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【8つのキーワードからひもとく】メルカリの10年、そしてUnleashする可能性と未来──第6回「価値と循環」

2023-4-5

【8つのキーワードからひもとく】メルカリの10年、そしてUnleashする可能性と未来──第6回「価値と循環」

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    株式会社メルカリは2023年2月に創業10年を迎えました。この大きな節目に「あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる(Circulate all forms of value to unleash the potential in all people)」というグループミッションを新たに策定しました。

    メルカンでは、このグループミッションに込められた意図、そしてこれからの私たちの目指すことを「【8つのキーワードからひもとく】メルカリの10年、そしてUnleashする可能性と未来」という連載形式でお伝えしていきます。これからのメルカリを牽引するキーパーソンたちの言葉から、改めてメルカリという有機体(組織)の現在と未来を紡いでいき、これからの10年に私たちが社会にどのような貢献をしていけるかを思考します。

    第6回のキーワードは「価値と循環」です。メルペイ代表取締役CEO / メルカリ 執行役員 CEO Fintech 山本真人(@mark)、メルペイ・メルコイン取締役CISO / メルコイン取締役CINO 曾川景介(@sowawa)、メルカリR4D Head of Research 川原圭博(@yoshy)に、「価値と循環」という言葉を紐解きながら、メルペイやメルコインのフィンテック領域が担う役割と、「あらゆる価値が循環」する社会のイメージを言葉にしてもらいました。

    「価値と循環」というテーマの大きさゆえに、抽象的な内容も多く含まれていますが、あえてインタビューの言葉は取材時のニュアンスを残しています。わかりやすい「解」よりも「問い」をお届けすることで、読者のみなさんと一緒に、これからの社会を考えるきっかけにできれば幸いです。

    この記事に登場する人


    • 山本真人(Masato Yamamoto)

      2004年 東京大学大学院 学際情報学府 修士課程修了。NTTドコモを経て、2008年よりGoogle JapanのEnterprise部門 Head of Partner Salesを務める。2014年にはSquare JapanにてHead of Business Development and Sales、2016年からはApple JapanにてApple Pay 加盟店事業統括責任者を務める。2018年4月にメルペイに参画し、CBOとして金融新規事業(Credit Design)や加盟店開拓など、ビジネス全般を担当。2022年1月よりメルペイ代表取締役CEO。2022年7月よりメルカリ執行役員 CEO Fintechに就任、メルコイン取締役を兼務。


    • 曾川景介(Keisuke Sogawa)

      京都大学大学院情報学研究科システム科学専攻修士課程を修了。 2011年にIPA未踏ユース事業に採択。大学院修了後にシリコンバレーの FluxFlex社にてWebPayを立ち上げる。 ウェブペイ株式会社の最高技術責任者(CTO)としてクレジットカード決済のサービス基盤の開発に従事、LINEグループに参画しLINE Payの開発に携わる。 2017年6月メルカリグループに参画。メルペイCTO、メルカリCISOを経て現在はメルペイ・メルコイン取締役CISO / メルコイン取締役CINO。


    • 川原圭博(Yoshihiro Kawahara)

      1977年生まれ。東京大学大学院工学系研究科教授。2005年 東京大学大学院情報理工学系研究科 電子情報学専攻博士課程修了。博士(情報理工学)。東京大学大学院情報理工学系研究科助手、助教、講師、准教授を経て、2019年工学系研究科教授に就任。2015-2022年 JST ERATO川原万有情報網プロジェクト研究総括。2019年インクルーシブ工学連携研究機構長。2019年よりメルカリR4D アドバイザリーボードメンバーを兼任。2022年メルカリR4D Head of Research。

    「信用」と「デジタル」を交換可能にしてきたFintech

    ——新たにグループミッションが策定されましたが、これまでのミッションとの違いをどう捉えていますか?

