「お客さまや社会に対してなにを提供できるか」。
このシンプルで深遠な問いを追求し続けているのが、CXO(Cheif Experience Officer)の前川美穂(@Miho)です。メルカリでのお客さま体験のビジョンを描き、戦略策定からプロダクトへの実装までを一気通貫で管掌しています。
UXデザインの黎明期から、Microsoft社や株式会社ファーストリテイリングなどで経験を積んできた前川。過去の経験は、今にどうつながっているのでしょうか。CXOとしての現在地とメルカリにおけるUXの展望を聞きます。
この記事に登場する人
-
前川美穂(Miho Maekawa)米国美術大学を卒業後、Microsoft 本社にUXデザイナーとして入社し、ポータルサイトの立ち上げとグローバル展開に従事。2008年に同社の日本法人に異動後はアジア圏を担当し、ニュースメディアのUXデザイン開発に携わる。2015年にFast Retailingの一人目のUXデザイナーとして入社し、デザイン組織を設立。店舗・業務システムから、各ブランドのECサイトのデザイン統括を経て、2022年5月にメルカリMarketplaceにHead of Designとして参画。2023年1月VP of Experience Design、2023年6月からCXO Marketplaceに就任。
お客さまが喜び、社会が本当に良くなる体験を届ける
——まず、Mihoさんがデザインの道を志した原点からお伺いしたいです。今につながる過去の体験を教えてください。
学生時代、アメリカの美術大学でグラフィックデザインを専攻していました。当時のデジタルデザインは黎明期で、仕事や学問として確立されていませんでした。私自身も最初から強い興味があったわけではなく、履修したWebプログラミングのクラスで、たまたま知ったことから興味を持ちました。
美大時代の経験で今に活きている学びとしては、「いかに作品や自分を売り込むかが大事」ということ。他の学生が作る作品の中にはアウトプットの品質は高くなくても、コンセプトをうまく伝えることで、評価されている作品もありました。作品を作るだけではなく魅せ方・伝え方まで大事なのだと学びました。
——大学卒業後はどのようなキャリアを歩んできましたか?
米Microsoft社にプロダクトデザイナーとして入社しました。そこではポータルサイトのデザインとグローバル展開担当として、主にトップページに広告やコンテンツをバランスよく配置し、どうマネタイズをしていくかを考えていました。
UXデザイナーとして働き始めたのは、2015年頃から。前職の大手アパレル企業で1人目のUXデザイナーでした。グラフィックやプロダクトと違って、聞き慣れていない人も多いUXデザインの意義や役割を理解してもらうことに、最初は苦労しました。
そこで、アメリカでの経験を思い出し、UXデザインがどのようにお客さまや会社に貢献できるものかを周囲の人たちに伝えるようにしました。今でもこの経験は活きていて、CXOとして「お客さまを喜ばせ、社会を良くするために」という使命感を持って仕事に取り組んでいます。
デザイン原則によって、グロース指標にとらわれない「メルカリらしさ」を追求
——2023年4月に実施した、VP of Experience Design時のインタビューでは、デザイン組織の立ち上げについて語っていただきました。その後の進捗はいかがでしょう?
2023年6月、CXOに就任してからは、プロダクト・エンジニアリングも一体となった「CXO Division」の立ち上げを行ってきました。デザインの枠を超え、会社や「CXO Division」のディレクションをしたり、描いたお客さま体験のビジョンを実際にプロダクトに落とし込んだり、一気通貫したお客さま体験が少しずつ実現されてきています。
お客さま体験をプロダクトに落とし込み、かつ売上目標をもち、私自身だけではなく部署全体としてコミットするのは私にとって初めてのこと。これまでのキャリアで一番の挑戦でした。
——CXO就任前後には、「Mercari Design Principles」を作成されましたね。
「Mercari Design Principles」は、お客さまとのすべてのタッチポイントにおいて、一貫性のあるブランド体験を届けるための指針です。デザインに関わるメンバーの「思い」をヒアリングし、まとめ上げました。
——「Mercari Design Principles」を社内に公開した後の手応えを教えてください。
「Mercari Design Principles」が、各種プロジェクトに反映されるようになってきたと感じています。また、共通言語ができたことで「メルカリらしさ」を追求しやすくなりました。
メルカリの「あんしん」「カンタン」「ワクワク」という価値観、出品者さまと購入者さまがより楽しくつながるという世界観を、短期的なグロースに貢献するかどうかを抜きに、プロダクトに反映できるようになりました。直近では、お客さまのメッセージに絵文字機能を追加しました。
——プロダクトの領域を超えて、コーポレート全体のブランドやデザインについてはどのように考えていますか?
