1月10日、徳島市役所からメルカリに派遣されている政策企画チームの麻空公美子(@soramix)と、LETチームの親松雅代(@maz)、GOTチームのGabe Beckerman(@gabe)で、幹部職員向けのD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)研修として、メルカリで行っている「やさしい日本語コミュニケーション研修」と「無意識バイアスワークショップ」を実施してきました。
終了後は、研修実施メンバーで、D&Iを重要だと位置づけている内藤佐和子 徳島市長とD&Iの重要性や今後の可能性について意見交換してきたので、その様子をお伝えします。
この記事に登場する人
-
麻空公美子(@soramix)メルカリ政策企画。2010年徳島市役所入庁。住民課において戸籍等交付業務に従事。その後、再開発事業、公共工事の入札の業務を担当する土木政策課で執務するなか、徳島市の重要課題となっていた「中心市街地活性化基本計画」策定に向けた市長直轄の組織として2021年12月に設置されたプロジェクトチームのメンバーに抜擢され、立ち上げから2022年3月の内閣総理大臣の認定までの主要なメンバーとして携わった後、2022年4月から2023年3月までメルカリに派遣研修中。経営戦略室政策企画とD&Iチームに所属し、これまでに自治体連携や「メルカリ教室」「メルカリ寄付」「メルカリShops」「無意識バイアスワークショップ」などの業務を担当。 -
親松雅代(@maz)メルカリ Language Education Team 所属。外資系国際物流会社を経て 2013 年より日本語トレーナーと して活動。留学生やビジネスパーソン、看護師・介護士候補者 への日本語教育を担当。2018年7月よりメルカリに在籍。日本語プログラムとスピーキングテストを開発。また「やさしいコミュニケーション」の社内トレーニングを主導。メルカリでは、日本語または英語のほうが話しやすい社員が同じチームで仕事をしていることが多い。言語のバックグラウンドが異なる社員同士が、お互いにどのように歩み寄りのコミュニケーションをしたらよいか社員に伝えている。 -
Gabe Beckerman(@gabe)メルカリ Global Operations Team 2 マネージャー。米国で生まれ育ち、16歳で初めて来日。京都や富山でも暮らし、現在は東京在住。タフツ大学卒業後、JETプログラムの国際交流員として働いたあと、双日株式会社では社内翻訳を経験。2018年9月にメルカリに入社し、現在は社内の翻訳・通訳チームであるGlobal Operations Team 2のマネージャーや無意識バイアスワークショップの担当者を務める。
職員が無意識バイアスを自分ごと化して考えるようになってほしい
@soramix:今日行った徳島市役所の幹部職員向け「無意識バイアスワークショップ」で、「管理職同士でも同じバイアスがかかっている可能性があるから、これから自問自答していきたい」「無意識バイアスをこれから意識しながら生活すると、発言した後に気づくこともきっとあるだろうから、風通しの良い職場を目指したい」といった感想をいただきました。今日の場で得た気づきを、一人でも多くの職員が意識することができたら、組織が変わっていくと感じましたね。
内藤市長:どの研修でもグループワークになるとすごく盛り上がるんです。普段言葉にする機会がないだけで、皆さん言いたいことはたくさんあるんだろうなと。当初は、民間企業の研修に馴染みがなかったことから、研修に前向きではない職員もいましたが、最近は「研修も色々変わってきてますよね」と職員から言われることも増えてきました。普段の業務とは異なる場を通して、少しずつ気づきを得ながら、「今の時代の市役所に必要な研修ってどんなものだろう?」ということを研修担当者が自分ごととして考えるようになってくれればと期待しています。
内藤佐和子 徳島市長
教育は誰でも受ける権利があるはずなのに“言葉”が障害に
@maz:今日は「やさしい日本語」のコミュニケーション研修も実施しました。これからの時代は、外国籍の方が全国的にも増えていく傾向にあると思うので、「多国籍住民との共生」はどの自治体にとっても取り組むべき課題のひとつではないでしょうか。一方で、受け入れる側に経験がないと、何をどう変革しなければいけないのか、イメージしづらいという問題がありますよね。
今回、「やさしい日本語コミュニケーション研修」を実施して、職員の皆さんも、「どのように周りと課題感を共有したらいいか」という議論をあまりしたことがないのではないかという印象を受けました。これは徳島市役所だけでなく、どの自治体に対しても感じることですが、こういう研修を通して、コミュニケーションに向き合うきっかけを作ることができればいいなと思っています。
@内藤市長:実際、徳島市でも日本語が母語ではない方が年々増えています。特にお子さんがいらっしゃるご家庭ですと、日本語のサポート以前に教科書に記載されている日本語がそもそもわからないので、勉強についていけず苦しい思いをしているお子さんや、学校から配布されるプリントに書いてあることを理解するのに苦労している保護者の方も少なくありません。
