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「スペシャリストとしてのキャリアを確立」を実現するために——エンジニア・PdMそれぞれの観点から紐解く、新たな「Principal制度」の全貌

2024-4-9

「スペシャリストとしてのキャリアを確立」を実現するために——エンジニア・PdMそれぞれの観点から紐解く、新たな「Principal制度」の全貌

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メルカリでは、エンジニアとしてあるべき姿を共有し、職務に必要なスキルを明確にするための仕組み「Engineering Ladder」というものがあります。そこには、社内で設定している等級「MG(メルカリ・グレード)」ごとに期待される行動が細かに書かれ、いま自分がどの段階にいるのか、次の段階に必要な行動やスキルは何か、ということを確認するための指標となっています。

エンジニアはさまざまなスキルセットを持ち、その在り方やキャリアは実に多様です。とは言え、メルカリでキャリアを積み重ねる上では「Management(マネジメント)」「Individual contributor(スペシャリスト)」と大きく2つのキャリアパスに分かれています。

Managementであれば、Engineer Manager、Manager of Managers、Director、VP…というように明確なタイトル(職位)があります。一方、Individual contributor(以下、IC)は、スペシャリストとしてキャリアを積み重ねていくにあたってのタイトルがありませんでした。

そこで、2024年1月から、MG6には「Principal Engineer」のタイトルが与えられることになりました。また、PdMでも同じくICのキャリアラダーの議論が活発になっていたため、こうしたEngineering Ladderでの制度改定を受けて、エンジニア同様に「Principal制度」を導入することになりました。

今回は、Principal制度の発起人である執行役員 VP of Architect & Foundation Engineeringの成田元輝(@motokiee)と、執行役員 CPOの篠原孝明(@unryu-in)に、「Principal制度」の狙いと、高度な専門知識とスキルを持つスペシャリストたちに期待することなどを聞いていきました。

この記事に登場する人


  • 成田元輝(Motoki Narita)

    2016年9月メルカリグループのソウゾウ(旧)に入社。「メルカリ アッテ」の開発、「メルカリ カウル」の新規事業立ち上げに従事し、2018年4月にメルカリへ異動。Engineering Manager、NewBizチーム Engineering Headを経て、2021年1月からソウゾウに異動。Engineering Managerとして「メルカリShops」を立ち上げた後、再びメルカリへ異動し Mobile、Web、BackendのArchitect チームを管轄。2024年1月メルカリ執行役員 VP of Architect & Foundation Engineeringに就任。


  • 篠原孝明(Takaaki Shinohara)

    フリーランスのWebディレクターを経て、2012年にグリー株式会社入社。2014年に株式会社ビズリーチへ入社し、転職メディアを立ち上げる。2017年9月にメルカリに入社。Director/Head of CREを務め、2020年4月よりメルペイへ異動しアライアンスプロジェクトの責任者を務める。その後、2021年1月にソウゾウを設立し、Head of ProductとしてPM/BD/CS/QAを管掌。2022年7月よりメルカリおよびメルペイの執行役員 VP of Trust and Safetyとして、メルカリグループの安心安全な利用環境構築に従事。2024年1月よりメルカリ執行役員 CPO Marketplaceに就任。

ICとしての新たなキャリアラダーの確立

――メルカリでは2018年頃までは、Principal Engineerの任命を行っていました。今回改めてPrincipal制度を発起した理由について教えてください。

@motokiee:過去のPrincipal制度は、エンジニアが目指すべきロールモデルが分かりやすく、とても良い制度だと思っていました。改めて制度として復活したのは、ICとしてのエンジニアのキャリアをメルカリで確立していきたいと考えたからです。

メルカリでは、エンジニアのマネジメントには、Engineer Manager(EM)、Manager of Managers(MoM)、Director、VPなどのキャリアラダーが明示されていますが、 ICのタイトルはこれといってありませんでした。個々人のグレードを非公開にしていることもあって、メルカリのハイグレードなICが誰なのかはわからない、エンジニアとして誰をロールモデルにすればいいかわからないという状況もありました。

