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「説明できない格差」を埋めてより良い社会にしていきたい──男女間賃金格差に対する、メルカリが考える是正アクション

2023-11-20

「説明できない格差」を埋めてより良い社会にしていきたい──男女間賃金格差に対する、メルカリが考える是正アクション

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2022年7月に女性の活躍に関する情報公表項目として「男女の賃金の差異」が追加され、常用労働者301人以上の大企業に対して情報公開が義務化されたのは記憶に新しいと思います。

メルカリでは、組織内の男性と女性の平均賃金の差のみを示す「男女間賃金格差」のほか、より状況を正確に把握するために、役割・等級や職種などによる差に起因しない「説明できない格差(unexplained pay gap)」の算出も行いました。その結果、男女間賃金格差は37.5%、「説明できない格差」が7%あることがわかりました。

このギャップを解消するための是正アクションに関わったメンバーに、課題の特定、分析、アクションとその結果、今後の改善などを赤裸々に語ってもらいました。いまここにある格差はメルカリ1社の問題ではなく、社会全体に横たわる課題であり、私たちの取り組みがなんらかのヒントになれば幸いです。

この記事に登場する人


  • Amy Burke

    National University of Ireland, Galwayの文学・社会科学・ケルト学部を卒業し、日本の香川県で3年間JET Programに参加。日本で働いているnon-japaneseのサポートに関心を持って、人事領域に転職。現在はI&D Teamにて国籍だけでなく、あらゆる人に対してよりfairでinclusiveな働く環境を作ることに尽力している。


  • 諏訪ひと美(Hitomi Suwa)

    東京大学文学部で社会心理学を専攻し、卒業後デジタルマーケティング支援会社に入社しSEOアナリストを担当。データ活用支援事業のBtoBマーケターを経て、データアナリストとしてメルカリへ入社。入社後はProduct Analyticsチームにて、Web版メルカリや検索機能の分析を担当。現在は人事のデータ分析部門にて人的資本の分析や人事データ基盤の整備を行なっている。

属性を理由とした機会の不平等がないか?

――まず、男女間賃金格差を是正する取り組みがスタートした経緯からうかがいたいと思います。

@Eimi:2022年7月に女性の活躍に関する情報公表項目として「男女の賃金の差異」が追加され、情報公開が義務化されたことがきっかけです。同じ年に、ジェンダー平等に関するグローバル認証「EDGE Assess(エッジ・アセス)」を取得したのですが、その際に「定期的にpay equityをモニタリングするメカニズムがあると良い」という指摘がありました。pay equityとは、同等の仕事には同等の賃金を支払うという考え方です。

そのため政府が定めた項目より一歩踏みこんで、データを通じて単純な平均差だけではなく、pay equityをモニタリングできるような施策に取り組むことにしました。その背景としては「あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる(Circulate all forms of value to unleash the potential in all people)」というメルカリのグループミッションにもあるように、あらゆるバックグラウンドを持つメンバーが活躍できることが重要だからです。属性を理由とした機会の不平等がないか、Employee Journeyの段階をデータで可視化し、アクションにつなげていく必要があると考えました。

Amy Burke(@Eimi)

――具体的には、どのような方針のもと取り組みをはじめたのでしょうか?

@Eimi:2022年12月頃にはじめて社内で最初の重回帰分析(統計学のデータ解析手法のひとつ)を行いました。結果を踏まえて、アクションはどうすれば良いか考えることにしたのですが、社員が入社する時点で、すでに男女賃金格差があることがわかったので、また、EDGEが提供しているベストプラクティスを参考にしながら、採用現場などのステークホルダーにヒアリングを行って、原因を洗い出していきました。

プロジェクトのメンバーは、分析チーム、評価報酬チーム、Payrollチーム、採用チーム、I&Dチームと多岐にわたります。各チームと連携し、データとアクションプランをまとめて、経営会議に持ち込んだのは2023年の3月で、最終合意を得たのは4月末です。アクションを決めるためのプロセスには2ヶ月ぐらいかかりました。その後は、実行と情報開示に向けて、改めて最新のデータで重回帰分析を実施し、賃金調整のための計算などの準備に取りかかりました。

「報酬」の定義の幅が広く、かつ複数のチームにデータが分散していた

――では、実際にどのようにして分析を進めたのでしょうか?

