メルカリでは、どんなバックグラウンドを持っていても、平等なチャンスと適切なサポートのもとでそれぞれがバリューを発揮できる組織を目指し、様々な取り組みを実施しています。
国連が制定する3月8日の「国際女性デー」のタイミングで、「組織の多様性」について考えていきたいと思います。SDGsの1つにもなっている「ジェンダー平等」は、私たちメルカリのグループミッション「あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる」にも深く結びついている考え方です。
当連載「新たな価値をつくる – 風の時代を生きるリーダーが紡ぐ言葉の記録」のイントロダクションとして、メルカリCFOの江田清香(@Sayaka)とExperience Design Marketplace VPの前川美穂(@Miho)2名による対談をお届けします。
本記事を皮切りにして紡がれてゆくリーダーたちの言葉は、決してジェンダー・国籍・年齢など、特定の属性の枠に収まるものではないと思っています。この企画が、これから自身のキャリアを切り拓こうとする人たちをエンパワーメントするきっかけになれば幸いです。
この記事に登場する人
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江田清香(Sayaka Eda)慶應義塾大学大学院 理工学研究科 前期博士課程(修士)修了 。2006年4月からゴールドマン・サックス証券株式会社に入社。入社以来、自己資金等を活用した投資・融資案件等に携わり、コーポレート・ファイナンスのみならず広範な金融知識をもとに同社のマネージング・ディレクターを2017年より務める。業務以外でも同社内において Japan Women’s NetworkのCo-Chairを務めD&Iの推進をリード。2021年1月より執行役員CFO、2022年7月より執行役員 VP of Corporate 兼 CFO。2023年1月より上級執行役員 SVP of Corporate 兼 CFO(現任)。 -
前川美穂(Miho Maekawa)米国美術大学を卒業後、Microsoft 本社にUXデザイナーとして入社し、ポータルサイトの立ち上げとグローバル展開に従事。2008年に同社の日本法人に移動後はアジア圏を担当し、ニュースメディアのUXデザイン開発に携わる。2015年にFast Retailingの一人目のUXデザイナーとして入社し、デザイン組織を設立。店舗・業務システムから、各ブランドのECサイトのデザイン統括を経て、2022年5月にメルカリMarketplaceにHead of Designとして参画。2023年1月VP of Experience Designに就任
バラエティーに富んだ組織で、自身のキャリアを追求しつづけてきた
──まずはSayakaさんとMihoさんのこれまでのキャリアと、メルカリに入社したきっかけを教えてください。
@Sayaka:大学院を卒業してから、外資系金融企業に入社しました。前職でもメルカリでも、ロールモデルについてよく聞かれるのですが、私自身「この人のようになるぞ」という完成形を誰かに重ねてきたことはなかったです。男女問わず、見習いたい人はもちろんたくさんいました。ですが、特定の1人を目指し続けたことはないですね。
あと、実は金融業界を強く志望していたわけではありませんでした。大学の専攻は応用科学やバイオテクノロジーの分野だったので、学んだ領域と関係しているということもなくて。就職活動の際、周りにいたチャレンジ精神旺盛なタイプの人がこぞって志望先にあげていて、「果たして、この一般消費者には縁のない金融機関では何ができるのだろう?」という純粋な疑問が、金融キャリアの始まりでした。
イメージ通りかもしれないですが、金融業界では仕事のカウンターパートとなる人物はやはり男性が多かったです。最初に所属したチームは多くのプロフェッショナルメンバーで構成されていましたが、入社当時女性は私一人でしたね。ただ、アサインメントにおける男女差のようなものを特に感じることもなく、とてもハッピーに働くことができていました。外資系というところもあり、性別・人種・バックグラウンド含めたあらゆる多様性に対して会社として常に働きかけていましたし、役職問わず誰一人として同じような人がいないという点においては、バラエティーに富んだ組織だったと感じます。
