メルカリグループの特徴の一つは、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)を重視した職場環境づくりです。世界中の優秀な人材が、社内に自分の居場所があり、受け入れられていると感じる職場風土の醸成を目指しています。メルカリグループがミッションを達成し、世界中の多様な社会・文化に受け入れられるサービスを提供するためには、まずは社内でこのビジョンを体現することが重要だと考えています。
メルカリ社内で「GOT」として知られているGlobal Operation Teamは、ますます多様化しているメンバーたちを支援するチームの一つです。主に社内の通訳・翻訳業務を担当していますが、実際の組織へのインパクトやビジネスへの貢献は、ただの通訳・翻訳にとどまりません。短期連載「Global Operation Team:言語を活用してメルカリのビジネスやD&Iなどをサポート!」を通して、GOTの業務や社内で果たしている重要な役割について深掘りしていきます。
今年2月、メルカリグループは、全く新しいグループミッション”あらゆる価値を循環させ、すべての人の可能性を引き出す” を発表しました。本連載2回目となる今回は、GOT翻訳者のエマ・デイビス(@emma)と、メルコインエンジニアのアヤ・ウォルレーベン(@aya.eth)に、新しいミッションが生まれた経緯や、GOTのサポートがどのようにミッションをより包括的なものにするに至ったかなどをお聞きしていきます!
※アヤ・ウォルレーベンはオンラインでのインタビュー参加
この記事に登場する人
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エマ・デイビス(@emma)GOT1翻訳者。マサチューセッツ州出身のエマは、ハーベイ・マッド・カレッジ(カリフォルニア州クレアモント)でコンピュータサイエンスと日本語の人文科学を専攻し、2015年に卒業しました。その後、日本の富山に移住し、ALTとして2年間英語を教えました。2017年9月、東京に移転してメルカリに入社し、以来、グローバルオペレーションチームで社内翻訳者、編集者、翻訳マネージャーとして働いています。専門の言語学やローカライゼーションに加え、演劇、2.5次元アイドル、モバイルゲームなどが趣味です。 -
アヤ・ウォルレーベン(@aya.eth)Mercoin (Product Manager) 。Ayaはビクトリア出身で、フロントエンド開発、デザイン、プロダクトマネジメントを経験してきました。過去10年間、暗号通貨業界に身を置き、2020年には暗号通貨の取引分析に焦点を当てたスタートアップを共同設立し、後にMercari Groupに買収されました。メルカリ入社後は、パ・リーグExciting Moments(NFT)のデザインや映像制作、プロダクトマネジメントに加え、メルコインのグロースなどにも携わっています。
新しいグループミッションは、できるだけ多くの人々の視点を反映させることが重要だった
──早速ですが、2つの質問をさせていただきます。新しいグループミッションとはどのようなもので、なぜメルカリはそれを作ることにしたのでしょうか?
@aya.eth:新しいグループミッションは、「あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる」です。当初のミッションは、「新たな価値を生み出す世界的なマーケットプレイスを創る」というもので、マーケットプレイスモデルに特化したビジネスでした。しかし今、グループの成長とともに事業の幅が広がり、今後も拡大していくことが予想されるため、メルカリが世の中に提供できることは何か、今やっていることだけでなく、将来的に何ができるかを再考するタイミングだったのだと思います。
その一例が、ビットコインを売買できるサービスを展開しているメルコインです。これはメルカリのマーケットプレイスアプリとは一線を画したサービスで、こうした新しいビジネスモデルや新しいサービスがグループに加わったことは、自分たちのミッションがどうあるべきかを考え始める良いきっかけになったと思っています。
@emma:Ayaの話を補足すると、もとのミッションは、マーケットプレイス事業のミッションとして作られたものであり、今後もそうあり続けるでしょう。長い間、マーケットプレイスがメイン事業であったため、グループ全体のミッションとして扱われてきましたが、グループ全体を包括する真のグループミッションを持つべきであると考えました。
これまでのミッションは、「何をするか」を説明するものでしたが、この新しいミッションは、「なぜそれをするのか」に答えるものでありたいと考えました。メルカリジャパンのミッションよりも抽象度が高く、メルカリグループ各社のミッションが含まれているため、より広い範囲でのミッションとなることを意図しています。
エマ・デイビス(@emma)
──グループミッションが誕生した経緯について、概要を教えてください。
@emma:まずは、グループ各社の代表者だけでなく、プロジェクトリーダーも含めた社内プロジェクトチームを結成しました。そのため、様々な立場からの意見を取り入れることができ、長い時間をかけて議論を重ねていきました。議論が始まったのは2020年の夏頃だったと思います。「グループミッションを作ろう」という最初の発想から、最終的にこの新しいミッションが採用されるまでに2年以上かかっています。
全体的なプロセスとしては、プロジェクトチームが週1回のペースでミーティングを行い、こうした議論を重ねていきました。また、open doorセッションを行ったり、アンケートを実施したりして、プロジェクト外のメンバーからも意見やアイデアをもらうようにしました。新しいミッションを作るための専門のプロジェクトチームがあっても、社内の全員から意見を聞くことができたのです。そういう意味では、みんなで作ったようなものですね!
