いま、メルカリグループでは、「HR領域」と「Recommerce領域」で新規事業が動きだそうとしています。メルカリでは、これまでに多くの新規事業を立ち上げてきましたが、なぜいまこのタイミングで新規事業が同時期に立ち上がることになったのでしょうか?
HR領域新規事業の責任者である太田麻未(@asami)とRecommerce領域新規事業の責任者である與田祐樹(@yoooda)の対談を通じ、2つの事業の特徴やグループミッションとの結びつき、新たな挑戦の意義や未来への展望を探ってみました。
この記事に登場する人
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太田麻未(Asami Ota)執行役員 VP of Work。早稲田大学理工学部卒業。新卒で楽天株式会社に入社し、楽天市場や楽天EdyのエンジニアやPMを経験。その後、株式会社リクルートライフスタイルに就職し、ID決済事業の事業立ち上げを経験。2015年にEmotion Intelligence株式会社に営業として入社。2016年に同社の代表取締役CEOに就任。2019年に台湾本社のAppier.incに会社を売却。2020年にSHOWROOM株式会社にて新規事業立ち上げ後、2021年株式会社メルカリ経営戦略チームに参画。2022年7月株式会社ソウゾウにてCOO、2023年7月より現職。インド映画とフレンチブルドッグをこよなく愛する。 -
與田祐樹(Yuki Yoda)ディレクター Head of Recommerce。青山学院国際政治経済学部卒業。大手印刷会社系列のITベンチャーを経て、2011年にグリー株式会社入社。ソーシャルゲームやスマホゲームの開発マネジメントやプランニングを担当。2015年に株式会社ファーストリテイリングへ入社し、PMとしてユニクロアプリやジーユーオンラインストアの開発を担当。2018年2月に株式会社メルカリ入社し、US版/JP版メルカリにてProduct divisionのマネージャーを担当。その後、メルカリ経営戦略チームに参画。2023年7月より現職。
メルカリが持つバリューやソリューションを、外部へ展開していきたい
――まずはお二人がこれまでメルカリで携わってきた仕事について、そこから今回のプロジェクトに携わることになった経緯について教えてください。
@asami:私は2021年の5月に入社をしまして、最初はメルカリの経営戦略室でグループ全体のロードマップの策定や、取締役会の事務局で各種経営会議のファシリテーション、各種バージョンアップに向けての諸々の業務を担当していました。約1年後に『メルカリShops』を運営するソウゾウに異動になり、コーポレート領域やビジネス領域、マーチャント、CSやBizDev全般で体制変更やディレクションなどを監修しました。
今回の新規事業については、今年に入ってからNaokiさん(上級執行役員 SVP of Japan Region 青柳直樹)から草案のお話しをいただいたのですが、最初はそこまでピンと来なかったんです。私自身、HR領域に関してはこれまで全く経験がないので、最初は「私ですか!?」みたいな感想でした(笑)。けれど、いろいろ話を聞いていくうちに「これはメルカリと親和性が高いし面白そう!」と思って引き受けました。そこからはプランニングの準備をして、3月には経営会議で承認を取って、4月からチーム化、そしていままさに事業の立ち上げに向けてチームを強化している状況です。
太田麻未(@asami)
@yoooda:僕は2018年に入社して、最初USのプロジェクトマネージャーとして購入系のUX向上を担当して、その1年半後に日本でも購入系のプロダクトマネジメントを務めました。メルペイスマート払いが立ち上がるときにはUXをどう統合してべきか、多くの事業的なタスクが重なりカオス状態だったので、それをほぐしながら体験として落とし込んでいくことをしていました。
それと並行して、メルカリ外の体験をもっと良いものとしていくために、越境事業に携わったり、『メルカリShops』の原型となるBizリスティングのプロダクトマネージャーとしてリードしたりしていました。そのときにPublic APIという形で、メルカリの外でもメルカリのソリューションや基本的価値を使えるような世界観がつくっていけると面白くなりそうだなと思ったんですね。
その後、asamiさんの後任という形で経営戦略室に異動し、ロードマップの議論をリードしていました。その議論の中で、進太郎さん(代表取締役 CEO 山田進太郎)が一次流通との連携はどのように進んでいるのかを気にされていて。結果的にNaokiさんに声をかけられる形で、一次流通連携を行う今回のプロジェクトが立ち上がりました。
グループミッションを拡張させる2つの新規事業
――お話しできる範囲でそれぞれが検討している事業について、そしてこのタイミングに新規事業として立ち上げられた経緯を教えてください。
