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新しい与信の仕組み、信用をデザインするメルペイの与信事業の挑戦

2023-12-14

新しい与信の仕組み、信用をデザインするメルペイの与信事業の挑戦

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2019年2月13日に「メルペイ」をリリース後、同年4月に「メルペイあと払い」をローンチし、2022年11月にメルカードの提供がスタートするなど、次々に新しいサービスを展開してきたメルペイ。それは、「信用を創造して、なめらかな社会を創る」をミッションのもと、「新しい与信の仕組みと信用のデザイン」に挑戦してきた歴史でありました。

この「新しい与信の仕組みと信用のデザイン」は、どのようなメンバーが、どのような思想(あるいは哲学)を持ってつくられているのでしょうか?

メルカンでは「私たちはいかにして信用と与信のあり方を変えていくのか」と題して、全5回にわたって与信事業とそれに関わるメンバーをさまざまな角度から探っていきます。連載の第1回では、メルペイの与信事業の現在地について、Credit Business Division Directorの檜山麻衣子(@michael)、与信事業のProduct Managerの五十嵐学(@giga)、メルペイ取締役の信川享介(@nobby)に話を聞きました。

  

この記事に登場する人

  


  • 檜山麻衣子(Maiko Hiyama)

    メルペイ Director of Credit Business。2001年より株式会社ソニーファイナンスインターナショナルにてカスタマサービス/クレジット審査センターの運営/育成担当として従事。2010年からは株式会社リブセンスにてHR系サイトのカスタマーサポート/サクセス/債権回収オペレーションチームのマネジメントを経験し、2019年4月よりメルペイへ入社。不正対策/加盟店審査/債権回収などのオペレーション領域のディレクター経験を経て、現在はおもに与信領域のDirectionに携わる。


  • 五十嵐学(Gaku Igarashi)

    国際決済・反マネロンなどの金融系エンジニア、テック/経営コンサル、クラウド会計事業者を経て、メルペイ入社。大手クレジットカード会社の大規模システム統合の推進経験を活かし、メルペイでは、与信事業のProduct Managerとして、過去の負債解消と新たな信用創造に取り組んでいる。


  • 信川享介(kyosuke Nobukawa)

    メルペイ取締役。2002年4月に三井住友カード株式会社入社以来、16年に渡り信用事業、データ分析、リスク管理業務に従事。2019年9月メルペイに参画後は、Credit Designにおいての「信用」の企画、リスク管理業務において専門性を発揮。2020年5月より現職。

ようやく決済手段のラインナップが揃い、土台が整った

――まずは、みなさんの業務と役割について教えてください。

@michael:私はメルペイのCredit Business Divisionのディレクターとして、与信事業のグロースと収益にコミットしています。Credit Business Divisionには、Credit Management、Collection Ops、Operational Risk Managementという3つのチームが所属していますが、このDivisionだけでは与信事業全体のエグゼキューションを行うのは難しいため、ProductチームやCorporate Financeチームなど、他のチームと連携し目線を合わせて、全体のプロジェクト進行を加速させていくようなディレクションをしています。

檜山麻衣子(@michael)

@giga:僕はメルペイの中核となる与信事業の根幹となる与信の仕組みと、それに伴う収益性管理のための債権回収に関するプラットフォームを提供する立場として、全体のプロダクトマネジメントをしています。メルペイのミッションである「信用を創造して、なめらかな社会を創る」を体現するべく、新規の事業をつくるだけでなく、既存のアセットを使って、より良い与信の体験を生み出していくことが僕らのチームのミッションだと思っています。

@nobby:私は与信事業のビジネスサイドのマネージャーを務めています。与信事業は、外部から調達したお金をメルペイのお客さまに貸して、それを回収して利益を上げていく金融ビジネスです。このビジネスをサステナブルに回し、パフォーマンスを上げるべく、PLやBSをチェックし、事業計画を立てて、何か問題がある場合は改善策を立案して会社全体で改善を図っていく役割を担っています。また、我々はさまざまなパートナー企業があって事業が成り立っているので、外部のパートナー企業との渉外も行っています。

――単刀直入にうかがいますが、メルペイの与信事業はいま順調なんでしょうか?

