2024-1-31
テックカンパニーとして目指すのは「使って返せる決済・与信プロダクト」。回収率98.9%を誇る、メルペイの債権管理業務とシステムの“いま”と“これから”
2019年2月に「メルペイ」をリリース後、同年4月に「メルペイあと払い」をローンチし、2022年11月にメルカードの提供がスタートするなど、次々に新しいサービスを展開してきたメルペイ。それは、「信用を創造して、なめらかな社会を創る」をミッションのもと、「新しい与信の仕組みと信用のデザイン」に挑戦してきた歴史でありました。
この「新しい与信の仕組みと信用のデザイン」は、どのようなメンバーが、どのような思想(あるいは哲学)を持ってつくられているのでしょうか?
メルカンでは「私たちはいかにして信用と与信のあり方を変えていくのか」と題して、全5回にわたって与信事業とそれに関わるメンバーをさまざまな角度から探っていきます。
連載第4回でフォーカスするのは「債権回収」についてです。これまでの連載で集中的に深掘りしてきた与信と表裏一体である債権回収は、ただその回収率を優先すれば良いというものではありません。さまざまなことを考慮しながら、より良い「お客さま体験」を提供していく必要があります。
この難しい課題に技術と知恵を使って挑む、Repayable CreditチームのEngineering Head小川雄大(@fivestar)、Collection Ops チームのマネジャー吉田伊織(@yotta)、Credit Platform Product Managerの熊田樹(@tatsuki)に、メルペイの「債権回収」の“いま”を赤裸々に語ってもらいました。キーワードとなるのは「使って返せる決済・与信プロダクト」です。
この記事に登場する人
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小川雄大(Katsuhiro Ogawa)2008年にアシアルに入社。2011年にクロコスを設立し、翌年にヤフーに売却。ヤフーにてメディアプラットフォーム開発や技術戦略策定を担う。2015年よりAncarにてCTOを務めたのち、2018年1月にメルカリへ入社し、Corporate EngineeringのBackendアーキテクトを担当。2019年9月にメルペイへ異動し、現在はRepayable CreditチームにてEngineering Headを務める。 -
吉田伊織 (Iori Yoshida)2007年にテーラーメイドゴルフに入社。ビジネスアナリスト・IT Managerとして業務改善やシステム導入に従事。2022年1月にメルペイに入社しオペレーション戦略を担当。現在はCredit BusinessにてCollection Ops のManagerを務める。 -
熊田樹(Tatsuki Kumada)メルペイ Credit Platform Product Manager。複数のスタートアップでのシステム開発等を経て、2021年にメルペイ入社。現在は債権回収領域のProduct開発を中心に担う。
与信と債権回収は表裏一体、より良い「お客さま体験」を考えながら両面を改善していく
――ここまで3回にわたって、メルペイの与信の「独自性」についてお話しをうかがってきましたが、連載第4回でフォーカスするのは「債権回収」についてです。まずはみなさんの役割やミッションから聞いていきたいと思います。
@yotta:2023年11月から、Collection Ops チームのManagerをしています。Collection Ops チームは、昨年から本格的に回収業務をスケールさせていて、債権回収戦略の企画全般とその実施、それに付随する業務全般を担っています。
チームのミッションは回収率の最大化・安定化ですが、メルペイのミッション「信用を創造して、なめらかな社会を創る」に沿えるよう、お客さまに寄り添うメルペイらしい督促のかたちをつくりあげるというvisionも掲げています。
@fivestar:旧Credit Designチームと決済チームが統合してできた、決済・与信チームであるRepayable CreditのEngineering Headをしています。「使って返せる決済・与信プロダクト」を目指すべく、決済・与信全体のエンジニアリングの意思決定を担っています。
@tatsuki:私は第1回に登場した、gigaさんがマネジャーを務めるCredit Platform チームのPMをしています。Credit Platformチームは、与信事業の根幹となる、お客さまへの与信を決定する仕組みの開発と、収益性確保のための債権回収に関わるプロダクト開発をおもに担っています。私はおもに債権回収領域を担当していて、「お客さまの信用を回収の仕組みで守ること」をミッションとして日々プロダクトと向き合っています。
――早速、本題に入っていきますが、メルペイの債権回収における独自性や強みはどこにあると言えますか?
