近年、DXの取り組みが加速するなど、企業におけるデータ活用の重要性は高まっています。Eコマース・決済・物流などの事業多角化とグローバル展開を進めるメルカリにおいても、その状況は同じ。特に、扱うデータが生活に密着したものであり、因果や相関を分析することが容易ではないことから、よりメルカリらしいデータ活用法が求められています。
そんなメルカリのデータ利活用を推進するのが、「メルカリの成長を主導するブレインになる」というビジョンを持つAnalyticsチームです。メルカリにおけるデータ活用の歴史は古く、創業された年から行動ログのトラッキングや各種KPIダッシュボードが存在し、経営判断やプロダクト開発の意思決定に広く活用されてきました。メルカリの歴史そのものとも言えるデータ活用は、実際にどのような思想のもとに実践されているのか、そしてどのように他チームと連携して事業成長に寄与しているのか。3回にわたってキーパーソンへのインタビューを実施していきたいと思います。
第3回にフォーカスするのは、商品検索機能の開発チーム(以下、検索チーム)です。メルカリで商品を探しているお客さまが、なるべく楽に・確実に目当てのものと出会える(=マッチングできる)ように検索機能を改善することをミッションに掲げています。
今回は検索チームのプロダクトマネージャー 金井佑真(@yuu)と、Analyticsチームの諏訪ひと美(@suwachan)から、PMとアナリストがどのように連携しているのか、そしてPMがアナリストに対して期待していること聞いていきます!
この記事に登場する人
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諏訪ひと美(Hitomi Suwa)東京大学文学部で社会心理学を専攻し、卒業後デジタルマーケティング支援会社に入社しSEOアナリストを担当。データ活用支援事業のBtoBマーケターを経て、データアナリストとしてメルカリへ入社。入社後はProduct Analyticsチームにて、Web版メルカリや検索機能の分析を担当。 -
金井佑真(Yuma Kanai)大学院在学時にインターンとしてメルカリにジョインし、卒業後に正式入社。インターンとして入社した2018年から検索チームのPMとしてUI改善から機械学習を用いたアルゴリズム改善まで幅広く従事。現在はタグデータを用いて出品・検索を横断的に改善するチームをマネージャーとしてリードする。
お客さまの商品発見プロセスをより楽しく、最適なものに
——検索チームとはどのようなチームですか?
@yuu:お客さまの商品発見プロセスが、より効率的でより楽しい体験になるようなマッチングを実現するというミッションを持ったチームです。最終的には、買い手がほしいものをスムーズに手に入れやすく、その結果、売り手の出品した商品が売れやすくなることを目指しています。
@suwachan:検索チームは、プロダクトマネージャー、エンジニア、UX designチームからアサインされたUXリサーチャー、Analyticsチームからアサインされたデータアナリストによって構成されています。私は特にPMであるyuuさんと一緒に動くことが多いのですが、それぞれの役割に違いはあるものの、あまりそこは区別せずに二人三脚で様々な案件を進めています。
諏訪ひと美(@suwachan)
@yuu:suwaさんは、分析業務以外の分野でもチームに貢献してくれているんです。本来はPMの役割である「施策の仮説」も考えてくれたり、A/Bテストの結果を見て「次は、この事後分析をしませんか?」と提案してくれたりしています。また、エンジニアと直接コミュニケーションをとってくれたりもするので、僕がすべてのハブになる必要がなく、ごく最低限のコミュニケーションをとるだけで、認識を揃えながら仕事を進めることができるので非常に助かっています。
@suwachan:ありがとうございます(笑)。でも、最初からそんなにスムーズな連携ができていたわけではなかったです。検索はドメインの専門性が高いため、チームに配属された当初は、実行している施策の意図を汲み取るのも大変でしたし、仮説もyuuさんに頼りきりになっていました。社内資料や検索にまつわる書籍を読みながら、yuuさんやエンジニア、UXデザイナーからインプットを得られたおかげで、1年くらい経ってようやく目線が揃ってきたんです。
それから、ソフトウェア基盤を刷新した「GroundUP」、メルカリ内の事業者向けサービス「メルカリShops」など、様々な案件に携わりながら、データ分析を進めてきました。
@yuu:メルカリのPMはある程度のデータ分析は自分でできますが、時間が限られているなかで、深掘りしきれないところがあるのも事実。それを察知してサポートしてくれるのがありがたいです。
ただ、僕はアナリストのことを「PMがやりたいことの後押しをしてくれる人」だとは思っていません。PMに忖度せず、データの裏付けをもとに、ダメなものはダメだと意見をしてほしい。データを出してほしいとお願いした際も、ただ結果を持ってくるのではなく、「こういう因果関係が隠れている可能性が出てきました」などと、考察を一緒に考えてくれる関係でありたいですね。
——suwaさんがPMと協業する際に意識していることはありますか?