    @mark:大きな違いは、循環させる価値の可能性が広がったことです。創業からメルカリは、基本的に「モノ」の循環を実現してきました。しかし、この10年間で、お客さまが交換できる「潜在的な価値」はテクノロジーによってもっと多様になりました。「モノ」の価値はメルカリによって定量化することができるようになりましたが、それ以外の価値をどのように定量化し、交換可能にしていくかが、これからのメルカリの挑戦だと思っています。

    メルペイは、その先駆け的な役割を担うサービスです。設立する際、私たちはお客さまにとって3つの資産を扱えるようにしようと考えました。「モノ」「お金」、そして「信用」という3つの資産です。

    山本真人(@mark)

    @sowawa:「信用」とは「お金に時間を旅させる」と生まれると、僕は考えています。前借りや分割払いがまさにそうですが、時間の概念を入れることで、現在は手元に無いお金でモノやサービスを購入できる。その時に、お金は「信用」に置き換わります。

    メルカリは「お金」と「モノ」の取引を繰り返すなかで、僕が入社した6年前にはすでに「信用」が生まれつつありました。そこでメルペイが「信用を創造して、なめらかな社会を創る」というミッションを掲げ、与信の仕組みを持ち込むことで、信用の交換を可能にしたんです。

    @mark:加えてメルコインは、現時点でお金に変換しづらい「デジタル」な資産をブロックチェーンなどの技術によって交換可能にしていこうとしています。そういう意味では、新しいグループミッションは、Fintech領域がやってきたことを言語化してくれていると思います。

    メルペイが歩んだ5年間。いまある課題と“まったく新しい信用”の誕生の可能性

    ——メルペイ、そしてFintech事業が始まって5年になります。改めて振り返り、手応えや課題を教えてもらえますか?

    @mark:この5年は着実に準備を進めた期間でした。基本的な機能として、与信やクレジットカード、QRコード決済などの仕組みを作り、黒字化させるところまでは到達しました。ただ、規模でいうとまだまだこれからだと考えています。メルカリと連携をより深め、メルカリをお使いのさらに多くのお客さまに使っていただきながら、価値が届く規模を広げる挑戦をしていきたいです。

    @sowawa:最近、markさんとこの5年間を振り返える機会があったのですが、メルペイが、信用や時間の概念を、お金の新しい側面として広げたのは間違いない事実。でも、その過程で手をつけられなかったこともあります。

    ひとつは、QRコード決済を「メルカリらしい決済にできなかった」こと。QRコード決済を、従来のクレジットカードやQR決済と同じエコシステム上に作ってしまいました。決済におけるオーソリゼーションの仕組みもクレジットカードと同様で、決済金額と個人の信用情報をやりとりするシンプルなものにとどめてしまったんです。

    本来ならもう一歩深めて、どんな人がどんな商品を売り買いしているか、買ったものの詳細や画像などのメタデータを収集できる仕組みを考える必要がありました。購買に関するさまざまな情報が、一次流通の世界にとどまっている現状は、サステナブルな社会とは言えません。それらのデータが、自動的に取集され、二次流通の世界にも降りてくるようにすることが、あるべき決済の形だと考えています。

    曾川景介(@sowawa)

    ——ひとつめの課題は、メルカリらしい考え方や付加価値を決済の仕組みに入れられなかったこと。他にはありますか?

    @sowawa:もうひとつは、「個人を特定する形でしか与信が使えない」ことです。今は、信用情報を集めたり、KYC(Know Your Customer)の仕組みによって、お客さまにどの程度お金を使ってもらえるかを判断しています。でも本当は、プライバシーテックの技術を応用すれば、個人を特定しなくても与信はできるはず。

    それが実現すれば、お客さまがメルカリアプリを開くだけで、個人情報を企業に管理されることなく、欲しいものを見つけたり提案されたりするようになる。グループミッションの「あらゆる人の可能性を広げる」に近づけると思います。

    @yoshy:その構想を実現するための技術が揃ってきていますね。最近の大学の卒業研究でも、ディープラーニングの新しいモデル「Transformer」に関する発表がたくさんありました。Transformerのすごいところは、これまでのモデルよりも少ないコンピューターリソースを用いて、機械が人間のように注目すべきポイントを判断できる仕組みになっていることです。こうした技術なら、個人情報を紐づけることなく、購買に関する大量のデータから注目すべき文脈を見つけ、与信枠を自動的に判断する時代がくると思います。

    @sowawa:旧来の文明にはなかった、“まったく新しい信用”が誕生しますね。

    必要なものを手放すことで「価値の総量」は増える

    ——残された課題を踏まえたうえで、どのように「あらゆる価値を循環」させていくのかを伺っていきます。そもそも「循環」とはどんな状態のことを指していると思いますか?