@aya.eth:このプロセスを通じて、本当にありとあらゆる層の人たちと話をしました。経営者や管理職とのオープンドアやフィードバックセッション、そして、組織のあらゆる層のメンバーとのミックスセッションを行ったのです。新しいミッションに、できるだけ多くの人の意見を反映させることが重要でした。
──ミッションステートメントそのものが目指す多様性を反映させるために、プロジェクトチームのメンバーも多様だったんじゃないでしょうか。
@aya.eth:そうだと思います。emmaが言ったように、マーケットプレイス、Fintech、鹿島アントラーズ、Souzoh、Mercari USなど、グループ内のあらゆるところから代表者が集まり、多様な言語や文化が混在していました。例えば、プロジェクトチームには、英語を母国語とするメンバー、日本語を母国語とするメンバー、そして、 PMの人もいれば、開発業務に携わっている人、エンジニアのマネジメントをしている人など、さまざまな部署やバックグラウンドの人が集まっていました。このように、プロジェクトチーム自体が多様性に富んでいることは、さまざまな視点を反映させる上で非常に有効だったと思います。
GOTの言語サポートにより、英語版と日本語版のミッションを同時に作成することができた
──グループミッションの作成において、GOTがどのような役割を果たしたか、詳しく教えてください。
@emma:私はGOTの代表としてプロジェクトチームに参加しましたが、翻訳や通訳の仕事をするだけではありません。私の役割は、例えば英語版のミッションについて、GOTとしての視点で見解を示すなど、GOTの意見を代弁することでした。
このプロジェクトが非常にユニークだったのは、日本語版のミッションが先にできて、それを英訳したのではなく、英語版と日本語版が同時並行で作られたことです。英語の文言などについてのアドバイスや意見を述べました。
また、GOTはプロジェクトチームの会議の通訳も担当しました。ayaが言ったように、プロジェクトチームの全員が日本語に堪能なわけではなく、Mercari USのメンバーや日本にいるメンバーが積極的に議論に参加し、貢献できる環境を整えることが出来たと思います。
──お二人には通訳を使う必要はなかったと思いますが、それでも、通訳のサポートがあることで、より多くの声をミッションに反映させることができたと感じたことはありましたか?
@aya.eth:私も、このプロジェクト中、GOTの通訳サービスにお世話になった一人であることは間違いありません!
また、GOTがミーティングに参加したことで、安心して発言できる空間になったとも思うんです。プロジェクトチームのメンバーは、「言いたいことが言えるだろうか?」とか、「表現するための日本語の語彙は十分だろうか?」といった心配をする必要がなかったのです。自分が言いたいことを正確に伝えられるかどうかではなく、プロジェクトそのものについて考えられることが重要だったのです。新ミッションでは「グローバル」という言葉は使っていませんが、そのプロセスは非常にグローバルなものでした。
アヤ・ウォルレーベン(@aya.eth)
@emma:そうですね。議論をリードしているのは日本人で、日本人の視点だけで議論が進められることも多かったので、たくさんの異なる文化や背景を考慮しながら、そうした他の視点を積極的に取り入れる努力をする必要があったのは確かです。
例えば、グループミッションの「バリュー」という言葉。英語の「value」は、人の持つ価値観や物の価値、文脈によっては「値引き」など、さまざまな意味やニュアンスが含まれますが、それを指摘したのはメルカリUSのプロジェクトメンバーでした。GOTの解釈は、このような有益な意見や視点を考慮する上で、極めて重要なものでした。
──先ほど、最初の貢献は英語版の文脈やニュアンスのサポートが中心だったとおっしゃいました。そのほかにも、同じような配慮が必要だったのでしょうか?
