メルカリでは、どんなバックグラウンドを持っていても、平等なチャンスと適切なサポートのもとでそれぞれがバリューを発揮できる組織を目指し、様々な取り組みを実施しています。
SDGsの1つにもなっている「ジェンダー平等」、そしてDiversity & Inclusion Statementに基づく多様な組織の実現は、私たちメルカリのグループミッション「あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる」にも深く結びついている考え方です。
当連載「新たな価値をつくる ─ 風の時代を生きるリーダーが紡ぐ言葉の記録」の第3回は、井本陽子(@yoko)を迎え、これまでのマネジメントキャリアで鍵となった対話の重要性、子育てと仕事の両立の厳しさとその乗り越え方について深堀りしました。
この記事に登場する人
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井本陽子(Yoko Imoto)慶應義塾大学法学部法律学科を卒業。2002年ドイツ銀⾏グループに入社、投資銀行業務に従事。2004年、株式会社ラザードフレールに入社、東京・ニューヨークにてM&Aアドバイザリー業務に従事。2006年、株式会社オリエンタルランドへ入社し、経営戦略、事業開発、商品開発等に従事。2018年5月、株式会社メルペイに入社。2021年7月より、メルカリにて、経営企画業務に従事。
「何者でもない」自分の挑戦 ― 人々にハピネスを届けるために
──Yokoさんは外資系証券会社、テーマパーク事業会社を経て、2018年にメルペイに入社されましたが、これまでどのような軸でキャリアを選択されてきたのでしょうか?
これまでのキャリアは「新しいことへのチャレンジ」を軸として選択してきました。新たなチャレンジには常に驚きと楽しさがあり、また成長の機会にもなりました。
また、仕事を通して「人々にハピネスを届けたい」と思っています。そのため自分の役割や手段を問わず、人々にポジティブな何かをもたらせる仕事に携わりたいという気持ちが強いです。
そのような考えに至った最初のきっかけは、就職活動中に友人からもらった一言でした。当時の私は、自分のやりたいことがわからず、進路について部活のチームメイトに相談したんです。そこで言われたのが「自分は何者でもないという視点で気楽に考えたほうがいい」という言葉でした。その言葉を受けて、「自分は何者でもないんだから、ゼロから学んでいけるような場所でキャリアを始めよう」と考え、自分にとって大きなチャレンジになりそうな外資証券を選びました。甘えた考えだったと思いますが、その代わり無我夢中で働きました。
思い返してみると、チームメイトからの言葉がきっかけで自分の気持ちを割り切ることができて、すごく楽になったんですよね。自分は何者でもないという前提で一つひとつ目の前のことに向き合い、積み重ねていくなかで、いつか誰かや何かを幸せにするためのチャンスが巡ってくるかもしれないと思うようになりました。
2019年のメルペイローンチパーティにて、記念撮影
──Yokoさんはこれまでのマネージャー業務の中で、リーダーとしてのやりがいや魅力をどのようなところに感じていましたか?
現在は新しい分野にチャレンジするためマネージャー職から離れていますが、マネージャー職はとてもやりがいのある仕事だと思っています。チームメンバーがどんどん成長する姿を見守ることが自分のモチベーションの源泉になっていて、そのためであれば自分の時間を惜しみなく使いたいと思っています。。
特にチームメンバーとのコミュニケーションは大切にしています。1on1は最低でも週1回必ず行っていたのですが、中にはもっと実施したいと言ってくれる人もいれば、予定よりも長い時間話してくれる人もいます。私は1on1の時間を聴くことに徹し、メンバーとともに感情を共有しながら、モヤモヤして言語化できないことを一緒に解決することで、ネガティブをポジティブに変えられるよう心がけていました。
──コミュニケーションにおいて「聴く」ことを重要視されているということですが、その理由を教えてください。
私が先陣を切ってチームを引っ張るより、個々のモチベーションを高める役割に徹した方がチームの成果に繋がると考えているからです。特に思考力を要する仕事は一人で考えるよりもチームメンバー全員で考えたほうがいい案が出ますし、会話を通して生まれてくる新しいアイデアもあるので、一人ひとりの声を引き出せる存在でありたいと思っています。
自分のことを聴くのが得意なタイプだと思ったことはありませんが、目の前の相手を常に意識して聴くことを大切にしています。特にメンバーの悩みを聴く時は、「悩みには必ず背景があり、自分はそのせいぜい1〜2割しか想像できていない」という前提で臨んでいます。悩んでいる時は余裕がなくなり、本人の視野が狭くなっているケースもあるので、恐怖や不安について一緒に掘り下げて分解していくと、案外不安を感じる必要がないことが分かることもありますし、悩みを言葉にして打ち明けてもらううちに本人が課題整理をして解決できることもあるんですよね。
井本陽子(@yoko)
相手を「属性」ではなく、「個」として捉え、対話を重ねる
──「多様性を受容しあえる組織」を作る上で、Yokoさんが課題に感じていること、意識していることがあればお伺いしたいです。
日本語話者と英語話者が混ざる場でファシリテーションをすると、今も言語に課題を感じることがあります。メルカリでは日本語と英語の両方が日常的に使用されており、社内には通訳・翻訳業務を担当するGlobal Operation Team(GOT)がありますが、GOTによるサポートなしでミーティングを行うケースも多くあります。そうした際、全員が同じレベル感で内容を理解できているのか、背景まで理解できているのか、本当の意味で会話が成立しているのかといった観点において課題があると感じることがあります。
こうした課題を解決するために私が心がけているのは、相手とのコミュニケーション量を増やすことです。会話の内容を真に理解するために、「背景のそのまた背景」まで理解したいので、まずは相手とのコミュニケーション量を増やすことを意識しています。最近話していて、私のバイアスとして「英語が母語の人はまずは結論ファーストで話す」というある種のステレオタイプがあったのですが、個に目を向けて対話を重ねると、必ずしもそうではないケースがあることに気がつきました。よく考えてみれば、一人ひとりのコミュニケーションスタイルに違いがあることは日本人も同じですし、当たり前のことですよね。
大事なのは、「属性」ではなく、「個」として捉えること。すべての人に無意識バイアスがあるという前提のもと、自分が正しいと思わず、常に吸収していきたいと強く思っています。
自分自身が納得感を持って「人生という冒険を楽しむ」
──Yokoさんがご自身のキャリアを歩む中で、悩んだり、壁に直面したりしたタイミングはありましたか?
