7月が年度初めのメルカリでは、毎年6月末に次年度のロードマップに関する全社発表会が行われます。
今年は6月23日に、2024年度版ロードマップの発表会が行われました。当日は代表取締役 山田進太郎をはじめ、上級執行役員たちが勢ぞろいし、それぞれの戦略について熱く語り合いました。また、発表会後には、ロードマップの内容に関して社員が経営陣に自由に質問できる「Open Door」をオフライン・オンラインのハイブリッドで開催。このOpen Doorは今年初めての取り組みでしたが、社員からは鋭い質問が数多く寄せられ、大盛況のうちに幕を閉じました。
ロードマップに込めた思いを熱っぽく語る山田進太郎
今回のメルカンでは2024年度版ロードマップの策定プロセスに焦点を当てます。インタビューに答えてくれたのは、ロードマップ策定プロジェクトをリードする経営戦略室の山下真智子(@mattilda)と浅井宗裕(@mune)。2024年度版ロードマップは、どのような議論を経て形作られていったのか?約半年前からスタートしたというロードマップ策定の裏側を語ってもらいました。
この記事に登場する人
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浅井宗裕(Munehiro Asai)経営戦略室で、ロードマップを軸とした全社戦略の策定と運用をリード。国際コーチング連盟プロフェッショナル認定コーチとして社内外のエグゼクティブ・シニアマネージャーや経営チームに、累積1200時間以上のコーチングセッションも提供。2024年度からは人的資本経営戦略の策定と推進、グループCEOサクセッションプラニングが主務。 -
山下真智子(Machiko Yamashita)2015年メルカリ入社。Culture&Communicaions Teamのマネージャー、2度の育休を経て2021年よりESGプロジェクトに参画。サステナビリティレポートの発行や教育プログラムの開発、ネガティブインパクト算出のプロジェクトオーナーを務めたのち、2022年10月よりESG経営を推進する経営戦略室のマネージャーに就任。現職。
どれだけ居心地が悪くても、不都合な真実に向き合い続ける
——まずは、メルカリにおけるロードマップの定義を改めて教えてください。
@mattilda:メルカリは「あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる」をグループミッションに掲げています。ロードマップにはミッション実現に向けた道筋が描かれており、経営陣とメンバーのベクトルを合わせ、企業としての推進力を上げていく役割を担っています。
メルカリのロードマップは一度策定して終わりではなく、外部・内部環境の変化を踏まえ更新し続けているのが特徴です。毎年12月頃から次年度のロードマップ策定に向けた議論をスタートし、年度が終わる6月に全社発表会を実施しています。その後は四半期に一度振り返りを行いながら内容を見直しています。議論にはメルカリグループの経営陣が参加し、経営戦略室は事務局として会議のファシリテーションを行っています。
——2024年度版ロードマップの策定は、どんな論点で議論が交わされたのでしょうか?
@mune:2023年度版ロードマップは、「外部パートナーと共に循環型社会のエコシステムを創り出す」と「グローバルテックカンパニーになる」の2つを大きな軸に戦略が語られています。外部・内部環境の変化を踏まえて、この軸に対してアプローチは十分なのか、そもそもこの軸は正しいのか、といった議論からスタートしました。
どちらの論点についても、その達成度合いについて大きな議論が巻き起こりました。例えば、「外部パートナーとの連携」について一部の役員は「大きな進捗がなかったので、達成できたとは言い難い。まだまだやれる余地があるのではないか」という認識を示した一方、他の役員からは「メルカードやメルコインが無事リリースされ、エコシステムは拡大しつつある。外部パートナーとの連携は不確実性も高く、その達成を目的化すべきではないのではないか」といった意見が挙がり、見解が分かれました。
左: mune、右: mattilda
@mune:いずれも、ミッション実現という「コト」に向かっているのですが、置かれている立場や役割の違いによって、どうしても優先すべきことにズレが生じてしまっているようでした。どちらの意見も決して間違っていないため、双方の意見を受け入れて、自分たちが改めてやるべきことは何なのかという観点で議論を深めました。議論に議論を重ねた結果、「ミッションを実現するために、外部パートナーとの連携は不可欠」との結論に至り、2024年度版ロードマップの具体的なアクションに落とし込まれていきました。
メルカリの背負うミッションは壮大です。その達成に向けた道筋であるロードマップを通じて、私たちは足元の売上や利益成長だけでない、中長期的なコミットメントも求められることになります。当然その難易度は高い。今期の高い目標達成や利益捻出に向けた議論を重ねた後に、経営陣は「ロードマップで掲げたことを本当に実行できているか?」と自らに強く問いかけます。それは、ミッション実現に対する絶対的な決意を持っているからこそです。言ってみればロードマップは、どれだけ居心地が悪くても、不都合な真実に向き合うために自ら仕込んだ「しかけ」であると思います。
——経営陣がどれだけ真剣に議論していたのか、手に取るように伝わってきました。今年はBoD(取締役会)とも積極的な対話を重ねたと聞きましたが、そこではどんな議論が交わされたのでしょうか?
