メルカリでのあらゆる体験をデザインする「デザイン組織」は、新たなグループミッションの元でどのような「お客さま体験」を構築しようとしているのか?広義の「デザイン」という観点から、カスタマーエクスペリエンス、開発プロセス、組織づくりの中で、いかにデザインの力が発揮されていくのか、全4回にわたってデザイン組織のいまを多面的にお伝えしていきたいと思います。
第4回は、チームが継続的に事業に貢献するために何をしているか?そこでデザイナーはどのような行動が求められるのか、メルカリのデザイナーとしての行動指針や成長を促す仕組みづくりをはじめ、デザイナー側からプロダクト改善の提案の可視化など、デザインの観点から人と組織の「共通認識」の言語化を進めてきた、Experience Design Teamの宮本麻子(@asakom)と、山田静佳(@shizuka)に、いまこのフェーズでデザインはどのような価値を発揮していくことができるかを根掘り葉掘り聞いていきました!
この記事に登場する人
-
宮本麻子(Asako Miyamoto)2021年より株式会社メルカリに入社。デザインチームのマネージャーとしてデザインチームのビジネス貢献、継続的な成長を目指してDesignOpsを推進している。週末はヨガのインストラクターとして活動中。 -
山田静佳(Shizuka Yamada)2016年4月にメルカリに入社。入社以来、メルカリJPのUI/UXデザインを一貫して担当。現在は、UXデザイナーとしてプロダクト開発に関わりながら、デザインチームの貢献を最大化すべくDesignOpsの推進、2022年より社内コーチとしても活動中。
デザインが大きな戦略に関わっていくために必要なこと
──まずは、おふたりのデザイン組織での役割からうかがっていければと思います。
@asakom:チーム運営というところにフォーカスすると、チームの成長、デザインのワークフロー、ナレッジ整理などを、どういうロードマップで実現していくかという全体のプランニングをして、「今期はこれやっていくぞ!」と声を上げる役です。
@shizuka:いわゆるDesignOpsの分野だと、デザイナーのナレッジシェア「UXD勉強会」や、「Mercari Design Blog」の運営をしています。どちらにも共通して言えるのが、デザイン組織の規模が拡大して、段々と関わるメンバーの範囲も広がっています。最初はUXデザインに関わるメンバーに閉じていたのですが、クリエイティブチームや、ソウゾウのデザインチームともナレッジのシェアを積極的に行うようになってきました。カンパニー間の連携については、これからもっとしていきたいと思っているところです。
──2022年5月にMihoさん(VP of Experience Designの前川美穂)が入社して以降、デザイン組織としての成長や変化があったかと思いますが、お2人から見てメルカリのデザイン組織はいまどのようなフェーズにあると感じますか?
@asakom:私は2021年4月入社なので、まだ2年しか在籍してないのですが、入社当初はデザイナーは、顕在化している目の前の課題や、その後に控えているWebとアプリの大きなリニューアルにフォーカスしているという印象でした。
一方で、全体を俯瞰した大きな戦略の部分に対して、デザイナー側から提案していくことがなかなかできていなくて、それはリソースの問題や会社の優先度が原因で取り組めていなかったんですね。ですが、ここ1〜2年でワークフローの整理を行い、戦略や仕組みづくりに長けた人の採用を強化して、デザイン組織としてもそういう領域にしっかり入り込んでいく意識づくりをしてきました。そこにDesign HeadのMihoさんが入ったことでさらに加速したんだと思います。
宮本麻子(@asakom)
@shizuka:私がメルカリに入社したのは8年前になるので、その頃はまだグラフィックデザイナーとかUXデザイナーという括りもありませんでした。私も時には印刷物をつくっていたりもしましたね。そこから、もっとフォーカスする領域を決めようとなったところから数年経ち、プロダクトの中に、Marketplace(フリーマーケット)もあればFintech(金融)もあり、最近ではメルカリShopsもできて、それぞれのサービスにより集中していくする環境になったことは感じます。一方で、やはり自分の領域しか見られない、あるいは見えづらくなってきたのは事実で、横の連携がこれから大事な時期だと感じます。
@asakom:グループ全体の規模が拡大して、デザイナーやリサーチャーの人数も増えたこともあり、いざ連携していこうとなった時に、同じゴールを見ていかないといけない。それはガチガチに決められたルールの中で進めていくという意味ではく、「同じものを見ている」という共通認識であり、その言語化を今まさに進めているところです。これからはそこがものすごく重要になってくる。
「共通認識」の言語化をいかにして進めたのか
──では、「共通認識」の言語化はどのように進めていくものなのでしょうか?