@yotta:与信と債権回収は表裏一体なところがあります。回収率を優先して考えすぎると、与信をより必要としているお客さまにそれが届かなくなります。しかし、与信をいたずらに拡大してしまうと、お客さまのキャッシュフローが悪化して返済困難に陥ってしまうこともある。より良い「お客さま体験」を考えながら、その両面を改善していくというのがメルペイらしさであり、独自性と言えるのではないでしょうか。
吉田伊織 (@yotta)
@tatsuki:組織として与信と債権回収が一体になっていて、単に延滞債権を回収することだけを考えれば良いわけではないのが特徴的ですよね。与信と回収の両面から収益性改善を考えていけることが我々のチームの強みであり、面白いところでもあると思います。
@fivestar:与信と債権回収を相互に高めていくための体制、仕組みづくりには長らく力を入れてきました。リアルタイムに反映される決済履歴、即時清算による柔軟な支払い体験、出品やメルカリ ハロのようにキャッシュインの仕組み、定額払いのように利用したあとでも清算金額が調整できるなど、選択肢が豊富にあります。そして、統一された清算体験にも強みがあります。メルカードやコード決済、iD決済など、あらゆる方法で決済した結果が、すべて1つの「あと払い」基盤で実現できています。
@yotta:出品したりビットコインを売却してメルペイの残高をつくることで、債権を清算したり減らすことができますし、清算日前でも請求単位で即時清算することができる。ただ単に与信を使うだけでなく、「返済するための原資」を給与など以外でもつくれることで、月々の与信利用に対してお客さまの選択肢が広がる点が、私たちのユニークネスであり強みですよね。
@tatsuki:そうですね。清算方法に柔軟性があり、お客さまが自由に選択することができるという点において、他社にはない体験を提供できているものの、債権回収観点ではどうしても考慮すべき点が多くなってしまいます。そこはチャレンジングでもあるのですが。
課題は明確。改善のための仕組みの構築の真っ只中
――課題というのはどこにあるのでしょうか?債権回収率は98.9%(2023年9月時点)と高く、かなり好調なように見えるのですが…。
@tatsuki:債権回収率は高いものの、システム的な課題があります。1つめは、必要最低限の機能はあるものの、まだ理想的な機能が揃いきっていないということ。
2つめは、自動化・効率化の推進。現状ではCollection Ops チームのオペレーションに頼っている部分が多く、稼働負担軽減のために、システムによる自動化が求められます。また、督促行為の運動量を上げるためにも、システムによる効率化が必要です。
3つめは、情報が散在していることです。それはどういうことかというと、督促の履歴などの情報は保存しているが、その情報がバラバラになっており、統合的に管理できていません。ここを解消して回収戦略の高度化を図りたい。これに関連して4つめとして、与信と回収の連動です。システム的には、まだまだ与信との連動はできていないのが現状です。
@yotta:「自動化・効率化の推進」の観点では、Collection Ops チームとしても様々な取り組みをしてきました。
たとえば、IVR(Interactive Voice Response)を使ったオートコールをメインに、非有人コミュニケーションでお客さまの負荷なくご入金の約束をいただけるようにはなっていますが、時間帯によってはつながりづらかったり、折り返すにしても営業時間外であったり、「電話そのもの」がお客さまの多様な生活スタイルにマッチしていない部分もあります。そもそも「知らない電話にはでない」という方も多い。一方で、有人でのコミュニケーションを必要とされているお客さまもいらっしゃるので、オペレータがしっかりご相談に乗る体制は構築できています。
また、Credit modeling チームと協力して、無督促モデル(督促しなくても清算いただける可能性が高いお客さまに対しては一定期間電話での督促をしないモデル)を開発して、すでに運用もしています。結果として、お客さま自身のご負担も減り、こちらもお電話でのコミュニケーションが必要なお客さまに対してリソースを割くことができています。