@michael:大きな意味で言うと順調だと思っています。お客さまに与信を提供するための「AI与信」で、「認定包括信用購入あっせん業」の認定を受けて差別化を図りながら、これまでなかなか「信用」という価値を手にできなかったお客さまに対して、私たちはサービスを提供できている。サービスとしては、「メルペイあと払い」「メルペイの定額払い」「メルカード」がローンチされて、お客さまに広く認知されるようになりました。

ただ「回収」領域にはまだまだ成長の余地があると考えています。返済能力のある方に与信を提供するのはもちろんですが、延滞しづらい仕組みづくりや、返済しやすいご案内が十分にできているのかも含めてアップデートを図る必要があります。

また、本来はクレジットカードを持てるはずなのに、私たちが信用を証明できていない場合などを含め、もっとお客さまに寄り添えると感じています。これまでの金融サービス、与信サービスで提供されてこなかった方法論で、いまのお客さまに寄り添ったサービスをつくっていこうと思っています。

@nobby:メルペイカードの発行数が200万枚(2023年12月時点)なので、好調と言って良いと思います。定額払いの残高も成長スピードでみれば業界上位に入るペースです。与信事業の拡大成長に対して、回収率は良くなっており、いっそう返済しやすくする仕組みをつくっていきたいですね。

@giga:モノづくりと体験の観点で言うと、ようやく決済手段としてのラインナップが揃い、土台が整ったフェーズです。一方で、クレジットカードだけで見ると我々は後発組で、国際ブランドの種類や与信の条件では課題があります。メルカリグループをマーケット観点で見たときに、まだシナジーをつくりきれてないところもあるので、これからいろいろ挑戦できる部分ではあると思っています。

五十嵐学(@giga)

信用を創造し、与信自体をデザインする

――この連載では、「信用と与信のあり方」について様々な観点から深掘りしていくことを企画意図としているのですが、まず第1回では全体の大きな概略から聞いていきたいと思います。

@michael:与信事業は「与信」「利用」「返済」の3つの領域のバランスが重要です。与信事業は「与信」を提供したらそれでグロースするというものではなく、あるお客さまの手元に渡った「与信」をお客さまが「決済」という方法で利用する。我々はその利用のバリエーションを拡大したり、利用促進をしていく必要もあります。

そして「返済」という収益をつくっていくためのトリガーがあるので、お客さまが返済しやすいUXにしたり、回収側の効果や効率を上げるための仕組みをつくることで、しっかり収益を上げられるようにすることが大切です。トップラインを「与信」や「利用」で伸ばしていっても、収益を守る手段がなければ、貸し倒れが多くなり事業が立ち行かなくなってしまう。守りだけに偏るのも良くないし、攻めだけに偏るのも良くないので、「与信」「利用」「返済」の3つを同じように大きくしていくことがこのビジネスで大切なことだと捉えています。

――いま、この3つのバランスはどういう状態ですか?

@giga:「利用」と「返済」のバランスがきちんと取れるように、与信をうまく伸ばしている状態ですかね。「メルペイあと払い」をリリースした時代は、事業として拡大するために「与信」の基準を少しだけ低い状態にして、「まずは使ってもらう」ことを意識したグロースマインドでした。

一方で、グロースに傾くとキャッシュフローが回らなくなる課題もあります。すべての資金を自社調達するのであれば、回収が悪化しても自社の成長鈍化で済むかもしれません。しかし、急速な成長を遂げているため、外部からの資金の調達も考慮すると当社としての信用力を持たなければならないという課題が生まれています。結果的に「返済」の能力も他社水準並みに上げていくことが求められてきました。

「利用」についても、まだまだ拡大できる余地はたくさんあります。他社で利用できる額と同等に広げていくなど、もう少しなめらかな利用ができるような世界もあると思っています。

@nobby:「信用を創造して、なめらかな社会を創る」をミッションに掲げており、そもそも与信対象を広げていくことが、メルペイとしてのレゾンデートル(存在意義)だと思っています。

他社で与信を受けにくい人でも、メルカリをご利用いただくことで与信サービスが提供できる可能性はあります。もう一つ大事なのは「返せる与信」。後払いを利用したお客さまが返済に困ることがないように使いすぎを防止できる機能や返済方法のバリエーションを拡張することを通して「返せる」状態を目指したいですね。

信川享介(@nobby)

――では、メルペイらしい信用のデザイン要素はどこにありますか?