@mattilda:事業戦略に関わる部分は執行側が議論するため、BoDとはミッション達成の前提となる考え方の言語化を通じて、相互理解を深めました。そのドラフトは進太郎さん(代表取締役 山田進太郎)が書いたのですが、それを巡っても、取締役の間でそれぞれの考えや捉え方に違いがあることが浮き彫りになりました。
例えば、ドラフトでは第一文として「地球資源が限られている中、大量生産大量消費の時代から、よりサステナブルな循環型社会への転換が求められている」といった表現がありました。しかし、これだとあたかも「メルカリが環境問題を解決するために存在している」ように読める。ここに対して「本当にそうだっけ?」という問いが投げかけられ、改めてメルカリの存在意義について考え直す時間が設けられました。
「メルカリはなぜ存在し、誰の役に立つのか」「より大きな目的を達成するために、どこに向かうのか」…喧々諤々と議論した結果、導き出された答えは、やはり「ミッション」でした。メルカリは「あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる」というミッションを実現するために存在している。その結果として環境に与えるポジティブなインパクト“にも”当然コミットをする、という整理がメルカリらしいという共通認識を得ることができました。
メルカリの経営に関わるメンバーたちの多様な視点を丁寧に、根気強くすり合わせることで、ロードマップにもより一層魂が込もったと感じますし、こうした議論を絶え間なく重ね、全員の思いを一つにしていく過程が、ミッション実現に本気でコミットするメルカリ流の「習慣づくり」なのだと思います。
パネルディスカッションでは、経営陣が当時の白熱した議論を笑顔で振り返りました
——そうして完成した2024年度版ロードマップですが、2023年度版と比べて進化したポイントはどこですか?
@mattilda:ロードマップにESGの観点が反映されたことです。去年までESGを取り扱うサステナビリティチームとロードマップを取り扱う経営戦略室は別々の部署でした。しかし、メルカリが継続的に価値を生み出していくという点において、ESG経営とロードマップ経営は本質的に変わらないため、2つの戦略を融合させることとなりました。そのうえで、サステナビリティチームが経営戦略室に異動する形でチームが再編成され、去年までサステナビリティチームに所属していた私はロードマップ策定プロジェクトにもアサインされました。ESGのフレームワークで定めたマテリアリティ(重点課題)をロードマップの軸としても色濃く反映させることができたのは大きな成果だったと考えています。
@mune:2024年度版ロードマップは執行責任を持つ役員からも「頑張れば目指せそうだとリアルに思う。挑戦したくなるものになった」「ストレッチゴールでありながら実現可能性もある、絶妙なバランスを突くことができている」といった声をもらっています。進太郎さんも「かなり自信がある」と言っていました。これは役員陣が、ミッション実現のためのアクションを絞り出してくれたからこそ成し得たことです。一部の経営陣がロードマップを書いて、それを一方的に落とすのではない、メルカリらしいロードマップ経営の「型」が、いよいよかたまってきたのだと感じます。そしてそれは、毎年、本気でロードマップの策定に向き合い続けることで、初めて到達できたステージだとも感じます。
組織への浸透が課題。ロードマップをミッションへの共感を強めるツールの一つに
——「ロードマップを絵に描いた餅にしない」というのは、まさに経営戦略室のミッションの一つですよね。進化したロードマップを、これから一層、組織に浸透させていくことに対して、手応えは感じていますか?
@mattilda:正直な話をすると、私は経営戦略室の一員になるまでロードマップを少し遠い存在に感じていました。毎年6月に開かれる全社発表会に参加し、ロードマップの内容ももちろん把握していましたが、それで終わりというか…。だからこそ、多くの社員にとって、ロードマップはまだまだ遠い存在なのだろうということも想像がつきます。ですが、今回ロードマップの策定に初めて関わってみて、経営陣がどれほどの熱量を注ぎ込んでいるのかを知ることができました。こうした過程を多くのメンバーに伝えることで、もっと共感を広めていきたいと思っています。
そのためには、ロードマップとメンバーの接点を増やすことも大切だと考えています。既に一部の部門では、All Hands(全社定例)でロードマップの振り返りを行う時間を設けるなど、メンバーへの浸透に力を入れているところもあります。こうした取り組みが全社に広がっていくような仕組みを地道に整えていくのも、経営戦略室の今後の役目だと考えています。
Open Doorはランチを食べながらカジュアルな雰囲気で実施されました
Open Doorの終了後、上場5周年をお祝いしました
——最後に、ロードマップ経営を通してどのようなことを実現していきたいですか。
@mune:ロードマップには経営の断固たる決意が込められています。「あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる」というグループミッションは、それだけ聞くと抽象度が高く、非現実的なフレーズのように響くかもしれません。そんなときにロードマップを活用してほしい。メルカリで働く全てのメンバーが、ミッションへの共感を強めるツールの一つとしてロードマップを活用してくれるようになれば、組織はより一層強くなっていくと思っています。
@mattilda:私もmuneさんと同じ考えです。ロードマップにはメルカリの「次の10年」がストーリーとして描かれているのですが、改めて読んでみると、これが実現した世界って単純にワクワクするなと思ったんです。一人でも多くのメンバーが、ロードマップを通してメルカリの未来にワクワクし、ミッション実現に向けて一緒に頑張っていこうと思ってくれたら、それはすごく幸せなことだなと思っています。