株式会社メルカリは2023年2月に創業10年を迎えました。この大きな節目に「あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる(Circulate all forms of value to unleash the potential in all people)」というグループミッションを新たに策定しました。
メルカンでは、このグループミッションに込められた意図、そしてこれからの私たちの目指すことを「【8つのキーワードからひもとく】メルカリの10年、そしてUnleashする可能性と未来」という連載形式でお伝えしていきます。これからのメルカリを牽引するキーパーソンたちの言葉から、改めてメルカリという有機体(組織)の現在と未来を紡いでいき、これからの10年に私たちが社会にどのような貢献をしていけるかを思考します。
第5回のキーワードは「パーパス」です。メルカリ上級執行役員 経営戦略室長 河野秀治(@shuji)、メルカリ上級執行役員 SVP of Corporate 兼 CFO 江田清香(@Sayaka)、メルカリ社外取締役(独立役員)篠田真貴子(@shinomaki)に、メルカリのパーパス(=存在意義)を聞きました。「社会」「お客さま」「メンバー」とメルカリの理想の関係性や、株式会社として求められる在り方を紐解きます。
この記事に登場する人
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河野秀治(Shuji Kawano)早稲田大学理工学部化学科卒業後、ライブドアの投資銀行部門、ゴールドマン・サックス証券とSBIホールディングスによる合弁の投資ファンドを経て、戦略コンサルティング会社である経営共創基盤(IGPI)に入社。その後、起業を経験。さらにスタートアップ企業で上場を経験し、2018年7月より執行役員 経営戦略室長。2020年9月より上級執行役員 SVP of Management Strategy(現任)。 -
江田清香(Sayaka Eda)慶應義塾大学大学院 理工学研究科 前期博士課程(修士)修了 。2006年4月からゴールドマン・サックス証券株式会社に入社。入社以来、自己資金等を活用した投資・融資案件等に携わり、コーポレート・ファイナンスのみならず広範な金融知識をもとに同社のマネージング・ディレクターを2017年より務める。業務以外でも同社内において Japan Women’s NetworkのCo-Chairを務めD&Iの推進をリード。2021年1月より執行役員CFO、2022年7月より執行役員 VP of Corporate 兼 CFO。2023年1月より上級執行役員 SVP of Corporate 兼 CFO(現任)。 -
篠田真貴子(Makiko Shinoda)慶應義塾大学経済学部卒業後、日本長期信用銀行(現・新生銀行)入社。米ペンシルバニア大学ウォートン校MBA、ジョンズ・ホプキンス大学国際関係論修士取得後、マッキンゼー・アンド ・カンパニーにて経営コンサルティングに従事。その後ノバルティス 及びネスレにて、事業部の事業計画や予算の策定・執行、内部管理体制構築、PMIをリードした。2008年にほぼ日入社、取締役CFO管理部長として同社の上場をリードした。2018年に退任後、充電期間を経て、2020年3月エール取締役に就任。「LISTEN――知性豊かで 創造力がある人になれる」監訳。2020年9月より社外取締役(現任)。
グループミッションを綺麗事で終わらせない
——メルカリは2023年2月に創業10年を迎え、新たなグループミッションを掲げました。このタイミングで掲げる意味、そして現在のメルカリのフェーズをどう捉えていますか?
@Sayaka:IPOから5年経過したいま、ビジネスでしっかり収益を作り、それを再投資していくことで、社会課題解決のインパクトを生み出していくフェーズだと思います。メルカリのなかでも、5年前より3年前、3年前より今年と、その意識が高まってきました。しかし、これだけの規模になると、メンバー全員が同じ方向を向くことは簡単ではありません。会社のパーパスを問いながら、常にアジャストし続ける組織であるために、このタイミングで新グループミッションが策定されたことは大きな意味があると思います。
@shuji:個人的には、メルカリは「ロマンのある会社」だと考えています。一般的に、会社を創業するのは、社会課題を解決したいから。もっと言えば、自分たちが誰よりもその課題をうまく解決できると信じているからです。誰かにとっての不要なモノが必要な人に価値のあるモノとして渡るという事業の特性上、メルカリが使われる場面が広がれば広がるほど、環境問題などの社会課題は解決に近づきます。メルカリがモノを循環させることを最も得意とし、誰よりもうまくできると信じ、この会社を続けています。
河野秀治(@shuji)
——社会課題解決のために、一層ビジネスとしての成長を実現するフェーズだ、と。社外取締役としての俯瞰的な目線をお持ちの篠田さんは、今回のグループミッションをどのように見ていますか?
