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科学技術で新たな社会を切り拓く──Co-Innovationを促す、ハブとしての研究開発組織 mercari R4D

2023-4-13

科学技術で新たな社会を切り拓く──Co-Innovationを促す、ハブとしての研究開発組織 mercari R4D

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社会実装を目的とした研究開発組織として、2017年に設立された「mercari R4D(以下、R4D)」。研究開発(Research and Development)にとどまらず、未来の社会に実装される(Deployment)ことを想定したデザイン(Design)を行い、ときには既存概念や技術を破壊しながら(Disruption)、コミュニティの枠を超え、新たな価値を切り拓くために、さまざまなアプローチを実践してきました。

R4D設立から5年の節目となる2022年末、「まだ見ぬ価値を切り拓く(Pioneering the path toward undiscovered value)」というミッションを新たに策定しました。これからは、世界中のコミュニティをつなぐハブとなって、自分たちの活動の成果を社会に還元することを追求しながら、より野心的に挑戦していくフェーズとなりました。

メルカンでは、「社会実装を目的とした研究開発組織」であるR4Dの、過去、現在、そして未来について、3回にわたって思考していきたいと思います。第1回は、このR4Dの組織としての変化や取り組んできたことの意義について、マネージャーを務める多湖真琴(@tago)と井上眞梨(@inomari)に伺います。R4Dだからこそ、実現できたこととは?

この記事に登場する人


  • 多湖真琴(Makoto Tago)

    株式会社メルカリ 研究開発組織R4D (Manager)。弁理士。京都大学卒業後、開発職として富士通株式会社に勤務。2013年に弁理士資格を取得し、TMI総合法律事務所にて権利化から係争案件まで幅広い知財業務を担当。2018年、メルカリに入社後、知財チームの初期メンバーとして知財活動の立ち上げに従事。2019年よりR4Dを兼務しR4Dのガバナンス構築に尽力。2022年より現職。


  • 井上眞梨(Mari Inoue)

    株式会社メルカリ 研究開発組織R4D (Manager)。慶應義塾大学大学院 理工学研究科 前期博士課程(修士)修了、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)にて、IT分野の動向俯瞰や戦略提言、研究開発プロジェクトの支援等に従事。2021年10月に入社後、ELSIセンターとの共同研究の推進や、社会人博士支援制度の整備、メルカリデータ提供などの活動に尽力。

事業へのダイレクトな貢献より、メルカリが目指す未来の社会に向けて

──おふたりはR4Dに参画してどれくらい経つのでしょうか。

@tago:2019年の冬からなので4年が過ぎたところです。

@inomari:私は2021年10月入社なので、間もなく1年半になるくらいですかね。

──参画した時期と比較して、R4Dという組織は現在どのように変化していますか。

@tago:当時はR4Dが設立されて1年くらいで、ルールやガバナンスがまだ十分には整っていない時期でした。良く言えば自由度が高く、悪く言うとカオスな状態。そこから少しずつ組織づくりに励み、外部の有識者として大学の教授を招き、研究開発を審議する場としてアドバイザリーボードを設置したり、東京大学大学院工学系研究科教授の川原(圭博)さんにR4Dの所長に就任していただいたりして、ようやくある程度の形になってきました。

多湖真琴(@tago)

@inomari:私はR4Dが組織として成長してきたタイミングで入社したので、活動の芽となる種が撒かれはじめた頃なのかなと思います。改めて感じるのは、創業5年目のスタートアップが研究開発組織を立ち上げることへの大胆さですよね。これはメルカリという組織の独自性だと思うのですが、try & errorへの許容範囲が広いと感じています。これまでいくつもの試行錯誤がありましたが、経営陣も現場のメンバーも「失敗するかもしれないけど、まずはやってみよう」というマインドを持っているところがR4Dの強みですよね。

──R4Dは研究テーマの幅の広さが特徴のひとつだと思いますが、それによりR4Dがどういう組織なのか定義しづらいところもありますよね?