    @yoshy:「循環」とは、そのままの意味で捉えれば、なにかスタートしたものが一周して元の場所に戻ってくることを指します。もし、モノの価値が絶対的だったら、ボールが高いところから低いところに落ちるのと同じように、一方向に移動するだけで循環はしない。「循環」という言葉の背景には、相対的な価値が上がったり下がったりしている前提があります。

    川原圭博(@yoshy)

    @sowawa:上っても上っても階段が終わらない「ペンローズの無限階段」のイメージですね。あのパラドックスが価値の交換において成り立つならば、きっとその要因は、人間の評価指標が「曖昧である」ことだと思います。曖昧であるからゆえに価値を高く評価したり、低く評価したりするなかで、どこかで本当の循環が成り立つのかもしれない。

    ——人間の評価指標が曖昧で、価値が相対的だからこそ、循環が成立するのかもしれない、と。

    @sowawa:ただ、「循環」という言葉の意味をあまり厳密に考えず、「さまざまな場所で流通する」と捉えるなら、すでにメルカリは実現しています。どう捉えるかによって、やるべきことが変わってきますよね。それに対する答えではないですが、もうひとつ「循環」という言葉に感じる問題点は、「系が閉じている」ことです。スタートとゴールが繋がっているから、その系自体は独立していて、新しい情報や概念が持ち込まれることはありません。

    ——たしかに閉じてしまいますね。「どのように一周して、モノが戻ってくるのか」、果たして「系が閉じた循環は豊かなのか」という問いが浮かんできます。

    @mark:たぶん、メルカリが目指している「循環」とは、同じモノが同じ系をぐるぐる回ることではないんだと思います。価値という抽象概念が、さまざまな系を行ったり来たりしていて、その結果、自分に出入りする価値の量が増えたり、スピードが加速されたりすることを指しているんだと思っています。

    ポイントは「価値の出入りを加速させる」ことです。新品のスマートフォンの価値が買った瞬間から目減りするように、価値は同じ場所に留まると下がっていきます。でも、「中古でもいいから使いたい」人の手に渡れば、その相対的な価値は場合によっては高まることもある。価値を移動させることで、結果的に価値を受け取る経験をする人が増えるし、系全体としても価値の総和が大きくなるはずです。

    だから最近、僕は「自分にとって必要なものをあえて出品する」ようにしているんです。必要なものを売ると、代替が必要になるので、別のものを買うことになります。そうすると新しい価値との出会いが増え、自分にとって必要な価値の概念が広がっていく感覚があります。趣味に使うものでも、比較するためにどんどん買って、どんどん売る。場合によっては、自分にとって価値があるかを確認した上ですぐに手放すこともある。この循環を加速させることで、自分を通っていく価値が増え、結果的に受け取れる経験価値の量が劇的に増えるんです。

    @yoshy:モノの貸し借りも、価値を循環させるひとつの方法かもしれません。今、東京大学で貸し借りをマッチングする学内メルカリのような取り組みをしているんです。モノを貸す時には、使い方やノウハウも伝えます。例えば、使い方が難しい計測装置を貸すなら、操作方法を教えないと意味がない。貸す側に負担があるように見えますが、測定する対象が同じとなれば、一緒に研究に取り組めるメリットもあります。モノの金額以上に価値の高い交換が成り立つのではないかと思っているんです。「貸し借り」を通して、今まで交換しづらかったノウハウやマニュアルといった価値が交換できるなら、それも「あらゆる価値」を実現する一手かもしれません。

    所有の概念を変え、サステナブルかつ豊かな社会を目指す

    ——「循環」についてここまで探求したことはありませんでしたが、この対話によってグループミッションの意味がより浮き彫りになりました。最後に、これからメルカリが目指していく理想の社会をイメージするためのヒントはありますか。

