近年、DXの取り組みが加速するなど、企業におけるデータ活用の重要性は高まっています。Eコマース・決済・物流などの事業多角化とグローバル展開を進めるメルカリにおいても、その状況は同じ。特に、扱うデータが生活に密着したものであり、因果や相関を分析することが容易ではないことから、よりメルカリらしいデータ活用法が求められています。
そんなメルカリのデータ利活用を推進するのが、「メルカリの成長を主導するブレインになる」というビジョンを持つAnalyticsチームです。メルカリにおけるデータ活用の歴史は古く、創業された年から行動ログのトラッキングや各種KPIダッシュボードが存在し、経営判断やプロダクト開発の意思決定に広く活用されてきました。メルカリの歴史そのものとも言えるデータ活用は、実際にどのような思想のもとに実践されているのか、そしてどのように他チームと連携して事業成長に寄与しているのか。3回にわたってキーパーソンへのインタビューを実施していきたいと思います。
第2回にフォーカスするのは、メルカリのグロースを実現するプロジェクト「Category Growth」。多種多様な商品の中からフォーカスすべきカテゴリーを決定し、それぞれのグロースプランを策定・実装するプロジェクトです。Analyticsチームと連携し、市場調査や過去の顧客動向をデータを用いてカテゴリードリブンなグロースを目指しています。
今回は「Category Growth」を推進する、メルカリ経営企画の井本陽子(@yoko)と、Analyticsチームの川口世人(@Tsuguto)の2人から、プロジェクトの背景とともに、Analyticsチームがどのように寄与してきたかを聞いていきます!
この記事に登場する人
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川口世人(Tsuguto Kawaguchi)首都大学東京(東京都立大学)修了、社会行動学専攻。在学中は貧困や外国人をテーマに質的研究を行う。修了後、(株)マクロミルに入社。データの集計解析/新商品開発部門を経て、新規部門の立ち上げに携わる。2020年にメルカリグループに入社し、現在メルカリ(JP)でアプリや事業戦略の分析を行うProduct and insight analytics team のマネージャー。 -
井本陽子(Yoko Imoto)慶應義塾大学法学部法律学科を卒業。2002年ドイツ銀⾏グループに入社、投資銀行業務に従事。2004年、株式会社ラザードフレールに入社、東京・ニューヨークにてM&Aアドバイザリー業務に従事。2006年、株式会社オリエンタルランドへ入社し、経営戦略、事業開発、商品開発等に従事。2018年5月、株式会社メルペイに入社。2021年7月より、メルカリにて、経営企画業務に従事。
「捨てる要素」を決めたことで、スピードと質の高い分析を可能に
——まずはプロジェクトの概要から教えてください。
@Tsuguto:「Category Growth」は、メルカリで扱っている商品群の中から、グロースの可能性があるカテゴリーを選出し、それぞれのグロースプランを策定・実装するプロジェクトです。2023年1月からスタートしました。
まずは、国内外の市場環境・トレンド、競合を含めた業界課題、消費者の課題の特定など、外部環境の分析にくわえ、メルカリのKPI、オポチュニティと課題の特定など、内部環境の分析を実施。その結果をもとに、経営陣とフォーカスカテゴリーを決定しました。そのうえで、さらに深いリサーチを行い、それぞれのカテゴリーのグロース戦略と施策を策定。これから施策を実装していく段階です。
川口世人(@Tsuguto)
——どのような背景から始まったプロジェクトなのでしょうか?
@Tsuguto:もともと、「カテゴリーを軸にしたグロース」にオポチュニティを感じていたんです。ただ、過去に実行した際は、それほど大きな効果が得られなかったという経験もあり、今回はまず、オポチュニティの解像度をあげることが第一ステップでした。
@yoko:LTV(顧客生涯価値)に比べると、新規のお客さまがそこまで大幅に伸びているわけではないという危機感も、背景にありました。そうしたなか、外部市場を見てみると、スニーカーやトレカなどの特定のカテゴリーに特化した企業が伸びていましたし、カテゴリー戦略を用いて事業成長する事例も出てきていた。このタイミングなら、私たちも改めて「カテゴリーを軸にしたグロース」に取り組むべきじゃないかと思って、プロジェクトがスタートしたんです。
——具体的にどのようなタイムラインで進めていったんでしょうか。
@yoko:キックオフから4日後には上長やマネージャーを含めたオフサイト、2週間後には経営会議でのプレゼンテーションが予定されていたので、ものすごいスピードでリサーチを進めていきました(笑)。
——2週間後には経営陣へのプレゼンテーション…かなりタイトですね。見るべき情報量も膨大なように思うのですが…。
@yoko:そうですね。キックオフまでにリサーチできる期間は、実質2日間くらい。それにもかかわらず範囲は、国内外の新品・中古市場と、メルカリ内部の顧客動向という膨大さ。私は社外のことを、Tsugutoさんは社内のデータ分析を担当してくれました。
本業の業務をしながらの作業だったので、本当に余裕がなく、寝る間も惜しんでひたすらレポートを読み漁ったり、ヒアリングする毎日。かなり大変でしたが、2週間後の経営陣に行ったプレゼンは、短期間で方向性までまとめたことを評価していただき、方向性について合意することができました。
——短いスパンで質の高い分析ができた要因はどこにありましたか?