@suwachan:最初に前任の担当者が重回帰分析を行い、ある程度の傾向をつかんだ後に、開示に向けた分析と是正のための分析を進めていきました。

開示に向けた分析に関しては、まず実給与を決める要素を洗い出していきました。その中で、プライバシー観点などにも考慮して分析に使う妥当性があるものを選定し、各チームに依頼してデータを取得し、やっと重回帰分析までたどり着きました。

是正のための分析としては、階層ベイズモデル(推定するパラメータの確率分布を階層的に設定する統計モデル)という手法を使いました。重回帰分析では全体平均的な補正値しか出せませんが、階層ベイズモデルではグループ差や個人差を考慮できるので、個別に給与補正を行う上では適していると判断しました。このプロジェクトでは、ベイズに専門性のあるデータサイエンティストの方にもご協力いただくことができ、この分析を実現させることができました。

諏訪ひと美(@suwachan)

――分析が難しかったポイントはどこにありましたか?

@Eimi:Suwachanさんに分析をお願いする際に、分析範囲と報酬などの各項目の定義をしっかり整えていなかったことが反省点です。「報酬」における定義の幅はかなり広く、多角的に判断する必要がありました。例えば、通常のストックオプションは報酬に含まれますが、リファラルフィーやその他の手当の扱いについては分析対象になるかどうか、などです。初めての取り組みだったこともあり、どういった定義や条件が必要か理解できていなかったし、想定外の要素もありました。そういう意味では学ぶことがとても多いプロジェクトでしたね。

@suwachan:Eimiさんがおっしゃるように定義を固めていくのが大変でした。政府の定義では、福利厚生費やストックオプションなどの扱いについては明記されていないので、今回のGender Pay Gap分析のそもそもの目的と照らし合わせ、会計観点や労務観点なども取り入れながら検討していきました。

また、数年以上前のオファー年収や評価データなど、取得が難しいデータも多く、かつ複数のチームにデータが分散しているので、取得・統合して処理するのが大変でした。

さらに、データが取れる・取れないに関わらず、プライバシー観点も考慮すべきポイントのひとつでした。例えば学歴やケア責任などのデータは、「賃金格差に影響を与えているのではないか」という仮説があっても、都度分析に使うべきかの判断が必要となるのも難しさのひとつでした。

「説明できない格差」は7%。そこでメルカリとして取ったアクションは?

――分析の結果について教えてください。

@suwachan:まず、Raw Pay Gapと呼ばれる男女の賃金の単純平均の格差が37.5%あることが分かりました。男性の賃金が平均100円だった場合、女性の平均賃金は62.5円というような結果です。これは賃金の高いグレードや職種に男性が多いことが理由と見られます。ここまでが政府が開示を義務化した範囲となります。

そして、pay equityに関する分析として、重回帰分析を行ないました。その結果、「説明できない格差」が7%あることがわかりました。

―― 「説明できない格差」とはどういうことなのでしょうか?

@suwachan:同じ属性・パフォーマンスだとしても、男女間で賃金格差が存在しているという意味です。重回帰分析では、属性やパフォーマンスを変数に入れることによって、その影響を統制(コントロール)することができます。職種やグレードの影響をできる限りなくしたとしても、女性の方が男性よりも平均的に7%賃金が低かったんです。この差がどこから生まれたのかを、さらに分析してみた結果、オファー年収の差が原因だと判明したんです。

出典:FY2023.6 Impact Report

――分析結果からどのようなアクションに移していったのでしょうか?

@Eimi:どのようなアクションを取るかは、いろいろな側面からリサーチしました。他社はどのようなアクションを取っているか、それがどのような結果につながっているかを参考にさせてもらいました。グローバル企業は、Gender Pay Gapを発見した場合は報酬調整で是正する会社も少なくはありません。前職給与を参考にしないのがよく取られていた方法ですし、ベストプラクティスと言えると思います。

また、外部コンサルタントにも相談して、海外でのアクションの傾向についても聞きました。例えば、ヨーロッパでは「説明できない格差」が5%を超える場合には、労働者代表と共同で検証や是正措置等の実施を求めることがあります。加えて、EDGEにも改めて相談しました。社内のコミュニケーションについてblueprintも提供しているので、それも参考にしています。

@suwachan:個人ごとの是正金額決定プロセスですが、前述の階層ベイズモデルという統計手法を用いて個人別の昇給額レコメンドデータを作成し、それを参考材料としながら、通常の昇給プロセス同様個別調整を行っています。