この問題を解決するために、今年度当初予算に新規の事業としてそういったお子さんたちのサポートをするための予算を初めて措置しました。今までも、既存事業として日本語指導をサポートする人はいたのですが、それだけでは手が回らない状況になっており…。もちろん職員全員に背景や意図が正しく伝わってるかというと、まだまだ伝わってない部分もありますし、予算的な難しさもあるのですが、外国籍の方にも徳島市で快適に楽しく過ごしていただきたいという思いで課題解決に取り組んでいます。
@maz:そもそも、教育は誰にでも受ける権利があるはずなのに、言葉が障害になってちゃんとした教育が受けられないということはあってはならないと思っています。
今日「無意識バイアス」の研修も行ったのですが、この問題についても、「日本で生活していたら自然に日本語ができるようになるだろう」といったバイアスの上で成り立っている部分があります。特に子どもに対してのバイアスが強く、「日本語教育の提供が不十分であることによる苦しみを感じていないだろうか」という発想にいたらないケースが非常に多いんです。
私たちが日本語を使いこなせるのは、決して日本語が使われている環境で生まれ育ったからだけではなくて、日本語を国語として教育を受けてきたからなんです。それと同じで、やっぱり教育なしでは日本語が使えるようにはならないので、そこについては真剣に考えていく必要があるなと。 ただ、言葉が壁になっていることに気づかず、「教師が言うとおりに行動ができない=問題のある生徒だ」とラベリングされてしまい、十分にケアやフォローが受けられない生徒が存在するのが現実です。徳島市の取り組みが全国に広がり、言語の壁による教育格差が1日でも早く見直されればと思いました。
内藤市長:私自身のバックグラウンドのお話しをさせていただくと、15歳の時に交換留学でアメリカのテキサス州に留学をしていてことがあります。まわりにはほとんどアジア人がおらず、黒人とヒスパニックと白人が1/3ずつぐらい割合で暮らしている地域で、牧場に馬とか牛とかが多い、いわゆるカウボーイがいるような小さな街でしたが、先生方の手厚いサポートと、地域の方々の思いやりで、心地よく過ごすことができました。ただ、高校に通う中で、例えば数学はすごく簡単だけど、英語のヒアリングや思いを伝えるのが難しい…という悩みもありました。もちろん英会話教室には行ってましたが、自分自身がそういう体験をしているだけに考えさせられます。いろんな人種差別みたいなものを感じたこともありましたし。
また、日本を単一民族国家的に考えている人が多いと思います。地方ではまだまだ外国籍や日本語を母語としない方に対して偏見を感じることもあり、 しんどい経験をすることがあるだろうと思ったのが、言語バイアスについて考えるきっかけのひとつです。
みんながちょっとずつ優しくなればいいんじゃない?
内藤市長:D&I推進ですごく難しいのは、「女性の管理職が少ないから、市長は女性しか昇進させないんでしょう」といった誤解をされることです。私は女性の活躍推進や管理職への登用などについて、Twitterなどでも発信するようにしていますし、女性のデジタル人材の育成や、女子中高生への無料のIT教育の機会提供などに取り組んでいるのですが、こういったことをすると「市長はいろんな人に機会をと言っているのに、なぜ女性だけに学ぶ機会を与えるんですか?」と言われることが少なくありません。こうした意見は、市民からも職員からもいただくのですが、だからこそ今日のようなD&I研修を職員に受けてほしいと思うんです。
@gabe:D&Iという話では、とくに人事関連の意思決定の際には、「無意識バイアス」を意識してもらいたいと思っています。例えば、履歴書や職務経歴書の内容はそれ程変わらないのに、男性の名前と女性の名前だけでどちらを採用するかが左右されてしまうケースがあります。
それ以前に、そもそも男女が均等に応募してくれるわけではないので、属性の偏りについてはメルカリでも苦労しています。これはメルカリに限ったことではないですが、特にエンジニアは女性がそもそも母数が少なく、「業界全体として、もっと女性のエンジニアを増やそう」と常に言っていますし、社会全体の課題だと考えています。徳島市が率先してこうした問題について取り組み、発信を続けることは、非常に価値があると思います。すぐに効果が出るものではないですが、このような機会を継続することが重要ですよね。
内藤市長:徳島市役所では5つの価値観というのを設定していて、その2つ目が「公平」なんですが、これは、「真の公平とは何か、常に考えましょう」ということです。「なぜ女性のデジタル人材が少ないのか知ってますか?」「日本だけこんなに女性の理系進学が少ないっていう事実をあなたたちは知っていましたか?」と問いかけているわけです。
