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なぜ、フィンテック事業の知財戦略を新たに策定したのか?その背景から見えるテクノロジーとビジネスの結節点にある価値

2023-12-15

なぜ、フィンテック事業の知財戦略を新たに策定したのか?その背景から見えるテクノロジーとビジネスの結節点にある価値

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「メルカード」や「ビットコイン取引サービス」をはじめ、メルカリのフィンテック事業はこの数年で拡張を続けて、ある種の成熟を求められるフェーズに入りつつあります。そうした時にビジネスをいっそう成長させるうえで重要になるのが「知的財産(以下、知財)」ではないでしょうか。特に私たちのようなテックカンパニーにとって、それは武器でもあり防御でもある重要なものです。

グループとして創業10年を迎えたタイミングで、フィンテック事業としての知財戦略を新たに策定しました。この知財戦略策定をリードした有定裕晶(@arisada)にその背景を聞きつつ、複数の特許出願の発明者でもある、執行役員 CEO Marketplace 兼 CEO Fintechの山本真人(@mark)とメルコインCEOの中村奎太(@keita0q)を交えて、知財戦略の軸となる考え方、テクノロジーとビジネスの結節点としての特許の話まで、テックカンパニーとしての知財の重要性について語ってもらいました!

  

この記事に登場する人

  


  • 山本真人(Masato Yamamoto)

    2004年 東京大学大学院 学際情報学府 修士課程修了。NTTドコモを経て、2008年よりGoogle JapanのEnterprise部門 Head of Partner Salesを務める。2014年にはSquare JapanにてHead of Business Development and Sales、2016年からはApple JapanにてApple Pay 加盟店事業統括責任者を務める。2018年4月にメルペイに参画し、CBOとして金融新規事業(Credit Design)や加盟店開拓など、ビジネス全般を担当。2022年1月よりメルペイ代表取締役CEO。2022年7月よりメルカリ執行役員 CEO Fintechに就任、メルコイン取締役を兼務。2023年11月より執行役員 CEO marketplaceを兼務。


  • 中村奎太(Keita Nakamura)

    大学在学中にインターン生としてサイバーエージェントでプログラミング教育サービスの立ち上げや、DeNAで動画サービスでの感情分析基盤導入などを行う。その後、メルカリの研究機関「R4D」にインターン生として参加。2018年に新卒入社後はブロックチェーンエンジニアとして、R4D内で進められていた「mercariX」プロジェクトに携わる。その後、グループ会社であるメルペイへ異動し、分散台帳開発やAMLsystemチーム、金融新規事業(Credit Design)にてPMを担当。2021年4月よりメルコインに所属し、Product部門のDirectorを経て、2022年10月よりCPO。2023年4月、メルコインCEOに就任。


  • 有定裕晶(Hiroaki Arisada)

    九州大学大学院 工学修士課程修了。ルネサスエレクトロニクスでの欧米特許係争担当を経て、LINEの知財活動立ち上げ・特許業務全般を担当。2018年5月にメルペイに参画し、知財活動立ち上げ及び知財業務全般を担当。

いま、改めて知財戦略策定した背景

――まずは、フィンテック事業の知財戦略策定の背景からうかがっていきたいと思います。

@arisada:リリース以来好調な「メルカード」や「ビットコイン取引サービス」をはじめ、「メルカリ ハロ」のような新規事業など、この1〜2年でグループ内で新規事業の動きが活発になっています。他社との事業競争が激しくなるという状況を踏まえて、改めて当社の知財のポジションを見直すことが議論のスタートでした。他社の事業や特許の取得状況を見ていると、当社のサービス提供に影響を与えうる外部環境になってきています。

メルカリのマーケットプレイス事業とフィンテック事業とでは「サービス分野」、特許的に言えば「技術分野」が異なります。そのため、フィンテック事業に特化した知財戦略をつくることで、より精度が高く、小回りが効く知財戦略が策定できるのではないかと考えました。フィンテック事業に特化した知財戦略を検討する中で、当社のポジションや外部環境を解像度高く理解する必要があるため、それらの分析からはじめました。今回の知財戦略は、出願件数を増やすといった単純な知財戦略ではなく、当社と他社の事業や特許を比較した上で、当社がどの領域で、どのように知財に注力すべきかを、経営陣を巻き込んで検討・策定しました。

――では、実際にどのように策定していったのでしょうか。

@arisada:知財戦略を策定するにあたり、他社特許の調査から着手し、他社の事業と特許とを比較できるように整理しました。当社と事業が類似する他社の特許や事業を分析し、当社がどの領域でどの程度の特許出願を保有するべきかを検討しました。そうした分析・検討をもとに、経営陣との議論を重ねて知財戦略を策定できたため、これまでよりも精度の高い知財戦略に仕上がったと考えています。