@asami:今年、メルカリのグループミッション「あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる(Circulate all forms of value to unleash the potential in all people)」が新たに策定されましたが、フリマアプリのメルカリが「物を価値に変えてく」だとしたら、今回のHR領域新規事業(以下、HR事業)は「時間やスキルを価値に変えていく」サービスにしていければと考えています。
この事業の元となるアイディア自体は私が入社する以前に、社内ビジネスコンテストで出てきたアイデアでした。しかし、市場としてある程度でき上がっていないと参入する意味がなく、しばらく立ち消えていました。
それが昨今、日本の労働力不足の課題だったり、副業ニーズの高まりなどの背景によって、マーケットが盛り上がるタイミングにきていると感じます。また、メルカリが持つペイメント事業との掛け合わせることで新しい体験が作れるのではないかと思っています。メルカリが多くの人に愛されているサービスであるように、今回の新規事業も多くの人に愛されるサービスになり、労働力不足の課題や人々のニーズに答えていけるものにできるといいなと思っています。
@yoooda:Recommerce領域新規事業(以下、Recommerce事業)については、メルカリが既に持っている匿名配送やエスクロー、マッチングの技術などがあるので、それらを活かすことで一次流通ビジネスでできていなかった二次流通化に対して大きな価値をもたらせるのではないかと考えています。二次流通というのは、一次流通があるから存在することができるものですし、そこの繋ぎ込みを滑らかにすることによって、より価値が巡りやすくなるはずです。
メルカリが元々持っていた二次流通独自の取引ノウハウと、一次流通ビジネスが持っている購入履歴やカタログデータの要素をうまく組み合わせて、もう一回一次流通の視点から二次流通を解釈し直しています。メルカリとは違う、新たな二次流通の取引体験を作れるのではないかという手応えがすでにありますね。
與田祐樹(@yoooda)
「安心・安全」「かんたん」をこれまで以上に突き詰めていく
――「メルカリらしさ」というお話が出てきましたが、お二人はメルカリらしさをどう捉えていますか?
@asami:HR事業の場合、「メルカリらしさを意識していこう」という話はよくしています。フリマアプリ「メルカリ」がここまで大きくなれたのは、やっぱり「安心・安全」と「かんたん」を突き詰めてきたからで、これこそがメルカリらしさだと私は思っています。
HR事業も、さまざまな属性・生活スタイルの方に向けて事業を展開したいですし、「どれだけ気軽にサービスを使ってもらうか」「何度も繰り返し使いたくなるサービスにするには」を突き詰めていきたい。この事業に関わるすべての人にとっての「安心・安全」と「かんたん」を突き詰めることで、「他社よりもやっぱりメルカリを選びたいね」と言ってもらえるようにしたいです。
@yoooda:僕は仕組みと知恵を上手く使って、現実の問題にいかに立ち向かうかがメルカリらしさだと思っています。テックカンパニーというのをしっかり意識した上で、世の中にとって価値あるソリューションやバリューを出せるかチャレンジすることを目指していきたいですね。
――サービスプロダクトを新しく作ることもそうですが、良いチームや組織を新たに作るということも、同じくらいチャレンジングだと思うのですが、現状いかがですか?
@asami:私はスタートアップの経営経験もあるのですが、その時に比べるとメルカリはすでに十分な知名度もあるし、お客さまもたくさんいる、言ってみればアドバンテージしかない状況で、新たな挑戦をさせてもらえるのはとても恵まれていると思います。メンバーはまだ少ないですが、すごく優秀でワクワクするような人が揃っているので、チームのコンディションもいいですし、初期メンバーがいいからこそ「絶対いいチームが作れる」と根拠のない自信を持っています(笑)。これから入ってくる方にも胸を張って「めちゃくちゃいい環境なんで、飛び込んできてください!」と言えます。
@yoooda:メンバーのバックグラウンドはさまざまですが、目標に真摯に向き合うメンバーしかいませんし、やりがいしかないチームだと思っています。この目標というのは「形になってないものを形にする」と「次の循環型社会の生活様式に向けて、いかに自分たちでアップデートできるか」です。
チームで仕事をする中で、「こんなにシンプルで、こんなに新しい体験を作れる余地があるんだ!」と、毎週のように新たな発見をしてはメンバーみんなで興奮しています(笑)。
社会的機運の醸成は大きな課題であり、超えるべき壁
――今回の2つの新規事業は、お客さまにどんな価値を提供していくのか、改めて伺えますか?