@suwachan:施策やそこから見えてきた仮説、顧客インサイトをきちんと蓄積し、形式知にしてきました。かつて、yuuさんが検索まわりのPMから分析までひとりでやっていた時は、業務範囲も広く専門性も高かったので、手が回っていなかったんです。
@yuu:その辺りの形式知をつくるのは、suwaさんがすごく得意としていますよね。チームで共有できる形式知ができたのは大きかったです。
——なるほど。では、どんなことを形式知にしていったのでしょうか?
@suwachan:そうですね、具体的には「フィルター機能の是非」についてでしょうか。メルカリは検索窓にキーワードを入れると、カテゴリーでフィルタリングされたサジェストが出てきます。たとえば、「ワンピース」と入れたときに、「おもちゃ・ホビー・グッズ」や「レディース」など、検索意図に合わせたカテゴリが出てくる仕様になっている。
過去に、「このカテゴリーを外して検索したい人もいるのではないか?」との仮説のもと、試しにキーワードを全部消した際にフィルター機能も消してみたことがありました。結果は、あまりプラスには働きませんでした。理由を探ってみると、「直前に使っていた検索条件を引き継ぎたい」というお客さまの要望が多いことがわかったんです。最近になってまた「フィルター機能は要らないかもしれない」と仮説が出てきたのですが、インサイトを掴んで蓄積してきたことによって、客観的な議論をすることができました。効果の出ない施策に時間をかける過ちを繰り返さずに済んだんです。
——ただ、過去にはうまくいかなかった施策であっても、タイミングが違えば成功する可能性もありますよね?
@yuu:おっしゃる通りです。メルカリが成長するにつれて、お客さまの層だけでなく、UI/UXも相当変わってきてますから、「過去に失敗したから、今回も成功しない」とは一概に言えません。しかし、限られた時間のなかで、すべての施策ができるわけでもありません。過去の施策のうまくいかなかった理由をきちんと分析して、キャッチアップできる状態にし、可能性の高そうな施策にフォーカスすることが大事なんです。
生産性を高め、主体的に課題を解決するアナリスト
——今回の検索機能の開発に限らずですが、メルカリのAnalyticsチームが、事業部と連携する際に意識していることを教えてください。
@suwachan:前回の「Category Growth」の記事で、Tsugutoさんから「依頼される側になったら負け」という発言がありましたが、私もアナリストが議論や仮説の言い出しっぺになることが大事だと思っています。そのために、ルーティンワークを効率化し、生産性を高めることによって考える時間を増やすことを意識しています。
@yuu:A/Bテストの結果を自動で取得する「auto analysis tool」の開発も、suwaさん主導で進めてくれましたね。一般的には、そうしたツールの開発もPMが進捗管理するのですが、suwaさんが直接エンジニアとやりとりしてくれたおかげで、僕はプロダクトに集中することができました。
金井佑真(@yuu)
@suwachan:Analyticsにはデータ分析に関わる裁量が大きく与えられているので、スムーズに進めることができたんです。分析を進めていくと、どんどんやりたいことが出てきます。施策のモニタリングの次は事前事後の分析、それができたら自動化に挑戦しようといったふうに。一度できたことを自動化しつつ、常にやりたいことや、やるべきことを探して主体的にプロダクトグロースに寄与するのが、Analyticsチームの特徴であり、重要視していることですね。
仮説に「データが反対する」。そこにこそ見出される可能性
——10周年を迎えたメルカリでは、新規事業の開発や組織体制の変更など、さまざまな変化が起きています。こうしたフェーズでAnalyticsチームはどのように会社に貢献していくのでしょうか。
@suwachan:経験からくる「直感」と「データ」をうまくつないでいきたいです。組織の変化が大きいタイミングでは、過去に例のない施策が多く生まれます。過去の集積である「データ」だけではなく、そこにメンバーの「直感」を掛け合わせて、意思決定していかなければいけません。
@yuu:そこは、PMとしてもすごく意識しています。ユーザーインタビューの結果や、自分のいちユーザーとしての感覚が、データから導かれた結果と違っていることはよくある。もちろん、「直感のほうがデータより優れている」とは絶対に言えませんが、データに頼りきりにならないためにも、自分自身の感覚を研ぎ澄ませていきたいです。
そのためにも、自分なりの仮説ありきでデータを扱うことが重要だと思います。仮説がない状態でデータを見てしまうと、「推測」というよりは「妄想」に近くなってしまうこともある。仮説に対して、データが反対するところに可能性が見出せます。
先に仮説のストーリを描き、データが指し示す結果との差分を探っていくことで、見えていなかったお客さまの行動やインサイトを導く。「自分のセンスをデータで更新する」ことで、PMの感覚は磨かれていくんです。
——データを扱うスタンスは共通認識がありそうですね。
@yuu:メルカリのPMは最低限の分析の知識があるから、データを共有する際の説明コストも低くなりますし、データ分析の持っている制約も理解しているから、アナリストに無茶振りする人も少ないです(笑)。
@suwachan:アナリストから見ても、データの扱い方がうまい人がメルカリには多いと思います。事業戦略上のメトリクスやKPIの共通認識を持ち、事業部メンバーと「このために、このデータが取れたらいいのでは?」というように、同じ目線で議論ができるので、メルカリでアナリストとして働くことは本当に面白いですね。