@asakom:おもに「人」と「プロセス」についての共通の目的意識を言語化しています。
「人」の観点では、チームのメンバーに期待する行動をデザイナーの成長段階ごとに明文化した、「Design Ladder(デザインラダー)」という行動指針をつくりました。詳細はMercari Design Blogにも書きましたが、メルカリが会社のミッションを達成するために大切にしている3つのバリュー「Go Bold」「All for One」「Be a Pro」に基づいて、デザイナーの12の行動指針を導き出し、さらにその行動指針に沿った成長段階を6つのステップに分けて定義しました。
デザイナーの12の行動指針
加えて、もう一つ作ったのがスキルマップです。スキルマップはデザイナーとしての専門領域を9つのエリアで示したものです。個々のデザイナーが「今の強みやこれから伸ばしたい領域はどこか」をこのマップで整理しながら今後のキャリアについてマネージャーと目線合わせをするために作りました。
スキルマップ
メルカリでは、どのようなパフォーマンスを出したかという「成果評価」と、その成果を出すためにどのような行動をとったかという「行動評価」の2軸から、総合的に評価されます。スキルマップとDesign Ladderはこの評価軸に結びついて作成しているので、デザイナーとしての成長とメルカリのビジネスへの貢献の両立を目指すベースとして使っていきたいと思っています。
一番最近の取り組みは、メルカリはどういう体験をお客さまに届けることを目指すのかという言語化を、「Mercari Design Principles」という形で整理しました。「メルカリの体験や世界観」をお客さまの生活に自然に浸透させていくために、すべてのタッチポイントにおいて、継続的に一貫性のある体験を届ける必要があります。そのための体験作りや届け方の指針を「メルカリのブランド定義」としてまとめました。
──「Mercari Design Principles」は、どういうプロセスを経て言語化されていくものなのでしょうか?
@asakom:メルカリの事業が拡大する中で、共通の言語化はされていないものの、メンバーそれぞれが心の中に「思い」を持ってやってきました。まずはそのメンバーたちにインタビューをしていくと、やはりみんな大体同じような思いを持っていることがわかりました。その中から重要なキーワードをピックアップして、私たちはこういう体験を届けたいという考えを、4つのキーワードにまとめています。そこからさらにブレークダウンして、届けたい体験を実現するためにプロダクトやクリエイティブのデザインがどうなっているべきなのか、デザイナー全員を巻き込んでデザインの方針を再定義していきました。
──結果的に、「Mercari Design Principles」は、デザイン組織だけに用いられるものではないように感じますが。
@asakom:そうでうすね。そもそも、「Mercari Design Principles」はプロダクトに限定したものではなく、Marketing、CS、PR、採用など、あらゆる領域に適用していくべきものと考えています。また、「Mercari Design Principles」をつくるにあたり、デザイナーだけではなく、CS、BizDev、マーケティングのメンバーにもヒアリングをして生み出されたものなので、結果としては体験づくりに関わる全ての人に使ってもらえるものになっています。それぞれのチームのワークフローの中に具体的にどう落とし込んでいくのか、今まさにステークホルダーと対話をしているところです。
@shizuka:「Mercari Design Principles」をつくったことと関連しているのですが、私たちが普段取り組んでいることを振り返る機会が意外に少なかったことが課題としてありました。それは社外への発信もそうなのですが、社内でも過去の施策の背景を知りたい時にまとまった形で資料化されていなかったんです。そうなると個々人の記憶をたどるしかないので、勉強会の資料をきちんとまとめておいたり、Mercari Design Blogで記事にしておくと共通のものを参照することができます。
何か施策を進めたときは、振り返りもセットで行うようにしていく、そのときに勉強会やMercari Design Blogや勉強会を最終アウトプットに使ってもらえると、会社のためにもなるし、自分自身のためにもなると思っています。
山田静佳(@shizuka)
──あと、UX Backlogというものを取り入れて、課題を共通認識とする仕組み化に取り組んでいると聞いたのですが、改めてどのようなものなのか説明していただけますか。
@asakom:先ほどお話ししたように、これまでデザイン側から俯瞰した視点で提案をすることができていなかったので、DesignOpsの取り組みとしてデザインチーム主導で取り組みはじめたのがUX Backlogです。プロダクト上の体験で本当はこうあるべき、というみんなの頭の中にある課題感を一つの場所に集約してプライオリティをつけるようにしました。その中から、期に1つか2つテーマを設定して、ソリューションに落とし込んで、プロダクト化まで持ってくということをしています。
例えば、shizukaさんと取り組んだSeller Homeの改善は、ここのセクションのコンセプトは何なのか、お客さまが何をする場所なのか、ということの言語化やソリューションの提案をデザイナー側でリードしました。
@shizuka:UX Backlogを導入してよかったのが、「こうしたほうが良いと思う」ということがあったら、自分の担当領域を越えて気づいたポイントを言えるようになったことです。デザイナーは職業の特性上、UXのちょっとした違和感に気づきやすく、それはPMやエンジニアとはまた違った視点を持っているからこそで、そうした違和感を拾って集めておく場所ができたのは大きな変化です。あとはそれをどうプロダクトに上手く組み込んでいくか、そこはまさにこれからかなという感じがします。
──PMやエンジニアにとってもいい影響や、気づきがあったのではないでしょうか?
