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目指したのは「メルカリが生成AIのファーストランナーになること」──ゼロベースから3ヶ月で、生成AIによる屋外広告を出せた理由

2023-12-22

目指したのは「メルカリが生成AIのファーストランナーになること」──ゼロベースから3ヶ月で、生成AIによる屋外広告を出せた理由

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2023年5月、生成AI・大規模言語モデル(LLM)の活用を通じたメルカリグループ内の生産性向上や、プロダクト実装による課題解決を目的に、メルカリグループ内横断の生成AI/LLM専門チームが組成されました。

チームの取り組みやビジョンについては、少し前にメルカンでお伝えしましたが、今回フォーカスするのは「マーケティング / クリエイティブ領域」における生成AI/LLM活用についてです。

執行役員 VP of Generative AI / LLMの石川佑樹(@maze)は、「メルカリが生成AIのファーストランナーになること」をプロジェクトスタートから念頭に置いていたと語ります。かねてから生成AIに高い関心を持っていた、執行役員 CEO Fintech 兼 株式会社メルペイ代表取締役 CEO兼 株式会社メルコイン 執行役員 COOの永沢岳志(@Takeshi)をはじめ、マーケティングとクリエイティブの高い専門性を持った社内の有志による実験的な活動からスタートして、大型の交通広告の出稿に至るまでの期間は約3ヶ月。このスピードの要因はどこにあったのか?高速でプロジェクトを進めてこられた背景を改めて振り返ります。

この記事に登場する人


  • 永沢岳志(Takeshi Nagasawa)

    2007年 一橋大学商学部卒業後、NTTコミュニケーションズにてマーケティング、事業開発を担当。その後、米国マサチューセッツ工科大学 経営学修士(MBA)修了を経て、2016年よりAmazon JapanにてAmazon Prime Videoのマーケティング部長を務める。2018年株式会社bitFlyerに入社し、2019年より執行役員事業戦略本部長として日本国内の事業を推進。2021年よりメルペイに入社し、2022年7月より執行役員 VP of Growth Fintechとして、「メルペイ」「メルコイン」のグロースを担当した後に、2023年4月より株式会社メルペイ執行役員 COO Fintech 兼 株式会社メルコイン 執行役員 COO Fintech に就任。2023年6月より執行役員 VP of Marketing Marketplaceも兼任。


  • 石川佑樹(Yuki Ishikawa)

    株式会社メルカリ 執行役員 VP of Generative AI / LLM。東京大学卒業後、2012年任天堂株式会社入社。2014年にモイ株式会社(ツイキャス)に入社し、各種開発や新規立ち上げに従事。2017年6月メルカリグループの株式会社ソウゾウ(旧)に入社。その後、株式会社メルカリへ異動を経て、2020年7月より株式会社メルペイ執行役員VP of Productを経て、2021年1月に株式会社ソウゾウ代表取締役CEOに就任し、2022年7月から株式会社メルカリ執行役員VPを兼任。2023年5月からは現職。


  • 古川万里(Banri Furukawa)

    株式会社メルカリCreative Team / ArtDirector。武蔵野美術大学を卒業後、スタートアップにて商品開発およびデザイン・ディレクション業務に携わる。その後レシピアプリサービスでコンテンツ企画・広告商品開発に従事。2022年メルカリグループの株式会社ソウゾウに入社。現在はメルカリのプロモーション企画、アートディレクションを担う。


  • 清水博昭(Hiroaki Shimizu)

    長野銀行を経て、20代でWebコンサルティング会社の役員として200業種以上に携わる。その後DeNAにてオンラインを中心としたマーケティングに従事。事業譲渡にてKDDIへ転籍し、オフラインを含めた総合的なマーケティングを経験した後、現在メルカリのマーケティングチームにて、同社の成長を牽引。


生成AI領域の法整備は不十分。それでもメルカリは「ファーストランナー」を目指す

――まずはmazeさんがマーケティング / クリエイティブ領域において、生成AI/LLMをどのような形で活用するイメージを持っていたのかからうかがっていきます。

@maze:メルカリにおける生成AI/LLM活用は、プロダクトやエンジニアの領域からスタートしました。LLMはテキストの生成が中心になりますが、生成AIとしてはテキスト生成だけでなく、画像生成や音声・動画など、いわゆるクリエイティブの領域での生成も可能です。クリエイティブ領域での生成AI活用をいち早く実現するためには、知見のあるメンバーにやってもらう方が良いと思い、社内で声がけをしました。

石川佑樹(@maze)

――みなさんは、どのようなきっかけで生成AIに取り組もうと思ったのでしょう?