@shinomaki:あらゆる人のポテンシャルを「Unleash」するという考え方にすごく共感していますし、メルカリで活動するなかで、その可能性を実感しています。先日、本業の同僚がメルカリを使い始め、お洋服が売れたことを喜んでいました。大切に着てきたお洋服が別の人の手に渡ったことで、時間の対価でお金を稼ぐこととはまた違う、自分の新たなポテンシャルを見つけたのが嬉しかったようです。また、今年80歳になる私の母も、趣味の茶道につかう道具をメルカリで購入するようになりました。その年齢で、かつ茶道というトラディショナルな分野の趣味を持っている人が、新しい道具と出会い、できることが増えている。まさに、人のポテンシャルを「Unleash」した瞬間を見たんです。
そうしたことから、私はメルカリのグループミッションに嘘はないと確信していますが、ミッションやパーパスを掲げることに伴う責任も考えないといけないと思います。ミッションを掲げるとは、例えるなら「わたしは魅力的な人間です」と自分から言うようなもの。言えば言うほど、人からは疑いの目を向けられてしまいかねない構造があります。ミッションを掲げるならば、実をともない、信頼を獲得していかなければいけません。この先目指していくべきは、メルカリとさまざまな形で接点を持った人から「ミッションに納得した」という声をいただける会社になることです。
@shuji:なにごとも綺麗事で終わらせてはいけないということですよね。ビジネスの成果も社会課題の解決も、経済的な営みのうえに両立させていきながら、結果だけではなく過程も大切にしていくことが求められています。
「5つのマテリアリティ」は、メルカリの羅針盤
——メルカリがビジネス成果とともに追求する社会課題への取り組みについて、もう少し詳しく教えてください。
@shuji:メルカリが本業を通じて解決すべき社会課題、それを推進していくための社内課題をまとめた「5つのマテリアリティ」が、それを端的に表していると思います。例えば、1つ目の「循環型社会の実現/気候変動への対応」は、サービス自体が生み出そうとしているインパクトそのもの。メルカリは2021年に、衣類カテゴリーにおいて約48万トンのCO2の排出を回避、衣類廃棄量(重量)の8.8%を回避することができました。こうしたインパクトを他のカテゴリーにも広げていきたいと思っています。
また、外部パートナーとの協業にも力をいれていきたいです。メルカリがメーカーや小売などの一次流通の会社と連携できると、よりサステナブルな事業活動になっていくはず。例えば、1回きりの販売で売上を作る構造から、二次流通においても、人から人へと商品が渡っていく取引ごとに売上をたてることができれば、商品開発時に商品の質や単価にも大きな影響を与えることになると思います。良い品質の商品がリーズナブルな価格で循環するのでは、という仮説を持っています。もちろん循環の過程で商品が破損したり、電化製品であれば古い商品の低エネルギー効率問題など、循環を妨げる要因もありますが、リペアや回収のプロセスを一緒に作りながら製品寿命を長くしていけないかというアイデアです。お客さまに商品を長く愛してもらいたいという生産に関わる方の願いを、経済的な側面も両立しながら、循環を通して実現できないかと考えています。
マテリアリティのひとつ「ダイバーシティ&インクルージョンの体現」も同様に、メルカリと社会のどちらもを豊かにするための要素です。D&Iを推進することで、メルカリに多様な考え方や視点が加わり、新たなビジネス機会の創出やリスク回避がしやすくなるのは間違いないですが、1社で取り組んでも解決できない部分もあります。例えばメルカリが、育児と仕事を両立している女性社員のフレキシブルな働き方を実現したとしても、男性も育児をすることが当たり前の社会でなければ、その女性社員はさまざまなチャンスを逃してしまうでしょう。D&Iをマテリアリティに掲げ、積極的に発信しているのは、こうした問題を社会全体で考えていこうというメッセージなんです。
——「自社を豊かにすることで、社会を豊かにする」という、一見あたりまえのようにも聞こえる企業の在り方が、ここ最近、より強く求められるようになってきたのはなぜでしょうか?