@asakom:開発のプロセスでいうと、プロセスの初期段階の課題設定からデザイナーやPM、エンジニア、データアナリストが必ずいて、一緒にアイディエーションしてデリバリーまで並走するのが理想的な姿です。グローバル標準の開発のやり方だと、デザイナーは開発にEnd to Endで関わる役割として認識されています。ただ、これまではデザインチームの中でデザインプロセスや役割に対する共通理解がきちんと取れていなかったので、メルカリの中でデザイナーは何をしてくれる人なのかという認識が少し薄かったのかもしれないません。最近のデザインチームの活動を通してデザイナーが上流から開発に関わることによって、PMやエンジニアにとっても新たな視点が得られるようになったのではないでしょうか。
──なるほど、グローバル標準に近づいてきたということですね。では、メルカリのデザイン組織の独自性はどこにあると思いますか?
@shizuka:個性豊かというか、それぞれに強みを持っているメンバーが集まっています。まだ横のつながりを完全につくれているわけではないので、ここからどう手を組んでいくのかが楽しみですよね。
@asakom:とにかくみんなプロダクト愛に溢れているし、お客さまに寄り添う思考がすごく強いですよね。私は普段デザインプロセスだとか、言語化だとか言っているけど、プロダクトへの愛ではまだまだ敵わないなと感服しています(笑)。
──ちなみに、メンバーの間では「メルカリLover」として有名なshizukaさんがメルカリに入社した理由はなんだったのですか?
@shizuka:私はキャリアのスタートは広告代理店で、クライアントワークを4年ぐらいやってきて、そこから事業会社でサービスに責任を持ちたいと思って転職したのですが、その後にその会社はなくなりまして…(笑)。その後、メルカリに転職してきました。入社の決め手は、やっぱり進太郎さん(代表取締役 山田進太郎)が作ったサービスだったからですね。前職で会社がなくなることを経験して、「誰が作ったのか」がすごく大事だなと痛感しました。トップがプロダクトを愛してないと会社も存続していかないと思うんですね。
私からも、この機会にasakoさんに聞いてみたかったのですが、入社以降「Design Ladder」をはじめ、いろんなことを整理してくれて、それをさも当たり前のようにやられていますよね?誰もが自然にできることではないと思うのですが、どうして当たり前のようにできるんですか?
@asakom:そうですね…実は私はデザインがそんなに得意じゃないんですね。いや、本当に(笑)。でも、大量の情報の中から、「大事なのはこの3つです」みたいにまとめていくことがすごい好きなんです、もうそれこそアドレナリンが出るぐらい。
例えば、今回の「Mercari Design Principles」の定義をした活動で言うと、私はまだメルカリのプロダクトの理解が浅いですし、アイデアが豊富なタイプでもないです。ただ、みんなでワークショップをして、そこからフィードバックをもらって、みんなの思考に触れて、インサイトを発見していくことにすごくアドレナリンが出るんですね。いろんな方向に向かっているエネルギーをひとつにまとめるみたいな作業が本当に好きなんです。
──そういうことが得意だという人はいますが、アドレナリンが出るというのは初めて聞いたかもしれないです(笑)。
@asakom:あと、私はエンジニアになりたかったんですよね。職人的にものを作る人にあこがれていて、いまもエンジニアが一番尊敬できる職業だと思っています。自分自身はエンジニアにはなれなかったけど、一緒にものづくりができる環境が好きですね。私自身の役割としては、チームの活動がうまく進むように、空いてる穴を埋めていくみたいなことなのかなと。
「メルカリのブランドとはなにか?」を問い、お客さまに届けるところにまで責任を持つ
──では、少し抽象的な質問を投げかけたいと思います。メルカリという組織において、広義のデザインはいかに貢献していけると考えていますか?特に今のような2,000人規模の組織で、デザインの力はどう発揮されていくものでしょうか?