また、僕自身はICではなくマネジメントとしてキャリアを形成してきたのですが、もっと会社や組織の方向性に優れたICの意見が反映されて然るべきではないか…? と感じていたことも発起理由のひとつです。

成田元輝(@motokiee)

@unryu-in:PdMの場合、職種的に「プロジェクトに携わるメンバーのマネジメント」が必要である一方で、レポートラインとの日々の1on1や評価会議、QBR(Quarterly Business Review)のような定期的な成果振り返りのコーディネートはコストがかかってしまい、ICとしてパフォーマンスを発揮する機会が最大化されづらいところがあります。

また、これまでのPdMのキャリアラダーは、グレードが上がっていくと必然的にマネジメントラインとなり、Directorへと進んでいました。Directorは、ピープルマネジメントの役割も担っていますし、期待もされています。そこで、ピープルマネジメントにおける業務量を減らして、PdMとしてより機能開発に集中しながらグレードを上げることができるような仕組みや制度が必要だと感じていました。組織制度の見直しを考えはじめた時に、motokieeさんがまとめられた資料を拝見し、PdMにもPrincipal制度の導入を決めました。

@motokiee:今後はPdMだけでなく、デザイナーなどにもICとしてのキャリアが必要になってくると思うので、上手く制度を運用できたら横展開することも考えています。

ICを極めた先に何があるのか?概念の整理と役割の言語化

――では、エンジニア、PdM、それぞれPrincipal制度をどのように運用していこうと考えているのか教えてください。

@motokiee:エンジニアの場合は、グレードに則って評価を行います。メルカリでは、会社として定義しているMG6にはPrincipal Engineerのタイトルが与えられます。また、MG7になると、Distinguished Engineerというタイトルになります。

制度の内容を議論していたときは、Principalを任命制にする案も上がっていたのですが、そうすると恣意的な判断も介入したり、運用が複雑になることから、会社で設定する等級に準拠することに決めました。

@unryu-in:PdMについては、まずは黄色のラベル(図1)を見ていただきたいです。

図1

ICのキャリアに新たな縦ラインを生み出しています。これまでICとしてのキャリアは、MG1〜MG5が中心で、それ以降はおもにMGR(マネジャー)として右上に登る設計になっていました。つまり、MG5以上のICに対して、明確なラインをつくったことになります。

図2

図2では、VP、Directorが決定したDirectionを実現するエグゼキューターがIC ライン、という整理をしています。

そもそもPdMの役割に一定のピープルマネジメントが含まれていますが、Management ラインは明確に、日々の1on1含めた「組織運営」に責任を持っています。一方で、ICラインは「ビジネスKPIの創出」に責任を持っており、ビジネスKPIを創出するために必要なステークホルダーマネジメントが含まれる形です。いずれもピープルマネジメントと呼ぶことができるものですが、その目的が異なります。

あくまでも基本的な考え方を整理しているだけなので、IC ラインの方が中長期のDirectionを提案して推進することも多々ありますし、Managementラインの方がIC ラインへと役割を変えることもよくあります。

新・Principalの基準は、誰もが認める「事業貢献」と「推進力」

――現在、Principalに該当するメンバーはどういう人なんですか?メルカリでどんなキャリアを積んできたのかなどを含めて教えてください。

@motokiee:エンジニアの場合、会社に対する事業貢献が高かった人、社内でも随一のエンジニアリング力、クリエイティビティを持った人が、Principal Engineerにあたるグレードまで昇格しています。

今後は、外部発信と育成を強化していきたいと思っています。特に育成については、個々人のグレードが公開されていないという事情もあり、「ロールモデルにすべきエンジニアが分からない」「誰のようなキャリアを目指すべきか分からない」という声が上がっていました。そのためPrincipal Engineerには、ロールモデルとしての基準を明確に設定することになると思います。

@unryu-in:PdMは、カンパニーのロードマップに影響を与えるレベルの大きな案件を進められる人がPrincipalに該当します。最近だと、「メルカリ ハロ」や「メルカリShops」のように、複数のカンパニーを横断するプロダクトのコーディネートをプロダクトオーナーとして推進できるような人が求められます。