@emma:間違いないです。例えば、日本語の表現の微妙な違いを英語で伝える、あるいは、結局は同じことを言っているのだから伝えないという選択をすることもあります。日本語版と英語版の原稿ができたあとも、日本語版に修正が入ったからといって、「修正点を英語版にそのまま反映させる」ではなく、「日本語版と英語版を別々に最終確認する」ことにしています。もちろん、ニュアンスは同じにしたいのですが、日本語と英語は根本的に違う言語なので、厳密に近づけようとしすぎると、不自然に聞こえるんです。そのバランスは難しかったですね。
その一方で、プロジェクトチームの全員が英語を理解し、英語版で使いたい単語を理解できるとは限らないという課題もありました。例えば、新ミッションのキーワードのひとつである「unleash」は、英語を母国語としない人には馴染みのない言葉なので、多くの議論や話し合いが行われました。
グループミッションに明確なD&Iのニュアンスを持たせたかった
──グループミッションが公開されましたが、そこから何を感じ取ってほしいですか?また、このプロジェクトの舞台裏に携わった者として、ミッション自体やそのプロセスなど、ほかにも皆さんに知ってほしいことはありますか?
@aya.eth:新しいミッションは、メルカリグループの内部向けのものでもあり、他の人が見るためのものでもあって、考えてみると面白いですね。このミッションは、よりグループ全体を含めた範囲に及ぶように設計したので、この問いに対する「正しい」答えをグループ各社で解釈することができます。一人ひとりが日々の業務を、何らかの形でミッションにつなげられるといいなと考えています。
また、ユーザーや投資家など社外の人からも、この新しいミッションを見て”メルカリは良いことに取り組んでいる “と思ってもらえればと思います。
舞台裏という意味で個人的に面白かったのが、私はパンデミックが始まった頃に入社してずっと遠隔地にいたことです。長い間一緒に仕事をしてきたプロジェクトチームのメンバーとは、つい最近まで一度も会ったことがなかったのです。グループミッションを作る過程も、すべてリモートワークでオンライン上で行われました。他の環境ではどうだったのだろうと思うこともありますが、通訳の話を聞いたり、アンケートで意見を集めたり、そういうことがリモートで簡単にできることはよかったです。
リモートでの仕事には当然ながら課題もありますが、全員が同じ方向を向いて進めることができたので、素晴らしい成果が得られたと思っています。プロジェクトチームのメンバーとして、みんなと議論できたことで、普段の役割とは違うところで一緒に働いている同僚として、お互いを少し身近に感じることができました。
@emma:自分たちのチーム以外の人たちと、実際に会って仕事ができるいい機会だったというのは同意です。私はパンデミックの少し前にメルカリに入社したので、直接会って交流するのが当たり前だったのですが、パンデミック以降はそうもいかなくなったので、そういう意味でも今回のプロジェクトはとてもよい機会になりました。
グループミッションから読み取ってほしいのは、「すべての」人の可能性を引き出すことに重点を置いていることです。D&Iのニュアンスを明確にし、居住地や社会的地位などに関係なく、世界中のすべての人に当てはまるようなミッションにしたかったんです。それは、信太郎が世界を旅していること、そもそもメルカリを作ろうと思ったきっかけにもつながっていると思います。あまり目立たないかもしれませんが、私たちが一生懸命ミッションに盛り込んだことでもあるので、それが伝わればいいなと思っています。
──本当に勉強になるお話でした。お二人とも、ありがとうございました!
最終回となる第3回は、メルカリのコードをゼロから書き直す野心的プロジェクト「Ground Up」でのGOTのサポートを紹介します!