@fivestar:これから目指すべきは債権回収業務のプラットフォーム化です。現在は自動で督促している部分と、Collection Ops チームが行っている部分の連動性がないので、全体を通じた改善のための仕組みの構築を進めています。また、債権回収業務の業務フロー改善の検証ペースにシステム化が追いついておらず、柔軟性のある基盤の開発が必要だと考えています。
小川雄大(@fivestar)
@yotta:そうですね。加えて、アプリでより簡単に返済に関するコミュニケーションが取れるような仕組みをつくっていく必要があります。いつでも返済できることに加えて、仮に返済が遅れてしまってもアプリで返済の相談ができることが理想的です。やはり、延滞したときの清算体験がbadなものだと、またメルペイを使いたいという気持ちになれないと思うんですね。
アプリで返済相談から清算までの導線がしっかりつくれるようになれば、相談することの心理的ハードルが下がり、メルペイを継続して使っていただけるようになる。
@fivestar:あとは、100万円超のような高額な与信がまだ実現できていないので、一層の利用者の拡大に向けて、回収率を高めながらも与信枠の拡大を目指していきます。
テックカンパニーとして、「使って返せる決済・与信プロダクト」を目指す
――課題とその先の打ち手が明確ですが、メルペイで「与信」という武器をつくることの醍醐味はどこにありますか?
@tatsuki:これまでお話ししたとおり、メルペイの債権回収業務およびシステムは限られたリソースの中で、必要なものから優先度順に具備してきました。最低限の機能は揃ってきたけれど、 まだまだ課題がある状態で運用を続けているのは事実です。与信サービスは、これからもサービスと規模の両面で拡大していくので、スケーラブルとサステナブルを兼ね備えた債権管理業務およびシステムが求められています。
お客さまが安心して与信サービスを利用していただけるよう、テックカンパニーとしてメルペイ独自の債権管理業務とシステムを、これからまさにつくっていくところ。ここがいまのフェーズにおいて一番の醍醐味だと思っています。
熊田樹(@tatsuki)
@yotta:債権回収業務を本格的にスケールしはじめて1年弱。tatsukiさんがおしゃっているように立ち上げ期は脱したものの、システム面やオペレーション体制やお客さま対応品質など、まだまだ課題がある状態です。与信の利用が拡大するにつれ、債権回収に関する業務も必然的にスケールしていくことになる。これからは「お客さま体験」を損なうことなく、回収率を上げていくという難しい舵取りが求められる。しかし、難しいことにコミットしていくことがメルペイという会社の使命だと思います。
現時点では、延滞前に関してはなめらかな清算が作れているものの、延滞後の清算に関してはまだなめらかな体験になっているとは言えない。延滞してしまったお客さまにも「返済相談や延滞後の清算も簡単にできた」と感じていただき、メルペイをより一層使っていただけるような世界をつくっていく。テックカンパニーとして、そういうチャレンジをしていきたいです。
@fivestar:そのために、Credit Business Unit(*)全体で同じビジョンを共有できるように連携を強めています。
(*)Credit Business Unit = Business, Product, ML, BI, Risk, Finance, Corpの他職種で与信事業全体を推進するPJ体制
特にプロダクトサイドとしては、Collection Ops チームとの相互理解を深めて、より多くのアイディアが生み出せる体制にしていきたいですし、お客さまにとって非常に重要な「信用情報」を毀損しないよう、プロダクトとして様々なサポートを提供したいと考えています。
目下、取り組むべき大きなテーマは「自然と信用を創造していけるような体験づくり」です。マーケットプレイスやメルカリ ハロなど、メルカリグループ全体のアセットを最大限活用して、「使って返せる決済・与信プロダクト」を目指していきたい。
@yotta:これは自チームの役割とは一見矛盾してしまうかもしれないんですが、理想を言うと延滞のない世界をつくることがお客さまにとっても我々にとっても重要です。メルカリのエコシステムの中でお客さまがお金をつくることができることが他社にはない決定的な強みだと思っているので、そこを活かせるような仕組みや体験を一丸となってつくっていきたいですね!