    @mark:まとまるかはわからない前提で(笑)。僕がメルカリに入る前に、sowawaさんたちと話していたことがあります。それは「所有の概念自体を変えたいよね」ということ。人は自分が所有しているモノを高く評価して、失うことを過剰に捉えがちです。モノの価値は時間とともに目減りしていっているのに、手放すことで失う価値が実際よりも大きいと思い込んでしまう。まったく使っていないのになんとなく持ち続けているものは意外と多いと思います。この価値は他の人の手に渡れば、実際の価値を発揮できるようになる。もし「所有」の概念をなくして、すべてのモノがメルカリというプラットフォーム上で共有できるようになれば、その時々で一番価値を感じるものを常に持つことができるかもしれません。より多くの人が多くの価値と出会えるようになる。

    「共有する」とは、シェアリングエコノミーのように複数人で所有することとも違います。メルカリでできるのは、サブスクに近い仕組みだと思うんです。たとえば、すべてのモノを分割で買い、不要になったらメルカリで売る。売上金で残高を支払えば、所有していた期間分のお金だけで、モノの価値を享受することができます。そんな仕組みがあれば、所有だけにこだわらず、より新しい出会いや体験を求め、あらゆる価値が循環する世界に近づけるんじゃないでしょうか。

    @sowawa:それはつまり、サステナブルかつ、より豊かに生きれる社会のあり方とも言えますよね。ひとつのものを大切に使うことも大事だと思います。でも、これだけモノや情報や出会いが溢れている世界に生きているのだから、固執しすぎるともったいないのかもしれません。

    ——メルカリを使うことで、「新しい価値に出会う頻度」が高まる予感がしますね。

    @mark:おっしゃる通り。僕は趣味のカメラを通じて、そうした世界観を体感しています。カメラのレンズは様々な種類がありますが、一つひとつ向いている撮影のシーンや用途が違うんです。とはいえ、持ち運べる数には限りがあるので、大体3種類くらいに偏っていきます。そこで僕はあえて、定期的にすべてのレンズを売り払って、まったく違う組み合わせのレンズを購入してみるんです。すると、これまでは「あのレンズがあるから、このレンズは買えないな」と思ってたレンズと出会えるようになって、新しい価値を体感することができています。今までのレンズでは撮影できなかった新しいシーンを楽しめるようになります。なにかを手放すことで、新しい体験や気づきを楽しんでいるんです。

    @yoshy:僕もカメラが趣味なので共感できます。しかし、なかなか新しい考え方ですよね。普通は、無いと不便なものを買うためにメルカリを使います。でも、markさんは新たな価値を探索するために、モノを交換する手段としてメルカリを使っている。

    @sowawa:markさんのように、どんどんと興味関心を移して新しい価値と出会う営みは、すごく人間的だと思います。人間は脳の構造上、認知したり興味関心が持てるものの量に限界がある。だから、手放すことによって新しいものを取り入れる余白を作る必要があります。

    そうした有限性のある人間と、無限の情報を蓄積しているコンピュータは、実は相性がいいんです。興味関心を移していく人間に対して、無限の提案とマッチングを繰り返せるコンピュータ。そのふたつが組み合わさることで、「ペンローズの無限階段」の空想が成り立つかもしれません。コンピュータ上に作られたメルカリは、人間とコンピュータが出会う場とも言えますね。

    ——理想のイメージは、人が価値を手放しやすく、新しい価値を手に入れやすい社会。それは、サステナブルでありながら豊かさを感じられる社会と言えるかもしれません。

    @mark:今日お話したことは、大半の人にとって理解しづらい部分も多かったかもしれません。でも、サービスを作る際にもそういう側面があると思うんです。メルペイのサービスもそう。お客さまにとってわかりやすい表現をするために「これはQRコード決済ですよ」と言いつつ、裏で考えている本当の狙いはもっと複雑だったりします。

    お客さまにその狙いを理解してもらわなくても、利用いただくだけで自然とその狙いが発揮されて、生活が良くなるプロダクトを作るのが、僕らの使命です。引き続き、グループミッションの実現に向けてより良いサービス作りをしていきたいと思います。

    編集:瀬尾陽(メルカン編集部) / 執筆:佐藤史紹

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