特許出願の方針やボリュームを議論することは、他社でも実施されているので特別なことではありませんが、知財戦略の一環として定期的に経営陣と知財戦略のチェックイン/チューニングを行う機会を設けられたのは大きな前進だと思います。スタートアップ/ベンチャー界隈は市場の変化が激しいため、策定した知財戦略のチェックインやチューニングする機会を定期的に持つことは重要だと思います。

公開されている特許出願数から分かる通り、メルカリグループの特許出願数自体は2018〜2019年頃と比べると減少傾向にあります。当時はフィンテック事業の後発組として、特許出願数を増やすことがミッションの1つでしたが、ミッション達成後は、特許出願の「質」を重視する方針にスライドしました。今回策定した知財戦略は、これまでの経緯も踏まえており、これまでの知財戦略のいいとこ取りのようなイメージです。

@mark:メルペイを立ち上げたときには、どういう方向に事業が進むのか不確定な部分もあったので、特許出願はかなり広範囲にやっていたところもありました。今回、フォーカスすべきところと絞るべきところを整理していけたことはとても良かったです。

@arisada:あと、当社の特許出願プロセスはかなり簡易的にしています。発明者が通常であれば10の工数が必要なところを、3から4ぐらいまでに減らせていると思います。簡易的なプロセスを用意していて、かつ会社としても特許を出願していくという意思があるので、気軽に特許の相談をしていただける環境だと思います。より多くの相談を受ける環境を整備することで、一層の会社のリスク回避と無形資産価値の向上に寄与できると考えています。

有定裕晶(@arisada)

技術に立脚したビジネスだからこそ、市場やテクノロジーの潮流を常に把握することが重要

――経営陣での議論で印象的なポイントなどあったらうかがいたいです。

@mark:まず根本的な話になるのですが、僕は知財がかなり好きだったりします。

――知財が好き…!

@mark:はい(笑)。個人の嗜好はいったん横に置いておくとしても、私たちテックカンパニーにとっての特許は「技術とビジネスをつなげる結節点」だと思っています。一方、事業のフェーズによって知財を特に注意深く考える必要がある時期があるのだと思います。私たちのビジネスは基本的に技術に立脚しているので、特に新しいサービスを立ち上げるタイミングでは重要になるということです。

例えば、メルカードであればクレジットカード、ビットコイン取引サービであれば暗号資産の販売所になりますが、一見するとこなれてるように見える領域であっても、他社にはない新しい取り組みをつくり上げていたりします。ですから、新しい技術に基づいたサービスや機能をリリースする時期では、特許を取得することを重点的にやっていく必要があります。

そもそも知財が重要ではないと思ったことは一度もありませんが、メルカリグループとして新たなサービスが続々とリリースされ、かつ創業10周年というタイミングでもあるので、新たな10年をさらに成長させていくという意味で、経営としても改めてしっかり知財戦略を認識すべきであると思っています。

山本真人(@mark)

@keita0q:markさんが知財が好きとおっしゃってましたが、実は僕も知財が好きなんです(笑)。僕自身の根底には、新しいものへの関心や知的好奇心があります。もっと言うと、誰も思いついていないものを生み出すことに対して強い執着があります。サービスとかプロダクト開発において、そこが根幹として重要だと思っていますし、誰も思いついていないからこその価値というのは、知財とは切っても切り離せないものです。

経営メンバーで議論になったポイントは「他社がどういうことを考えているのか」です。加えて、市場の状況ですね。ブロックチェーンは特許が多く取得されていた時期もあれば、最近ではかつてほど動きが活発ではなかったりするので、市場やテクノロジーの潮流を常に把握する必要があります。その中で、僕らのスタンスや方向性みたいな部分もしっかり探るという意味で、定期的なインプットの機会がますます重要になると思っています。

これまでメルコインとしてやってきたブロックチェーン領域もそうですし、「メルカリ ハロ」のようなHRの領域も含めて、まだまだ新しいチャレンジをグループとして取り組んでいく中で、知財の価値をしっかり理解する、その上で新しいものをつくり出していくことが、ビジネスとしてのユニークさにつながっていくと思っています。

@arisada:念のためですが、知財は強力な独占権ですが、決していたずらに他社に権利行使しようという話ではありません。むしろ事業を保護するということが主たる目的です。積極的に特許出願するが、あくまで当社事業の保護が目的、というスタンスです。

――なるほど。@markさんと@keita0qさんは、おふたりとも複数の特許出願の発明者でもあります。知財へのおふたりの考えやスタンスをもう少し詳しくうかがいたいです。