メルカリへの入社を決めた理由は、前職でグローバルに話題に挙がるディール(取引)に、テック企業に関連するものが日増しに多くなり、経済への影響や、業界全体としての成長の勢いがどんどん気になるようになっていたから。業界については何年も前から漠然と気になっていましたが、たまたま進太郎さん(代表取締役 CEO)やnaokiさん(上級執行役員 SVP of Japan Region)と話す機会があり、当初自分が抱いていた「キラキラしたユニコーン企業」という印象とは違って、「メルカリはまだまだスタート地点、ここから大きく成長していくんだ」と言っていて。現状に満足していないんだなと感じたと同時に、まだまだ成長を続ける組織に自分も入ってみたいと純粋に思いました。
江田清香(@Sayaka)
@Miho:もともと考古学を学びたくてアメリカに留学したのですが、当時ITブームということもあって、Computer Programmingのコースを履修した際に知った「相手に伝えるデザイン」という点に興味を惹かれて美術大学に転入しました。
大学卒業後は、IT企業の米国本社でProduct Designerとしてキャリアをスタートさせました。そこではMSNというポータルサイトのデザインと、グローバル展開を担当しました。職場の環境としては、様々な人種の方がいて、シニア層やエクゼクティブレベルでも多様性のある方たちがいました。Sayakaさんの話にもありましたが、誰一人として同じような人がいないというか、いろんなバックグラウンドや経験、家庭環境の人たちが、同じミッションのもとで一つになって働いてるところがすごく楽しかったです。
前職の大手アパレル企業では、初のUXデザイナーとして入社しました。最初は開発組織に所属していたので、外国籍の方も多く、グローバルな環境でした。ただ、部署によっては「UXデザイナー」という役割に耳慣れない方も多かったので、私が何をミッションにどうやって商売に貢献できるかを伝えていく必要がありました。その時にアメリカ留学時に「自分を伝えること」を学んだ経験を思い出して、過去の経験が全て繋がっているような感じがしました。
メルカリへの転職のきっかけについては、大手アパレル企業に転職した時もそうだったのですが、グローバルレベルでの影響力を持っているということです。日本のみならず世界で服の常識を変えたブランドに挑戦することに魅力を感じましたし、メルカリにもグローバル規模での価値を変える可能性を感じています。
──Sayakaさんは2022年12月に上級執行役員 SVP of Corporate 兼 CFOに、Mihoさんは2023年1月に執行役員 VP of Experience Design Marketplaceに就任されましたが、ご自身の役割をどのようにとらえていますか?
@Sayaka:メルカリのCFOとして働く中で感じていることとしては、全てのチームの努力の結晶を、どう成長の道筋に繋げていくのかを描くことの大切さです。
「ただやみくもにやる」だけでは当然うまくいかないので、社内でしっかり仮説を立ててそれを実行していくことはもちろん、外からメルカリがどう見えているのか、という視点からも考える必要があります。さまざまなステークホルダーとしっかり対話ができているか、同じ方向を向いているか、そこができていないと、投資をはじめとする周りからのサポートは永続的に得られないと思います。少しでもズレている可能性があるなら、社内でしっかり課題をピックアップして、軌道修正していく必要があるので、成長のドライバーを保持し続けながらも、バランスを保っていくことが私のミッションです。そういった、社内外からの見え方・見られ方を調整することがすごく難しいけれど、楽しいところだと思います。
@Miho:強く意識しているのは、メルカリというマーケットプレイスは私たちが作ってきたものではなく、数多くのお客さま自身が作り上げてきたものだということです。私の役割は、UXデザインを通してお客さま体験を追求していく中で、マーケットプレイス内のお客さま一人ひとりの価値観を理解しつつ、ポテンシャルが広がっていく場を作り上げていくことだと思っています。そして、Experience Designチームが一丸となってお客さまに心地よい体験を提供するために、一人ひとりが強みを活かして活躍できる環境を作りあげていくことだと思っています。
新たなルールを作り上げるというチャレンジングなプロセス
──第一人者として道筋を作り上げていく上で、難易度の高いチャレンジを避けては通れないと思うのですが、どのように考え、向き合ってきたのでしょうか?
@Miho:やはり歴史ある大きな企業から、メルカリのような比較的若い企業に来ると、まだ仕組みが整っていないところも多々あり、それを自分たちで作り上げていくというところはあります。それはいい意味でチャレンジですし、私自身は何かあるものを生かしていくよりも、ゼロから物を作っていくことが好きだったので、失敗することもありますが、学びが大きく、自分にとってよかったなと思います。Sayakaさんはどうですか?