@shinomaki:企業活動においてミッションやマテリアリティが問われるようになったのは、「プラネタリー・バウンダリー」(人類が生存できる安全な活動領域とその限界点を定義する概念)の考えが発表されてからです。人類の経済活動が地球を制覇してしまったゆえに、同じやり方をしていたら、これ以上物理的に大きくなれないという課題意識から出発しています。
私が以前ネスレにいた時も、そうした議論がありました。ネスレの商品はすでに世界中で販売されているため、成長したくとも物理的にビジネスを広げることができません。また、農業製品を扱っているため、地球環境や温暖化の影響をダイレクトに受けますし、社会基盤が整っておらず課題を抱えやすい発展途上国からコーヒー豆を仕入れている背景もあります。ネスレが自社の利益だけを追求するのは、さながらタコが自分の足を食べるようなもので、成長には天井があることを自覚していたんです。ネスレのような企業にとっては、地球環境を保全することと、自社が成長することは、完全にイコールの関係にありました。
そして、こうした考え方は事業者側だけではなく、投資家側も持っています。投資をしている企業の成長を実現し、リターンを得るには、環境課題や社会課題を解決する必要がある。だからこそ、企業にミッションやマテリアリティを問うようになりました。メルカリのミッションも、深い社会的な要請から生まれたものなんです。
篠田真貴子(@shinomaki)
@Sayaka:社会のサステナビリティとメルカリのサステナビリティも地続きである、ということは間違いないですが、私たちはまずは自社のサステナビリティを高めないといけないと思っています。サステナブルな社会を実現する前に、メルカリが潰れてしまったら元も子もありません。メルカリのマテリアリティは、仮に自社のサステナビリティにフォーカスしたとしても、社会のサステナビリティと繋がっているようにするための羅針盤なんです。
人が持つ無限のポテンシャルを「Unleash」する
——社会的な要請からのサステナビリティの重要性をよく理解できました。では、グループミッションから照らし合わせた時、メルカリという有機体(組織)のパーパスとは一体なんでしょうか?
@shinomaki:地球環境の有限性について話してきましたが、一方で「人」にはまだ無限のポテンシャルがあります。人のポテンシャルの発揮度合いは、置かれている環境によって違う。お客さまがメルカリを使うことで、新しいポテンシャルが解放されるのと同じように、社内のメンバーが最大限にポテンシャルを発揮できる会社にすることも、新しいグループミッションの目指すところであり、パーパスなのではないでしょうか。
——メンバーがポテンシャルを発揮できる環境をつくるためには、なにが大切だと思いますか?
@shuji:少し抽象的に答えるならば、「ミッションに向かって熱狂している状態」と、「目の前のことを楽しんでいる状態」を両立することです。目の前のことを楽しめていなければ、高尚な“だけの”ミッションはすぐに脇に置かれてしまいます。また、ミッションを日常的に意識できなければ、目の前を楽しむだけの惰性の未来が待っています。
また、個人のポテンシャルを発揮できる環境にするためには、組織の仕組みだけではなく、僕も含めたメンバー全員の貢献が不可欠です。僕らにとっては、目の前を楽しむ力や、ミッションに熱狂する力、もっと言えばサービスやメンバーを愛する力も、誰かに与えられるものではなくプロとして一人ひとりが身につけるべき後天的な素養です。会社とメンバーが一緒になって、共創を目指していくことが大事だと思います。
——会社とメンバーで共創(co-creation)するという考えは、メルカリらしいですね。
@Sayaka:共創をしたいステークホルダーは、社内のメンバーだけではなく、お客様・パートナー企業や自治体の関係者を含め、メルカリに接点を持っている「個人」全員です。サービスに価値を感じたり、メルカリを使ってなにかをクリエイションしていただくことで、「あらゆる価値が循環し、あらゆる人の可能性が広がる」世界を、一緒に作っていけたら嬉しいです。
江田清香(@Sayaka)
@shinomaki:モノの売り買いは、タイミングも売買したいモノも多様で、「個人」がすごく現れると思うんです。私たちは、社会課題解決に向けた大きな目線を持ちながらも、一人ひとりを、人としてきちんと見つめていきたい。個人のより良い可能性が発露する瞬間を生み出せるサービスを作っていきたいですね。
@shuji:メルカリの価値は、「欲しいものが、すぐ、安価で買える」という単純なものだけではありません。自分の新しい稼ぎ方の可能性に気づく感動や、モノを売ったお金で別のサービスを使える喜びなど、個人に向けた「情緒的」かつ「多元的」な価値も届けられるよう、引き続き邁進していきたいと思います。
編集:瀬尾陽(メルカン編集部) / 執筆:佐藤史紹