@tago:民間の研究開発組織のあるあるかもしれないのですが、周囲から「何をしているのかわからない」という印象を持たれることが多いんですね。R4Dの場合もそうでした。初期の頃は、取り組みに対して理解を得る以前に、社内の認知すら獲得するのが簡単ではありませんでした。

──そこからなにか変化の潮目があったのでしょうか。

@tago:2020年に東京大学インクルーシブ工学連携研究機構内に社会連携研究部門「価値交換工学」を設置したことや、R4Dの研究の一つであるpoimoが様々なメディアで取り上げられるようになったこともありますし、最近だと2022年2月に導入した「社会人博士支援制度」がSNSで話題になったのは、私たちにとってはすごく大きな出来事でしたね。逆輸入的ではありますが、こうしたニュースからR4Dの存在を知ったというメルカリメンバーも多かったようです。

──では、R4Dという組織の独自性についてはどのように捉えていますか。

@tago:一般的に多くの民間の研究開発組織は、所属企業のプロダクトやサービスを新たに開発したり、改良したりして事業に貢献することを目的にしていると思います。R4Dのユニークな点は、このような形式の事業貢献ではなく、メルカリが目指す社会を科学技術の力でどう切り拓いていくか、が求められている点だと思います。

メルカリグループでは、テクノロジーの力で世界中の人々をつなぎ、あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性が発揮される社会の実現を目指しています。このような社会を実現するために、R4Dは必ずしも現在のメルカリの事業に結びつかない研究テーマも多く抱えています。また、目指すものがどこかにお手本があるわけでもないので、しがらみや過去の前例に囚われることなく目的に対して最適だと思えるアプローチを選択していくことが必要だし、ときには自分たちが実践していることの意味を自分たちで問い直し、自ら定義していくことさえ必要になります。この点が、難しい点でもあるし、面白い点でもあります。

@inomari:私は前職が文科省所管の研究開発法人だったのですが、R4Dはそうした組織とも近い意識を持っているなと感じています。ある種の使命感を持って、本気で新しい社会の在り方を考え、そこに潜む課題が何で、その解決にはどうすればよいのかを一人ひとりが考えていますし、それにはアカデミアや企業、国といった枠を超えて連携が不可欠と感じ、世界中のコミュニティをつなぐハブとなることを目指し行動を起こしています。まだまだ小さい組織ではありますが、そのような意識を持っていることは本当にすごいことだと贔屓目なしに感じます。

井上眞梨(@inomari)

「まだ見ぬ価値」への好奇心が、さまざまコミュニティとの共創を生み出す

──R4Dはこれまでもさまざまな大学と産学連携し、コミュニティを超えた共創を実現してきましたが、そもそもなぜ外部パートナーと積極的に連携を図ろうと考えているのでしょうか?

@tago:R4Dの設立時に「研究成果をスピーディーに実装して社会に還元していく」という理念を掲げています。

メルカリのサービスやプロダクトを向上させるための研究開発組織であれば、領域を絞れるので、社内で完結した組織をつくっていけばいい。しかし、社会への還元を目指すとなると、そういうわけにもいきません。加えて、IT業界はトレンドの移り変わりが激しいので、研究開発のような息の長い活動を行うのはあまり相性が良くない。となると、私たちはハブ的な存在を目指していき、産学官のさまざまなコミュニティをつないで「Co-Innovation(共創)」を促していくほうが、大きな価値を生み出すことができると考えました。

設立当時はここまで明確には言語化はできていませんでしたが、今になって振り返ってみると「これは必然だったのではないか」と思う出会いも多く、共創をすることでパズルのピースが埋まっていくような感覚があります。

──活動を重ねるなかで、どのようなコミュニティと関わりが生まれているのでしょうか。

@tago:R4Dのらしさだと思うのですが、人文・社会科学系のコミュニティとの接点も多いですね。代表的なところでは、大阪大学社会技術共創研究センター(ELSIセンター)との共同研究もそのひとつです。この事例では、独自の研究開発倫理指針を一緒に策定しました。

AIをはじめテクノロジーが目まぐるしく変化しているなかで、企業の研究開発に対する倫理的・法的・社会的な責任は今後ますます重要視されます。そうした責任に対して、学術的な裏付けが必要なシーンがこれまで以上に増えてくるはず。その際に、人文・社会科学の知見が活きてくると考えています。

──こうしたアカデミアとの共創ができる要因はどこにあると思いますか。

@tago:一因としてプロダクトドリブンではない研究開発組織だから、ということがあげられるかもしれません。メルカリのサービスやプロダクトのための研究ではなく、もっと広い視点から社会への還元を目指してるから、アカデミアの領域にとっても、あえてメルカリと一緒に取り組む価値があると思います。