@yoooda:一次流通それ自体を循環型にしていくことを考えているので、グループミッションでいうと前半部分の「あらゆる価値を循環させ」にフォーカスされたビジネスだと思っています。理想は「ほしいものをただ買っているだけでモノが循環するような仕組み」にアップデートしていくことです。ECでの買い物をいままで通り続けていれば、いつの間にか循環させている状態。シンプリファイズすることで、いろいろな価値が巡る状態を実現できると思っています。
@asami:例えば「来週旅行に行きたいけど実は手元に旅行費用がない」とか「たまたま明日の予定が空いてしまったし、無駄な時間過ごすぐらいだったら何かしたい」といったときに、「時間やスキルを価値に変えていく」手段をライトに提供できるということに可能性を感じているし、それはいままででの「時間の使い方」に新しい選択を増やすものになる思うんです。
そういう新しい選択肢を提供することで、さまざまなバックグラウンドを持つ人たちが関わり合い、私たちが思ってもみなかったような理由で使いはじめられたり、全然違うところで新しい価値が発揮されたり、そういう化学反応が起きてくると面白いですよね。それこそがメルカリが考えるグループミッションを体現しているというか。
――目下、感じている課題などがあればお聞きしたいです。
@yoooda:「一次流通ビジネスがいかに本気で循環型社会に向き合うか」という機運に関しては、アメリカやヨーロッパに比べると日本ではまだ大きな伸びしろがあると感じており、この機運をいかに醸成するかは課題だと思っています。また、ヨーロッパやアメリカの二次流通の市場規模やマーケットの状態は日本と異なります。その差分をいかに捉えられるかは難しい部分ですね。
@asami:HRの領域は法律も古い慣習に合わせたものが多くあるので、リーガルや労務を潜り抜けながら、新しい体験を作るのは難易度が高いと思っています。また、事業としてはBとCのどちらもバランス良く推進していく必要があり、プロダクト側と営業側が両輪となって業務を進めなくてはならないというのも課題ですね。営業組織も新規に立ち上げていく予定ですが、チャレンジすべきポイントがたくさんありますね。
――では最後に未来への展望、あるいは野望を聞いてインタビュー締めたいと思います。
@yoooda:「EC化率」という言葉があると思うのですが、僕らは「RC(Recommerce)化率」をいかに高められるかを考えていて。日本だったらEC化率は10%を超えてきて、20%が見えてきた状況ですが、RC化率も10〜20%になってくると市場としてもすごく大きいですし、生活様式を変えていけると思うので、いかにそこに早くたどり着けるかにチャレンジしたいです。
また、5年後や10年後の話をすると、世界中で使われるプラットフォームに成長させていきたいですね。このソリューションや価値を縦にも横にも広げていき、自然と買い物と二次流通が紐づいている状態を作りたいです。
@asami:スモールビジネスではなくて、マーケットプレイス、Fintechに続くようなサービスになりたいと考えています。単体ビジネスとしてのグロースを目指すのではなく、グループのアセットを使ってシナジーを作っていくことで、他のサービスにはない体験を作っていけると考えています。それによって「あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる」というグループミッションを体現していくことができると思うんです。ここがやっぱり一番大事なところで、メルカリグループとして、新たな領域にチャレンジしていく意味であり意義です。
フリマアプリの立ち上がりのときは、オンラインで不要品を売り買いすることはまだまだ一般的ではななかったけれど、今ではリセールを前提にモノを買うことが全く珍しいことではなくなっています。このHR事業でも、多くの人にとって「当たり前になっていない」ことに対して、私たちがサービスを通して新しい価値観や新しいアクションを生み出していけたら、すごく面白い世界になっていくと思っています。