@giga:トップラインだけを追い求めると、どうしてもマジョリティーの人たちの利用を伸ばす方向に行きがちです。けれど、他社で延滞してしまったりとか、クレジットヒストリーに傷がついてしまっているとか、日本の信用情報機関にクレジットヒストリーがなくてクレジットカードを作れない日本へ移住したての方など、信用サービスを十分に受けることができない人も多くいらっしゃいます。このような人たちに対して、どこまで手を差し伸べられるのかという金融包摂の要素が大切だと思います。

一方で、常に見直さなければいけないのは収益性です。明らかに貸し倒れの可能性が高いケースに対しては、何らかの方法で手を打たなければなりません。支払余力がない状態になってしまった方に対して、督促業務をがんばるだけでは対処スピードが合わない場合もあるので、「与信」を絞らざるを得ないということもあるでしょう。この辺のコントロールレバーの装置もいざというときに必要です。

これらのバランスをどう取りながら事業を進めるかが、与信自体をデザインするという上では重要だと思っています。

職種に対する期待値はあるが、やりたい仕事は誰がやってもいい

――メルペイの与信事業には、どのような人たちが集まり、どういったビジョンを持って事業をつくっているんでしょうか?

@giga:ビジネスサイド、プロダクトサイド、エンジニアのメンバーが関わっています。特に法令も含めてリスクが高い領域なので、ビジネスサイドのコントロール、特にリスクやリーガル、コンプライアンス、あるいは政策企画とかも含めた関わりが重要です。法令をしっかり理解した上で、AI与信という特殊なライセンスで与信する仕組みをゼロからつくるにはエンジニアリングの力が必要ですし、どういう体験をつくっていくのかを考えるために、その他のプロダクトチームと連携を取る必要もあります。

@michael:与信事業は、一つのディビジョンに紐づく組織単体で完結するものではなく、多様な職種のスペシャリストがが目線を合わせて、「与信」「利用」「返済」の3つを広げていく営みをやらないといけないんです。職種や所属組織を超えた連携が必要になります。

個々の組織やチームの目標がある中で一体となる必要があり、ビジネスユニットとしてのミッションはみんなで目線を合わせるために、「あらゆる人が使えて必ず返せるCredit Productを Unleashする!」をミッションとしています。そうすることで、領域を問わず全てのメンバーのゴールポストとなることを期待しています。

@giga:職種に対する期待値はあれど、役割を閉じる必要はないと思うんですね。自分がやりたいと思ったらやってもいいので、「これはPMがやるべきことだよね」「ここはエンジニアにやってもらわなきゃ」ということがない。一般企業では経営企画の人たちが新規事業を考えたり、ビジネスをどういう方向に導くかを考えますが、別にそれをPMやエンジニアがやってもいいと思うんです。この考え方は、メルペイひいてはメルカリらしさだと感じます。

また、なにか問題が起こりそうなときに、それに気づいてアクションを起こすのは誰でもいい。グリップできる人が全てをグリップできるのが理想ではあるものの、完璧な人間はいないので、いろいろな人たちが有機的に動き、守備範囲を広げることができるのがこの組織の特徴であり強みです。

決済や返済をしやすいUXによって、お客さまと一緒にクレジットヒストリーをつくっていく

――最後に、これから与信事業をどのように拡張していこうと思っていますか?

@michael:第一に「与信サービスの提供範囲を拡大すること」ですね。いきなりたくさんの与信枠を提供することができなかったとしても、お客さまに寄り添って一緒にクレジットヒストリーをつくっていきたいと思っています。

次に「利用」と「返済」に関しては、メルカリ、メルペイ全体でプロダクトのUXに強みがあると思っています。一般的なサービスを参考にするだけではなく、お客さまがどのタイミングで何を見たり、聞いたり、触ったりしているかを分析して、決済や返済をしやすいメルカリ・メルペイオリジナルのUXにするかが重要だと思っています。

加えて調達ですね。私たちのサービスはグロースにあわせて資金を調達しながらビジネスを推進しているので、お客さまだけでなく銀行や投資家の皆さまからも評価をいただけるように責任を持ってビジネスを推進していきたいですね。

@giga:与信サービスの改善や新しい取り組みに目が行きやすいかもしれませんが、我々はプラットフォーマーでもあるんですよね。例えばAI与信に関して、現状では包括信用購入あっせん業者は我々を含めて2社しか存在しません。似たような与信の仕組みは、今後は多くの会社でもできるようになってくるはずで、そこの礎を築いて広めていく先駆者であるべきだと感じています。もちろん我々にしかできないこともあれば、逆に我々にはできないようなサービスもあると思うので、良い学びを業界全体に与えあえるようになったら良いのかなと思っています。

@nobby:やはり、メルカリがより多くのお客さまに利用され、そこで取引されるものが増えていくこと自体がプラネット・ポジティブにつながっていくと思うので、我々の金融サービスでお客さまの可能性が高まる取り組みをしていきたいと思います。

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