前川美穂(@Miho)
@Sayaka:そうですね。規模が大きな会社や、歴史がある会社では、大体のルールや仕組みはいったんでき上がってるんですよね。
なにか意思決定をするときに、決まったルールや仕組みに沿っているかを確認するプロセスは煩雑だったりするのですが、そこにはある種の合理性も存在していると思います。メルカリのような新しい会社では、そもそもの判断基準や仕組みが完全には整っていないという状態の中で、ルールメイキングせざるを得ないということがたびたび起こります。
いまのメルカリの規模はすごく難しいんですよね。2,000人という規模はすごく大きくはないですけど、決して小さくもない。その絶妙な規模感の中で、メンバーの意見をすごく聞いていこうとするカルチャーがありますが、それにはエネルギーが必要ですね。意思決定のプロセスという点においては、一人ひとりの意見を聞いて組み立てていくと、最終的な納得感とコミットメントを得られるという利点がある一方、当然時間もかかりますし、議論の方向性が拡散してしまうこともあります。
また、これまでの社会の慣習や既存のルールが「果たして本当に正しいのか?」と真面目に考え出すと、実は時間が経って陳腐化しているものや、既に意味をなしていないものもあるので、変えていくべきものもたくさんあります。今のメルカリのフェーズでは、「そもそもどういう枠組みで考えるべきか」という指標や、メカニズムそのものを作るということが重要なイシューです。そこにはまだ答えがないからこそ、やっぱり難しいのですが、そこに多くの時間をかけることの意味は大きいです。
歴史ある大企業は、比較的トップダウンな組織が多いので、全員の意見を集約した上で「どう思う?」と投げかけていくというよりは、「これは決定事項です!」という太い柱が既にある状態で、そこにアドバリューをしていくという構造になっています。「コミュニケーションコスト」という表現は社内でもよく耳にしますが、どちらが良い悪いではなく、両方にPros & Consが存在しますよね。
──金融業界はタフで旧態依然としている部分がまだある、というイメージがどうしてもあるのですが、前職ではメルカリとはまた違った難しさはありましたか?
@Sayaka:もう、皆さんのイメージ通りタフな業界だとは思います(笑)。ただ、そのイメージが既に定着してるので、入ってくる人にとってはそのタフさは「織り込み済み」で、短期間でどれだけ多くの経験が積めるか、グローバルな環境で働けるか、という軸が重要度として先行しているので、それが辛いと思ったことは私自身はなかったかもしれません。多分、同僚もそういう人が多かったですね。どこの会社でもそうですが、結果を残さないといけないという良い意味での緊張感は常にあるので、結果を出すことに対する姿勢は育てられた可能性がありますね。
──Mihoさんにもお聞きしたいのですが、アメリカと日本で働いた中で、双方のギャップや違いみたいなものはありましたか?
@Miho:もしかしたら日本とアメリカはそこまで違いがないのかな、と思います。おそらく、どこの国で働くかというよりは、役割による違いなのかも知れません。アメリカで働いていた当時、私はいちメンバーとして自分の仕事に向き合っている状況だったんですね。いちメンバーの目線では、アメリカの職場イメージとして挙げられやすい、ワークライフバランスが整っているとか、オンオフがきっちりしていて家族の時間を優先する、という印象はありました。ですが、同僚がどんどんシニアグレードに上がっていく中で、家庭を優先はしているものの、やっぱりそれなりの業務量があるんですよね。そういう意味では、アメリカも日本も同じだし、本質的には大きく変わらないんだろうなと今は思います。
ただ、日本に帰ってきてから感じたギャップとしては、「価値観の多様性の少なさ」ですね。外国籍メンバーも多く在籍していましたが、まだまだ日本気質なところがあったと感じます。グローバルに展開している企業であったとしても、日本支社は日本の常識・価値観に少なからず影響されている状況にはあったんじゃないかなと思います。
自分自身が、日本的な価値観に対応していくことに対して、最初は少し戸惑いました。だんだんとその価値観自体が、ある意味お客さまのためのモノづくりにとって必要なことなのかな、と考え方も柔軟になりましたね。
大切なのは「環境を楽しむ力」と「小さな成功体験の積み重ね」
──難しい局面があった中でも、どんなところからご自身の仕事の面白さや楽しさ、仕事観を見出してきたのでしょうか?もし、ブレイクスルーのような経験があれば、併せてお伺いできればと思います。