@Tsuguto:時間があまり時間がなかったのは間違いないのですが、実は初期段階で新しい分析はあまりしていないんです。過去のさまざまな分析を整理して、今回のスコープに合わせて必要なものを議論にあげるようにしてきました。そのおかげでスピード感が高まったのはあります。
@yoko:ゼロから調査して、分析もして、提案も作ってとなると、時間が足りなかったと思います。また、もし、1人で取り組んでいたとしたら、経営会議で主張したい内容までは決めて、詳細の分析はその後で…となりかねなかった。Tsugutoさんが過去の分析をもとに、データドリブンな議論の進め方をしてくれたので、最初からディープダイブして考えることができました。
@Tsuguto:加えて、初期段階で「捨てる要素」をきちんと決められたのも、スピードと精度が高まった要因だと思います。それぞれの要素がどのように影響しあっているのか、どの要素が特にグロースに影響を与えるのかの共通認識を持てたことで、早い段階から範囲を狭め、より深い分析ができました。
@yoko:要素を絞らずにざっくりとリサーチをしようとすると、「まだこの観点を考えきれていない」と、可能性をいつまでも残してしまうことになります。会議の場で議論しようとか、この人にもあの人にも相談してみようとか、時間を浪費してしまう可能性がある。Tsugutoさんが「その観点は考えなくて大丈夫です」と、根拠を示しながら言ってくれたので、不要なものを切り捨てることができました。
@Tsuguto:yokoさんの整理力のおかげも大きいと思います。僕としては、分析をどんどん出していけばどんどん整理してもらえるので、非常にスムーズに進められました。
——お二人の相性も良かったということですね。分析した結果で、改めて確信を持てたことはありますか?
@yoko:グロースのために、新規ユーザーの獲得が課題なのはその通りですが、LTVをより高めることにオポチュニティがありそうだと気づきました。
また、高価格市場における課題点も見つかりました。普通の商品よりもきちんと梱包することが必要だったり、高価格帯だからこその不満を感じられているお客様がいることがよくわかり、求められていることがたくさんあるということが明らかになりました。
「依頼を受けてから動く」は負け。Analyticsチームの矜持
——ここまでの話を聞いて、このプロジェクトにおいて「分析」の存在は大きかったと理解しました。改めて、メルカリのAnalyticsチームの特徴や独自性を教えていただけますか?
@Tsuguto:Analyticsチームの特徴は、情報整理や分析だけに特化するのではなく、「ビジネスを前に進めるために、チームの一員として動く」スタンスを持っていることです。今回のプロジェクトにおいても、初期段階ではyokoさんが兼業で忙しかったので、MTGの設定やアジェンダ作成など分析以外の役割も担いました。
合理的に判断して物事を進めるのがアナリストの役割です。そして、その合理性には2種類あると思っています。1つは、ファクトや数値という意味での合理性。もう1つは、いま置かれてる状況に対しての合理性です。
ビジネスを前に進めようとすれば、リソースのトレードオフはいつも起こります。この人数で、この日数で、このアウトプットを出すためにどうしたらいいかを合理的に考え、チームでどう進めるかを提案することも、アナリストの役割です。
——事業部側に所属するyokoさんは、Analyticsチームの存在はどのように感じていますか?
@yoko:役割の壁を設けず、同じ課題感や夢を一緒に追いかけてくれるありがたい存在です。過去、他の環境でアナリストと仕事をした際は、「依頼させていただく側」「依頼させていただく対象」という感じで薄い壁がある印象でした。こちらがしっかり情報を整理し、仮説も明確に言語化し、依頼内容を作り込んでから相談しないとお願いできないといった緊張感があったんです。
一方、メルカリのAnalyticsチームのメンバーは、解決したい課題に向かって、プレイヤーとして横並びで突き進んでくれます。まだ仮説が明確にできていない段階でも相談に乗ってくれますし、もっと言えば、必要なデータや議論の枠組みを先に用意してくれることもあります。Tsugutoさんだけではなく、他のメンバーも同じで、すごく心強いですね。
井本陽子(@yoko)
@Tsuguto:まさにそこはチームとして意識していることです。個人的には「依頼を受けたら負け」とも考えているんです。依頼が受けるということは、Analyticsチーム側の思考が追いついていないということ。
アナリストは現場の施策を実行するわけではありません。だからこそ、誰よりも考えることにリソースが使える。できていない部分もまだ多いですが、深く先のことを考え、依頼を受けてからではなく、依頼を受ける前からすでに動き出しているのが理想だと思っています。
@yoko:事業部側としては、そうした姿勢にありがたみを感じながらも、頼りきりになってはいけないと思っています。メルカリのカルチャーは、「自分で情報を集めて、自分で分析する」が基本。そのうえで、どうしても思考しきれていないことは、Analyticsチームに相談する。役割に壁を設けるわけではないけれど、それぞれの持ち場にはきちんと責任を持って、お互いをリスペクトしあえる関係性でいたいですね。
複雑化する施策の評価軸を明確にし、全体最適なグロースを目指す
——事業部とAnalyticsの連携によって、短期間でフォーカスカテゴリーのグロースプラン策定まで辿り着きました。今後はどのような課題に取り組んでいくんでしょうか。
@yoko:私たちが考えたカテゴリー戦略と、マーケやプロダクトの戦略をすり合わせ、実装していくフェーズに入ります。様々な施策を重ねれば重なるほど、グロースの可能性は増えていきますが、エグゼキューションにおいてカニバリゼーションや非効率的なことが起きる可能性も増える。全体を見渡しながら調整をしていくことが必要です。
@Tsuguto:Analyticsチームとしては、施策が増え複雑化していくなかで、それらを正しく評価する判断軸を作ろうとしています。判断軸のロジックを考えることと並行して、各所の理解と納得を得るためのロジックも用意する。まさにいま取り組んでいますが、なかなか難しいですね…。
@yoko:メルカリは常に変化し続ける会社なので、常に朝令暮改なところがあります。一度決めたプランだからといって、それに固執するのではなく、事業の優先順位を反映しながら変えていく必要がある。常にトレードオフする、お客さまへの提供価値と人とコストの三角形を健全に保ちながら、事業グロースに向けた取り組みを続けていきたいと思います。