@shizuka:答えになっているかわからないのですが、UXリサーチャーと一緒に働くようになって「これだ!」という感覚が得られています。今までたくさんのVOC(Voice Of Customer)をCSからあげてもらっていたのですが、それが上手くプロダクトに組み込みきれていない感覚があって、もちろん全く組み込めていないとは言わないんですけど、どこかモヤモヤしていたところがありました。いまはUXリサーチャーが、VOCを文脈からお客さまの意見を翻訳して繋いでくれて、デザイナーはそれを実行してプロダクトに乗せていく、そういう一連のフローが構築されてきたことが単純に嬉しいです。
メルカリにおいて、デザインはすごい広い範囲にわたって必要だなと改めて感じていて、デザイナーは何人いても足りることはないし、もっと一緒に働ける仲間がいたら、もっといろんなことを良くしていけるはずです。
@asakom:「Mercari Design Principles」を作るにあたって、「メルカリのブランドとはなにか?」という私たちがお客さまに届けたい価値の理解から始めました。そこで理解したのはメルカリを使うことによって社会に貢献してる気持ちになれたり、なにか自分の可能性を広げている感覚になれる、そういったことを私たちも大切にしているし、届けていきたいと思っています。
これは今回新しく作ったメッセージではなく、おそらくかなり昔から考えられてきたことを改めて言語化しただけだと思うんですね。もちろん便利だから使っていただくことは目指しているのですが、これはもう機能の話ではなく、ある種感覚や情緒に訴えかける話です。これからのメルカリは、機能的価値と情緒的価値をお客さまに届けていくことができたら唯一無二のプロダクトになるし、競合サービスとは根本の思想から違うものなんだと認識してもらえるのではないでしょうか。それをプロダクト上でも、プロダクト外の体験でも伝えていくことが、挑戦であり可能性なのかなと。
それをお客さまに価値を届けるところにまで責任を持つ、そこに私は徹底的にこだわりたいと思っています。今までやれていなかったことへデザインの可能性を広げていくことは大切なんですけど、今までやってきたことにも誇りを持ってやっていきたいと思っています。
──では最後に、今このフェーズで、メルカリデザイナーとして働くことの醍醐味をうかがえますか?
@asakom:私は組織作りとプロダクトのデリバリーの両方に関われることが醍醐味ですね。みんながみんな全てに関わる必要はないですけど、「こういうことをしたい」と提案したときに、それを止める人はいない自由な環境だと思います。ただ、よく言われる話ですが、自由には責任も伴います。自分で進め方を計画して体制を作って、推進していける人であればすごくやりがいはある。
@shizuka:言われてやるより、何かやりたいことを持っているか、ですよね。私自身の話でいうと、デザイナーでありながら社内コーチとしての方向性にもキャリアを広げられていて、少し領域からはみ出していくチャレンジを否定されることはありません。例えばPMやりたいとなっても、それを是とするカルチャーだから、本人の強いWillや願いがある方が多分楽しくやれるし、できないことはないと思います。
@asakom:私は前職ではコンサルのような立場で働いていたので、3ヶ月から半年でプロジェクトを推進して、コンセプトとソリューション案を作り、そこからはクライアントにお渡しする。それ以上は関われない、みたいな短期的な関わり方になってしまうところは否めませんでした。リリース後にお客さまの反応を直接見て、継続的に改善し続けることがデジタルプロダクトは大事なんですと言いながら、実際にはそれが立場上できていなかった。それを真正面からとことんできる会社は、実は日本に何社もないですし、メルカリでならできるなと気づいた瞬間に「ここで働きたい!」と思ったんですよね。
@shizuka:なんだかすごい嬉しいですね(笑)。メンバー「みんなが素直」というと大袈裟かもしれませんが、すごく真摯にプロダクト開発に向き合ってることにいつも刺激をもらってますし、そういう姿勢はお客さまにも伝わると思うんですよね。真摯にデザインしていれば、私たちが伝えたい価値感をお客さまに届けられると思うし、それをやり続けられたら、インハウスデザイナーとして最高だなと思います。