メルペイでプロダクトマネージャーをしている平田愛美(@manamin)です。
2017年に入社、2018年よりメルペイの立ち上げに携わり、 iD/ApplePay機能を担当。その後、産休・育休を経て、2021年よりメルカードプロジェクトのプロダクトマネージャーを担当しています。
メルカードを開発するにあたり、以下の観点においてメルペイの既存の機能を踏まえながらどう実現していったかを紹介したいと思います。
・ メルカードの成り立ちと面白さ
・ お客さまが知っている「クレジットカードらしさ」
・ 後発のクレジットカードとして、メルカリ・メルペイが提供する「新しさ」
・ 苦労したポイント
※ここでは特に触れない限り、メルペイの決済を想定しており、メルカリ・メルカリShops内の決済は含みません。
※本記事は、メルカリエンジニアリングブログとの連携による、『連載企画「メルカードの舞台裏』 として書かれたものです。
この記事を書いた人
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平田愛美(Manami Hirata)メルペイ プロダクトマネージャー。サイバーエージェント新卒入社後、アメーバブログ・755、AbemaTVなどメディア事業のグロース・新規事業立ち上げに携わる。2017年6月にソウゾウへ入社、2018年1月〜メルペイにてiD・ApplePay決済を担当・ローンチ。2020年11月に復職し、決済サービスを担当。
メルカードの成り立ちと、その面白さ
メルカードの成り立ちは、メルペイの歴史も感じられる面白いものになっています。
よくあるクレジットカードを含めた与信系サービスでは、クレジットカードの与信枠に対して他の決済手段(非接触決済など)が紐付いていたり、またはコード決済にクレジットカードを登録して、クレジットカードの与信枠から自動チャージするなどして他決済と紐付いていると思います。
メルペイにおけるメルカードは、あくまで決済手段の提供にすぎません。それは既存のメルペイあと払いの与信枠を利用する、コード決済・iD・ネット決済などの他の支払い手段と並列であるということです。もちろん与信枠は共通で、どの支払手段であってもお客さまは一緒に清算することができます。そしていつでも好きな支払手段を追加・解約できます。
実際に使ってみると非常にシームレスな体験になっているので、この“概念の差”を体感することはないかもしれませんが、実は他に類をみない面白い取り組みなのではと思っています。
クレジットカード“らしさ”と既存機能のギャップ
クレジットカードは世の中にすでにあるスキームで、使ったことがある方も多いかと思います。多くの人が使ったことがある「クレジットカードらしい体験」をメルカードで実現していくために、メルペイでは既存機能とのギャップが課題でした。
・ 与信枠内での処理を前提とした決済処理
・ 海外決済対応
・ 登録型加盟店への対応
この中で「与信枠内での処理を前提とした決済処理」について紹介します。
与信枠内での処理を前提とした決済処理
メルカードの誕生で、メルペイ内の決済概念を大きく変えたのは、この「与信枠内での処理を前提とした決済処理」です。メルカード誕生前にも与信枠での決済は存在し、提供していました。ただし、この与信枠と支払い請求の処理がメルカードだけ異なります。
簡単に言うと、メルカードではこの売上データ(Caputure)が連携されたときに、初めて支払いが確定するという仕様に変更しています。
これは、クレジットカードの商慣習に合わせたものです。クレジットカードの商慣習では、あくまでオーソリ(Auth)は、与信枠の操作を行うもので支払いを確定するものでなく、売上データで確定します。
メルペイでは従来の決済処理がAuthベースだったこともあり、この点が「クレジットカードらしさ」を実現するための大きなギャップの1つでした。メルペイではこの変更対応を「Caputure時請求」と呼んで取り組みました。
メルカード独自の新しい体験
メルカードでは後発のクレジットカードとして、お客さまに新しい体験を届けることもプロジェクトの念頭においてすすめてきました。
これらはすべて、お客さまのよりよい体験や新しい体験を提供するとともに、「安心・安全」なセキュリティ施策にもなっています。単純に便利にするだけではなく、より価値ある機能として提供することができています。
お客さま体験に即した履歴と通知
メルカードでは、先述したようにオーソリで履歴の作成・通知を送るようにしています。この取り組みもクレジットカード業界では比較的新しい取り組みです。あくまでオーソリでは与信枠の操作のみで、売上データで請求が確定していくのですが、与信枠の更新があったタイミングで履歴を作成・通知を行うことで、身に覚えのない取引や、クレジットカードの使いすぎに気づきやすくなり、メルカードを使うことでお客さまは「安心」してお買い物をすることができます。
これらは、お客さまに対するUXリサーチや開発メンバーからの意見で「クレジットカードは使いすぎてしまう」「請求金額が多くて驚いた」「不正利用に気づくのが遅かった」などの実際の声を元にして、開発されました。
カードアクティベーション