@Takeshi:私自身、生成AIには元々興味があったんですが、しばらく忙しくて触れられなかった領域だったんですよね。そんな中、経営陣のオフサイトでmazeさんから「生成AI/LLMのマーケティング / クリエイティブ領域での活用をKRとして設定する」という話を聞いて、チャレンジしたい気持ちを伝えました。

チームの最初期はもちろんゼロベースからスタートしました。毎週全員で活用事例を持ち寄ったり、キャッチアップした情報を共有しあったりして、方向性を固めていきましたね。

その後、デジタルマーケティング領域がテーマとなり、プラットフォームの事情をヒアリングする必要があったので、shimizuさんに何度も時間を作ってもらいました。次第にshimizuさんにも知識がついてきて、MTGにも参加してもらうことになるんですよ(笑)。

@shimizu2:最初は「この指とまれ」に乗っかるくらいの温度感だったので、成果に直結するかは正直なところ未知数でした。ただ、チャレンジしていくうちにファクトが積み重なり、自信を裏付けるように成果が伴うようになりましたね。

@maze:banriさんたちのCreative チームは、たしか当初から生成AIでいろいろと実験していたんですよね?

@banri:そうです。生成AIが登場してすぐの頃、チームでは早い段階で勉強会を実施し、Slackチャンネルには生成されたクリエイティブが複数投稿されていて賑やかでした。Creative チームは、いずれ業務で生成AIを使いこなす必要があると考えていたので、仕事として発信する機会を望んでいました。そんな状況だったので、メンバーはこの案件をいただいてすぐに集まりました。

――みんなで「生成AIをどう使うか?」のベースを作り上げてきたということですね。

@maze:専門性の高いメンバーと議論を重ねながら、僕が腹に持っていたことは「メルカリが生成AIのファーストランナーになること」です。例えば、「生成されたクリエイティブの著作権関連などの法的取扱いをどう整備すべきか?」という大きな課題に対して、社内でもまだまだ整備ができていなかったため、誰かが切り開かないと前に進めません。逆に誰かが切り開くと、その後ろを走ることができるんです。

そのためにリーガルチームと連携しつつ、今回のメンバーたちにはまず内部で活用するクリエイティブ生成を行ってもらい、次に社外向けのクリエイティブを生成していく、もっとBoldに言うなら動画の生成までやる……と段階を追って実施することを考えていました。さすがに動画は欲張りすぎかなと思いましたが、結果的には社外に発信できるクオリティに達した動画を生成した上、OOH(屋外広告)の機会まで得ることができました。素晴らしい成果です。

生成AIは「クリエイティブの枯渇」を防ぐ?

――短期間で、動画生成やOOHまで実施できた背景には、各チームでどのようなプロセスがあったのでしょうか?

@Takeshi:7月に1ヶ月間、マーケティング / クリエイティブに活用できそうなアイディアを探す期間を設けたことが大きいと思います。根本的な対象領域の選定、スケールできそうな領域の選定、他社の事例やソリューションの掘り下げなどを通して、「静止画の領域がマッチしそう」という結論に至りました。

永沢岳志(@Takeshi)

@shimizu2:「デジタルマーケティングの領域はクリエイティブが枯れているんじゃないか?」という仮説ですよね。大量のクリエイティブを制作する領域は、生成AIと相性が良いと思ったんです。

――クリエイティブが枯れている、というのは?

@shimizu2:デジタルマーケティングは一般的に大量の静止画を用意して広告を行います。出稿後しばらくは表示が増え続けるんですが、ある程度様子を見ていると、良くないクリエイティブは数字が落ちてしまう。そうした画像の差し替えを続けていくと、クリエイティブの良いアイディアや素材が出せなくなるし、膨大な制作コストがかかってしまいます。

清水博昭(@shimizu2)

――その課題を解決するのが、大量の生成クリエイティブなんですね。

@shimizu2:はい。メルカリにおけるクリエイティブのバリエーションが豊富なカテゴリはトレーディングカードなんですが、“トレーディングカードっぽい”ものをAIで大量に生成することは楽にできるんです。