「公平」というものに向き合うと、社会の様々な歪みや矛盾に、否が応でも気づかされるんです。特に女性職員に対しては「業務量の多い課には行きたくないんじゃないかと」「子供がいるから忙しいと思って」という、一見相手のためを慮っているように見える思い込みが存在している場合もあるように思います。無意識バイアスがあるばかりに、本当は「チャレンジしたい」と思っているのに、その機会が女性側には与えられず、選択肢から排除されてしまうんです。
@maz:IT人材に関しても、女性のなり手がいない本当の原因がどこにあるのかと言ったら、教育の基本的な部分からそういう構造になっており、「女の子だから大学行くのはちょっと」とか「女の子だから理系はあまり向いてない」といった妙なレッテルを貼ってしまっていることによることがあります。機会は、子どもの時から影響を受けており、女性もそういうものだという思い込みがその過程で作られていくんだと思います。自分がこうしたレッテルを無意識に受け入れてしまっていたということに大人になってから気づきました。
内藤市長:IT教育についても「誰でも参加していいですよ」と言ったら、どうしても男性が多くなる傾向があるので、あえて「女性対象の研修をやります」「LGBTQも含めて参加してください」と呼びかけることで、心理的安全性が担保されるように工夫しています。また、「これからのITをカラフルにする女の子たちへ」をコンセプトに、ウェブサイト開発のスキルとプログラミング学習コミュニティを提供するオンライン・プログラム「Waffle Camp」も応援しています。
また、女性のリスキリングにも力を入れています。日本の構造ではどうしても女性は非正規雇用になりがちなので、きちんと新しいスキルを身につける機会を提供し、どこででも働けるデジタル人材になってもらいたいと思っています。
「そんなことをしたら徳島市から人材が流出してしまうのでは?」という声もありますが、徳島でも東京と同程度の賃金が得られるような人材になれること、それをまた次の世代に受け継ぐことが大事だと思っています。徳島市では2年前から女性のデジタル人材育成に取り組んでいて、次は“人材の地産地消”に取り組む予定です。研修を受けた人が地元の人にまた教えていって、教えられた人が資格を取り、高水準の賃金が得られる人になってもらう…といった循環が生まれればと思っています。この取り組みが、地方と都市部の賃金格差是正の活路を見出し、ひいては地方創生にもつながっていくと思っています。内閣府男女共同参画会議でも「女性デジタル人材の育成」について私はずっと言及を続けてきたのですが、実際に骨太方針に入りました。
@soramix:ちなみに、内藤市長はどんなときに「女性市長」としてのジレンマを感じますか?
内藤市長:そうですね…いくつかあるのですが、女性市長ということから「子育てと家事と仕事の両立大変じゃないですか?」と聞かれることが多いです。そんなときには「それを男性市長に聞いたことありますか?」と聞くことにしています。私が市長に当選したのは36歳で、現在は38歳なのですが、子育てをしている男性なんていくらでもいる世代です。なのに「なぜ、私には聞くのに、男性には聞かないんだろう?」と感じます。女性は育休をとるのが当たり前と思われているなか、男性が5日間ほど育休をとっただけでニュースになりますよね。
@gabe:アメリカとの比較になってしまうのですが、無意識バイアスとか、D&I全般的の話になると「日本は島国ですから、なかなか馴染みがないです」と皆さん言うんですが、個人的には馴染みがないからこそすごくいい機会でもあると思っています。アメリカでは「ここは多様性が高い国だし、D&Iについて自分は既に理解している」という意識を強くもっている人が多いのですが、逆に自分の感覚に寄ってしまっているケースも多いような気がしています。一方、日本では自分の知らない領域として、このような研修をいい機会だと捉えてくれるところが多いです。知らないからこそ、皆さんとてもオープンに、好奇心を持って聞いてくれるんですよね。
@soramix:徳島市役所の職員の中にも、誰かと対話するのが好きな職員もいれば、そうでない職員もいます。無理に型に当てはめて、それが普通だと押しつけるのではなく、それぞれの特性を認め合って、頼り合うことができる組織を目指すべきだと今回市長とお話して改めて思いました。
4月に徳島市役所へ戻りますが、帰ってからは本来業務のほかに、外部講師に頼らずに職員研修を自走させることや、徳島市民、徳島県民の皆さんにD&Iについてお話しする機会が増えればいいなと個人的に思っています。
内藤市長:庁内の研修にとどまらず、徳島市役所から住民の方々や県内自治体に広めていくことも含めて考えていくことが大事だと思います。せっかくの経験なので、ぜひ他の市や町にも知見を共有していってください。
おわりに
メルカリでは「やさしいコミュニケーション」と「無意識バイアスワークショップ」という研修プログラムを独自開発し、提供しています。
ぜひダウンロードして、所属する組織やコミュニティでディスカッションを始めてみてくださいね!
また、コラボレーション企画でメルカリグループの政策企画ブログ「merpoli(メルポリ)」にも対談記事を公開しています。こちらも合わせてご覧ください。