@inomari:最近だと、メルカリの出品データを大学などに無償で提供をはじめたことも、社内外から大きな反響がありました。本当に多くのリサーチャーや研究機関が興味を寄せてくれて、なかには「こんなことはできませんか?」と具体的な提案もいただきました。

@tago:研究開発は投資だから、必ずしも結果が出るとは限らない。だからこそ、一社に閉じず企業とアカデミアとの共創に取り組んでいく必要があると思うし、このままだと日本という国が廃れていくかもしれないという危機感が少なからずあります。そういう意味では、「社会の公器」を目指しているメルカリが共創の事例を率先して発信していくべきではないかと私たちは考えています。幸い経営層が期待と信頼を寄せてくれているので、裏切らないように頑張らないといけない、と身が引き締まります。

@inomari:もちろんプレッシャーはありますが、R4Dのメンバーは、「まだ見ぬ価値」への好奇心の強さも手伝って、外に開かれた考えた方を持っているのも特徴だと思います。

たとえば、量子の領域はまだまだアーリーな研究フェーズですが、関わっているリサーチャーは皆「どう社会にインパクトを与えるか?」「どのように私たちの暮らしが変わるか?」と常に考えているんですよね。このような段階の研究であっても、社会との接点を持つ考え方をしているのはかなりユニークな気がします。

これが社会実装に近い領域の研究開発だったら、それがどうインパクトを与えるかについて当然考えると思いますが、まだ社会実装への距離があるものであっても、研究が与えうる影響を社会の視点からも捉えるような考え方を持っていますよね。

@tago:そもそも、メルカリという企業自体が積極的に社会と接続しようとしているので、結果的にそういうマインドの人たちが集まりやすいのかもしれないですね。

「R4Dなら新たな価値を切り拓ける」という確かな自信

──最後に、おふたりがR4Dという組織のこれからにどんなこと期待していますか。

@inomari:理想と現実にギャップがあったときに、「こういうことがしたいけど、無理だよね…」と気持ちにストップをかけてしまうこともあるかもしれませんが、R4Dではいろんなことに挑戦できるし、「まだ見ぬ価値を切り拓く」というミッション実現のためなら基本的に多くのことが許容されます。なんなら自発的なアクションを強く期待されている節もありますね。

@tago:確かに、R4Dはこれまでの慣習やこうあるべきといった常識にとらわれず、あるべき選択ができる環境にあるし、そうやってきたという自負はあります。

@inomari:仲間の存在も大きいですね。こんなに多様性に富んだ組織は珍しいのではないかというぐらい、バックグラウンドが異なるメンバーがR4Dには揃っています。研究テーマだけ見ても、量子情報技術、poimo、フリマアプリにおけるコミュニケーションインクルーシブデザイン&アクセシビリティ、価値交換工学…と、同じ研究開発組織なのかと思うぐらい研究テーマが広がっています。また、プロジェクトマネジメントやアウトリーチなど、研究活動の活性化や基盤づくりに携わるメンバーの出身もさまざまです。それぞれの強みを活かしつつ、ときに補完し合いながら、同じ方向を目指して進んでいけるのが、R4Dという組織の持つ可能性だと思います。

@tago:運営メンバーの多様性は本当に大きな強みですね。私自身、研究開発組織のマネージャーには珍しいと思いますが、弁理士という知財系の専門性を持っています。また、inomariさんのような政府系研究ファンドの出身者や、「アウトリーチスペシャリスト」というR4D独自のロールを自ら定義して活躍するメンバーもいます。多様性に富んでいるからこそ、アイディアを多角的に検証でき、常識や過去の慣習に囚われないGo Boldな挑戦ができているんだと思います。

現在もR4Dでは一緒に探索をしていく仲間を募っていますが、仲間探しで最も大切にしているのは、R4Dのミッション「まだ見ぬ価値を切り拓く」への共感です。私たちの取り組んでいる研究に対してワクワクしてくれる人と一緒に働きたいと考えています。

@inomari:1年半前にR4Dに参画して、面白い場所だと改めて感じています。こんなに若くて、かつ小さな組織なのに、本気で社会を変えようとしている。そういう気持ちを共有できる場所はなかなかないと思うんですよ。メルカリへの愛と、研究への愛がある方は、ぜひR4Dへ!

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