”トレーディングカードっぽい”生成クリエイティブ

@takeshi:マーケティング観点で分かったのは、現在の生成AIはマーケティングにリソースが割けない会社や事業においてのゼロイチの立ち上げが得意だということです。平均的なクオリティの画像をほぼコストゼロで生成できるからです。メルカリのようにインハウスでマーケティングを行っていて、ある一定以上ラーニングが溜まっていると、平均的なクオリティを量産できる生成AIによる増分はそこまでありません。

@banri:7月は採用向けのクリエイティブの制作と発信も目標だったので、「採用」という目的を持たせた上で、キャッチーさやメルカリらしさを意識してイメージを生成しました。ラリーを重ねてメルカリらしい活用方法ができたと思っています。

採用募集のための生成AIによるクリエイティブ

――そこから動画生成、OOHに至るまでのスピード感も凄まじいと思います。どんなトライをしたのでしょうか?

@banri:コアメンバーで合宿をして、CM表現の打ち合わせをしました。単純に人物を動画で生成しても、当時の技術だと造形が安定しません。そのため、ハロウィンのタイミングに向け、多少造形が崩れても違和感のないお化けやモンスターを主役にする方向で固めました。

@takeshi:採用を目的とした広告のなかでどういったチャネルに親和性があるかという議論をしたのですが、インパクトを基準に考えるとOOHの方が面白いという結論になりました。

誰もが生成AI/LLMを使いこなす環境づくりに向けて

――ここまでプロジェクトを進めてきて手応えはいかがでしたか?周囲の反響や、さらにチャレンジしたいことがあれば教えてください。

@banri:Creative チームは、この3〜4ヶ月のプロジェクトを通して、全員がかなりのレベルで生成AIを使った多彩な表現が可能になりました。使い方と特徴を覚えたことで、今までビジュアライズできていなかった情報や魅力をお客さまに伝えられるようになったと思います。

古川万里(@banri)

@shimizu2:チャレンジしたいことで言うと、「AIならではのクリエイティブ」の生成です。多くのクリエイティブを生成する中で、私たちプロでも“越えられないクリエイティブ”が存在すると感じました、意図せずモンスターができ上がっているような…。そこを上手くコントロールして、「この発想はなかった!」と感じるものを生成したいです。

@maze:僕個人としては、ここまでの取り組みは土台を作った感覚に近いです。画像や動画のクリエイティブを生成することで、メンバーみんなが可能性を感じたと思います。なので、ここからが本当に解くべき課題をこの技術でどう解決するかが浮かぶだろうし、人の心に残るクリエイティブを正しい判断で使えるようになると思います。現段階でその片鱗が見えていることが嬉しい。

早い段階でラーニングできたいま、コストの重たかった作業を代替できるようになりました。既に社内では多くの相談や依頼をいただいています。つまり、深いデマンドに刺さるようなものが提供できるようになっています。

――最後に、mazeさんとTakeshiさんにマーケティング/クリエイティブ周りでAI活用の可能性とアップデートのイメージを伺いたいです。

@Takeshi:デジタル広告運用において、生成AIを回すことで内製化を促進することができると思っています。また、CRMなどのグロース向けのプラットフォームにおいて、現在マーケターが過去の事例をスプレッドシートで管理するプロセスをなくしていきたいと考えています。要素技術はいまもありますが、ターゲットの行動データをAI/LLMに読み込ませてアウトプットを指示すれば、自動で提案してくれたり、最適化してくれたりするツールを自社で作りたいですね。

@maze:根本的な考え方は、「新しい技術をどのチームでも活用できる状態をつくる」ことです。「生成AIをビジネス活用するならメルカリに入社しよう!」と思ってもらえるような環境にしたい。

そのためには、最初の取り組みが上手くいかないと後に続きません。その観点からすれば、良い方向に進んでいますし、この取り組み自体は成功したと思っています。これまでは地ならし的な使い方だったと思うので、ここからがある意味本番です。

重要なのは、各チームのリーダーたちが前のめりに「ウチでもやりたい!」と言ってくれていることです。いまは、アナリティクスとCSのオペレーションでの取り組みを進めているところですし、コーポレートやバックオフィス、HRなど、オペレーショナルなチームからも取り組みがいのあるお題をいただいているので、どんどん着手していきます!

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