いま、メルカリグループでは、「HR領域」と「Recommerce領域」で新規事業が動きだそうとしています。
これまでに事業責任者の対談や各チームへのインタビューを公開してきましたが、今回はHR領域新規事業(以下、HR事業)の田中宏明(@napoli)と、Recommerce領域新規事業(以下、Recommerce事業)の髙橋祐記(@ukitaka)、ふたりのEngineering Headによる対談を実施しました。メルカリが持つ巨大アセットをどのように活用し、新たな事業をつくっていこうと考えているのか聞いてみました。
この記事に登場する人
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田中宏明(Hiroaki Tanaka)HR領域のエンジニアリングマネージャー。ソフトウェアエンジニアとしてモバイルサイト開発会社に新卒入社。いくつかの企業を経て2010年に起業。代表としてソーシャルゲーム開発/運営に従事。その後2017年にソウゾウに参加。ソウゾウ参加後はメルカリメゾンズ、メルカリNOWなどの開発に関わり、2019年にメルペイに異動。メルペイネット決済の立ち上げを行い、2021年に現ソウゾウに参加。メルカリ Shopsなどの開発に携わる。 -
髙橋祐記(Yuki Takahashi)2014年に新卒でDeNAに入社し、趣味が高じて複数のアイドル関連サービスの開発に携わる。2016年にLINE Fukuoka入社に伴い福岡に移住したのち、メルカリの福岡開発拠点立ち上げと同時にメルカリに入社。現在はRecommerce領域のエンジニアリングマネージャーとして新規事業立ち上げを行っている。
「巨大アセット」を活用するメルカリの新規事業は、エンジニアにとって胸熱な環境
――まずはそれぞれの新規事業について、なぜこのタイミングで立ち上げることになったのでしょうか?そこで、Engineering Headとして果たすべき役割も併せて教えてください。
@napoli:HR事業は、メルカリグループの新たなミッションである「あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる(Circulate all forms of value to unleash the potential in all people)」と非常に密接に結びついています。この新規事業は、人々のスキルや時間を循環させることを目指していて、これまでメルペイとメルカリで培ってきた実績やお客さまデータという巨大アセットを組み合わせていくことで、いままで思いもしなかったような新たな価値を生み出す可能性を秘めています。
巨大アセットを活用するとは言え、メルカリの中ではスタートアップのような存在です。メルカリグループの技術的な資産を使いつつ、いかに素早くサービスを立ち上げていくことが、Engineering Headとして果たすべき役割だと思っています。
田中宏明(@napoli)
@ukitaka:Recommerce事業は、一次流通ビジネスと私たちが既に持っている匿名配送やエスクロー、マッチングの技術などを活かして、新しいお買い物体験・サービスをつくろうという新規事業です。
この事業は、一次流通ビジネスの課題解決に大きく寄与できると思っています。これからは、サステナブルに事業に取り組まないと企業としての存在意義が問われる時代です。しかし、自分たちでの二次流通の仕組みをつくることは難しいという悩みもあったと思います。そこでお互いに手を取り合うことで、レバレッジが効いた新たな価値が生み出せると考えました。
目下の課題は、欧米にはすでにRecommerceの事業者がいますが、日本にはまだ市場がないということです。メルカリという巨大な二次流通プラットフォームとの差別化をしながら、新たなサービスを作っていくのが難しいですね。言ってみれば正解がまだない状態なので、Engineering Headとしてはプロダクトをただ作るだけでなく、どうやったらこの領域で成功事例をつくれるのかが求められていると感じます。
髙橋祐記(@ukitaka)
@napoli:巨大アセットの話でいうと、メルカリで使われている基盤やデータを活用できるのはもちろんですが、働く環境もある意味アセットだと思っています。例えば、新規事業をスタートアップでやるとなるとゼロからの手探りです。それはそれでもちろん面白いところでもありますが、メルカリは日本でも有数のレベルの高いエンジニアが集まる組織です。
プラットフォームやアーキテクト、ネットワークに強いエンジニアたちと意見を交わしながら、システムを作っていくことができる。そのうえスタートアップ的なスピード感で新しい事業を作ることができるのは、エンジニアにとって胸熱な環境と言って良いと思います。自分がメルカリに入社した動機も、働き続けている理由も、周りにいるレベルの高いエンジニアたちから得られるものが大きいからです。
@ukitaka:Recommerce事業の観点だと、メルカリ側から一次流通ビジネスに対して提供できる二次流通の膨大な市場データがあり、これは間違いなく巨大アセットといえます。「この商品は二次流通市場でこれくらいの価格で売れる」といった情報は、一次流通ビジネスがリコマースを始める時に、参考データとして活用できるのではないかと思います。
また、メルカリのお客さまは中古品の購入に関心がある方々という意味では、一次流通ビジネスにとっての新たなアセットになり得るでしょう。一次流通ビジネスとメルカリとの連携を上手く創出できれば、お客さまに「新しいお買い物体験」を提供することができるのではないかと考えています。
――「新しいお買い物体験」というのはどのようなイメージなのでしょうか?
@ukitaka:先ほどもお話ししたとおり、Recommerceという領域自体が一般的に馴染みがないので、私たちもどうアプローチをするのが最も有効なのか探っている段階ではあります。イメージしているのは、お客さま自身はあくまで普通の消費行動、お買い物をしているだけで、結果的に循環型社会に貢献している、サステナブルな行動になっている状態を理想としています。
――では、HR事業ではどんな新しい体験を提供できそうですか?