――Principalのメンバーたちは、これまでメルカリで様々な活躍をされてきたと思います。今後、Principalとしてどのような活躍をしていく姿が期待されているのか、お二人が考えていることがあれば教えてください。

@motokiee:Principal には CTO、VP、Directorと並ぶ、エンジニア組織のリーダーであることを自覚して行動していくことを期待しています。エンジニアのICは「コードを書くこと以外求められていない」という考えもあるかもしれませんが、技術力と推進力でメルカリのエンジニアリングの「ビジョン」を示していくことができるのが Principalであると考えています。

エンジニア力で他の人ができないことを実現しつつ、エンジニアリング組織の課題解決のためのリーダーシップを発揮していく…という難易度の高いチャレンジではあるのですが、Engineering Ladderの中でも明確化していく予定です。リーダーとして育成や内外部への発信ももちろん期待されています。

@unryu-in:グラデーションに濃淡はありますが、中長期の「戦略」に軸足を置くディレクターに対して、Principalは「戦術」に軸足を置き、戦略の実現に責任を負います。そこで期待することは、自らが率先してUXの磨き込みを行ったり、複数カンパニーを横断する複雑な案件を推進していくことです。その背中を見せることで、後進の育成にもつながると考えています。

篠原孝明(@unryu-in)

――なるほど!「育成」はそれぞれに重要なキーワードになりそうですね。せっかくなので、この機会にお互いに聞いてみたいことなどはありますか?

@unryu-in:そうですね、Principalのその先にあるICとしてのVPラインをどう考えているのかを聞いてみたいです。エンジニアには、VPでありながら圧倒的な技術力で背中を見せてくれている人が業界にはたくさんいますよね。

@motokiee:VPではないパスがPrincipalやDistinguishedだと思っています。CTOやVPとしてコードをバリバリ書いている人がスタートアップにはたくさんいらっしゃって、それもすごいことだと思うのですが、メルカリには数百人におよぶ多くのエンジニアがいます。人が多いゆえにマネジメントに求められることも必然的に多くなります。

リーダーシップを取れる人がリーダーになっていくのは当たり前なんですが、これまでは明示的にリーダーとなるパスのゴールがVPしかなかった。でも、「この人は70歳くらいになってもコードを書いているかもな」みたいなイメージのエンジニアは僕の中には結構いるんですよ(笑)。そうやってコードを書き続けてマネジメントには携わらないというのもひとつの正解だと思っています。リーダーとしてみんなを引っ張っていけるのに、モチベーションのないマネジメントしか選べないのはもったいないと思うんですよね。

@unryu-in:職種は違えど、考え方は同じですね。実際、私たち自身も事業フェーズやプロジェクトによって動き方が変わったりもするので、場合によってはPrincipalがVPになったりその逆ということも起こり得ると思います。

フレキシブルに変化を受け入れる組織風土があるからこそ、こうやって基本的な役割の定義を定期的に言語化していくのは大切ですね。

――最後に、Principal制度やPrincipalの存在が組織にどのような影響をもたらすのか? お二人のお考えを教えてください。

@unryu-in:新しいPrincipalの役割を整理している最中に逆説的なことを言いますが、「ローコンテクストに役割を整理したい」とは思っていません。役割はプロジェクトやフェーズによってが変わるものなので、その時々で適切な評価基準を掴みやすくするためにあえて言語化しています。

描いた未来をいかに速く実現するか、そのための仕組みを考えている段階です。今は道標として不明瞭だったポイントを言語化していますが、そういう意味では、Principalだからといって、役割に縛られなくてもいいと思っています。

@motokiee:ICのキャリアの確立を第一に実現したいと思っています。そしてCTOやVPとともにリーダーの一員としてメルカリの未来を作っていってほしいと考えています。

具体的には、 Engineering Roadmap、ひいてはメルカリとしての中長期のロードマップに彼らの意思を反映していきます。常に2〜3年後を見据えて、僕らが持つ技術をどのように拡張・アップデートするのか?PrincipalとVPがともにリーダーシップをとってメルカリのVision達成をエンジニアリングで推進する体制をつくりたいと考えています。

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