よくある悩みかもしれないのですが、「スペシャリストかゼネラリストか」という点で悩みました。実はメルペイに入社直後の私はやりたいことが曖昧だったんです。
「信用を創造して、なめらかな社会を創る」というミッションに共感して入社したものの、ゼネラリストとして幅広い業務に携わる中で、「何のためにやっているのか」を見失ってしまったことがあって。アカウンティング、リーガル、PR、エンジニアなど、自身の専門領域を持つスペシャリストの人たちのことを羨ましく思うこともありました。自分が何をやりたいのか、自分には何ができるのか、モヤモヤした気持ちを抱えて1年間ほど過ごしました。
転機が訪れたのは、(当時メルペイで実施されていた)「メンタープログラム」に参加したときでした。私のメンターは監査領域のスペシャリストの方だったのですが、ご自身の職務へのこだわりや、自分のやりたいことについてストレートにお話されていたのがすごく印象的でした。それに対して私は職種へのこだわりは特に強くはなく、それよりも人に幸せを与えられるような仕事ができればなんでもいいというタイプ。自分とメンターの思考の違いを感じたんです。
メンターとの対話を通して自分の考えが整理され、「自分は専門性をもって深く突き詰めるよりも、特定の役割にこだわらずに成果を出し、人に幸せを与えられる人でありたい」と再認識できました。ゼネラリストは「なんでも屋」と捉えられる側面がありますが、「なんでも屋」は何でもチャレンジできるのだとポジティブに捉えています。改めて「新しいことにチャレンジ」できる環境に納得しながら、仕事を楽しんでいます。
他に悩んだことというと…。かなり前のことになりますが、やはり子育てと仕事の両立でしょうか。
厳しいと感じたことは、大きく2つありました。1つ目は、仕事をする上で制約ができたことです。我が家は月の大半を出張で家を空けていた夫に育児を頼れなかった事情があり、子供が熱を出したら休みを申請するのは私の方でした。会社として、子育てしながら働くメンバーを理解してくれていたのですが、さまざまな制約が理由で、いくつか仕事のアサインにつけなかったこともあります。悔しい気持ちがなかったと言ったら嘘になりますが、当時は「子どもが大きくなるまでの我慢」だと割り切ることで気持ちを切り替え、与えられた状況のなかで、自分がどうすれば、どう考えれば心身ともに安定して過ごせるのか?を考えて乗り切りました。
もう1つは、忙しさと眠気で常に身体が疲れていたこと。2人の子どもがぐずったり泣いたりてんやわんやなワンオペの状況で、ご飯を作らないといけなかったので、大変なことは事象として捉えて、どうすれば解決できるかを常に考えていましたね。その結果「同じ境遇のお母さんを集めて一緒に過ごしたら良いんじゃないか?」と思い、「夜ご飯を一緒に作って食べよう」というコミュニティを作ることで乗り越えることができました。3人のママと6人の子どもたちが集まり、1人が子どもたちの世話、2人が食事の準備をすることで、夜の大変な時間を楽しい時間に変えました。
「社内ワンオペ会」と称し、メルカリメンバーと家族ぐるみで集まることも!
──子育てと仕事のジレンマもある中で、どのようにご自身のキャリアと向き合われたのでしょうか?
私のキャリアにおいては「仕事をしながらワクワクしたり、新たな発見をしたりして得たもので、社会や周りの人を幸せにしたい」という思いを叶えることが、重要だと思っています。
人生は上に向かって上がったり、下に向かって下がったりするものではなく、すごろくのように前に進んだり、1回休んだり、2つ飛ばして進んだり、時には戻ったりしても良いものだと捉えています。ゴールを目指すことも、達成することも大切ですが、辿り着くための過程も同じように大切にしたいと思っています。
人生が冒険だとしたら、仕事も同じように捉えることができるかなと。しなければならないことなんてないし、目的地への近道もあれば、別の道を作ることだってできます。例えば「子育て」というマスに止まったなら「じゃあ数年休もう!」みたいな感じです(笑)。なので私は人生、そして仕事という冒険を楽しみながら、自分が納得できる選択を優先することでキャリアと向き合ってきました。
──最後に組織におけるD&Iを自分ごととして捉え、他者との関わり合い・対話の中でキャリアを紡いできたYokoさんが、仕事、ひいては人生を楽しむために次代のリーダーに伝えたいことはありますか?
「周りの声や環境に左右されずに、自分の心の声をちゃんと聞こう」。一度しかない人生なので、自分自身にポジティブな期待をかけ、ゴールを達成するプロセスをまるごと、楽しんでいけたらいいのかなと思います。