@napoli:「時間やスキルを価値に変えていく」手段をライトに提供できると考えています。私たちが挑戦しようとしているのは、「時間の使い方」に新しい選択肢を増やすことです。
例えば「来週旅行に行きたいけど実は手元に旅行費用がない」とか「たまたま明日の予定が空いてしまったし、無駄な時間過ごすぐらいだったら何かしたい」といったときに、現状はさまざまな準備やステップを踏んでいましたが、私たちがこれからつくろうとしているサービスを使えば「安心・安全」と「かんたん」に時間やスキルを価値に変えていけるようにしていきたい。
あと、個人的な妄想なんですけど、新しい「時間の使い方」によって、いろいろな人脈が繋がり、コミュニティが生まれていくといいなと思っています。自分が持っている時間とスキルを生かした対価が得られて、ネットワークも広がる…そういう価値を生み出せたら最高だなと思っています。
法律や労務、競合との差別化…それぞれ事業の難しさ
――それぞれ新規事業の立ち上げに奮闘してるEngineering Headとして、お互いに聞いてみたいことはありますか?
@ukitaka:HR事業はどのあたりが難しいポイントになってくるのかは聞いてみたいですね!
@napoli:一番難しいと感じているのは、レガシーな領域なので法律も古い慣習に合わせたものが多く、どう折り合いをつけてプロジェクトを進めるかですかね。
エンジニアリング観点だと、より多くの事業者に使ってもらえるサービスをつくることが重要です。それは事業の業態だけでなく、事業の規模なども鑑みなくてはなりません。さまざまな労務面での管理の難しさをクリアしていかなくてはならないので、より使いやすくより管理しやすいサービスを作っていくのはチャレンジングなところです。また、全体的には権限管理も重要になってくると思います。現状、メルペイで行っている権限管理の仕組みよりも、インテリジェンスなものを作る必要があるでしょう。
私からも同じようにうかがいたいのですが、Recommerce事業における難しいポイントはどんなところですか?
@ukitaka:私たちの場合は先行事例がないので、そもそもどういう事業にしていくのか、そしてメルカリとどう差別化するかが難しさですね。加えて一次流通ビジネス、商品の所有者など、ステークホルダーが多い事業なので、全員がWin-Winになるようバランスを取りながら、体験をつくるという難しさもあります。
@napoli:個人的な話ですけど、エンジニアとしてはそういう状況のときに、まず動くものを作りたくなってしまうものだと思うんですけど、ukitakaさんはどうしているんですか?
@ukitaka:確かに動くものができるとテンションが上がりますし、体験としても解像度が上がる部分はありますよね。ただ、今回の事業に関しては、日本での成功事例もまだなく不確実性が高いなかでどのようにプロダクトに落とし込むかを探っていく必要があり、このプロダクトを通してどんな価値提供ができるのかを考え、小さく仮説検証を繰り返しながら進めることが重要だと考えています。
動くものを作ることはいろんな観点で有用ではあるんですが、作ること自体が目的になってしまうといわゆる「ビルドトラップ」と呼ばれる現象に陥りがちなので、そこには気をつけながら開発を進めています。 いずれにしても、チームにエンジニアがまだ少ないという事情もあり、いかにつくらずにビジネスを検証するかを考えることを優先しています。これが本当に難しいですね(笑)。
新しいものをつくり、社会に意義あるインパクトをもたらしたい
――では、最後の質問です。いまこのタイミングで新規事業に関わることについて、特にエンジニア観点ではどういうチャンスがありそうですか?
@napoli:自分のように「何か新しいものをつくりたい」という人には間違いなくそれだけでチャンスだと思っています。自分が作ったプロダクトで世の中を良くしていきたい場合に、選択肢は大きく2つです。1つは自分でゼロからつくるか、もう1つは基盤のある組織の中でつくっていくか、です。もちろん私たちの事業は後者になりますが、変化の激しいメルカリにおいてもこんなチャンスはなかなか巡ってきません。しかも、ある程度基盤のしっかりした組織で挑戦する方が、前者よりも事業成功の確率は高い。新しいものをつくりたい、かつ社会に何か意義のあるインパクトをもたらしたい人にとっては、本当にいいチャンスだと思っていますね。
@ukitaka:どういう体験をつくっていくべきか、まだ侃々諤々の議論しているので、自分が本当に最高だと思うサービスを提案して、その意志決定にも携われるのは稀有なチャンスだと思います。
メルカリには出品者がおよそ2700万人いて、今回のRecommerce事業で狙っている見込み層が3300万人というデータがあり、この事業によって二次流通の規模を2倍にするぐらいの大きなインパクトが残せる仕事だと思っています。つまり、自分でやりたいことを決められるし、大きな成果を残せる可能性もあるということです。
また、メルカリの素晴らしいプラットフォームやファンデーション、それを支えるエンジニアたちの知識もうまく吸収しながら、新規事業にチャレンジできる機会はなかなかないと思っています。大きな会社になればなるほど、ロールがかっちりしていて、自分のやるべきことが決まってしまいがちですよね。やらなくていいことをせずに済み、自分の仕事に集中できるという見方もできますが、ある意味「手出しできない部分が増える」というもどかしさもあると思うんです。
そういったモヤモヤを抱えている人にとっては、私たちのチームはめちゃくちゃ良い環境だと思います。作るもの自体から決めて良いので、チャレンジしがいがある。お客さまに新しい価値を届けることにフォーカスして、ものづくりをしたい人とぜひ一緒に事業をつくっていきたいですね!