@Sayaka:最初にロールモデルは特にいないと言ったのですが、同様に「これがブレイクスルーだった」という瞬間も実はないんです。
私自身、5年後10年後こうなっていたいというキャリア像を持っているわけではなくて、常に目の前のことに全力投球してきました。それが良いか悪いかは別として、事実としてそういうスタンスでここまできているので、自分の仕事観を変えた明確な出来事みたいなものもないんですよね。
ただ、常に自分の可能性が広がりそうなことだったり、新しい経験値やチャレンジを得られそう、今まで働いたことのない人たちと一緒に働けそうといった観点については、敢えて否定せず選択をしてきたなとは思います。無意識の選択なのかもしれないですが、そういう機会を一つひとつ選び取ってきたことの積み重ねによって、「これは大して心配することじゃないな」「こんなことまでできちゃうんだ」という体験を積み重ねてきたんだと思いますね。
1年前の自分にはできなかったことを、気づいたらできるようになっていた、といういくつもの小さな成功経験の蓄積が自分をつくってきたので、ブレイクスルーというよりは積み重ねの結果だと思います。当たり前の答えになってしまうのですが…。
@Miho:そうですね、私もこれまでのキャリアや人生において、新しい環境や出会い、価値観に出逢った時に、自分がいかに許容して受け入れられるかということを常に考えてきました。いろんな人がいて、いろんな考え方がある中で、自分自身がその多様性をちゃんと認めた上で、どういう判断ができるかというところは常に意識しています。
@Sayaka:あともう1つ別の観点があるとすると、一般的に女性は結婚や出産というライフステージによってキャリアまでも変わる、あるいは難しさが増すみたいな話があると思うんですけど。私は元々外資系企業に勤めていたし、Mihoさんもアメリカにいたので、結婚・出産のようなイベントを、必ずしも大ごとにしない環境で過ごしてきました。結婚・出産を選ぶか、仕事を選ぶか、といった選択を迫られるシチュエーションがそもそも存在していなかったんです。
「どちらかを選ぶのではなく両方選ぶ」というスタンスが本当は大切で、そのために足りないものがあったら周りにヘルプを求めたり、自分でも組織でも調整していく。誰しも大変な時はあるし、表向きでは普通に振る舞っていたとしても、水面下では水鳥のように足をバタバタさせている状態だと思うんですけど(笑)。ただ、両方選び取った上で、両立できる道を探していくことは自然なことですし、私自身もそんなに悩むこともなく、それを当然だと思ってここまできた感じがします。欲張りで良いと思ってます。
@Miho:まさにそのとおりですね。私はもともとアメリカで働き続けたかったのですが、ビザの関係上日本にどうしても帰らなければいけなくなったときはとても辛かったです。
ですが、日本に帰国し、初めて東京で暮らし始めてからは、東京の生活も楽しむことができたので、結局アメリカには戻っていません。環境の変化があると、その時々で不安になることもあると思うのですが、その場所にはその場所での楽しさや新しい出逢いと成長の機会があると思っています。これは性格の問題なのか、たまたま良い出会いに恵まれていたのかはわからないのですが、「そんなに心配するほどでもないな」と思えるようになったのは、さまざまな経験があってこそかもしれないですね。
どんなチャレンジでも絶対に得るものは多いし、後々のキャリアだけでもなく人生そのものも豊かになると思うので、環境や特定の選択肢に執着しすぎる必要はないと思います。
──ありがとうございます!最後に、次世代のリーダーたちに、お二人からメッセージをいただけると嬉しいです。
@Sayaka:ここまで話してきた「目の前のチャンスを全部テイクすること」という部分が伝えたいメッセージですね。世の中や社会、会社自体を自分の思い通りにすぐに変えることは難しいので、むしろ「その環境の中で自分が最大限何ができるのか」を存分に楽しんで、自分の人生の達成したいことや目標に向かっていくのが良いと思いますね。もちろん、仕事が全てではないと思いますし、制限がある中でも自分なりの喜びや楽しさ、そこで得られる仲間との関係性を楽しむのも大切なことではないでしょうか。
@Miho:ロールモデルの話にも関連するのですが、Sayakaさんも私も含め、誰一人として、同じバックグラウンドを持つ方はいないからこそ、一人ひとりが特別だし、誰かと同じになる必要もないと思います。自分自身を信じて、自分なりの軸と感性を持って自分が行きたい道を進んでいけば、おのずと見えてくるものがあるんじゃないかなと思います。