私はどちらかと言うとお客さま体験をベースに考えていますが、働くメンバーやまだメルカリを使ったことがない方も含めた「ステークホルダー全体の体験のデザイン」も重要だと思っています。
さまざまな接点を通じて「メルカリには期待ができる。可能性を感じる」と感じてもらえたり、「収益をしっかり出しながら、社会にも貢献している会社だ」と思ってもらえたりする会社になれたら嬉しいです。
行政や他企業とも連携し、二次流通を盛り上げていく
——CXOとしての今後の展望を教えてください。
「あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる」というグループミッション実現に向けて、まずは「二次流通」を世の中の当たり前にしていきたいです。
メルカリを通じて、これまでは価値がないと思われていたものに新しい価値が生まれたり、「捨てる」という行動が「譲る」という行動に変容したり、二次流通をお客さまの生活の一部にできたらと思います。
そのためには、メルカリだけではなく、行政や他の企業のみなさんと協力していく必要があります。日本はまだ、ヨーロッパなどの環境意識が高いところと比べてものを捨てることへの社会的制約がゆるいと感じます。
たとえば、スーパーマーケットでの買い物一つとっても、、ヨーロッパでは野菜などの食料品を自分の必要な分だけ購入する量り売りが一般的ですが、日本では、ほとんどプラスチック包装されています。そういった意味では後進国だと感じます。
こうした購入、消費、廃棄にまつわる社会的な価値観から変えていくためにも、メルカリから働きかけをしていきたいと思います。
——メルカリのグループミッションを、社内メンバーが実際の業務に落とし込めているかという観点ではいかがでしょうか?
メルカリが何を実現したいのかが、一人ひとりの業務レベルにまで落とし込みきれていない部分があるかもしれません。グループミッションの「あらゆる人」はどこまでの範囲のことなのかなど、もう少し具体的にブレイクダウンして、業務の指針を作っていくことも大事かなと思います。
——最後に、Mihoさんの視点で、未来の仲間としてどのような人を求めているか教えてください。
「使命感」と「柔軟性」の両方を持っている方が来てくださると嬉しいです。メルカリのミッションに共感し、使命感という芯を持ちながらも、決して頑固ではない。多様な人の考え方や視点に興味関心を持ち、柔軟に変化できる方だとメルカリでのチャレンジを一緒に楽しめると思います。
求めているのは、自分の役割の中だけで物事を考える人ではありません。目の前の課題に対して、それが自分の領域ではなかったとしても、自身の枠を飛び越えていろんな人の協力を得ながら解決していく。そんな気概を持った人をお待ちしています。
番外編:私のメルカリ活用術!
よく買うのは洋服やお花、球根の苗です!「この人から買いたい」というのが決まっているので、「まとめ買い機能」を使っています。出品するのは、アメリカにいた頃に買った古いデザイン系の本や雑誌、洋服が多いですね。海外の雑誌を、お部屋のインテリアとして飾りたい人が多いみたいです。
職種柄なのか、出品時の撮影はちょっとこだわっています。フローリングの床で背景を統一して、自然光で撮影するので、出品作業はだいたい午前中です(笑)。メルカリってそういう「自己表現」も可能なんですよね。
今後は「いろんな人格が出せる場」としての価値も伝えられるようなプロダクトにできたらいいなと思っています。
執筆:佐藤史紹 編集:菅明莉(メルカン編集部) 撮影:瀬尾陽(メルカン編集部)