この算出をもとに、役割・等級や職種などの差に起因しない「説明できない格差」を解消するための報酬調整を2023年8月に実施しました。結果、説明できない格差を7%から2.5%まで縮小することができました。

@Eimi:今後、短期的には性別のみを理由とした「説明できない格差」がない状態を目指していきます。重回帰分析を使用した半年に一度の定期的な賃金格差のモニタリングを導入し、「説明できない格差」が±1%以上存在する場合は是正措置を検討します。

また、組織外からの賃金格差を引き継がないための採用プラクティスの見直しなど、継続的な取り組みを実施していきます。

社会的意義は大きいからこそ、パーフェクトな解決策は存在しない

――このプロジェクトは国内企業においては、まだ前例が少ない取り組みのため、社会的な背景や原因をすぐに理解しやすいものではないと感じます。社内でのコミュニケーションをどのように行っていったのでしょうか?

@Eimi:男女間賃金格差の開示は、メルカリとして初めての取り組みですし、国内においては前例も少ないので、やはり適切なコミュニケーションの方法を探ることが重要でした。

「男女の賃金の差異」の開示義務化されたことにより、2023年9月に社外開示することは企業の責任として決まっていたことなので、それを社内にどう伝えて、理解を促すためにどうコミュニケーションしていくかは難しいテーマです。

最終的には経営陣との議論の結果、メルカリの大事なファンデーションである「Trust and Openness」をもとに、メンバーにもきちんと背景とアクションを共有することがメルカリらしい進め方だという判断にいたりました。

2023年7月の全社集会で経営リーダーから、国内事業所属のメンバーへ男女間賃金格差の分析結果と是正アクションについて共有し、その場で質疑応答を行いました。また、メンバーからマネジャーへ質問が投げかけられることも想定されたので、マネジャーの方たちとのコミュニケーションも大切にしました。全社発表前に、マネジャー報酬制度の定期的な説明会で方針について説明して、質疑応答を行いました。そこでのフィードバックも取り入れて、全社発表会に臨みました。

――Gender Pay Gapへの分析や是正は全社的な取り組みになるので、どこの企業でも即座に実行できるものではないかもしれませんが、今回のプロジェクトで得た知見やアドバイスなどがあればうかがいたいです。

@Eimi:そうですね。やはり、会社によって原因・背景が違うので、他社のプラクティスとリサーチを参考にしながら自分の会社と適切な施策を組むことでしょうか。

一気に方針を実施することが難しければ、いますぐできることをデータのファクトベースで決めて、step by stepで取り組む方が安心ですし、周囲からの理解や協力も得られやすいのではないでしょうか。パーフェクトな解決策はおそらく存在しないし、D&Iの領域は社会の変化とともに進歩していくので、いま全部の答えを持つ必要はないと思います。

@suwachan:今回プロジェクトに参加して改めて感じたのが、男女賃金格差は「性別問わずフェアな制度を敷いて運用している」という意志と関係なく起こってしまうことがあるということです。

また、どこの企業でもおそらく連携する部署が多く、算出は苦労すると思いますが、社会的な意義は大きなものです。どのチームがどんなデータを持っているかわからず右往左往したり、議論を経て定義が何度も変わっていったり…と、確固たる答えがある領域ではないので、目的や自社の特性を踏まえて検討できると良いと思います。コンサルティング会社のサービスや政府が公開している計算式などもあるので、まずはできるところから試してみてほしいですね。

@Eimi:私たちも初めての取り組みだったので、いろいろ不明なことがありました。特に分析に関しては、分析の条件や情報を事前に準備しないといけないことが多かったです。

データの結果だけではなく、コミュニケーションする際にデータをわかりやすく説明できるか、どのようなイメージで可視化するとすぐ伝わるか、プロジェクトメンバーとしっかり決めることも大事ですよね。お互いしっかりしたコミュニケーションを取ってきたことで、解決の道が見つかって良かったです。

@suwachan:社会的意義の大きいプロジェクトに関わることができて光栄に思います。これまで道筋を作ってきてくれた関係者の方に感謝しています。「男女賃金格差の開示義務」という大義名分はありましたが、プロジェクトメンバーの意識は開示することが目的ではなく、「意図的ではないにせよ生まれてしまった格差」を埋めてより良い社会にしていきたいというところにありました。メルカリとしてもそこにアクションを起こして、一つの提言ができたのが本当に良かったと思います。

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