。
Q: ロードマップをつくり始めるときにネガティブなメンバーはいませんでしたか?
A: ロードマップ経営は、ビジネスの前線からすると一見、余計な仕事のように見えることがあります。「プロダクトのことで忙しいんだけど」「仕事のための仕事になっているのでは」といった意見は今でも耳にします。それでも、ロードマップがあることで全社のコミュニケーションコストが下がり、ミッション実現を早期化できる確信があります。関係者と真摯に向き合い、ときには摩擦を恐れず働きかけることで、その理解は年を追うごとに広がっていると感じています。Q: ロードマップの実行力を高めるための秘訣を教えてください。
A: 運用においてはミドルマネージャーが、とても重要な役割を果たします。「自分のチームやメンバーの業務と、ロードマップがどう繋がっているのかを翻訳する」ことがミドルマネジメントの本質的な役割であるとも言えます。ロードマップの話はAll Handsなどの定例会議で、折に触れてされています。ミドルマネージャーたちにはそれを踏まえ、日々のメンバーとの1on1や、期ごとのOKR設計において、ロードマップとのリンクを意識した成長支援を常に心がけてもらっています。Q: メルカリの経営企画・経営戦略に必要なスキルを教えてください。
A: shujiは「経営のフェーズによるので一概には言えない」と回答していましたが、僕からは「Do the right thing」というフレーズを紹介させていただきました。山田進太郎(メルカリCEO)も、前職の社長も同じことを言っていて、特に印象に残っていたためです。「間違った方向に、いくら正しく進んでも無駄なだけ」「とにかく正しいことを見極めることが重要」ということです。安宅和人さんの名著『イシューから始めよ』にも通じる考えです。不確実性の時代において、本当に正しいことがあらかじめ判明しているケースは少ないのかもしれませんが、「これは本当に正しいことなのか」「今本当に向き合うべき課題なのか」を常に問い続ける姿勢が、「経営企画・経営戦略」そして「ロードマップ経営」にも求められているのだと思います。
今回のイベントを通じて「平たく言うと」であるとか「実はとてもシンプルで」と言った表現ばかり使って「なんと浅はかな…」と思われた方もいらっしゃるかもしれません(笑)。私たちもイベントの準備を進めながら、申し込みをいただいたたくさんの方々の期待に沿うことができるのか、正直なところ不安な気持ちでいっぱいでした。
実はロードマップ策定の過程でも、同じ悩みを抱き続けていました。「抽象的すぎてわからない」「そんな、世界平和みたいなことを言われても困る」そんなフィードバックも少なからず寄せられました。それでも、タフな議論を何度も粘り強く繰り返したからこそ、メルカリの経営チームはロードマップを共通言語として、一枚岩になれました。そして、嬉しいことにメンバーからもポジティブなフィードバックをもらうことができました。
とはいえ、ロードマップはあくまでミッション達成のためのツールでしかありません。私たちとしてはそのツールを目的化することなく、メルカリの目指す未来と、それを共に創り出す仲間たちに真摯に向き合い、対話を続けること。そして一人でも多くの社員と「言語を共有すること」が全てだと思っています。
また、イベント全容はYouTubeからもご覧いただけます。具体的なロードマップの内容についても一部触れられていますので、気になる方はぜひ視聴してみてください!
私たちメルカリも予測不能な未来に向けて、試行錯誤の真っ最中です。できるだけ多くの方と知見を共有したいと思っています。ぜひお気軽に、ご連絡いただけるとうれしいです!
https://twitter.com/amunehiro