@mark:僕自身、弁理士の資格取得の勉強をしていたのですが、弁理士の資格を取ること自体が重要というより、知財がどう行使されるかというところに関心があるんです。特許は出願数や登録数が注目されがちですが、どのような特許を取り、それが何のために使われるのかというのが知財戦略においては重要になってくる。

実際に権利行使するタイミングというのはそれほどあるわけではありません。特許を持っていることであらかじめ防衛になることもあるので、私たちとしては強力な特許を取得したからといって、それを業界の中で権利行使して回るようなことをしようとは思っていません。自分たちを守る意味でも、新しい領域に取り組んでいくときのブロッカーを排除するため、というような位置づけで考えています。

@keita0q:特許の取得については、「自分たちのユニークネスをどう磨き上げていくか」というところに焦点を当てて考えていくべきではないかなと。逆に言うと、その部分は当社が重要なバリューを発揮するポイントであり、サービスとしての根幹になりうるポイントです。なので、しっかり防御としても特許出願していくべきかなと思います。

@arisada:実は権利行使はすごく難しいです。実際に権利行使する場合は、相手からカウンターされるリスクの精査から始まります。さらに、実際にライセンス交渉や訴訟に踏み切っても、判決までに多くの時間・金・工数がかかります。

また、権利行使して回るのはデメリットのほうが大きいと考えています。パテント・トロール(実質的な事業を行わず、特許の権利行使で金銭を要求してまわる組織の蔑称)のような活動は業界内の評判が落ちて採用に影響することもありますし、我々のようなtoCビジネスだと、お客さまに「こんな会社のサービス使いたくない」と思われてしまう可能性もあります。この辺りはかなり気を配って、権利をどう取得していくか、どう活用していくかを考えないといけないですね。

新しいテクノロジーとビジネスの結節点にある価値

――最後に「テックカンパニーとして知財の重要性をどう考えるか」という、やや大きめな話をうかがって締めたいと思います。

@mark:特許という制度の目的は、究極的に言うと「産業の発展」というところにあると思います。当然、発明をした人や企業の権利を守るという目的もありますが、特許が公開されることによってその周辺に新たな発明や、産業の発展の可能性が生まれると思うんですよね。

私たちはテックカンパニーとして、メンバーの様々な発想によってつくられたものを「プロダクト」という形で世に出していますが、それ以外に産業への寄与みたいなところで言うと、当社で創出された発想を特許として公開して広く周知することによって、業界・領域への技術発展に貢献することができると思っています。

特許法第1条の「この法律は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的とする」の「もつて産業の発達に寄与する」が、僕は一番好きなところなんですよね。法律には第一条に法目的が示されていることが多くありますが、目的が何なのかをしっかりと理解する事が面白い点だと思っています……みたいな話をする経営者もあまりいないと思いますが(笑)。

@keita0q:コアな話になりましたね(笑)。僕自身は元々エンジニアとしてプロダクト開発に関わってきた目線、かつブロックチェーンという領域においての話でいうと、インターネットやソフトウェアの技術はオープン化されていくのが主流だと思ってるんですよね。AIもどんどんオープンになっていくのがトレンドです。それはなぜかというと、オープンにしないと技術が進化していかないという構造があるからです。

なので、特許とオープン化というのは、実は兼ね合いが難しい部分もあります。特にブロックチェーンの場合、いわゆるオープンソースでサービスを規定していくことが多くあるので、ブロックチェーンを愛して止まないたちにとって、特許という概念に少々警戒心がある場合もある。

ただ、技術の発展を下支えするようなパブリックなブロックチェーンや、テクノロジーとの結節点みたいなところは、誰かが発明していく必要があると思っています。その結節点になりうるビジネスを、僕らメルカリグループとしてはやってきていると自負していますし、新しいテクノロジーを使って世界を拡張させる結節点となるようなサービスは、すごい重要な発明が眠っている場所だと僕は強く思っています。

中村 奎太(@keita0q)

@arisada:特許とオープン化のバランスが重要なのはごもっともで、特許は法律で認められた独占権でかなり強力なものです。そのため、業界・領域の発展のため、どういう目的・方針で知財を取得・活用していくかを検討していくことは知財担当者として面白さを感じています。この面白さを支えているのは、プロダクトサイドとコーポレートサイドで一緒に知財業務を推進していけるメルカリグループの強みかなと思っています。

@keita0q:そうですね。どういう領域が既に整理されてきているのかを知ること自体もすごく重要だと思っていますし、技術を生かしたサービスをどうやったらうまく広げていけるか、そうしたことを規定していけるチャンスもあると思います。こうした目線を持ちながら、やっぱり「まだないもの」を楽しんで開発していきたいですね!

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