クレジットカードは与信に紐づく決済手段であり、利用時にお金を払う必要がないというサービス特性上、犯罪の標的になりやすい商品です。これは、盗難や不正利用に限った話ではなく、カードの配送時も同じことがいえます。実際に、第三者によるクレジットカード送付物の抜き取りや、郵送職員による事件も起きています。
参考記事:狙われる集合ポスト 不在票盗み出し、クレカ不正入手
参考記事:郵便局の課長代理、クレカや商品券数十点を着服か…「生活に余裕なく」23万円分買い物し逮捕
他社のクレジットカードでは、このように「簡易書留」や「本人限定受取郵便」のような形で「本人以外に配送しないよう」にしていることが多いと思います。これは、誰かの手に渡ってしまった際に、本人以外が利用できる状態であるからとも言えると思います。
一方、メルカードでは普通郵便で配送しています。先程の話と矛盾しているように思えますが、メルカードでは「カードアクティベーション(初期設定)」の機能を設けることで、セキュリティを担保しています。郵送されたままの状態だとカードは利用できず、利用開始には、カードや台紙に記載されている情報とアプリのアカウント情報の一致が必要です。そのため、万が一本人以外に取得されたとしても従来のクレジットカードとは異なり、不正利用リスクは低くなります。
普通郵便で配送することで「セキュリティ上、大丈夫なのか?」という声も社内からありましたが、アクティベーションによる制御に加え、メルペイでは即時通知や、カード業務に関するカスタマーサポートの整備を行っていることもあり、今回のようなチャレンジを安全に取り入れることができました。
また、アクティベーションを採用し普通郵便で配送することによって、配送コストを大幅に削減することもできました。メルカードが今後数十万枚…と発行枚数が増加した際に、このコストが削減できたことは非常に大きい効果といえます。
*2022年12月1日時点
*最新情報は日本郵便 郵便・荷物サービス一覧をご確認ください
メルカードのアクティベーションは、QRコードとNFCアクティベーションの2パターンを用意しています。NFCはかざすだけで周辺機器との無線通信を可能にする技術・規格のことで、「Near field communication」の略称です。今回、NFCアクティベーションに対応したことで、より簡単に、先進的な体験をお客さまにお届けできたのではないかと思います。
新たな価値のためにプロジェクトの伝播者になる
上記のような「クレジットカードらしさ」と「新しさ」をメルカードで行うには多くの苦労がありました。
1番苦労した点は、多くの人に「事業の特性について説明し、理解を得る」ことだったと思います。自分の担当としては、社外パートナーとの開発担当窓口であり、社内でも開発だけでなく、法務・経理会計・営業・CS・グロース…と、様々なチームと連携していく立場でもありました。
社外パートナーとのやり取りに関しては、「メルカードが既存のクレジットカードと異なり、新しくお客さまの体験をどう変えたいのか」を折々伝えていく必要がありました。パートナーの企業様は、我々よりクレジットカードに関するプロだったので、「従来のクレジットカード」というものを知っています。最初はモノもない状態からのスタートでしたので、一緒にすすめていく中でメルカードのこだわりのポイントや、届けたい価値を説明していき、理解していただいたうえで、アイデアや解決策をいただきました。
実はメルペイ社内のほうが、少し理解を得るのに苦労したところがあります。
と言うのも、クレジットカード業界には歴史もあり、独特の決済慣習が存在します。またそこには、ブランド、アクワイアラ(加盟店管理会社)、ネットワーク事業者、加盟店、イシュア(クレジットカード発行会社)…と非常に多様な業種によるネットワークがあります。なので、シンプルな決済スキームというよりは、独特の”振る舞い”が求められる取引が多くあります。
メルペイでは、既存システムで特に「コード決済」がシンプルな決済スキームだったのに対して、クレジットカードの決済スキームは非常に複雑な処理と捉えられました。その独特の振る舞いを前提としてシステム設計・仕様策定を行い、既存システムも変更してもらう必要がありました。
特に実現したかった「与信枠内での処理を前提とした決済処理」や「お客さまの体験に即した履歴」については、メルペイの既存機能を大幅に修正するものだったので、工数見合いも含めて「クレジットカードらしさ」を理解していただき、進めていくのに時間がかかったと思います。
これらを通して、関係者が多くいるプロジェクトを推進していくためには、自らが事業の特性について理解し、伝播者になっていく必要性を感じました。また、自身だけの説明では伝える範囲に限界はあるので、メンバー、さらには被説明者がプロジェクトについて正しく、かつ広く伝えてもらうための仕組みが必要でした。そのために、オリエンテーション用の資料の充実や、関連スケジュールの最新化、プロジェクト全体の状況把握をこころがけて取り組みました。
終わりに
ここには紹介しきれなかったこだわりポイントがメルカードには、まだまだ詰まっています。ぜひ、申し込んでいただき、実際に使っていただく中で、カードデザインやカード情報ページなど他のこだわりポイントに気づいていただけたら大変うれしいです。